糖尿病診療マスター 10巻4号 (2012年5月)

特集 脳・心・腎連関を見逃さない

Ⅰ総論

進化と脳・心・腎連関 伊藤 貞嘉
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はじめに

 現代は生活習慣病を基盤とした心血管疾患(Cardiovascular disease ; CVD)や腎臓病の克服が大きな課題となっている.特に,慢性腎臓病(Chronic kidney disease ; CKD)は末期腎不全の発症のみならず,脳・心血管疾患の強力なリスクであり,脳・心・腎連関として注目されている.さらに,CKDでは認知症の頻度が高いことも明らかになってきている.生活習慣病の代表である高血圧や糖尿病による臓器障害の特徴は,脳・心・腎など生命維持に重要な臓器から障害が始まることである.なぜか? その答えは生命の進化に求めることができよう.すなわち,本来自然界において生命維持に不可欠な構造や分子が,現代社会においては逆に生命を脅かす存在になっていると考えられる.その代表例として,脳幹などの生命維持の根幹をなす部位への血流供給システム,レニン・アンジオテンシン(RA)系,酸化ストレスや炎症があげられる.

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はじめに

 心・腎連関(あるいは心腎症候群cardio-renal syndrome : CRS)とは,心あるいは腎の一方に障害もしくは機能低下が起こった場合,他方の臓器にも障害や機能低下が及ぶ病態であり,Roncoらは,連関の起こり方の時間的経過(急性あるいは慢性)および臓器連関の方向性を考慮し,Box 1に示すような5型に分類している1).さらに最近では,脳を含めた多臓器連関,すなわち脳・心・腎連関へと,その概念が拡張されている.

 糖尿病性慢性血管合併症は,細小血管障害と大血管障害に大きく分けられ,前者には網膜症と腎症,後者には脳血管障害(脳卒中),冠動脈疾患,および末梢動脈疾患が含まれる.糖尿病患者における細小血管障害と大血管障害の連関を考えるうえでは,まず共通する病態が両血管障害を引き起こすRonco分類CRS-5型,慢性の腎障害が心機能に連関するCRS-4型,さらには慢性の心機能低下が腎に影響するCRS-2型に分けて考える必要がある.

 本稿では,特に細小血管障害としての腎症と,大血管障害である脳卒中および冠動脈疾患の連関について,概説したい.

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はじめに

 慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)は,持続する腎障害(尿蛋白,尿蛋白以外の異常)・糸球体濾過量(glomerular filtration rate : GFR)の低下からなる慢性的な腎障害であり,従来の心血管疾患の危険因子とは独立した危険因子であることが明らかにされ,さらに心・腎連関といった概念も生まれ注目を集めている.またCKD患者は,従来の心血管疾患の危険因子である高LDL血症,低HDL血症,高TG血症,すなわち脂質異常症を合併することが多く,脂質異常症がCKD発症・進展の危険因子であることも示されており,両者の重なりが心血管疾患の危険をより高めていると考えられる.

 本稿では,心血管疾患の危険因子としてのCKD,脂質異常症,および血清脂質に対する介入の側面から,脂質異常症と脳・心・腎連関について概説する.

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はじめに

 脳卒中や虚血性心疾患など心血管病の危険因子である肥満,高血圧,糖代謝異常,脂質異常症は合併しやすいことが古くからよく知られている.近年,内臓肥満を基盤としてこれら危険因子を合併した状態はメタボリックシンドローム(MetS)と呼ばれ,心血管病のみならず慢性腎臓病(CKD)の危険因子として注目されている.わが国では,2008年度からMetSに着目した新しい健診制度である特定健康診査・特定保健指導が実施され,心血管病をはじめとする生活習慣病の予防につながることが期待されている.しかし,わが国の地域住民を対象にMetSが心血管病およびCKD発症に及ぼす影響を検討した報告はいまだ数少ない.

 そこで本稿では,福岡県久山町において長年にわたり継続中の疫学調査(久山町研究)の成績を用いて,MetSと心血管病およびCKDの関係を検討し,MetSの意義を明らかにする.

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はじめに

 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease : CKD)の頻度は日本腎臓学会によれば,わが国の成人人口において約1,330万人(12.9%)とされており,さらにCKD発症には高血圧や糖尿病などの生活習慣病の関与も大きいため,common diseaseの一つと考えられている1).また,CKDは末期腎不全だけでなく,心筋梗塞や脳血管障害など心血管系疾患の危険因子であるとともに,心筋梗塞や脳血管障害で入院や死亡するリスクが高いことが報告されている1).これらの報告などにより,CKDは早期発見と早期に治療介入することが重要であると考えられている.

 一方,脳血管障害は日本において死因の第3位であり,寝たきりになる疾患原因の第1位である2).近年の生活環境の変化に伴い,脳血管障害の危険因子も高血圧,糖尿病,脂質異常症など以前より認められているものからCKDやメタボリック症候群など様々な因子の関与が指摘されている2).このような背景の中,最近CKDと脳血管障害の関連についての知見が増えてきた.

 本稿では両者の関連について,疫学,病態,治療について概説する.

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はじめに

 高血圧はわが国においては約4,000万人の患者数といわれており,最も多い生活習慣病といえる.現在,血圧の評価としてはBox 11)のように慣例的な診察室血圧のみでなく,家庭血圧測定(home blood pressure measurement : HBPM)や自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring : ABPM)があり,患者個々の血圧パターンや特性から高血圧性臓器障害との関係が知られるようになった.また,患者の病態に応じた降圧目標値が示されている(Box 2).

