JIM 15巻7号 (2005年7月)

特集 一般診療の薬 Essential Medicine 80

  • 文献概要を表示

薬の飲み方

 薬の用法については,わかっているようで理解されていないことも多い.たとえば「食後」と書いてあるのは食後30分ぐらいを目処に飲むことなのだが,通常は食事のすぐあとで食後のお茶と一緒に飲むことが多いかもしれない.「食間」は食事と食事の間の空腹時を指すが,食間でなければならないのはジダノシンなどごく一部の薬剤だけである.多くの漢方薬は食前あるいは食間となっているが,薬剤の効き目がマイルドで効果を強く出したいところからきているようである.

 食事によって薬剤の吸収が悪くなるとは限らない.イトラコナゾール(R)(イトリゾール)は,空腹時に服用すると食直後の服用と比べて最高血中濃度が40%しか上昇しないことも知られている.空腹時は胃の蠕動運動が低下しているため,胃からの排出時間が延びる.腸から吸収される薬剤は作用開始までの時間が延長することがある.

循環器薬 五十嵐 正男
  • 文献概要を表示

【Ca拮抗薬】

ノルバスク(R)(ベシル酸アムロジピン)

■症例

 42歳の男性.前日仕事中に頭がふらふらしたので,医務室で血圧を測ってもらったら180/110 mmHgあったと訴え,来院した.来院時血圧は160/94 mmHg,身体所見にとくに異常はなく,眼底でも異常はなかった.心電図は正常.訴えと不安感が強いため,その日よりノルバスクR2.5 mg/dを処方した.それ以後,頭重感はとれ,2週間ごとの来院時にも血圧は140/86 mmHg前後で安定している.

■通常の使い方

 高血圧には2.5~5 mgを1日1回,狭心症には5 mgを1日1回投与する.

  • 文献概要を表示

【超短時間作用型睡眠薬】

ハルシオン(R)(トリアゾラム)

■症例

 45歳の男性.以前より時折不眠を自覚していた.半年前に妻が死亡し,それ以来なかなか入眠できず,入眠までに2~3時間かかるようになっていた.ハルシオン(R)0.25 mgを眠前に投与開始され,寝付きがよくなり,すっきりと目が覚めるようになった.

■通常の使い方

 0.125~0.25 mgを眠前に投与する.

鎮痛薬 後明 郁男
  • 文献概要を表示

【NSAIDs(non-steroidal anti-inflammatory drugs)】

ボルタレン(R)(ジクロフェナクナトリウム)

■症例①

 22歳の男性.生来健康.体重60 kg.自動二輪車で走行中に転倒し,右鎖骨を骨折.即日,入院のうえ,翌日に全身麻酔下で固定術を受けた.術後の痛みの訴えに対し,ボルタレン(R)サポ50 mgを直腸内投与したところ,30分後くらいから痛みが和らぎ,数時間以上にわたり良好な鎮痛を得た.1日2回,術後2日間使用した.

■症例②

 35歳の女性.月経困難症で,月経時に一致して数日間,軽作業も困難な強い腰痛がある.月経時にボルタレン(R)25 mg錠を1回2錠(50 mg)で1日2回まで,とくに痛みが強い時に頓服することで,日常生活に支障のない程度の鎮痛状態を得ている.なお,ボルタレン(R)錠の服薬期間が数日に及ぶので,胃粘膜保護薬を併用している.

■通常の使い方

 通常,成人には,変形性関節症や腰痛などで連用する時は,25 mg錠を1日3~4錠を,原則として毎食後に分服する.頓用の場合は1回2錠を1日2回まで用いるか,坐薬(サポ12.5 mg,25 mg,50 mg)を1日1~2回挿肛する.1~2日の短期間では胃粘膜保護薬の併用は必要ないが,それ以上の期間の連用では,ミソプロストールなどの胃粘膜保護薬を併用したほうが良い.

  • 文献概要を表示

【整腸薬】

ラックビー(R)(ビフィズス菌)

■症例

 23歳の女性.会社員,事務職.夏の暑い時期に会社の同僚とビアガーデンに行き,生ビールをたくさん飲み,さらにアイスクリームやスイカまで食べた.翌日の朝,軽い腹痛があり,便意を催したのでトイレに行くと水様便が出た.その後も食事をすると,水様または泥状便が出るという状態が2日間続いている.下痢は1日に3~4回で,発熱,全身倦怠感などはない.

■通常の使い方

 1日3~6 gを3回に分服する.

