糖尿病診療マスター 10巻5号 (2012年7月)

特集 ライフステージに対応した糖尿病診療のコツ

Ⅰ学童期の患者への対応

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はじめに

 学童期の糖尿病の大部分は1型糖尿病であるので,1型糖尿病についてのみ解説する.1型糖尿病が治癒する時代が来ることを切に願うが,現状の医療レベルにおいて学童は今後数十年間にわたり1型糖尿病と付き合っていくことになる.したがって,思春期に入る前の学童期における糖尿病診療の一番の目標は,親も子も糖尿病であっても何でもできるという自信をもち,糖尿病,血糖値に振り回されない考え方,生活を身につけることであると考えている.そのためには,重症低血糖を起こさないようにインスリンを安全に補充することで学校生活を楽しみ,制限されていないと感じる食生活を楽しみ,自由に遊び,スポーツ,課外活動,糖尿病サマーキャンプなどに積極的に参加することが大切である.

Ⅱ思春期の患者への対応

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はじめに

 思春期は子どもから大人になるために誰もが通る時期である.楽しく順風満帆に過ごした方もいれば,挫折感やほろ苦い思いをもってなんとかやり過ごした方もいるだろう.自分たちが通り過ぎた時代でありながら大人になった今,医療者や親として思春期の子たちを前にどう接したらいいのか思い悩む方も多いことと思う.

 若年期に発症した1型糖尿病の患者にも思春期は訪れる.二次性徴や身長の急激な伸長による体の大きな変化にとまどい,毎日の勉強や課外活動に追われ,友人や家族との関係に悩み,入学,卒業,就職の度に新たな決定を強いられる.1型糖尿病の患者は,これらに加えインスリン注射を定期的にしなければならず,血糖や食事や身体活動に配慮しながら毎日を送らなければならない.そうしたなかで,重圧に耐え切れず身体および精神心理両面にさまざまな問題を生じ危機的状況に陥る場合がある.1型糖尿病の診療に携わっている医療者の誰しもが,こうした患者さんの対応に苦慮された経験がおありと思う.

 本稿では,1型糖尿病の医療に関わる医療者を対象に,1型糖尿病に関連する思春期の病態生理,身体的問題への留意点,精神心理面の問題とその対応を提示する.

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 近年,小児2型糖尿病の増加に伴い,その診断や治療をいかに行うかが問題となっている.本稿では,小児2型糖尿病の背景について述べ,診察,検査,治療について概説する.

Ⅲ青壮年期の患者への対応

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ライフステージにおける青壮年期とは

 青壮年期(30~50歳)は,一生を通じ身体的に安定した時期で,成熟した生理機能を保持するとともに精神的活動の充実する時期である.身体の成長と発達は完了して身体的機能がピークに達した後,細胞レベルでは潜在的老化の時期を迎える.円滑な家庭生活の維持や職業人としての役割を遂行したり,経済的基盤を確保して,地域社会との交流を深めたり,また,年老いた両親の介助を含め,家族を支えるなど自己実現に向けた立ち位置を選択し,種々の周囲環境のなかで主体的・合目的な活動を行う.職場での中核的存在や家族の柱,責任ある立場,働き盛りの夫婦や親の役割を担いながら家庭を築く.職業的役割が拡大して責任が増す一方,地域社会の一員としての貢献が期待される.

 この時期に肉体的病気は一般的に少なく,活動は旺盛で,かなり無理をしても,短時間の休憩で疲労は回復する.肉体的には充実していても,社会ではなお下積みであったり,上司や後輩の間に入るサンドイッチ状態であったりして,その欲求不満,不安あるいは職業的な無理などが,心身両面に影響を与える.精神的にはなお未熟な点もあり,功名心にはやる傾向にある.その結果,青壮年期はストレスを受けやすい時期である.青壮年期は,将来への準備を整えようとする活動のなかに,その生き甲斐を見出していこうとする世代である.このような働く世代の青壮年の共通した願いは,常に心身ともに健康な状態のもとでその能力を最大限に発揮できることである.その健康が失われた場合,それは直ちに,一員として参加している社会生活や家庭生活の諸活動に対して大きな影響を及ぼす.そして何よりも,青壮年が社会参加を通じて得る幸福感,満足感に陰りが生じる.

