糖尿病診療マスター 10巻7号 (2012年11月)

特集 糖尿病診療のための実践的運動療法

Ⅰ座談会

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大久保(司会) 今回の『糖尿病診療マスター』では,いままでほとんど取り上げられなかった運動療法を特集しました.

 運動療法については,本を読むと時間や頻度がきちんと書かれていて「その通りにやらなければいけない」と感じたり,「メディカルチェックが必要」と書かれてあると「運動療法の指導は難しいのではないか」という印象を受けたりします.また,保険点数上の問題もあって,栄養指導には130点がつきますが,運動指導には残念ながら単独の点数がつきません.

Ⅱ外来指導の実際

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はじめに―食後高血糖の管理と予防

 2型糖尿病患者では,インスリンの基礎分泌はある程度保たれ,空腹時血糖値が正常近くコントロールされている場合でも,食後の血糖値の上昇に対するインスリンの追加分泌のタイミングが遅れることや,インスリンの不足により,食後高血糖が起こることが多いといわれている.

 特に食後の急激な血糖値上昇(グルコーススパイク)は大血管疾患の危険因子であり,食後1時間もしくは2時間の血糖値が200mg/dL以上の状態であれば糖尿病の合併症リスクも高まる.そのため,国際糖尿病連合(IDF)「食後血糖値の管理に関するガイドライン」では,食後血糖値の急激な上昇をコントロールすることは,糖尿病合併症を防ぐうえで重要であると示している.

Ⅲ運動療法の基本

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 糖尿病,ことに2型糖尿病では,食事・運動療法が基本治療である.

 日本糖尿病学会は1965年以来,「糖尿病食事療法のための食品交換表」の編集,刊行を行い,糖尿病食事療法の指導に広く活用している.

運動はなぜ続けにくいのか 辻井 悟
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運動療法の現実

 身体活動の低下と種々の疾患の関連性が指摘されており,身体活動を増加させることが健康づくりのための重要な課題となっている1, 2).2型糖尿病の予防と治療管理のためにも身体活動は重要な柱である.インスリン感受性の増強や体組成の変化に貢献する有酸素運動,さらに筋肉量の増大や安静時エネルギー消費量の増加をもたらす抵抗性運動(筋肉トレーニング)は,いずれも糖代謝の改善に寄与する有効な身体活動である.しかし,有酸素運動の効用や方法について広く宣伝活動が行われていたり,保険者や健康管理の医療従事者より熱心に勧められたりしているにもかかわらず,一般の人や2型糖尿病患者の運動実行度は30%程度にしか過ぎない(Box 1)3).国民健康・栄養調査によれば,ここ数年運動習慣のある者の割合は横ばいであり,歩数の平均値の年次推移としては減少傾向にみえる.われわれの施設においても,糖尿病教育後の自己評価では目標の運動療法の50%にとどまっているのが現状である(Box 2).まして,大半の人が有酸素運動に加えて抵抗性運動(筋トレ)を実施することはなかろう.2型糖尿病の予防や治療に対する効果的な対策を考えるうえでも,運動という行動に関係する要因について明らかにする必要がある.

運動を続けるための工夫 長阪 裕子
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 糖尿病に対する運動療法は継続することにより得られる効果が大きい.しかしながら,患者個人の努力だけで身体活動量を増加させ,長期にわたって継続させることは容易ではない.これまで,運動の継続に関する研究は数多く報告されている.それらから運動の継続要因をまとめてみると(Box 1),そこには身体,環境,社会,心理的要因がさまざま存在して絡みあっており,継続することがいかに困難か理解できる.

 それに対し,近年では身体活動や運動を習慣づけるためにさまざまな身体状況や環境下での運動方法や機器の開発,数々の行動科学理論の応用や行動変容の諸技法を用いた試みがなされている.そこで,それらを参考にして筆者が患者指導で実践している一工夫を述べる.