呼吸器・アレルギー薬 亀井 三博
  • 文献概要を表示

【吸入式喘息治療薬】

フルタイド(R)(プロピオン酸フルチカゾン)

■症例

 28歳の男性.小児期からの気管支喘息のため,春秋になると毎朝喘鳴を伴う咳が出る.その時期になると病院へ行き,短時間作動型β刺激薬(サルタノール(R):別項参照)の吸入だけをもらって苦しい時に使っていた.喘息のケアの仕方について説明.フルタイド(R)と長時間作動型β刺激薬吸入(セレベント(R):別項参照)を処方.数日で朝の喘鳴がなくなり,短時間作動型β刺激薬の使用はなくなった.

■通常の使い方

 1回1ブリスターを1日2回.1ブリスター50,100,200μgの製剤がある.成人は100~200μgを使用することが多い.最大1日量800μg.

  • 文献概要を表示

【抗菌薬:ペニシリン系】

パセトシン(R)(アモキシシリン)

■症例

 26歳の女性.3日前より38℃の発熱と高度の咽頭痛にて受診する.咳や鼻汁はなかった.咽頭所見は暗赤色(dirty red)に腫大し,表面には白苔が付着していた.前頸部リンパ節も腫大し圧痛を認める.なお1週間前に,6歳の女児が扁桃炎に罹患していた.そこで咽頭をスワブにて擦過し,拭い液を溶連菌の迅速診断キットにて検査したところ,陽性であった.以上の結果から,A群β溶血性連鎖球菌感染症と診断した.

■通常の使い方

 パセトシン(R)1回250 mgを1日3~4回投与する.通常の扁桃炎では4日間投与でよいが,溶連菌感染では,確実な除菌を目的として7~10日間投与が推奨されている.

その他の薬 伊藤 澄信
  • 文献概要を表示

【カリウム補給剤】

スローケー(R)(塩化カリウム)

■症例

 82歳の男性.高血圧と心胸郭比64%,エジェクションフラクション30%の慢性心不全で10年来通院中.アルダクトンA〓,レニベース〓を基礎薬にし,家族にもお願いして塩分・水分制限をしているが,どうしても下肢に浮腫が出てしまうため,ラシックス(R)80 mg分2を併用している.2カ月に1度は血清Kを測りながら,カリウムの補充をスローケー(R)で行っている.

■通常の使い方

 1回2錠,1日2回.血清Kや併用薬に応じて調節すること.

代謝・内分泌疾患薬

①糖尿病薬 赤井 裕輝
  • 文献概要を表示

【糖尿病薬:スルホニルウレア系】

グリミクロン(R)(グリクラジド)

■症例

 51歳の男性.45歳時の検診で糖尿病を指摘されたが放置していた.51歳で橋梗塞を発症し神経内科に2週間の入院.HbA1c 13.7%,一時インスリン治療したのち食事療法のみで退院し,当科を紹介された.BMI 25.5,HbA1c 13.0%,毎日,缶コーヒー5本,スポーツ飲料5本を飲んでいた.入院できないため,脱水対策に生食を点滴.飲み物をお茶にして,どうしても欲しい時にはポカリスエット ステビア(R)と指導.以後,毎月のHbA1cは11.2,9.8,8.9,8.3,7.7,7.6%と低下した.改善が停止に至り,グリミクロン(R)1/2錠を開始.以後,HbA1cは再び7.2,6.7,6.3%と順調に改善した.その後もコントロール良好である.

■通常の使い方

 グリミクロン(R)ならば20 mgを分1朝食前,40 mgを分1または分2(朝夕)でのコントロールが最適.最大160 mgまで処方可能.

②骨粗鬆症薬・他 井上 大輔
  • 文献概要を表示

【骨粗鬆症治療薬:ビスホスフォネート製剤】

フォサマック(R)

(アレンドロン酸ナトリウム水和物)

■症例

 78歳の女性.若い頃に比べ,身長が7 cm短縮した.1年前に腰痛を主訴に受診.複数の椎体骨折,骨塩量の低下,骨代謝マーカー(J1)である尿中NTX(Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド)の高値がみられ,骨粗鬆症と診断された.以来,フォサマック(R)5 mg分1朝食前30分を内服している.最近の検査では腰椎骨塩量が4%増加,尿中NTXも半分以下に低下していた.

■通常の使い方

 1日1回1錠,朝食30分以上前の空腹時にコップ1杯の水とともに服用する.服用後は少なくとも30分間,立位または臥位を保つ.

