BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻10号 (2018年10月)

特集 「左脳と右脳」の現在

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特集の意図

スペリーが分離脳について論文を発表してから60年あまりが経ち,分離脳はさまざまに解釈されてきた。現在では脳の左右差に基づき,脳梁離断術などの外科治療も行われている。神経科学,脳神経外科学,神経内科学の接点となる「左脳と右脳」について,あらためて現在地を確認したい。

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はじめに—スペリーはなぜ「分離脳」に着目したのか

酒井 今月号の特集テーマは「『左脳と右脳』の現在」です。この鼎談では,実際に分離脳,つまり脳梁離断の患者を診てこられた渡辺英寿先生と河村 満先生にお話をうかがいながら,脳の左右差について考えてみたいと思います。まずはお二方に自己紹介を兼ねて,分離脳に関わるお仕事について一言いただきたいと思います。

渡辺 私はてんかん外科が専門で,てんかんの患者さんの手術をしてきました。分離脳に関連したところでは,脳梁離断術と言って,脳梁の線維を切ることで発作を抑えるという手術を行っています。

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半側空間無視と身体表象に焦点を当て,頭頂連合野の左右差を考察した。外空間の半側空間無視は右半球優位であり,自己身体に関わるpersonal neglect(PN)も右半球優位である。意識化と認知処理の枠組みで考えると,空間の意識化は外空間の半側空間無視,身体の意識化はPNと関連して右半球優位であり,身体の認知処理は身体部位失認と関連して左半球優位が示唆される。

社会性と左右差 小早川 睦貴
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ヒトの社会性を支える,情動や心の理論に関する神経基盤について左右半球の機能を比較した。心の理論については,共感,メンタライジング,視点取得などの要素に分けて検討がなされてきた。内側前頭前野,上側頭溝領域,側頭頭頂接合部など心の理論に関する領域では,全体として右半球の優位性を示す知見が多くみられるものの,メンタライジングや視点取得に関しては,両半球が異なる役割を持っていることが示されている。

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統辞処理には左前頭連合野の一部である左下前頭回の関与が知られている。近年,われわれは統辞処理関連神経回路として,左前頭連合野の3領域をそれぞれ含む3つの神経回路を同定した。また,左前頭連合野の障害により統辞理解障害を呈した患者において,これらの神経回路全体の機能結合に変化が認められた。これらの知見より,左前頭連合野が統辞処理関連神経回路全体の中核として働くモデルが想定される。

脳梁離断術の現在 渡辺 英寿
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脳梁離断術はてんかん外科の中では緩和治療に分類される。薬剤抵抗性のてんかんは外科的治療が考慮されるが,まず焦点性のてんかんである可能性を追究し,焦点が確定されれば根治療法である焦点切除術を行う。しかし,焦点を特定部位に限定することが困難な症例の中で,日常的に危険を伴う失立発作が主要な問題となっているケースでは脳梁離断術が考慮される。わが国では15歳以下の症例を中心として年間約40例の脳梁離断術が行われている。脳梁離断術によって失立発作は著明な改善が期待できる。

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民族や文化を超えて人びとの90%が右手利き,10%が左手利きである。少数派である左手利き者に対しては,古くからさまざまな偏見や差別が存在した。神経科学の領域でも大脳のラテラリティとの関係から,さまざまな心理学的特性との関係が研究されてきたが,その中には不適切なもの(神経神話)も少なくない。実際には,データの均一性を高めるために,左手利きを研究対象から除外することも多いが,それについては最近批判が出てきている。利き手の概念や研究パラダイムに関しても,多様性を尊重する共生社会の観点から捉え直す必要がある。

総説

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脳表ヘモジデリン沈着症(SS)は,脳表や脊髄表面にヘモジデリンの沈着がみられる稀な神経変性疾患である。近年本邦では診断基準が作成され,SSが指定難病となり,鉄沈着の範囲などから「古典型」「限局型」「非典型」に分類されている。MRIで典型的な脳表の低信号を確認することにより生前診断が容易となっている。治療法はいまだ確立していない。

