BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻8号 (2018年8月)

特集 レヴィ小体型認知症の新知見

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特集の意図

レヴィ小体型認知症は2017年,12年ぶりにその臨床診断基準が改訂された。改訂によって新たに中核的特徴や指標的バイオマーカーに盛り込まれたポイントを取り上げ,画像,病理など各分野のエキスパートに最新の知見を紹介してもらった。他の認知症との鑑別診断に悩んだとき,この特集が役に立つであろう。

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2017年のレヴィ小体型認知症の臨床診断基準の改訂では,レム期睡眠行動異常症が中核的特徴に格上げされ,嗅覚低下,過眠,不安,アパシーなどの支持的特徴が追加された。また,診断的バイオマーカーが臨床症状と明確に分離され,診断率の向上とともにバイオマーカーを用いた神経病理学的背景を意識した臨床診断が期待されている。各臨床症状の出現時期を踏まえた臨床経過の把握は,認知症の鑑別診断のうえで重要である。

Cingulate Island Sign 今林 悦子
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レヴィ小体型認知症(DLB)の新国際診断基準では支持的バイオマーカーの血流・代謝所見に,新たにcingulate island sign(CIS)が取り入れられた。アルツハイマー病では後部帯状回〜楔前部の血流が低下するのに対し,DLBでは後部帯状回の血流は相対的に保持されるという所見で,病理学的には神経原線維変化の進行と逆相関を示すとされている。糖代謝画像での所見とされているが,脳血流SPECT画像でも抽出することが可能であったので,この脳血流SPECT画像におけるCISを中心に述べる。

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視覚障害と幻視はレヴィ小体型認知症(DLB)の診断の道標となる症状である。視覚障害が視覚諸皮質の損傷に伴う機能低下として説明可能であるのに対して,幻視その他の錯知覚のメカニズムについては十分な説得性を持つ仮説がいまだ提出されていない。この総説ではDLBの錯知覚の現象面の特徴と背景病態に関する知見を概観し,アセチルコリン系の異常に伴う「皮質状態の異常」を鍵概念とする錯知覚のメカニズムの理解を試みる。

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レヴィ小体型認知症(DLB)は臨床・病理学的な症候群とされ,高齢者の認知症性疾患の原因として2番目に多い。病理学的に,レヴィ関連病理(Lewy bodies and neurites)に加え,アルツハイマー病病理変化(AD病理)である老人斑や神経原線維変化を認めることが多い。ここでは,DLBとAD病理との合併に関して述べた。近年の認知症の概念を理解するうえで,臨床医として,高齢者認知症患者における,脳病理変化が多岐にわたることを理解することは重要である。

自律神経障害と皮膚生検 織茂 智之
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レヴィ小体型認知症(DLB)では,脳だけでなく末梢自律神経系にもαシヌクレインが沈着するために,さまざまな自律神経症状・機能検査異常が認められる。DLBの臨床診断基準改訂版において,重度の自律神経症状は支持的臨床特徴に,MIBG心筋シンチグラフィは指標的バイオマーカーに取り入れられた。また皮膚生検により皮下の自律神経にαシヌクレイン沈着が確認されたことより,皮膚のαシヌクレイン沈着がDLB診断のバイオマーカーになる可能性がある。

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症例提示

司会(田久保) 症例2は荏原病院の症例です。それでは臨床経過から提示をお願いします。

臨床医(吉村) 症例は死亡時64歳の女性です。2005年,57歳のときに易転倒性で発症しています。他院神経内科を受診し,パーキンソン症候群と診断され投薬を受けましたが,改善はみられなかったそうです。

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はじめに

 あれは,有機水銀中毒症(以下,水俣病)の認定をめぐる最高裁判決で,2013年4月,「感覚障害だけでも水俣病は否定できず,『複数の症状』がなくても認定する余地もある」との判断が示された直後の私的集いであった。ひとりの臨床医が沈痛な,自棄的な面持ちで,「もう,認定は,医師でなく,裁判官にやって貰えばよい!」と呟いた。この臨床医は長年,認定審査委員会の委員も務め,極めて真摯そのものの医師であった。

 この陰での小さな呟きは,実は,水俣病だけが持つ,ほかに類例のない特異性ゆえの,実直な医師の苦渋のうめき声でもあったと思う。

 なにか疾患が疑われ,医学的診断が求められたとき,医師は十分な証拠のない限り,軽々と診断すべきでないことは,万人に納得され得ることであろう。同時に,医師は病める者をみたら,己の全力を挙げて少しでも救いの手を差し伸べて当然であろう。この両者は,ほかのほぼすべての疾患時には両立する。しかし水俣病の場合だけは,まことに心ならずも,個々の医師自身がこの両者の間で悩み,両立できない場合がままある。

 医師であり,神経病理学の道を歩み,1965年以降は水俣病の医学的診断をめぐり悩み続けてきた筆者の立場から,この水俣病の「医学的診断」と「認定」そして「判決」の根底にある特異な実態について考えてみたい。

 このことは,水俣病だけでなく,今後,特にアルツハイマー型認知症の実態を考える際にも大きな関連を持ってくると思われるからである。

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出血性脳卒中急性期の合併症に消化管出血がある。本研究では抗潰瘍薬を投与しているにもかかわらず,消化管出血を合併する場合のリスクファクターに焦点をあてた。抗潰瘍薬を予防投与した当科の出血性脳卒中症例を対象に,各背景因子について消化管出血合併に関連するか検討した。全837例のうち22例が消化管出血を合併していた。脳室穿破を有する例や来院時の抗凝固薬使用例は有意に消化管出血合併に関連していた(P=0.0019,P=0.0177)。