Editorial

古い薬と新しい薬 伊藤 澄信
  • 文献概要を表示

今月の特集は,編集委員の診療所にあって使い慣れている薬をリストにし,専門領域の先生方に症例提示を含めて解説していただいた.一般診療所に最低限必要なものだけを集めたので,専門医の管理が必要なパーキンソン病治療薬,統合失調症治療薬,抗癌剤などはすべて省略し,逆に,在宅でターミナルケアに必須のオピオイド,花粉症対策に必要なステロイド点鼻薬を入れた.こうして集めた「一般診療の薬」は比較的昔から使われているものが多く目につく.それでもアンギオテンシン受容体拮抗薬やビスホスフォネート,SERM(骨粗鬆症治療薬)のような新しいクラスのものも出てきている.わが国は経済的な要因で薬の使用を制限することのない幸福な国の1つである.本特集に載せられた薬は効果と安全性を中心に選ばれ,経済的な観点からの選択はしていない.しかし,わが国の医療を取り巻く環境も次第に厳しさを増してきた.医療経済的な視点からみた薬剤選択のあり方などという特集が組まれる時代も来るであろうか.

 新しい医薬品を開発しているのは米国,ヨーロッパ,日本の3極だけである.1991年に始まった日米EU医薬品規制調和国際会議の取り組みは医薬品の世界同時開発へと進みつつある.2003年度産業別技術輸出・輸入統計では医薬品工業は輸出1,359億円,輸入365億円で,自動車工業,電気・情報通信機器産業に次いで第3の技術輸出産業である.もちろん,医薬品産業全体では製品の輸入があるので,輸入が5,136億円で輸出は2,944億円なので入超である.医薬品開発は人類の健康を守ることをめざした生命科学の集約であり,知的財産の塊である.わが国は自国で生産ができないが故に高病原性鳥インフルエンザ治療薬タミフルRの備蓄を余儀なくされたが,医薬品は安全保障の側面さえも持つ.新しい医薬品を開発していくことは技術立国という経済的側面ばかりでなく,人類の健康に寄与する平和的国際貢献への道でもある.

皮膚科医直伝Ⅱ 教科書では教えてくれないコツ[7]

  • 文献概要を表示

「先生!ニキビにいいお薬ありますか?」

 自分の妹か娘のような患者から診察の「ついで」に頼まれる.若者に生じる疾患,それが尋常性痤瘡(ニキビ)である.乳幼児や高齢者には通常生じない.「この医院はニキビを治してくれるよ」というクチコミが広がれば,外来待合室は若い美男美女であふれかえる.まるで原宿の繁華街の雰囲気だ.活気があり,なんだか自分も若返ったような気になる.

 さて,尋常性痤瘡を理解する基本は以下の3つである.

①毛穴の閉塞と皮脂の貯留

②アクネ桿菌の増殖

③炎症システムの悪循環

 思春期にはこの3つが同時に生じる.どれが増悪の火付け役であるか? 諸説ありはっきりしない.アクネ桿菌の増殖だから尋常性痤瘡は感染症か? それは違う.抗生物質を内服してもそれほど改善しない.単に皮脂の毛穴貯留か? それも違う.皮脂を解決できても発赤は引かない.原因がまだはっきりしないし,治療も難渋する.とても奇妙な疾患なのだ.

What's your diagnosis? [31]

  • 文献概要を表示

病歴

 62歳の女性が,下肢のしびれとむくみを主訴に来院した.

 2002年に高血圧と労作時呼吸困難にて近医を受診.その時に眼瞼浮腫と下腿浮腫を指摘されていた.降圧療法と利尿薬にて症状は軽快,浮腫も軽減したため自己中断していた.2003年に入って下肢のしびれが出現,下腿浮腫も増強してきたため精査目的にて入院.入院中に多血症,リンパ節腫脹(生検にて反応性の変化のみ),脾腫,ACTH高値(デキサメタゾン抑制試験,ACTH持続試験にて異常は認めなかった)を指摘されていたが,原因不明として経過観察されていた.2004年12月から,下肢のしびれ(膝から下が左右対称的にしびれる)と浮腫が増悪,労作時呼吸困難と腹部膨満感も伴うようになってきたため,精査目的に入院となった.また,午後になると37.5℃までの発熱を認めている.

 既往歴:1996年に子宮体癌にて子宮全摘術,その後1年間術後の化学療法を施行.薬剤使用歴:2003年よりプレドニゾロン 5 mg内服中,その他,ループ利尿薬・ARBを内服中.嗜好:喫煙10本/日×40年,アルコールなし.

