JIM 4巻5号 (1994年5月)

特集 スポーツ医学を外来で役立てる

Editorial

  • 文献概要を表示

 「常に歩き,常に働くは,養性なるべし.なんぞいたづらに休みをらん.」とは,鴨長明が『方丈記』に記した一文である.それから780年後の現在,身体活動に費やすカロリーが一定以上の者では,冠状動脈疾患,高脂血症,高血圧,肥満,インスリン非依存性糖尿病(NIDDM),骨粗鬆症などの発症率が低く,しかも心理面での健康感が勝ることが証明されている.これらのうち,最も早期に研究対象となった冠状動脈疾患に関して,身体活動が真に有益であることを疫学的手法を用いて最初に証明した研究は,つい最近(40年前)のものである1).以後今日まで,身体活動と疾病に関する知見は分子生物学的レベルから疫学的レベルまで急速に増え続け,generalistが理解することを期待されている事項だけでもかなりの数に上る2)

 さて,スポーツ医学(sports medicine)を論ずるに当たって,上記で言うような身体活動(physical activity)と運動(exercise)との概念上の相違点を明確にしておこう.

Key Articles 丸山 浩一
  • 文献概要を表示

 ここ数年,多くのスポーツ医学書が発刊されており,その中から比較的外来診療に役立つような書籍を取り上げる.

スポーツ医学の基礎知識

  • 文献概要を表示

 ■運動は1種のストレッサー(からだにストレスを与えるもの)であり,適切に与えられる必要がある.

 ■年齢によって運動刺激による生体反応は一様ではない.

 ■健康維持には各年齢層に見合ったスポーツが推奨され,心拍数がその目安となる.

 ■スポーツの種類には瞬発性と持久性を特徴とするものがあり,そのエネルギーはそれぞれ無酸素的および有酸素的に供給される.

 ■各年齢層でスポーツにおける心理的活動が異なる.

予防医療とスポーツ 岡田 邦夫
  • 文献概要を表示

 ■運動指導の第一歩は患者の生活状況を把握し,より活動的な生活を指導する.

 ■積極的な運動指導には患者個別要因を十分勘案した運動処方箋を作成する.

  • 文献概要を表示

 ■「安全で効果的な運動とは?そのシステムとは?」の段階から「健康運動を継続させるためには?」の段階に研究課題を広げなければならない.それは「地域の医療システム」という視点よりはむしろ「地域健康管理システムの確立」という視点に立つことが必要である.

  • 文献概要を表示

 ■痛みは障害発生の警報である.

 ■医師は障害による後遺症などを恐れるあまり,スポーツを全面的に禁止してはならない.

 ■こどもの身体的特徴を知る.

働き盛りのスポーツ障害 河野 一郎
  • 文献概要を表示

 ■働き盛りのスポーツ障害のうち最も問題となるものは,突然死の原因ともなる冠動脈疾患である.

 ■冠動脈疾患をターゲットにしたメディカルチェック,特に運動負荷試験は必要であり,その結果を適切にフィードバックしていくことが大切である.

 ■働き盛りの年齢層で問題となる循環器系以外のスポーツ障害も多い.その内訳は多彩であり,活動中に発症するもの,スポーツマンに多いもの,そして一般的な疾病とに分けて取り組むと実際的である.

  • 文献概要を表示

 ■高齢者といえどもスポーツをすることによって体力を増強することができる.それによりQOLを向上させ,自己にとっては快適な人生を楽しめるようになるばかりでなく,労働力維持ということで社会には貢献となることは事実である.しかし,それが直接に生命の延長に繋がっているという確かな証拠はまだ得られていない.

  • 文献概要を表示

 ■激しく恒常的な運動をする女子では,月経周期の異常(月経不順)や無月経が少なくない.

 ■運動性無月経を予防するためには,過度な競争,体重減少,過度なトレーニングを避けるとよい.