Ⅳ運動療法の注意点

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運動量はどうやって決まるのですか?

 運動量は運動の種類や強度・持続時間・頻度によって決まる(Box 1).当然のことではあるが,強い運動を長時間,毎日行えば運動量は多く運動の効果は高くなる.弱い運動を短時間,月1回だけでは,運動量は少なく運動療法の効果は弱くなる.本稿では運動の持続時間に焦点を当てて述べるが,運動の効果は時間だけでなく運動強度や頻度も合わせて考え,指導する必要があることを忘れてはならない.

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はじめに

 糖尿病治療としての運動は,代謝の安定と合併症の発症・進展予防および健康維持を目的として行われるが,その代表は有酸素運動である.有酸素運動の効果には,筋収縮の刺激により血液中のブドウ糖が骨格筋に取り込まれることで血糖値が低下する「急性効果」と,運動を継続することでインスリン抵抗性を改善させる「慢性効果」がある.そのため,運動処方時には有酸素運動が選択されやすい傾向にあるが,実際の臨床ではすべての患者に対して有酸素運動を処方することが必ずしも適しているわけではない.なぜなら,患者によって背景因子(病態,生活環境,生活習慣,運動習慣,既往歴,合併症など)が異なるため,有酸素運動だけでは十分な効果を得ることは難しいからである.したがって,これらを把握したうえで適切な運動を処方しなければ,治療を目的とする運動が逆に病態を悪化させたり,運動意欲を低下させる可能性がある.さらに運動療法の実行度は,食事療法や薬物療法に比べて低いことから,これを改善させるためにも患者一人ひとりに適した運動処方の立案が望まれる.

 糖尿病治療に用いられる運動には,有酸素運動の他にレジスタンス運動とストレッチがあるが,処方時には有酸素運動のみではなく,3種類の運動を臨機応変に組み合わせることが有効である.本稿では,これらの運動をどのように選択し処方に結びつけていけばいいのかについて解説する.

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糖尿病における運動療法―その効果とリスク

◆1型糖尿病における運動療法

 1型糖尿病ではインスリンの供給は内因性のインスリン枯渇により,外因性のインスリン注射に依存することになる.いったん注射されたインスリンに関しては,その後の用量調整ができない.また,グリコーゲンの分解や糖新生も非糖尿病状態とは異なるため,運動による低血糖リスクは増している.また,運動によるインスリン感受性の増大もあり,運動後もインスリンによる血糖低下効果が持続しやすい.運動時・運動後の低血糖に対するアプローチを考慮しておく必要がある1)

Ⅴ外来指導のヒント

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はじめに

 乗馬やスキーといった運動では身体のバランスを維持するために,姿勢制御反射が起こり,筋収縮が誘発される.この原理を用いて,乗馬の常足(なみあし)動作を再現し,他動的な揺動刺激を与え,騎乗姿勢の保持に必要な筋収縮を誘発させる運動機器が「ジョーバ®」(Box 1)である.能動的に動かずとも鞍にまたがり座るだけ,という心理的にも敷居の低い運動形態が,糖尿病の運動療法として,さらには中高年者の運動習慣のきっかけづくりとして期待されている.

活動量計の使い方 住田 尚子
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はじめに

 運動療法は食事療法と並んで糖尿病治療の基本とされている.ここでいう運動とは,糖尿病治療・健康のために計画して意図的になされたものだが,実際に患者さんに運動療法について説明していると,「もう年だから」とか「そんな時間はない」という言葉がよく聞かれる.また,運動療法は天候や気温にも左右されやすく,梅雨時期や暑い時期,寒い時期には運動量が極端に減る患者さんも多く見受けられる.糖尿病の自己管理の実行度をみると,残念ながら治療の基盤とされている食事療法が最も低く,続いて運動療法となっており,薬を内服することや定期受診することに比べていずれも低くなっている1).それと,食事療法に関しては専門医・一般内科医のいずれもほとんどの初診患者に指導が行われているが,運動療法では約4割の実施状況2)と,スタッフ側も適切な運動指導ができていないことも,患者さんの運動実施率に関係しているかもしれない.