 高血圧が脳,心臓,腎臓や血管と密接な関係を有することは以前よりよく知られており,高血圧治療の目的は,このような脳・心血管イベントの抑制や慢性腎臓病から起因する末期腎不全の進展を予防し,最終的には長期予後の改善へ結びつけることとともに,QOLを低下させないことでもある.本稿では,高血圧を介した脳・心・腎連関について概説していく.

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はじめに

 Candesartan Antihypertensive Survival Evaluation in Japan(CASE-J)試験は,日本人ハイリスク高血圧患者を対象に,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)であるカンデサルタンとカルシウム拮抗薬(CCB)であるアムロジピンの心血管イベント発症に対する効果を検討したランダム化比較試験であった1).主要評価項目である複合心血管イベント発症には両群間に有意な差を認めなかったが,カンデサルタンはアムロジピンと比較し,副次評価項目である糖尿病新規発症を有意に抑制し1),また,左室肥大を有意に退縮させた2).その後,観察研究としてCASE-J試験参加患者をさらに3年間追跡調査するCASE-J Extension(CASE-J Ex)が実施され3),CASE-J試験と同様に複合心血管イベント発症には両群間に有意な差を認めなかったが,カンデサルタンの糖尿病新規発症抑制効果の優越性は引き続き観察された4)

 本稿では,糖尿病合併高血圧症および糖尿病新規発症抑制に関して,CASE-J試験およびCASE-J Ex試験から得られた知見を紹介する.

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はじめに

 われわれの社会は,高齢化・高血圧や糖尿病患者の増加に伴い動脈硬化を基礎とした多臓器疾病合併例が多くなってきている.特に慢性腎臓病は脳・心血管疾患の独立した危険因子であり,脳・心・腎連関として注目されている.

 穿通枝は,中大脳動脈などの太い血管から直接分枝して,基底核などの生命維持の根幹にかかわる部位へ血液を運ぶ細動脈である.このような構造は循環不全時に血流を維持するために欠かせないものである.このような細動脈をstrain vesselと呼んでいる(Box 1)1).たかだか数十μmの細い血管が大動脈と同じくらいの血圧に曝され,かつ,短い距離で大きな圧較差を支えなければならないため,高血圧時には傷害されやすい部分でもある.腎臓にもstrain vesselがあり,脳・心・腎連関の基盤となっている.

 腎臓の分野では,尿蛋白の意義,特に微量アルブミン尿が脳血管疾患および心血管疾患(cardio-vascular diseases ; CVD)イベントと深くかかわっていることが注目されている2, 3).微量アルブミン尿および蛋白尿がstrain vesselの傷害を反映すると考えると,脳血管疾患やCVDとの関連の理解が得やすい.高血圧性脳出血は穿通枝領域に起こり,ラクナ梗塞や白質の虚血病変も穿通枝の病変である.冠循環においても傍髄質糸球体や穿通枝と同様の血行動態が見られる4)

Perspective●展望

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 厚労省は,平成23年10月13日に,「健康日本21」(正式名称:21世紀における国民健康づくり運動)の最終評価を公表した.

 「健康日本21」は,ご存知のように,急速な人口の高齢化や生活習慣の変化とともに,生活習慣病の割合が増加していることを鑑み,すべての国民が健やかで豊かな生活をこれから営んでもらうために,厚労省が,生活習慣に関する目標を設定し,それに向かって国民が主体的に取り組むことができる国民健康づくり運動として,平成12年に策定された.

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 わが国の成人中途失明の原因の第1位が糖尿病網膜症であった(2,986人)という根拠は,1991年当時の厚生省が発行した厚生の指標の「わが国における視覚障害の現況」という報告から得ておりました.ちなみに,第2位以下は白内障,緑内障,網膜色素変性症でした.

 15年後の2005年に厚生労働省難治性疾患克服事業として調査が開始され,その結果はご存知のように,糖尿病網膜症がわずかながら第1位を緑内障にゆずり,成人中途失明の原因の第2位になりました(3,117人).絶対数自体の増加もないことから,これは一にも二にも糖尿病網膜症の治療がうまくいったことを示唆しているといえます.

 糖尿病網膜症分野を切り開いてこられた先生のお一人である堀先生に,その険しい道のりをお聞きしました.

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療 第33回

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一般内科開業医からの紹介状

 8年前から当院で加療中の2型糖尿病患者です.薬剤を増量しても血糖コントロールは不良で,HbA1c(JDS)は10.8%です.インスリン治療の適応かと思いますので,ご高診,ご加療のほどお願いをいたします

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ヘリコバクターピロリ感染で糖尿病は発症しやすくなるのか?

山本 弥生・中神 朋子

週1回エキセナチド,メトフォルミン,ピオグリタゾン,シタグリプチン単独療法の対決

細井 雅之・上野 宏樹・川崎 勲

Inpatient glycemic control and management of diabetes●「コンサルト」力を養う! 入院患者の糖尿病管理の手法 第8回【最終回】

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はじめに

 この連載にあたって求められた内容は,医療現場で入院中の糖尿病患者がどのように血糖管理・治療をなされているかを具体的に記述することであった.そして,第1回~第7回で筆者の所属する病院で実際に行われているコンサルテーションシステムとわれわれ糖尿病・内分泌内科医師の取り組みを紹介してきた.このようなシステムが他の様々な医療機関でそのまま可能であるとは考えないし,われわれの手法が現時点で最良なものであると主張するつもりもない.

 しかし,現実に各科に入院する患者の多くが糖尿病を有しており,実際の入院治療の過程で血糖管理の良否は予後を左右する重要な因子の一つであるならば,タイトルとして掲げた「入院中の糖尿病,高血糖を有する患者の血糖管理法のレベルアップ」というテーマは現実的な医療の課題であると考える.

 今回は連載の最後にあたって,どのようにすればそれが可能かを考察してみたい.

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糖尿病診療マスター
10巻4号 (2012年5月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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