糖尿病診療マスター 10巻6号 (2012年9月)

特集 高血圧in糖尿病 その対策!!

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はじめに

 糖尿病と高血圧はそれぞれ,脳・心血管疾患,腎疾患,眼疾患の増悪因子であるが,フラミングハム研究など多くの疫学研究から,両者の合併は相乗的に疾患の発症と予後を悪化させることが示されている1).動脈硬化性疾患はもちろん,糖尿病性細小血管障害や糖尿病性腎症も糖尿病に高血圧が合併すると進展が速まることが知られている.糖尿病からみても,高血圧からみてもお互いの合併は生命予後,機能予後を低下させる最大の要因となり,各種の診療ガイドラインでは高血圧と糖尿病の合併は厳重な管理対象となっている.本稿では糖尿病と高血圧の合併頻度,それによる心血管疾患の発症についての疫学的検討などについてまとめた.

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はじめに

 現在,日本社会では高齢化が進み,糖尿病や高血圧患者の増加に伴い動脈硬化を基礎とした多臓器疾病合併例が多くなってきている.

 2002年に米国National Kidney Foundationが提唱した慢性腎臓病は脳・心血管疾患の独立した危険因子であり,脳・心・腎連関として注目されている.また,腎機能が正常であっても,アルブミン尿の存在が脳血管疾患の危険因子であるという報告があり,尿中の微量アルブミンが脳血管の障害を反映すると考えられる.

 本稿では,脳・心・腎連関のうち,脳・腎連関について特異な血管構造と血圧,レニン・アンジオテンシン系の関与について概説する.

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はじめに

 日常診療で糖尿病患者が高血圧症を合併することは多く見受けられる.端野・壮瞥町研究では無作為に抽出した一般住民において,糖尿病患者の39.7%に高血圧症を合併していることが報告され,非糖尿病患者に比べ,糖尿病患者における高血圧症の合併は約2倍多く,非高血圧症に比べ,高血圧症における糖尿病の合併は約2~3倍多いことが報告されている(Box 1)1)

 糖尿病,高血圧症はともに心血管系疾患の独立した危険因子であり,双方が合併することでさらに相乗的な悪影響をもたらす.UKPDSでは糖尿病患者の大血管合併症,細小血管合併症の予防には,血糖コントロールのみならず,血圧コントロールの重要性が指摘されており2, 3),特にUKPDS36では収縮期血圧が10 mmHg低下することで心筋梗塞の発症が11%,細小血管障害が13%抑制されたことが報告されており(Box 2)4),糖尿病患者の診療においては血糖管理のみならず,血圧管理にも十分な注意を払う必要がある.

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血圧測定の難しさ―診察室血圧は血圧の代表値となるのか

 筆者の施設では2009年から約4,000人の糖尿病患者を対象としたコホートスタディ(DDCRT : Diabetes Distress and Complication Registry at Tenri)を行っている.血圧は当然のことながら,必須の検査情報である.ところが,この診察室での血圧測定が容易ではない.「高血圧治療ガイドライン2009」によれば,測定時の条件として,①静かで適当な室温の環境,②背もたれつきの椅子に足を組まずに座って数分の安静後,③会話を交わさない,④測定前に喫煙,飲酒,カフェインの摂取を行わない,という条件が付いている.

 診察室に入ってこられ椅子に座られるとまず会話が始まる.医師のほうから黙っていることはない.「いかがですか,お変わりありませんか」と尋ねれば話が続く.患者さんとしてはその日の検査結果が早く知りたい.HbA1c結果によっては,驚かれることもある.

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糖尿病と脳梗塞

 脳梗塞は血管の閉塞機序により,Box 1に示すようにアテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓,ラクナ梗塞の3つの病型に分けることができる.わが国の脳梗塞登録調査であるJ-MUSIC(Japan Multicenter Stroke Investigators’ Collaboration)によれば,アテローム血栓性脳梗塞の30%,ラクナ梗塞の26%に糖尿病の合併がみられた1)