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 今回私は,2018年3月15〜18日に,イタリア北部の街,トリノで開催されたAAT-AD/PD Focus meeting 2018(Advances in Alzheimer's and Parkinson's therapies an AAT-AD/PD Focus meeting)に参加する機会を得たので,その印象記を書かせていただく。飛行機の乗り継ぎに時間がかかったこともあり,トリノのホテルにたどり着いたのは,名古屋の自宅を朝出発してからちょうど24時間後であった。現地時間では,既に午後11時半を過ぎており,くたびれきってスーツケースも持ったままホテルのバーに飛び込み,ビールを一杯飲んでいるところで本誌編集主幹の河村 満先生にお目にかかり,本印象記の御依頼をいただくという,まったく思いもかけない形で貴重な機会を得ることができた。学会参加の気分が盛り上がったところで,完全に電池が切れ,部屋に入りそのままベッドに倒れ込んだ。

 トリノは,アルプスの麓のイタリア・ピエモンテ州にあり,古くはサルデーニャ王国の首都として栄え,現在も王宮が残り,ピッコロパリジ(小さなパリ)とも呼ばれる歴史のある美しい街である。ピエモンテ州は,バローロなどの高級赤ワインの産地として有名で,サッカーセリエAの人気チーム,ユヴェントスの本拠地でもある。冬季オリンピックが開催されたことをご記憶の方もおられるであろう。意外なところとしては,過去のいわゆるマカロニウエスタンなどのイタリア映画の中心地で,現在も国立映画博物館がある街である。また,トリノは,イタリアを代表する自動車メーカーのFiat社の本社があることで知られている。学会会場は,昔のFiat社の大工場を改装した建物で,巨大な施設に,コンベンションホール,ホテル,ショッピングモールが入っている(写真1)。元の工場では,屋上が車の試乗コースになっていたということからもその巨大さがご想像いただけるであろうか。

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目次

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 5年前に出版された「Antibody Update」をさらにアップデートした増大特集号が本誌編集委員の山口大学神田隆教授の企画で出版された。抗神経筋抗体の病因性が分子レベルで語られ始めた1980年代初期から30年近くなるが,この分野における最近の発展がそれだけめざましいということであろう。実際,特集を読むと,この5年間に新たに報告された抗体,抗体の病因性がより確実にされた抗体,治療に直結するようになった例も増えている。また抗体を切り口にした疾患分類が進んだ疾患群もある。認識抗原の詳細が明らかにされ,臨床像との対応が明らかにされたものもある。そうした進歩は抗体検索や抗体機能検出において洗練された技術の導入によるものがあるが,何と言っても患者さんの診断,病態解明,治療に直結したいと願う医師の熱意の賜が根底にあることは間違いない。

 特集を概観すると,自己免疫性の脳炎・脳症,大脳基底核障害,視神経脊髄炎,小脳障害,末梢神経疾患,自律神経節障害,神経筋接合部疾患,筋疾患,傍腫瘍性神経症候群と障害部位が実に多彩であり,症候の切り口からみれば,従来免疫性疾患とは縁遠いと思われた,認知症,てんかん,精神疾患なども,少なくともその一部は免疫介在性の機序で生じているということになる。

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 本欄ではこれまでに何度も攣縮(spasm)について取り上げてきましたが,この連載もそろそろ終わりがみえてきたところで最後にもう1度まとめておきたいと思います。

 なぜ攣縮という言葉がなかなか理解されにくいのかというと,長い間convulsionとspasmを区別せず,どちらも「痙攣」と訳してきたことに一因があると考えられます。原語にはそれぞれ異なる意味があるにもかかわらず,違いを理解せず一緒くたに翻訳し受容してしまったところから始まったというわけです。外国から文化を輸入し続けてきた日本において翻訳センスの問題は常につきまといますので,学問を志すとすれば,日頃から言葉の感覚を研いでおくことは重要なことだと思います。

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あとがき 神田 隆
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 テクノロジーの進歩は過去のスタンダードをどんどん退場に追い込みます。DVDレコーダーが初めて市場に出た頃は,映像情報を保存する外部ディスクとしてDVD-RAMが第1に挙げられており,記録面の保護という意味から,type 2,4と呼ばれる外殻付きのDVD-RAMが推奨されていました。私もせっせとこのタイプのDVD-RAMで保存を進めていましたが,現在,殻付きDVD-RAMを再生できるハードウェアがほとんど皆無となっており,殻から取り出したデータをブルーレイディスクへと移送する作業を細々と開始しています。

 10数年前にアナログBSから記録した映像が大部分で,改めて観てみますと,指揮者やピアニスト,オーケストラのメンバーが若々しいのに(当たり前ですが)驚かされます。現今のハイビジョン映像に慣れたせいでしょうか,最初は数段落ちる解像度が目につきますが,しばらく観ていると画面の粗さはほとんど気にならなくなってきます。貧弱な音情報に対しては,われわれの耳は比較的速やかに“慣れる”ことが可能です—トスカニーニやコルトーの古い録音の“音”が終始気になって,表現されているものが頭に入らないことはまずないでしょう—。これに対し,視覚情報は馴化が難しいというのは定説のようですが,ストレスなく過去の財宝を楽しむための脳の可塑化のメカニズムは,視覚情報に対しても厳然として存在するということでしょうか。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻8号 (2018年8月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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