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糖尿病患者の余命と死因

 2011年に英国ケンブリッジ大学の糖尿病患者の死因に関する82万人のデータが発表されました1).そのなかのグラフ(Box 1)によると60歳の糖尿病患者は男性で4.5年(心血管死2.5年,がん死0.5年,非がん非心血管死1.3年),女性で5.4年(心血管死3.4年,がん死0.3年,非がん非心血管死1.6年)余命は短くなっているようです.これはあくまでも死亡までの年数ですから,合併症によるQOLの低下はこの倍ぐらいの10年ほどかもしれません.60歳日本人の平均余命は男性22.87年,女性28.46年(2009年厚生労働省)ですので,60歳の糖尿病患者では,英国との違いはありますが,男性18年,女性23年が平均余命かもしれません.課題はこの間に,いかにして合併症を起こさずにして,健康な人と変わらない日常生活の質の維持,寿命の確保を行うかです.

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はじめに

 平成19年国民健康・栄養調査によるとわが国の糖尿病患者数は約890万人と推定されているが,その2/3は60歳以上,1/4は75歳以上の高齢者である.高齢者では,加齢に伴うインスリン分泌低下と,身体活動量や筋肉量の低下,体脂肪増加などによるインスリン抵抗性の増大を認め,耐糖能は悪化する.高齢者糖尿病の特徴として,①口渇,多飲,多尿などの高血糖症状が出にくい,②低血糖症状を自覚しにくく,また症状も非典型的であることがある,③動脈硬化性疾患の合併が多く,無症候性の脳梗塞や虚血性心疾患が多い,④糖尿病と関連ない合併症を有する場合が多い,⑤肝臓,腎臓の予備能が低下しており,薬剤の副作用が出やすい,⑥認知機能や日常生活動作(ADL),また,経済的・社会的背景が人によって大きく異なる,⑦家族や介護のサポートを要する場合が多い,などの特徴がある.すなわち,高齢者と一言で言っても,比較的健康な高齢者から,寝たきりに近い虚弱な高齢者まで様々であり,糖尿病治療の目標はそれらの因子を考慮したうえで,一人一人に最適な治療目標を設定する必要がある.以下,高齢発症の糖尿病患者の診察・検査・治療のコツについて述べる.

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はじめに

 高齢糖尿病患者は増加の一途をたどっている.長期の罹病期間を有する患者も多い.罹病期間の長い高齢糖尿病患者では身体的問題,認知・精神的問題,社会的問題で個人差が大きく,さらに,これらの問題が容易に変化しやすい.

 最近は多くの疾患についてガイドラインに基づいた医療が提唱されており,高齢糖尿病患者でも血糖コントロールをどの程度にすべきかを示すガイドラインが提出されている.しかし,高齢糖尿病患者では病態と患者を取り巻く状況に著しい個人差があり,若・壮年者に比べてガイドライン的対応には大きな限界がある.すなわち,患者をマスとしてとらえることはほどほどにして,できるだけ個人として対応することが強く望まれる.

 また,罹病期間の長い高齢糖尿病患者では糖尿病とその合併症以外に併発疾患も多く,糖尿病以外の疾患にも注意すべきで,その意味で,高齢糖尿病患者の診療は総合診療であり,変化に対する臨機応変な対応が必要である.

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𠮷岡(司会) 糖尿病という病気は,血糖値が高いという断面を診断していますけれども,実際は慢性疾患であるがゆえに,時間軸を組み込んで,医療スタッフと患者さんが対峙していく病気ではないかと考えています.