 このように糖尿病は,高血圧,脂質異常症とならびアテローム血栓性脳梗塞発症の危険因子として認識されているが,糖尿病患者ではアテローム血栓性脳梗塞の発症率が糖尿病患者のそれに比べて2倍以上高く2, 3),糖尿病にさらに高血圧を合併すると発症率は4倍に増加することが知られている.脳出血を含むすべての脳血管障害の発症率も糖尿病患者では非糖尿病患者に比べて高いことも知られている(糖尿病患者1,000人当たり7.8)4)

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 糖尿病患者で,冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)を合併する患者は,合併症進展や死亡のリスクが最も高い患者であることが,多くの研究で明らかにされている.有名な欧米の疫学研究であるフィニシュ・スタディは,45~64歳の2型糖尿病患者1,059人と非糖尿病患者1,373人を7年間追跡し,心筋梗塞の発症・再発率を検討したものである1).その結果,糖尿病ではなく,かつ心筋梗塞既往がない患者では,3.5%の発症率であったのに対して,心筋梗塞の既往のある糖尿病患者では,45%に心筋梗塞が発症した(Box 1).

 同様に,日本人急性冠症候群の生存退院患者を対象としたOsaka Acute Coronary Insufficiency Study(OACIS)は,1998~2006年の連続61,669例の予後を,糖尿病の有無により分けて,平均追跡期間891日で検討したものである2).その結果,非糖尿病患者の総死亡が4.0%,非致死的心筋梗塞発症が3.8%,心不全入院が3.6%,主要心血管事故(総死亡,非致死的心筋梗塞発症,心不全入院,血行再建術施行)が24.9%であるのに対し,糖尿病患者では,それぞれ5.1%,6.8%,6.1%,32.3%で,有意に増加していた.

心腎連関を考えた降圧療法 宇津 貴
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はじめに

 糖尿病は,それ自体が心血管疾患の危険因子であるとともに,高血圧を合併する頻度が高い.糖尿病状態において血圧コントロールが不良であると,心血管合併症とともに糖尿病性腎症が進展し,腎症が進展すると心血管死亡リスクが増大する.心血管リスクが相乗的に亢進するわけである.そのため,糖尿病患者においては腎保護を考えた血圧管理が重要になる.一方,糖尿病患者において,腎機能低下の原因となるのは糖尿病性腎症のみではない.例えば,動脈硬化病変が腎血管に及び狭窄をきたすと,虚血によって腎機能は低下する.糖尿病患者において,腎機能保持および心血管合併症防止を目指すためには,個々の病態に応じた降圧治療法を選択する必要がある.

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はじめに

 糖尿病性腎症はわが国における慢性透析療法導入の最大の原因疾患であり,さらに腎症の合併は心血管死の危険因子である.したがって,糖尿病患者の生命予後の改善と,医療費の抑制のために,糖尿病性腎症の発症・進展を抑制することが喫緊の課題である.腎症の治療には,血糖,血圧,脂質の管理と食事療法が重要であるが,顕性期以降の腎症の治療においては,血圧管理が最も重要な位置を占める.

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はじめに

 糖尿病患者における高血圧の発生頻度が高く,高血圧患者における糖尿病の発生頻度も高いと言われ,両者には密接な関係がある.すなわち,糖尿病(2型)と高血圧はインスリン抵抗性状態を共通の背景因子として進行し,ともに心血管疾患発症の大きな危険因子である.そして,糖尿病による血管合併症の一つ――糖尿病性腎症は慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)の代表で,末期腎不全に至る原因疾患の第1位である.これら糖尿病,高血圧,CKDは,血圧の食塩感受性の亢進と関連しており,日本人を含むアジア人は食塩感受性が強いとも言われている.そこでこの項では,血圧の「食塩感受性」の視点から糖尿病患者の高血圧治療について考える.

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 成人糖尿病患者における降圧療法は,糖尿病慢性合併症,なかんずく,腎症,網膜症,大血管障害の発症進展防止に必須といってもよい.降圧目標は日本のガイドライン上130/80mmHg未満であり,この目標達成には減塩食,適正体重の維持など生活習慣の改善に加え,何剤かの降圧薬の併用を要することは日常である.特に腎症が進展すると多剤併用が必要である.