 ■運動性無月経に至ったら原因を除去し,積極的なホルモン療法を行うとよい.

  • 文献概要を表示

 ■スポーツ外傷・障害(J1)の診断には触診による圧痛部位が重要である.

 ■治療方針を決める時に選手の性別,年齢,学年,職業,スポーツ種目,ポジション,スポーツレベル,試合日程などを考慮する.

 ■外傷の治療はレベルの高い競技スポーツ選手は手術療法,レクリエーションスポーツは保存療法を選択することが多い.

 ■障害の治療は練習量の調節と練習方法の変更が大切である.

スポーツ医学のスキル

  • 文献概要を表示

 ■運動処方を遂行する際には,薬剤による処方と同様の考え方によって進める.

 ■運動を受ける者に対しては,個々の体力を心身ともにメディカル・チェックによって十分に把握し,疾病や危険因子の確認を行い,その状況に対応した運動メニューが与えられるように配慮する.メニューの内容については,個々に適合した有酸素性の運動を漸増的に進めさせる.

 ■運動指導がなされた後には必ずその効果を判定し,運動処方の改変と運動の功罪の検討を十分に行う.

 ■運動による事故の予防には最大の注意を施す.

  • 文献概要を表示

 ■他の選手の保護のため出血したままでプレーを継続することは許されない.

 ■四肢の外傷の救急治療の原則は"RICE (rest, ice, compression, elevation)".

 ■意識障害患者の鑑別診断に頸髄損傷も考える.

テーピングの実際 武藤 幸政
  • 文献概要を表示

 ■テーピングの目的:予防・再発予防・救急処置・機能回復と運動フォームの矯正.

 ■テーピングの役割:主として解剖学上のストレス部分を抑制するテープは,人工の筋肉,筋膜,腱および靱帯の4つの役割をしていると同時に,外膜あるいは軟部組織の補助とみなされる.

 ■テーピングは,解剖学的(その部分を正常位に保持し,軟部組織を支持),生理学的な身体的特性および運動機能上の特性の正しい知識を持って適切に行えば,非常に良い効果が得られる.

スポーツ医学の現在

  • 文献概要を表示

 ■医師は相談に来た身体障害者を十分評価し,適切な運動処方と指導を行うことが望まれる.

  • 文献概要を表示

 ■フィットネスクラブと医療機関が協力することでより大きな効果が期待できる.医学的効果と利用者の満足をどのように両立させるかが課題である.

  • 文献概要を表示

 ■スポーツ医制度が発足し各種の運動指導員の資格認定制度が開始されている.

 ■スポーツ医と各種運動指導員が協力して国民の体力や健康の維持・増進,競技力向上,リハビリテーションに寄与することが重要である.

  • 文献概要を表示

 ■今月のGrand Roundsは,一般医がよく出会うスポーツ選手の不整脈の症例2例を討論したあと,スポーツと栄養の最近のトピックスを取り上げて,現状と問題点を浮き彫りにします.

忘れられない患者さんに学ぶ

臨床診断の原点 三国 主税
  • 文献概要を表示

 私は,現在血液内科,特に白血病・悪性リンパ腫などの診療を専門としているが,大学医学部の非常勤講師も兼ね,年に1回学生の講義を受け持って,白血病の診断に細胞化学,電顕細胞形態,表面マーカー,染色体,遺伝子解析などの所見を加えて講義をしている.その講義の最後に次のような話をして具体的症例を1例挙げる.耳鼻科医で,戦争にも参加した大先輩から「自分の五感と手足を使って診断・治療するのが医師のprofessionとしての原点であり,データや画像のみで診断するのなら,中学生や技師でもできる」と言われたこと,さらに当時の教授からは「この医局の伝統はGuter Klinishan (独語で良き臨床医)をつくることにある」と言われたことなどを話して下記の症例を例示する.