Perspective●展望

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 運動療法は糖尿病治療の三本柱であるが,外来診療において積極的に取り組まれているとは言い難い.例えば「糖尿病治療ガイド」によると,運動療法のセクションに“歩行運動なら1回15~30分,1日2回,週3日以上の頻度が望ましい”と書かれている.さらには指導前のメディカルチェックの必要性についても言及されている.現実には詳細な運動指導は入院で行われており,外来で指導しても実行できないだろうという気持ちが,積極的に指導がなされない大きな理由ではないだろうか.

 本誌においても,創刊以来のバックナンバーを見ると,運動療法単独の特集は組まれていないようである.しかし最近になって,運動療法の考え方にも,少しずつ変化がみられるようになった.実行可能な内容で指導することが,より実践的になる可能性につながるのではないかと思われる.今回の特集では,明日からの指導に役立つ内容になることを第一に考えて構成を行った.

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療【最終回】

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医療の現場における問題解決

 学問としての医学を社会の現場で応用し,実践することが医療です.医学の発展は極めて速く,広範な分野に及びます.医療現場では,一人の知識だけで患者さんのもつさまざまな問題を解決することは至難の業といえます.わたくしが内科医となってから30年もの月日が流れました.自分の専門分野である糖尿病学,内分泌学の進歩を的確にキャッチアップし,知識と経験を増やしていくことですら,決して簡単なものではありません.ましてや,自分の専門分野以外の領域には,わからないこと,困ったこと,自分の知識や経験ではどうしようもないことがたくさんあります.

 私が研修医だったころは,わからないこと,困ったことに遭遇した時は,ハリソンやセシルなどの内科学書で調べてみる,New England Journal of Medicine,Lancet,JAMA,Annals of Internal Medicine,British Medical Journalなどの文献を検索することが重要だと教えられました.しかも,わからないことだらけで,しっかりと物事を調べる時間もありませんでした.現在であれば,Up to Dateをチェックして,Medlineで文献を検索することが簡単にできますが,診療に忙殺される中,問題を検索する時間がいつでもとれるわけではありません.

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糖尿病患者における肥満パラドックス

山本 弥生・中神 朋子

筋力トレーニングで2型糖尿病発症リスクは34%低下する

細井 雅之・上野 宏樹・川崎 勲

Updates 2012●糖尿病学の進歩

糖尿病とED(勃起障害) 辻村 晃
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はじめに

 性交時に有効な勃起が得られないために満足な性交ができない状態を勃起障害(erectile dysfunction : ED)という.世界中の成人男性の5~20%が中等度ないし完全EDに相当するという報告に加え,本邦での疫学調査でも30~79歳の男性の870万人が中等度ED,260万人が完全EDと推測され,合わせると1,130万人もの男性がEDを発症していると報告されている1).したがって,EDは決して珍しい疾患ではない.最近では,生命に直結する疾患ではないものの,中高年男性のQOLを著しく低下させる疾患として,注目を集めるようになった.日本性機能学会編集による「ED診療ガイドライン」2)によれば,EDのリスクファクターとして加齢とともに高血圧,糖尿病,脂質異常,肥満などの生活習慣病があげられている(Box 1).最近では,これらの生活習慣病は合わせてメタボリックシンドロームとして扱うようになり,注目されるようになった.メタボリックシンドロームとEDの関係においては,縦断的,横断的研究が多数なされており,その密接な相関性が報告されてきた.

 本稿では糖尿病とEDの関連性を解説し,同時に糖尿病性EDの治療についても触れる.

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寄稿規定

本誌の編集体制

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基本情報

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糖尿病診療マスター
10巻7号 (2012年11月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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