日本老年看護学会誌(老年看護学) 12巻1号 (2007年11月)

巻頭言

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 厚生労働省が3年に1回,全国の医療施設に行う患者調査からみると,入院患者の6割,外来患者の4割が65歳以上の高齢者であり,70歳代までは外来受療率が高いが,80歳代になると入院受療率が多くなっている.その原因疾患はわが国の3大死因である悪性新生物,脳血管疾患,心疾患等の生活習慣病が多い.そのほか死因には直接影響しないが,毎日の生活動作を支えている筋骨格系の疾患,眼に関する疾患,口腔に関する疾患に罹患している高齢者が多い.このように高齢者は複数の疾患について,医療機関で高度な医療的治療を受けている場合や,在宅または福祉施設で療養生活をしている者が多い.

 加齢に疾病が加わると不可逆的に生理的・身体的機能の低下がおこり,さらに精神的・社会的機能の低下をもたらすことから,高齢者ケアには,疾病の悪化予防に加えて,生活の自立と残存機能の活用が求められる.そのため高齢者ケアには多くの保健医療福祉の専門職との協働,つまりチーム医療・チームケアが求められる.

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 本研究の目的は,介護老人保健施設入居中の認知症高齢者のagitationと周囲の騒音レベルの実態およびagitationに関連する要因を明らかにすることであった.ストレス刺激閾値漸減モデルに基づき,18名の認知症高齢者を対象にその周囲で騒音レベルを測定し,CMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)日本語版を用い,agitationの有無を2日間観察した.ロジスティック回帰分析の結果,騒音レベルが高いこと,時間帯では午前と比較して午後(特に15 : 00〜17 : 59)であること,HDS-Rが7点以下であること,重度難聴に比較し軽度難聴であることと,agitationが観察されたことに有意な関連があった.したがって,agitationに対し時間帯や騒音レベルを考慮した環境調整からのアプローチが有効である可能性が示唆された.

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 本研究は,誤嚥性肺炎の予防が必要な要介護者に対する訪問看護師の支援を明らかにすることを目的とした.対象者は,訪問看護ステーションに働く13名の看護師である.研究方法は,誤嚥性肺炎の予防が必要な要介護者への看護実践に関して半構造化面接をし,グラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に質的に分析した.その結果,訪問看護師の支援は,《肺炎発症リスクの管理》《望む生活の最大化》《予防ケアの継続》を統合した支援であった.すなわち,看護師は,《肺炎発症リスクを細心に管理する》ことを土台にし,同時に,《要介護者が望む生活を最大化する》ことをしつつ,《予防ケアを簡便化し継続性を高める》よう《最適な支援方法を探し出す》支援を行っていた.効果的な予防支援のためには,支援の柔軟性と肺炎発症リスクの的確なアセスメントの重要性が示唆された.

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 本研究の目的は,①せん妄発生因子を患者へのケア実践過程にしたがって構造化し,②その発生因子とせん妄発症との関連を明らかにすることである.せん妄発生因子は,【背景・準備因子】【身体・治療因子】【患者因子】【周辺因子】の4領域102項目と,薬剤104種類について,せん妄発症との関連を検証した.研究の場は一般病院1施設の,産科,小児科,脳神経外科病棟を除く7病棟であり,2005年1〜3月の3か月間に,基点となる週から2週間ごとに等間隔時系列データ収集法を用いて,6クールのデータ収集を行い,75歳以上の入院患者の全数を調査した.

 その結果,対象はのべ461名得られ,DRS─Nによってせん妄発症の有無を判定したところ,せん妄発生群96名(DRS─N平均得点16.16点),非せん妄発生群365名(2.44点)となった(発症率20.8%,t=37.687,p=.000).【背景・準備因子】では,「年齢」「入院ルート」「認知症または認知障害」「脳血管障害」「せん妄の既往」の5項目で両群に有意差が認められ,【身体因子・治療因子】で,身体因子の「せん妄を起こしやすい薬物の投与数」「高血圧の既往」「脳血管疾患の既往」「消化器疾患の既往」「感染症徴候(CRP,発熱)」「低血糖/高血糖」「肝機能障害(LDH)」の7項目,治療因子の「緊急手術」「緊急入院」の2項目に有意な差があった.【患者因子】では,日常生活変化の「睡眠障害(夜間不眠,昼夜逆転)」「排尿トラブル(尿失禁,おむつ使用)」「排便トラブル(下痢)」「脱水徴候」「低酸素血症(O2 sat)」「ライン本数」「可動制限(生活自由度)」「視覚障害(眼鏡使用)」の8項目,【周辺因子】では,物理的環境の「部屋移動」,物理的環境への認識/反応の「日にちの確認(カレンダーで確認)」「時間の確認(時計で確認)」「点滴瓶やルートが気になる」の4項目に有意差を認めた.

