The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 55巻10号 (2018年10月)

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 心臓リハビリテーションはリハビリテーション医学全般の中で特異な立場を占める.その理由の第1は,歴史的経緯としてリハビリテーション科医ではなく循環器内科医により創始され,現在も主として循環器内科医により担われている点である.理由の第2は,心臓リハビリテーションはその目的として,身体的・心理的・社会的状態の回復に加えて,動脈硬化の進行抑制および罹病率・死亡率の低下,すなわち長期予後改善をめざす点である.そして第3の理由は,運動療法だけでなく食事・禁煙指導を含む患者教育・生活指導・カウンセリングなどの包括的介入が多職種チームで実施される点である.

 これまでの研究の結果,虚血性心疾患や慢性心不全患者に対する運動療法が血管内皮機能改善・抗動脈硬化・抗炎症・自律神経機能改善などの多面的効果を有し,心疾患患者が心臓リハビリテーションに参加することにより運動耐容能のみならずQOLや長期予後が改善することが証明され,エビデンスとして確立されている.すなわち,心臓リハビリテーションは「多面的生物学的効果(pleiotropic biological effects)を有する心血管治療法」と認識されている.さらに近年では,多職種チームによる包括的外来心臓リハビリテーションが,慢性心不全・心房細動・糖尿病・慢性腎臓病・フレイルなどの慢性多疾患保有高齢患者のQOL向上と再入院防止をめざす「疾病管理プログラム(disease management program)」として注目されている.

特集 重複障害とリハビリテーション医療

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 わが国のような超高齢社会では多疾患患者が増加し,重複障害という新たな課題に直面し,リハビリテーション医療の実施に関して戸惑いがみられる.臓器連関や障害連関の組み合わせ次第では,ある障害には有効なリハビリテーション医療が他の障害にも有効であったり,逆に有害であったりする.本特集では,さまざまな重複障害に対するリハビリテーション医療の実際や注意点などに関して,専門家にご執筆いただいた.本特集を通じて,重複障害時代のリハビリテーション医療に積極的にかかわる学会員が増加することを期待する.

▷ 担当:上月正博,企画:編集委員会

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要旨 わが国は世界一の超高齢社会となり,重複障害という課題に直面している.重複障害者の中では内部障害と肢体不自由の重複が最も多い.このことは,内部障害リハビリテーション医学・医療がリハビリテーション医学・医療関連職種の精通すべき基本領域になったことを意味する.重複障害時代のリハビリテーション医学・医療を担うには,各臓器に特異的な問題とともに,脳・心・肺・骨関節などの臓器連関を考慮することが必要である.そのためには,リハビリテーション医学・医療従事者は,循環・腎・呼吸・代謝疾患の病態生理と障害,心電図,呼吸機能検査,血液ガスデータなどの基本的理解や心・腎・肺・脳・骨関節などの臓器連関の理解が必要である.

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要旨 超高齢社会の到来により,運動器疾患と脳卒中の重複症例が増加している.本稿では骨粗鬆症,変形性膝関節症,大腿骨頚部骨折と脳卒中の重複障害を取り上げる.

脳卒中症例では骨粗鬆症が生じやすく,骨量を維持させるため,転倒予防に努めつつ早期から安全に運動や荷重させ,投薬も考慮する.変形性膝関節症では,内反膝や反張膝などの変形予防を行いつつ,脳卒中の運動療法を進める.大腿骨頚部骨折は,廃用性の骨粗鬆症と易転倒性が,その原因となることが多く,その対策を行う.骨折が生じ手術療法が選択される場合,関節拘縮,筋力低下,呼吸機能の低下,深部静脈血栓症,褥瘡,腓骨神経麻痺,誤嚥などの予防が重要で,術後も早期離床に努める.

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要旨 肥満患者の運動処方の際は,突然死をはじめ不慮の事故を防ぐためにも,運動を始める前に必ずメディカルチェックを受けるべきである1)

高度肥満症の治療にあたっては,減量による肥満合併症の改善だけでなく,心理的・社会的要因にも目を向け,患者の長期的なQOLを考えた,チーム医療を駆使した包括的なリハビリテーション治療が必要である.

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要旨 心疾患,高血圧,糖尿病といった内科疾患に対する有酸素運動の効果はすでに広く知られているが,高齢化に伴い併存疾患をもつ患者が増加している.特に,変形性関節症や変形性脊椎症などの整形外科的疾患をもつ患者への運動指導が問題となってくる.

膝・腰などの運動器の痛みとそれに伴う運動や生活機能の低下を幅広く含む新しい概念としてロコモティブシンドローム(ロコモ)が,2009年日本整形外科学会から提唱された.ロコモを保有することで,内科疾患に欠かすことのできない歩行を中心とする有酸素運動が十分に実践できないことがあり,ロコモ対策は重要である.ロコモを有する内科疾患患者が有酸素運動を行う場合は,循環器系疾患を念頭に置いた評価とリスク管理が必要である.

