忘れられない患者さんに学ぶ
臨床診断の原点
三国 主税
1
1国立札幌病院
pp.391
発行日 1994年5月15日
Published Date 1994/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414901164
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私は,現在血液内科,特に白血病・悪性リンパ腫などの診療を専門としているが,大学医学部の非常勤講師も兼ね,年に1回学生の講義を受け持って,白血病の診断に細胞化学,電顕細胞形態,表面マーカー,染色体,遺伝子解析などの所見を加えて講義をしている.その講義の最後に次のような話をして具体的症例を1例挙げる.耳鼻科医で,戦争にも参加した大先輩から「自分の五感と手足を使って診断・治療するのが医師のprofessionとしての原点であり,データや画像のみで診断するのなら,中学生や技師でもできる」と言われたこと,さらに当時の教授からは「この医局の伝統はGuter Klinishan (独語で良き臨床医)をつくることにある」と言われたことなどを話して下記の症例を例示する.
今から28年前の患者で,43歳の男性が単に咽が痛むとかぜ様症状を訴えて来院した.2年先輩の同門の今は亡き方で,医局の良き臨床医たれを忠実に守って診療していた医師が診察し,頭から足先まで型どおりの打・聴・触診をして,「どうも脾臓が1横指触れるから単なる感冒ではないから調べて下さい」と私に回した.白血球数は17,200/mm3と増加しており,慢性骨髄性白血病か反応性白血球増多症かを鑑別する必要があり,それには白血球のアルカリホスファターゼ染色値とPh1染色体の有無を検査しなければならない.その当時は染色体検査は一般ではなされておらず,北海道大学理学部染色体研究室の牧野佐二郎教授に頼んで検査してもらった.
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