 今回抽出できた因子は,せん妄の発症リスクの判断指標となりうるもの,あるいは看護介入によって発症を予防できる可能性をもつものであり,看護職が日々のケアの中で介入可能なものに対して介入方法とその効果を明確にしていくことが今後必要であると考えられた.

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 本研究は,認知症の症状発現から診断されるまでの高齢者の家族の体験を明らかにすることを目的とした.訪問看護ステーションを利用している認知症と診断された高齢者と同居し,介護している家族3名に,半構成面接を行い質的記述的研究方法を用いて分析を行った.分析の結果,認知症の症状発現から診断されるまでの高齢者の家族の体験は,≪以前の高齢者との比較で認知症の症状に気づく≫≪診断までの手はずを整える≫≪高齢者の自尊心を傷つけないよう配慮する≫≪第三者から理解されたい≫≪高齢者の変化に戸惑う≫≪高齢者の気持ちに寄り添いたい≫≪自らの役割を再認識する≫≪自分の存在する意味の喪失に対する不安≫≪高齢者の症状にあった介護方法を模索する≫という9つのカテゴリーに分類され,カテゴリーの関連性を図式化した.

 今後は,社会や家庭内から孤立しがちな認知症発症初期の高齢者家族の思いを傾聴し,できるだけ早期に受診ができるような地域ケアシステムの構築が求められる.また,家族には認知症高齢者の生き方を反映した具体的な関わり方の提示や,介護者としてのロールモデルの存在が重要であると考えられる.

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 A県の全特養66施設の看護職を対象に,質問紙を用いた面接または自記式質問紙調査を行い,「特別養護老人ホームにおける看護職としての活動を通じてのやりがい」について尋ねた.102名の看護職から回答が得られ,大分類として【ケアによって入所者・家族の状態が維持・改善できること】【入所者・家族に喜んでもらえること】【頼りにされること】【看護職として判断し,ケアできること】【入所者1人ひとりの生活を支えるケアができること】【入所者の人生の最期に携わることができること】【他職種・他施設と協働して生活を支えること】【高齢者と関わることによる自己の変化を感じること】の8つに分類された.また,これらはケアをする過程,ケアの結果として得られた反応を受け取る過程,ケアを通して自分自身の変化を認識する過程における「やりがい」として構造化され,「やりがい」を見出す過程には,看護活動の振り返りが重要であると捉えられた.

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 本研究では,認知症高齢者を介護する高齢介護者の介護困難への対処様式を明らかにすることを目的とした.認知症高齢者を介護する65歳以上の高齢介護者13名を研究参加者として,半構成的面接調査を行い,対処様式について質的帰納的に分析した.その結果,高齢介護者の対処様式として【内的統制】【自己表出】【方略の探索・選定】【課題との調和】の4カテゴリーと16のサブカテゴリーが見出された.【内的統制】のサブカテゴリーである<責任強化>と<忍耐>,【方略の探索・選定】の<解決努力>に含まれる介護経験の活用や予防的対処,および問題回避型対処である<攻撃>と<逃避>,【課題との調和】のサブカテゴリーである<受容>は,認知症介護をする高齢介護者に特徴的な対処様式と考えられる.今後は,本研究で見出された対処様式を具体的表現にあらため,介護者の対処様式と精神的健康等との関連を明らかにしていく必要がある.

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 本研究の目的は,熟練看護師が床上でのおむつ交換の場面で行っている関わりを明らかにすることである.6名の熟練看護師のおむつ交換場面の参加観察とそのときの思いや目的,意図についての面接調査を行い,質的帰納的に分析した.その結果【患者との人間的な関係を保持しようとする関わり】【患者の安全を守ろうとする関わり】【おむつ交換時に患者に不快な感情をもたせないようにする関わり】【患者の不安を解消しようとする関わり】【おむつ交換後に快適に過ごせるようにする関わり】【おむつ交換場面で快適さを提供しようとする関わり】【患者の反応や動きを引き出そうとする関わり】【おむつ交換場面での接触の意味を広げようとする関わり】【患者の状態をアセスメントしようとする関わり】【看護師が自分のケアを評価しようとする関わり】【患者に注目して落ち着いて援助を行える雰囲気をつくろうとする関わり】【患者・援助者双方にとっての安楽を目指そうとする関わり】【患者に必要なケアを継続させようとする関わり】の13の関わりが明らかになった.熟練看護師の関わりはおむつ交換場面でのあらゆる面に焦点を当て,高齢者が抱えるリスクを予防し対処しかつ管理的視点をもった関わりであり,日常生活援助場面で発揮される看護援助の専門性の一端が示唆された.

