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読んで多くの項目に一々そうだそうだと頷くことが多く,一気に最後まで読み進むことができた。大人の発達障害は今や精神科の臨床の中で常に意識をせざるをえない事項であり,どうやってこの概念なしに我々が二十世紀には臨床をやっていたのかが分からないほど今や我々の臨床に溶け込んでいる。先日の日本精神神経学会でも本書は売上一位を連日続けていた。いくつか激しく点頭したい項目を抜き書きしてみた。
まずは,診断だけを告知して送りつけてくるのはやめて欲しいという件だろうか。そもそも発達障害というのは,統合失調法やうつ病,いわんやてんかんなどとは診断の意味が異なっていて,同じ診断という名前を冠にしていてもその実態は大きく違う。たとえば我々誰もが自閉症スペクトラムの傾向性はあって,違うのはそれが1なのか5なのか9なのかという程度の問題であり,その傾向性を念頭において診療をすると,中には随分治療的介入のフォーカスを絞ることができる人がいる。したがって,自閉症スペクトラムという特性を念頭において,それをいかに臨床の中に組み入れて行くのか,あるいはいかないのかは,来院してこられる家族・本人とのやり取りの中で個別に,オーダーメイドで一人ひとり考えなければならず,そこには診断をどのように告知し,どのように治療に組み込むか,あるいは事例化して医療が引き受けるかどうかまでの幅広い選択肢がある。あらかじめ,本当かどうかも分からない自閉症スペクトラムの診断をつけられての来院ということになると,こうした枠組み作りの大きな妨げになるのは間違いない。大人の発達障害のための専門施設を対外的に喧伝し膨大な公的予算を消費しているような場合は別であるが,診断をした医師が治療も行う,治療を行わないなら診断はしないというのは,確かに意識化しておいてよい重要な指摘だと大いに得心するところがあった。
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