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症例は75歳女性である。X-1年に視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)と診断された。意識障害や構音障害,左上肢麻痺で再発し,頭部MRIで脳梁膨大部や両側錐体路に異常信号域を認めた。髄液検査では細胞数上昇と,糖33mg/dLと低下がみられた。抗菌薬と抗ウイルス薬の投与下にメチルプレドニゾロンパルス療法と血漿交換療法を施行し,意識障害と左上肢麻痺は改善した。NMOSDの急性増悪期に髄液糖低下をきたすことは稀であるため,髄液の経時的変化を含めて報告する。

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Ⅰ.症例提示

 症例は独居でADL(activities of daily living)が自立した82歳女性である。既往歴として高血圧,変形性膝関節症があり,家族歴,生活歴に特記事項はない。2016年7月某日(第1病日)頃から食思不振がみられた。第7病日に自宅で倒れているところを発見された。近医で治療を受けたが意識清明でないため第8病日に当院へ救急搬送された。意識レベルJCS(Japan Coma Scale)1,GCS(Glasgow Coma Scale)15,体温38.2℃で,明らかな髄膜刺激症候はなかった。そのほか,一般身体所見に特記事項はなかった。検査所見では,白血球6,900/μL(好中球84%),CRP(C-reactive protein)0.45mg/dL,プロカルシトニン0.06ng/mL (基準値0.05ng/mL未満) 以外に特記すべき所見はなかった。頭部MRI(magnetic resonance imaging)(Fig. 1)の拡散強調画像で左視床,左内包後脚に高信号域,FLAIR(fluid attenuated inversion recovery)画像で第4脳室周囲の脳幹・小脳,左大脳脚,左視床,左内包後脚,大脳白質に高信号域を認め,急性期脳梗塞と診断し,治療を開始した。細菌感染症の合併も考え,血液培養提出後,セフォゾプラン2g/日も開始した。その後,39℃台の発熱,意識レベルの悪化を認めた。第10病日に脳脊髄液検査を行い,細胞数94/μL,蛋白53mg/dL,糖62mg/dL (血糖値138mg/dL) であった。第11病日に血液培養の結果が判明し,リステリア菌が検出されたためリステリア脳幹脳炎(髄膜脳炎)と考え,アンピシリン12g/日で治療を開始したが,薬疹を生じたため,メロペネム6g/日へ変更した。第19病日の造影MRI(Fig. 2)で一部病変の増強効果を認めた。左大脳脚や延髄背側にリング状増強病変がみられ,前者は拡散強調画像でもやや高信号を呈していた。治療により改善を認め,3週間で抗菌薬投与を終了した。廃用症候群を生じたため回復期リハビリテーション病院に転院となった。

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 第4回欧州脳卒中学会(4th European Stroke Organisation Conference:ESOC 2018)は5月16〜18日にスウェーデンのヨーテボリで開催されました。本学会は世界脳卒中機構(World Stroke Organization:WSO)の下部組織に位置づけられる欧州脳卒中機構(European Stroke Organisation:ESO)が設立した年次総会であり,まだ歴史は浅いのですが年々参加者と演題数が増加しています。今回は,欧州のみならず世界中の90カ国から4,300名以上の参加者があり,約1,900演題が採択され,発表されました。私もESOのFellow(FESO)を務めている関係で30演題以上の査読を担当しましたが,毎年応募演題数が増加しているのを実感しています。学会場に貼り出された一覧表で確認した日本人の参加者は37名でした。会場はSwedish Exhibition&Congress Centerという大きなコンベンションセンターでした(写真1)。海外の学会でいつも感じることは参加者の男女比率の内外較差です。この学会でも参加者の半数は女性でした。世界的にみれば日本の学会参加者の男女比が異常なのかもしれません。日本でも以前に比べ医学部も女子学生がずいぶん増えているはずなのに学会参加者にはそれがあまり反映されていないように思われます。ガラパゴス化が嘆かれている日本の現状を反映する特徴の1つと言えます。