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 本研究では,在宅における認知症高齢者の家族介護者の医療に関するニーズを明らかにするために,在宅認知症高齢者の家族介護者の医療ニーズに着目し,その因子構造を構築し医療ニーズ測定尺度を開発すると同時に,その尺度の信頼性と妥当性の検討を行った.解析の結果,「日常生活関連ニーズ」「医学的知識のもとの観察ニーズ」「介護者の安心感ニーズ」を一次因子,「医療ニーズ」を二次因子とする二次因子モデルのデータへの適合度はχ2(df)=1.796,GFIが0.959,AGFIが0.937,CFIが0.975,RMSEAが0.048であった.パス係数はいずれも統計学的に有意な水準であった.また,内部一貫性を示すクロンバックのα信頼係数は,0.894であった.3因子12項目からなる在宅認知症高齢者の家族介護者の医療ニーズ尺度を構築でき,構成概念妥当性ならびに信頼性を備えていることを確認した.

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 本研究は,関節リウマチとともに生きる地域高齢者の健康観を明らかにすることを目的とした.倫理的配慮を行ったうえで,現在地域で療養生活を送っている65歳以上の高齢関節リウマチ患者14名に対し半構成的面接を実施し,エスノグラフィーの手法を用いて質的帰納的に分析を行った.

 その結果,関節リウマチとともに生きる地域高齢者の健康観のテーマは『今の自分を大事に生きる』であった.健康観を示すカテゴリーとして,【この状態がいつまで続いてくれるか分からない】,【今の自分はまだ幸せな方】,【どうにもできないことはもう仕方ない】,【今できていることを大事にしたい】,【自分の基準でやっていく】の5つを抽出した.

 本研究の結果より,高齢リウマチ患者が自己の現状を肯定的に捉えることを支え,患者が独自に有する生活の基準を理解し援助していくことで,健康への主体性を引き出していく看護援助の必要性が示唆された.

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 介護老人福祉施設を“終の住処”としている後期高齢者の現在の生活に対する思いを明らかにすることを目的とし,意思疎通が可能で入所後半年以上経過している14名にインタビューを行った.得られたデータをKJ法で分析し,以下の結果を得た.①家族に対し【故郷で家族と一緒に暮らしたい】が【家族のお荷物にはなりたくない】という,自己の欲求と家族への気遣いの相反する思いを抱いており,この思いのギャップを埋めるように【私は私,家族は家族】という思いを抱いていた.②施設生活に対し【施設生活ならではの安心感がある】が【受け身でしかない施設の生活は意に沿わない】と,相反する思いを抱いていた.③現在の生活に対し【すべてをのみこんで生活している】が【やっぱり寂しい】という思いを抱きながら生活していた.高齢者はすべてを納得しているように見えても,本心を抑えて寂しさとともに生活しており,この思いを念頭に置いたその人らしい現実の意味づけへの関わりの重要性が示唆された.

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 終末期を介護老人福祉施設で暮らす後期高齢者のQOLとその関連要因について明らかにするため,Y県下の介護老人福祉施設26か所に暮らし,施設で最期を迎えることを本人または家族が了解している後期高齢者210名にアンケート調査を行った.分析対象者192名の結果は以下のとおりである.基本属性は,平均年齢86.1±6.2歳,平均介護度2.4±1.1,平均入所期間3年8か月±4.1か月であった.「生きることは大変厳しい」や「年をとって前より役に立たなくなった」と感じている者が先行研究に比べ高率であったが,「家族・友人などの面会」,中でも子どもの面会時に,生きがい・喜び・生活の張りを強く感じている者が多く,家族は高齢者のQOLに大きく関与していた.一方,同僚やスタッフとのつきあいのQOLへの関与は少なかった.また,不安低群および主観的健康感高群,支援者がいる者,他者にサポートを提供している者および90〜100歳の超高齢群で生活満足度が高かった.なお,先行研究でQOLとの高い関連性が報告されている活動能力との関連はなかった.