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要旨 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)と心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)の病態には密接な関係があり,これは心腎連関と呼ばれる.運動療法はCVD発症や予後に有効であることはすでに明らかになっており,心臓リハビリテーションプログラムがCKD患者の腎機能を改善させることも,いくつか報告されている.心不全を合併したCKD患者でも,適切な運動プログラムは腎機能を低下させることなく予後を改善させると考えられる.

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要旨 下肢切断を合併した透析患者のリハビリテーション医療において重要なことは,切断術前後の間髪を入れないリハビリテーション実施である.透析患者はもともと心肺機能低下が著しいうえに義足歩行はエネルギー消費が多いため,廃用症候群に陥るとほぼ自立歩行獲得は不可能となる.術前から原疾患のコントロールを十分に実施し至適透析を行ったうえで,四肢体幹を鍛えるのみではなく,心肺機能増強をめざすリハビリテーション戦略を立てる必要がある.

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要旨 COPDは肺の炎症のみならず,さまざまな併存症をもつ全身性疾患である.COPD患者では摂食嚥下障害を認めることが多く,増悪の原因となる誤嚥性肺炎や栄養障害などの予後規定因子とも関連がある.高齢のCOPD患者ではサルコペニアを合併することも多く,より早期から適切な栄養管理や運動療法,嚥下訓練を含めた包括的なリハビリテーションを導入する.摂食嚥下障害は予防が重要であり,多くの医療職による多職種融合的(trans disciplinary)アプローチが重要である.

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要旨 超高齢化の進んだ現状において,運動器疾患を合併したがん患者に対してがんのリハビリテーション医療を提供することが求められる.その際,理解しておくべきことは,がん治療中に合併しやすい障害と運動介入時のリハビリテーション中止基準である.さらに,がんのリハビリテーション医療の4つのstageごとに運動器疾患を合併した場合の注意点を理解する必要がある.運動器疾患単独の患者とは全身状態が異なるがん患者に対して,より細やかなオーダーメイドリハビリテーション医療を期待する.

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はじめに—両立支援の取り組み—

 2018年,国会で可決された「働き方改革関連法案」では一億総活躍の理念をもとにその主題の1つとして「両立支援」が挙げられている.2016年に厚生労働省は「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(両立支援ガイドライン)」を作成し,がんや肝炎などの内部障害,脳卒中などの肢体不自由の障害を有する者の復職や就労支援の重要性を示した1).両立支援は医学教育モデルコアカリキュラム,病院機能評価にも組み入れられ,企業だけでなく医療機関も取り組むべき重要項目として位置づけられつつある.

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脳損傷モデル動物を用いた神経可塑性の研究

 脳は発達の過程を通じてシステムが完成した後も,その機能や構造を変えるポテンシャル,すなわち可塑性と呼ばれる性質をもっている.脳損傷後の機能回復の背景にも可塑的な変化があると考えられており,その詳細の解明に関しては人工的に脳に局所的な損傷を作成した「脳損傷モデル動物」を用いた研究が大きな貢献を果たしてきた.近年,脳機能イメージング技術の進歩により,ヒトの脳活動変化を計測することが可能となった.しかし,脳損傷後の機能回復をもたらす基本的メカニズムである遺伝子・タンパクや神経回路・経路などのミクロレベルの変化を知るためには,解剖的操作が可能な動物を用いた研究が必要不可欠である.また,動物を用いた研究では薬理学的手法を使用して脳の機能を制御することが可能であり,これにより機能的変化と回復の因果性を検証可能である.さらに,脳損傷患者では一般的に脳の損傷領域および大きさに大きな個人差があるのに対して,モデル動物を用いた研究では人工的にコントロールされた損傷を作成できるため,厳密な対照群を設定可能であり,介入を実施した群と対照群の間での厳密な回復過程の比較が可能である.加えて,動物を対象とした実験では高い侵襲をもつ介入を試行することがヒトに対する実験と比べれば容易である.

 生命科学の分野では,哺乳類の中で個体の価格が安く,遺伝的に均一な個体群を作成できる齧歯類(マウスやラット)を使用した研究により多くの成果が得られている.一方,ヒトへの応用を視野に入れた場合には,同じ霊長類に属し,ヒトに近い脳構造をもつサルを用いた研究も重要な意味をもつ.例えば運動にかかわる大脳皮質領野や脊髄への神経投射は,ヒトとサルの間で相似しており,霊長類に特異的な複雑な手の動きの制御の背景となっている1-3).ただし,サルを用いた研究は多くの個体数を用いた研究や遺伝子発現制御を伴う研究には不向きである.また,サルはヒトに近い認知的機能をもつために,実験を行う際には倫理面での高い配慮が必要である.