 学会は初日から多くの重要な大規模臨床試験の成績が発表され,その多くが『NEJM(New England Journal of Medicine)』誌に同時掲載されました。私はこのうちの2つの臨床試験の共同研究者(国内代表者)であり,共同演者と共著者でもあったので多忙な1日を過ごすこととなりました。1つは発症後7日以内の一過性脳虚血発作(transient ischemic attacks:TIA)と軽症脳梗塞を対象とした国際共同研究による前向き観察コホート研究であるTIAregistry.orgの5年追跡調査の結果です。本研究の1年追跡調査の結果は2016年の本学会で発表され,そのときも同時に『NEJM』に掲載されました。この報告ではガイドラインを遵守した脳卒中専門医による急性期TIAの診療が1年間の脳卒中再発率を10年前に比べて半減させることを示すことができました。しかしながら,今回の研究により1〜5年後までの脳卒中の累積発症曲線はその後減衰することなく直線的に推移していたことから,脳卒中の残余リスクにはより厳格かつ強力な対策が必要であると考えられました。TIAの危険因子,画像,病型には人種差がありますが,アジア人のサブ解析の結果は『Stroke』誌に発表しており,日本人のサブ解析の結果については現在投稿準備中です。もう1つは,潜因性脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)に対する直接的経口抗凝固薬(direct oral anticoaglants:DOAC)のリバーロキサバンとアスピリンの有効性と安全性を比較する介入試験(NAVIGATE ESUS)です。既に本試験は中間解析の結果に基づき昨年10月に症例の追跡調査が中止されていました。リバーロキサバンはアスピリンを上回る脳卒中再発予防効果が示されず,出血合併症がアスピリンより多く発症してしまったことからリバーロキサバンの有用性を示すことができませんでした。日本からも国別で最も多くの症例を登録していただいたのに残念な結果でした。本試験結果は,ESUSの病態は多様であり,画一的な治療ではなく病態に応じた再発予防対策が必要であることを示唆しています。そのような観点から本研究班のPublication Committeeでは今後多くのサブ解析を予定しています。本学会でも早速卵円孔開存(patent foramen ovale:PFO)のサブ解析結果が3日目に発表され,PFO合併例ではアスピリンを上回るリバーロキサバンの有用性が示唆されました。私は日本人に多いbranch atheromatous disease(分枝粥腫病)のサブ解析結果を10月17〜20日にモントリオールで開催される世界脳卒中学会(11th World Stroke Congress:WSC 2018)で口演発表する予定です。なお,ESUS患者においてもう1つのDOACであるダビガトランとアスピリンを比較するRE-SPECT ESUSの結果もWSC 2018で発表予定です。

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目次

欧文目次

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 本書のタイトル「機能解剖で斬る神経系疾患」に著者である中野先生の考え方が凝縮されている。神経解剖の基礎・原理を知ることによって,神経疾患の診断・治療という応用問題を解きほぐすことができるということが示されている。我々も医学生の頃を思い出してみると,解剖学や解剖実習は医学的なものとの最初の出会いであり,記憶する学問であるという印象が強い。神経解剖の重要性が分かってくるのはむしろ,医師になり目の前の患者さんの症候と向き合って,どう診断し,どう治療を進めるのかという場に遭遇してからである。この時に初めて「解剖学(医学)は暗記ではない。数学と同様に考える学問である」という中野先生の言葉が身に染みるのである。前書きにも書かれているが,中野先生は神経内科実習での患者さんの診療体験から神経症候を機能解剖で解明する実体験を持たれ,応用問題として神経解剖の重要性を実感されている。このことがこの教科書の大きな背景になっている。まさに臨床の視点から見た神経解剖のエッセンスは何かという考え方が全編に溢れている。我々は思わずこれが解剖の書であることを忘れて,物語のように読み進んでしまうことに気づく。これが本書の大きなコンセプトであり,特徴である。

 いろいろな工夫やカラクリが散りばめられており,学ぶ楽しさを伝えたいという熱気が伝わってくるのである。

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 日本脳腫瘍病理学会の編集による『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス』が第4版へと改訂された。WHOが2016年5月に脳腫瘍分類,いわゆる「ブルーブック」(WHO Classification of Tumours of Central Nervous System)を第4版改訂版として出版したことを受けての大改訂である。一見すると大きな変更はないように見えるかも知れない。それはこの第4版が第1版(1988年),第2版(1999年),第3版(2009年)と続いた本書シリーズの伝統をしっかり受け継いで作られているからである。すなわち,A4判上製本の書籍であり,原則見開きページで1腫瘍型が完結しており,厳選された見応えのある写真を大きく掲載しており,本文は簡潔で明快を旨としている,等々である。しかし,一歩内容に踏み込んでみると本書が4名の編集委員の並々ならぬ熱意により,緻密に計画された完成度の高い書物であることがわかる。