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 目的:A県にあるすべての特別養護老人ホーム(特養)50施設の入所後1〜12か月の高齢者の主家族介護者を対象にして,QOLを身体的および精神的側面から把握し,関連要因を明らかにすることを目的とした.

 方法:研究協力の得られた特養22施設の家族介護者137人を対象者として,QOLを測定するSF-36を含む家族介護者および高齢者の健康状況に関する質問で構成した調査票を用いて,郵送法で自記式調査を行った.関連要因の検討は年齢を調整した共分散分析によって行った.

 結果:80人(58.4%)から回答が得られ,SF-36のすべての項目に回答した男性24人および女性47人,計71人(51.8%),平均年齢61.3(±11.7)歳を解析対象とした.特養入所高齢者の家族介護者の身体的,精神的健康のQOLは,国民標準値と比べて低く,先行研究で報告された在宅の家族介護者に比べると高かった.低いQOLは介護者が女性,高齢,通院中,無職,同居,および高齢者が男性と関連していた.

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 本研究は,要介護高齢者の睡眠・覚醒パターンに対するアクティビティケアの効果を検証することを目的に実施した.Y県にある介護療養型医療施設に入院していた高齢者9名(男性5名,女性4名,年齢78.0±9.1歳)を対象に,看護・介護職員が記録した睡眠日誌から30日間の睡眠・覚醒パターンの実態を把握し,続く36日間には対象者の過去の趣味や好きな活動などを考慮して立案したアクティビティケアプログラムによる介入を行い,初めの30日と同様に睡眠・覚醒パターンを記録した.介入前のコントロール期と比較して,介入期では総睡眠時間の増加が認められ,また個人別に検討したところでも,総睡眠時間の増加や夜間中途覚醒時間の減少など,アクティビティケアへの参加が睡眠に望ましい効果を及ぼしたと思われる事例が2名あった.本研究の結果,アクティビティケアへの参加が要介護高齢者の睡眠・覚醒パターンに望ましい影響を及ぼすことが示唆された.

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 高齢者の健康の特質を看護実践事例に適用し,高齢者の健康の特質と要素を,慢性病の増悪で入院中の高齢患者2事例への看護実践事例から分析した.その結果,2事例とも看護援助の過程前半では安定性としての健康,後半では実現性または全体性としての健康が特徴づけられた.安定性としての健康の要素には,《身体機能の回復と安定》《身体状態の維持・回復のための自己調整》《主体的な日常生活の維持》《社会とのつながりの維持》《安寧をもたらす夫婦関係》《自己の状況を見極める》《自尊感情の回復》,実現性としての健康の要素には,《創造的に生活する》《努力の実りの実感》《目標の明確化》《他者(看護者)に対する自己解放》《喜びの表出》,全体性としての健康の要素には,《感情の表出》《他者(看護者)との対話関係》《療養生活と生きる意味の一致》《安寧な気持ち》が抽出された.高齢者の健康の特質と,特質ごとに見出された要素の特徴を看護者が意識的に活用することにより,高齢者にとってのよりよい健康を支援することにつながることが示唆された.

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 地域在住高齢者に対するインフルエンザワクチン接種率の向上を図る目的で,2006年11月から2007年1月の間に,F県K市内の4小学校区の集会場で,高齢者を対象に,インフルエンザと予防接種に関する講演を行い,講演後に無記名の自記式質問票による調査を行った.質問票を配布した223名のうち,有効回答200名(男性38名,女性162名)を解析対象とした.92名(47.2%)は「現在治療中の病気がある」と回答し,149名(76.0%)は「身体は丈夫な方だ」と回答した.今シーズンのワクチン接種者(含接種予定者)は,昨シーズンのワクチン接種状況と有意な正の関連が認められ(82.3% vs. 45.9%,p<0.01),接種しない理由を自由記載からみると,「副反応に対する不安」のほか,「自分は罹る恐れがない,健康に自信がある」といった健康への過信と思える認識があった.高齢者はインフルエンザのハイリスク者であるため,ワクチンに対する正しい知識を与えることで,副反応に対する不安を取り除き,ワクチン接種の利益を理解してもらうことがさらに必要と考えられた.

基本情報

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日本老年看護学会誌(老年看護学)
12巻1号 (2007年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1346-9665 日本老年看護学会

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