 今から28年前の患者で,43歳の男性が単に咽が痛むとかぜ様症状を訴えて来院した.2年先輩の同門の今は亡き方で,医局の良き臨床医たれを忠実に守って診療していた医師が診察し,頭から足先まで型どおりの打・聴・触診をして,「どうも脾臓が1横指触れるから単なる感冒ではないから調べて下さい」と私に回した.白血球数は17,200/mm3と増加しており,慢性骨髄性白血病か反応性白血球増多症かを鑑別する必要があり,それには白血球のアルカリホスファターゼ染色値とPh1染色体の有無を検査しなければならない.その当時は染色体検査は一般ではなされておらず,北海道大学理学部染色体研究室の牧野佐二郎教授に頼んで検査してもらった.

総合外来

医者と患者は相性のもの 高見 茂人
  • 文献概要を表示

 ■臨床の場にあって,医者と患者の信頼関係が重要なことは論を待たない.患者の不満の最たるものは,「よく説明してくれない」ことだという.今日,「インフォームド・コンセント」(説明と同意)が,「ムンテラ」に代わって叫ばれる所以でもある.しかし,普遍的な意味での「名医」というものが存在するのであろうか.患者は十人十色,また医師とて人の子であり,お互いに相性が合わないこともあろう.

総合外来 当直医読本

  • 文献概要を表示

 ■国内外を問わず,スポーツにおける内科系死因の第1位は心循環器障害で,次が高温障害である.また運動種目別死因の第1位はマラソン・ジョギングである1).高温度環境下で起こる熱疲労,熱けいれん,熱射病を総称して熱中症という.熱射病はこれらの中で最も重症で,過高熱のため種々の臓器障害を伴う.

 ■暑熱下マラソンになったバルセロナオリンピックでは,多数の熱中症を出している.クラブ活動の夏合宿でよく行われている「しごき」の持久走は,学生や生徒に熱中症の危険を与えていることもある.

総合外来 こどものみかた

乳幼児の尿路感染症 原 朋邦
  • 文献概要を表示

 ■尿路感染症の患者のケアは感染の診断に始まるが,感染部位に上部尿路を含むか,尿流障害を伴うかの診断が重要である.乳幼児では,症状から尿路診断を診断することは難しく,常に念頭に置いて診療にあたらねばならない.

  • 文献概要を表示

症例

 患者 51歳,女.

 主訴 全身倦怠感.

リアルタイムの内科診療・9

救急当直の一夜 三島 信彦
  • 文献概要を表示

 一刻を争う救命救急の場とは,心臓が動くか,呼吸できるか,出血が止まるかの,ひたすら解剖生理学だけが課題である戦場である.心臓が動き呼吸し止血することの価値と意義は別の領域にある,そこは患者の王国.

  • 文献概要を表示

 入院を要した市中細菌性肺炎98例についてPCG (Penicillin G,ペニシリンG)の有効性を検討し,次の成績を得た.1)肺炎球菌が起炎菌である割合は全体で38.8%,健常成人30例では53.3%であった.2) PCGは第1選択抗生物質として全症例の44.9%,健常成人例では66.7%に使用されていた.3) PCGの有効率は全体で90.9%,治療開始時に起炎菌が推定できた場合には96.4%であった.

JIM Report

末期医療からの出発 鈴木 滿
  • 文献概要を表示

 医者になって2年目の時,キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』を読んで,感動した覚えがあります.しかし私自身が主治医として死に行く人に向かい合えるようになるまで,10年かかりました.

末期医療(ターミナル・ケア)は特別な医療ではない,ということを最初に言っておきたいと思います.医学の方法は一貫して同じはずです.末期癌患者に対してだけ,思いやりを持って接して,それ以外の時は患者の気持ちに全く無関心―というのではおかしいでしょう?

基本情報

0917138X.4.5.jpg
JIM
4巻5号 (1994年5月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

継続誌

文献閲覧数ランキング(
10月11日~10月17日
)