 きょうは「ライフステージをみつめた糖尿病診療のコツ」というテーマで,糖尿病の臨床に深く携わっておられる3人の先生にお話を伺います.

Perspective●展望

糖尿病治療の個別化 𠮷岡 成人
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 「糖尿病」という多様性に富んだ疾患の治療において血糖の厳格な管理が細小血管障害の発症・進展を抑止するうえで極めて重要であることを科学的に示したのは,1,441人の1型糖尿病患者を対象としたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)です.UKPDS(UK Prospective Diabetes Study)は2型糖尿病患者において薬物による血糖管理の有用性を示した成績ですが,薬物介入を行った群の10年間にわたる平均HbA1c値が7.1%,食事指導のみで糖尿病の症状がなく,空腹時血糖値が15.0 mmol/L(270 mg/dL)未満であれば薬物の介入をしない群(約70%は経過中に薬剤による介入が行われていますが…)のHbA1cが7.9%で,わずか0.8%の差でしかなかったことは糖尿病治療の難しさを浮き彫りにしています.

 血糖のさらなる厳格な管理,HbA1c値6.0%以下を目標として虚血性心疾患の発症・進展の抑止を目指したACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes),ADVANCE(Action in Diabetes and Vascular Disease),VADT(Veterans Affair Diabetes Trial)では,血糖の厳格な管理を目指しても大血管障害は抑止しえないことが確認されました.介入期間が5年程度と短期間であったこと,糖尿病の罹病期間が長く血糖管理が不十分であった糖尿病患者では血糖管理の有用性が低いことなどがその理由としてあげられています.しかし,HbA1c<6.0%を目指した強化療法群では7.0≦HbA1c≦7.9%を目指す標準治療群と比較して総死亡がハザード比(HR)で1.22(95%信頼区間:1.01~1.46),心血管死のハザード比(HR)が1.35(95%信頼区間:1.04~1.76)であったというACCORDの成績は,やみくもに厳格な血糖管理を是とするトレンドに歯止めをかけることになりました.

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 日本における高齢化は世界に類をみないほどのスピードで進行しています.

 日本の人口は2004年の12,784万人をピークに,今後100年間で100年前(明治時代の後半)のレベルにまで減少し,2100年には5,000万人を下回る可能性があるといわれています.その一方で65歳以上の高齢者人口は増え続け,2050年には全人口の40%を超える超高齢化社会に移行すると推定されています.

 社会の高齢化は生活習慣病の増加をもたらし,高血圧症,脂質異常症,糖尿病の患者数は増加の一途をたどっています.外来に通院する糖尿病患者の平均年齢は65歳を超え,高齢者における糖尿病のケアは日常の診療の現場での大きな問題となっています.

 今日は糖尿病と高齢者医学の専門家でいらっしゃる神戸大学の横野浩一教授にお話をお伺いします.

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療 第34回

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当直医からの連絡

 83歳,女性.2型糖尿病にて先生の外来に通院中の方です.昨日17時頃,昼寝から目覚めた際に前胸部の不快感があり,19時に救急外来を受診しました.高血圧症,左室肥大にて循環器内科に通院中で,1年前の心臓CTでは冠動脈に狭窄病変は認めませんでした.心電図では,胸部誘導でのST低下と陰性T波が認められ,受診時にも同様の所見で,変化はありませんでした.ニトロペン®を使用しましたが,胸部症状の変化ははっきりせず,1時間ほど経過をみて帰宅といたしました.次回貴科外来を受診の際に,問題がないかどうかご確認ください.

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インスリン使用患者に対してSGLT2阻害薬は有用か?

山本 弥生・中神 朋子

2型糖尿病治療戦略―この症例の最適治療は?

細井 雅之・上野 宏樹・川崎 勲

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寄稿規定

本誌の編集体制

Journal Clip
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糖尿病診療マスター
10巻5号 (2012年7月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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