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はじめに

 糖尿病の病態・進行・合併症進展過程のいずれにおいてもレニン-アンジオテンシン(RA)系が深く関与しており,RA系抑制薬の投与により糖尿病の発症・進行が抑制される.したがって,糖尿病患者の降圧治療ではRA系抑制薬が必須であり,「高血圧治療ガイドライン2009(JSH2009)」でも第一選択薬に位置付けられている.しかしながら,「ACE阻害薬あるいはARB」と記載されてはいるものの,それらの選択基準については記載されていない.本稿では両薬剤の違い,使い分けについて概説するとともに,JSH2009発表後に使用可能となった直接的レニン阻害薬(direct renin inhibitor : DRI)の特性についても概説する.

Perspective●展望

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 糖尿病患者が健康で過ごすには良好な血糖コントロールが必要である.しかし,洋の東西を問わず血糖コントロールは難しい.Steno2研究では強化療法群といえども目標HbA1c達成率はわずか15%であった.にもかかわらず,各合併症の進展率は末梢神経障害を除いてほぼodds ratio 0.4に抑制されているが,これは血圧や脂質の治療目標達成率が高かったからである.糖尿病患者の血糖コントロールが思うように改善できない場合でも,血圧や脂質を厳格にコントロールすることで,合併症の発症や進展をある程度抑制することができるとすれば,治療困難者を抱える糖尿病医諸兄にとって一筋の光明となるものと思う.何といっても,ダイエットと薬のバランスを取り損ねるだけで,高血糖から一転して低血糖に悩まされてしまう血糖コントロールの困難さに比べれば,薬が効きすぎて下がりすぎてしまうことのほとんどない血圧管理ははるかに容易である.糖尿病患者の治療をワンランクアップしようとする時,ダイエットやエクササイズ指導法をレベルアップし,さらに糖尿病治療薬を駆使してよい血糖コントロールを目指すとともに,減塩指導と降圧薬の駆使によって良好な血圧管理を達成することも,重要なもう一つの柱となる.

 糖尿病治療薬の進歩と並行して,多岐にわたる作用機序の降圧薬が開発された.同じ糖尿病患者でも合併症の有無,特に腎症や心血管疾患の合併の有無や重症度を考えての降圧薬の使い分けが求められる.さらに,目標血圧を達成できずに薬の追加を勧めても同意が得られない,処方はしてもアドヒアランスに問題がありそう……,となると,さらに巧みな納得させる説明技術も求められる.

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 Steno-2 Studyでもわかるように,世の東西を問わず血糖コントロールをよくすることは大変難しいのですが,糖尿病患者さんが併せもつ高血圧,脂質異常症を目標値を設定して治療することにより,糖尿病合併症は腎症だけでなく,網膜症,大血管障害,自律神経障害も防げることがわかってきました.しかしながら,私たち糖尿病を診る医師は,必要性はわかっていても,原理をわからずに治療をしているところがあり,治療がうまくいかない1つの理由ではないかと日ごろ感じています.伊藤先生の血圧が上がる原理,塩分とレニン・アンジオテンジン系の説明は非常に明快です.きょうはぜひ,糖尿病を勉強しようとしている読者のためにお話をうかがいたいと思います.

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療 第35回

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循環器内科からの紹介状

 81歳,女性.高血圧症,2型糖尿病にて当科にて経過観察中の方です.いつもはダオニール® 3.75mg/日で,空腹時血糖値70~80mg/dL,HbA1c 6.3~6.5%(注:以下,HbA1cはNGSP値にて表記)と血糖コントロールは良好でした.一昨日,意識障害のため救急部を受診.血糖値が37mg/dLで低血糖症と診断され,グルコースを静注.意識は回復し,ダオニール®を中止して帰宅しましたが,今朝がたも低血糖発作が起きるとのことで受診されました.インスリン感受性が急激に改善しているのでしょうか,また,何らかの低血糖を引き起こす疾患を合併しているのでしょうか.今後の糖尿病治療につき,よろしくお願いいたします.

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2型糖尿病患者における肥満外科手術と薬物療法の無作為化比較試験

山本 弥生・中神 朋子

基礎インスリン療法の心血管疾患,がん,糖尿病発症への影響

細井 雅之・上野 宏樹・川崎 勲

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寄稿規定

本誌の編集体制

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糖尿病診療マスター
10巻6号 (2012年9月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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