 まず,著者が第3版の63名から99名へと大幅に増員されている。日本脳腫瘍病理学会の中核メンバーに加えて若手研究者を大幅に登用している。いわば学会の総力を挙げての著作であると言っても過言ではない。若手研究者の積極的な参加は,本書に新しい息吹を与えるとともに学会としての人材育成にも効果があると考えられる。本文の総論では脳腫瘍病理の歴史,新WHO分類,グリオーマの分子遺伝学,免疫組織化学が述べられ,現在の脳腫瘍病理の立ち位置が明確に示されている。

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 わからない言葉があればすぐにスマホやパソコンで検索して(それも無料で)調べる習慣がついている私たち。医学英和辞典を手元に置く必要があるのかと時代錯誤に思えるでしょう。日進月歩の医学分野で一般的に使われる用語を67,000語に集約し,それも,医学だけでなく薬学・検査・看護・介護の分野でも使えることをめざして作られたなんて,そんな辞書が可能なのだろうか? これがこの辞書を知った時の私の初めの正直な気持ちでした。同時に,インターネット上の情報収集は,いくら便利で,頻繁に利用し,その場は用を足しても,断片的で頭の中を素通りする気がして,専門用語が自分の言語体系として血肉になる感覚が得られにくいことが,以前から気になっていました。

 本書はポケット判でとてもコンパクトなので手に収まりが良く(手触りも良く),机上でもまったく邪魔になりません。何よりも,充実した内容と,印象強く理解を助け知識を増やす効果にはただただ驚いています。それに,医学以外の領域にも深い関心と配慮が本当に向けられているのです。例えば,“nurse”(看護師)という言葉ひとつをとっても,“community nurse”(地域看護師)と“public health nurse”(保健師)の区別が的確です。“assistant nurse”(看護助手),“practical nurse”(准看護師),“registered nurse”(看護師),“nurse practitioner”(ナースプラクティショナー)の区別や表記,さらにリエゾンナース,リンクナースなどの近年使われるようになった用語にもわかりやすい説明が付いているのです。続いて次の“nursing”の項にも,“nursing home”(老人保健施設)や“nursing ethics”(看護の倫理)など,日本語でなじみがあっても英訳しにくいような言葉がきちんと載っています。かといって,医療者におもねるのではなく,nursingのそもそもの意味は「(1)授乳,(2)看護,養育」というように,社会常識的な見解も端的に示しています。

今月の表紙 河村 満 , 岡本 保 , 菊池 雷太
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 3年にわたる本連載において,初めて人物以外のものを写した写真です。糸巻き機やミシンのようにもみえますが,いったい何をする道具だったのでしょうか。

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あとがき 酒井 邦嘉
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 最近になって,「レゴ」というブロックが元々デンマークでデザインされたものだと知り,興味を持った。「Lego」はデンマーク語の「leg godt(よく遊べ)」を略したもので,ラテン語の「lego(〔私は〕集める)」と同じ綴りだ。自動車や建築物などのセットが豊富に用意されていて,レゴのコレクターがいるのもうなずける。自分でも千ピースを超えるセットを組み立ててみた。タイル状のパーツをうまく使うことで,接続用の丸い突起を外にみせないようにでき,模型としての精度が高いことにも驚いた。ブロックは着脱可能であり,絶妙な塩梅で嵌まる精度の高さがある。

 レゴは一般の模型やプラモデルと違って,ネジ類や接着剤を一切使わず,着色もしない(金属部品を模したクローム塗装はみかける)。そのため,後から簡単に組み替えられることが,自由な創造を助けている。1つのセットを組み替えたカスタムモデルのことをMOC(my own creation)と言い,そうした作品がインターネット上で数多く発表されている。セットのピースに不足がないという点でも信頼性が高く,パーツはすべて番号で識別されていて,必要な分を追加購入できる。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻10号 (2018年10月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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