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はじめに

 上肢外傷後のリハビリテーションにおける最終的な目標は良好な機能の獲得である.良好な機能の獲得には,運動機能と知覚機能の両方でよい回復が得られなければならない.そのためにこれまで多くの取り組みがなされてきた.それらは大きく分けると,主に①画像診断,手術手技,手術器械(インプラントの改良)と,②術後のリハビリテーションについての改善,改良であった.しかし,それらは患者のリハビリテーションにとって一部でしかない.より良好な機能獲得をめざすには,多面的に患者とリハビリテーションを捉える必要があると考えられる.例えば,早期リハビリテーションの実施や,リハビリテーション前後の評価方法の検討も必要である.また,リハビリテーションを潤滑に行うための疼痛管理も重要であり,医師・理学療法士・作業療法士だけでなく他職種を含めたチーム医療でリハビリテーションを行うことも必要となってくる.また,これからはリハビリテーション科や整形外科だけでなく他科も含めた包括的アプローチや新たなテクノロジーの導入が,今後のリハビリテーションの発展に不可欠と考える.

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要旨

目的:人工股関節全置換術(THA)後翌日の歩行達成状況と歩行獲得を阻害した原因の調査,歩行の成否に関連する因子を検討すること.

方法:初回片側THAを受けた78例を対象に,THA後翌日の歩行達成状況と歩行獲得を阻害した原因について調査した.歩行の成否に関連する因子を明らかにするために,術後翌日の歩行達成を従属変数,年齢,性別,body mass index,術前の日本整形外科学会股関節機能判定基準の各項目,手術時間,術中出血量,術前と術翌日のヘモグロビン値の差(Hb差)を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.

結果:THA後翌日の歩行達成率は57.7%であり,歩行獲得を阻害した原因は起立性低血圧が54.5%で最も多かった.また,THA後翌日の歩行の成否には術中出血量が有意に関連していた.

結論:THA後翌日の歩行の成否には,術中出血量が有意に関連しており重要な指標となることが明らかとなった.

リハニュース【Topics】

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 2018年8月30日,日本リハビリテーション医学会第2回記者懇談会が都内で開催されました.今回は「被災者支援に貢献する災害リハビリテーション」,「アジアパラリンピックへのリハビリテーション科医派遣」,「新専門医制度下でのリハビリテーション科医専門研修」の3つのテーマについて解説し,大手新聞社,大手通信社,医学系専門誌などのマスコミ関係者13名が参加しました.(文責:広報委員会)

リハニュース【基幹研修施設インタビュー】

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他科の期待に応えニーズ増加中

 2017年11月に准教授として浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション科に着任した山内克哉先生.

 「リハビリテーション医療は,患者さんの疾患だけでなく,筋力,ADL,歩行状態,認知機能,家庭環境,職場環境などを理解し,各人の生活スタイルに応じたオーダーメイドの医療の提供が必須です.机上の空論ではなく,患者さんを対象に臨床現場でのチームアプローチを実践することが重要で,その要となるリハビリテーション科医は一朝一夕では育成できませんから,地道な努力が必要です」との思いを実行し,リハビリテーションを施行する患者数は,現在,10年前の約5倍に増加しています.増加の理由については,他科の医師やスタッフからリハビリテーション医療の重要性が理解され,その期待に応えるような結果を出せるよう努力していることだと山内先生は説明します.

リハニュース【REPORT】

ISPRM World Congress 平野 哲
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 2018年7月8日(日)〜7月12日(木)まで,フランス・パリのPalais des Congrès de Parisで開催された12th ISPRM World Congressに参加した.4,000人を超える参加者があり,ポスターを前にしたディスカッションが盛り上がるなど盛況であった.日本からも約250人の参加者があり,所属組織の枠を越えて多くの先生方と交流することができた.学会会場はブローニュの森に近かったので,早朝に森の中を散策し,ロンシャン競馬場,ローランギャロス(全仏オープンが行われるテニスコート)などを眺めて,英気を養うこともできた.

 プログラムは,疾患別,障害別,先端技術,医療システム,基礎医学などさまざまな分野に及び,筆者自身は,ロボットおよびその他の支援機器,脳卒中,脊髄損傷,バランス障害などを中心に聴講した.ロボット関係だけで3セッション,15演題の発表があり,メジャーな分野の1つとして定着してきた印象を受けた.複数のロボットの比較や併用,最新のプロトコールが多く議論されるようになったと感じた.空いた時間で自分の発表の準備を行うとともに,機器展示をみて回った.機器展示は,最先端の機器を体験できるまたとない機会なので,いつも楽しみにしている.今回の展示では,さらにロボットの種類が増え,初めてみるものも多かった.中でも,バランスに関するものが特に増えたようだった.練習支援分野のロボットに関しては,数が増える一方で,運動学習支援という観点で設計されているものは少なく,この点では日本で開発しているロボット,進めている研究に優位性があるように思われた.ロボット以外では,virtual reality関連の機器が多く,今後注目していきたい分野となった.

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The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine
55巻10号 (2018年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-3526 日本リハビリテーション医学会

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