診断推論研究の最前線[4]

臨床経験と診断推論能力 大西 弘高
  • 文献概要を表示

【Case】

 小野さんは,上越大医学部の6年生.診療所を1人で切り盛りしてきたお父さんと同じように,地域に密着した医療を実現したいと意欲に燃えています.ただ,一度見学した父の診断推論過程は初診患者さんに対して「決めうち」しているようにみえ,今ひとつ納得がいきませんでした.今日も,土曜午前の忙しい外来を見学することにしました.注目したのは,53歳の女性,石原さんとのやり取りでした.

石原 昨日の夜中から,強い腹痛に襲われました.胃の少し右あたりで,ぐーっという感じの強い痛みでした.こんなことは初めてです.少し熱っぽい感じもします.

小野(父) そうか,そりゃ大変だったねえ(看護師からのメモで体温38.1℃の情報にも目をやる).ちょっと眼をみせて.う~ん,ちょっと黄疸があるようだね.

石原 えっ,黄疸.何の病気なんでしょう.

プライマリ・ケアのリスクマネジメント[11]

高齢者の便秘 長野 展久
  • 文献概要を表示

 便秘は日常診療でしばしば遭遇する病態です.そのほとんどが,生命を脅かしたり日常生活に大きな不都合を生じたりするものではないため,生活指導や薬物療法などによって,ある程度までコントロールが可能です.しかしながら,便秘と強い腹痛を主訴として救急外来を受診するような症例もあり,背後に重篤な病態が潜んでいないかどうかを慎重に見極めつつ,便秘というありふれた症状であっても,的確な診断・治療を心がけることが重要です.

 今回は,便秘と下血を主訴として外来受診した高齢者の症例を呈示します.便秘といえども,とくに高齢者の場合には決して,油断してはいけないことを,ぜひとも再認識していただきたいと思います.

患者の論理・医者の論理[26・最終回]

愛のシステム 尾藤 誠司
  • 文献概要を表示

原稿を書きながら外を見ると,桜の木がきれいなピンク色に染まっている.私は桜のことは詳しくないが,この春先,町にピンク色の景色が出現したら,それを桜であると認識することは至極当然の日本人の感覚であろう.もう少し早ければそれは梅として認識されるかもしれない.夏であれば「桜に似た何らかの木に咲く花」,もしくは「桜モドキ」もしくは「桜の看板」と認識したかもしれない.私が,外に出現したピンクを桜であると認識しえたことには,私がこれまで生きてきた経験とともに,日本での生活を通して得た共通の情報を根拠としているのだなあ,と.ここで,ソメイヨシノは実はバラ科の植物なのだよというようなトリビアは,私が桜に関して感じる何かについてそれなりの影響を与えるかもしれないが,なんとなくそんなことは知らなくてもいいことだな,とも思う.

 本当に早いもので,この連載を始めてもう2年以上の月日が経ってしまった.最初から最後までなんとなく歯切れの悪い連載だったと思う.これもまた,とても医者らしい.医者という生き物は,自然科学を前にするととても歯切れよく,雄弁になる.一方,自然科学の範疇を超えたところでは,なんとなく場が悪いスタンス,どっちつかずのスタンスになってしまう.われわれ医師が医療現場で遭遇するほとんどの事象は,自然科学的なテーゼを超えた関係性の中にあるものにもかかわらず,医師は,そこに万人が共通して納得するような答えを求める生き物であるように思う.その答えに錯覚があるとすれば,その万人は「医師万人」であることがせいぜいであるはずなのに,それを「この世の万人」という錯覚であろう.

となりの総合診療部[7]

筑波大学附属病院総合診療科
  • 文献概要を表示

筑波大学附属病院総合診療科は,2002年に現在の形での診療を開始しました.現在は外来診療のみで病棟診療は行っていませんが,歩いて数分の距離にある筑波メディカルセンター病院総合診療科と緊密な連携をとりながら,教育・診療を行っています.大学病院では主に外来研修・臨床教育の実践を,筑波メディカルセンター病院では外来,ER,病棟診療,緩和ケア,在宅ケアの診療を担当しています.

 研修については,1977年の開院当初から初期2年,後期4年のレジデント養成コース(総合医コース)が設置されており,これまで8名が研修を修了し,現在は院外研修を含めて15名のレジデントが在籍しています.

基本情報

0917138X.15.7.jpg
JIM
15巻7号 (2005年7月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

継続誌

文献閲覧数ランキング(
8月3日~8月9日
)