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今月の特集は,編集委員の診療所にあって使い慣れている薬をリストにし,専門領域の先生方に症例提示を含めて解説していただいた.一般診療所に最低限必要なものだけを集めたので,専門医の管理が必要なパーキンソン病治療薬,統合失調症治療薬,抗癌剤などはすべて省略し,逆に,在宅でターミナルケアに必須のオピオイド,花粉症対策に必要なステロイド点鼻薬を入れた.こうして集めた「一般診療の薬」は比較的昔から使われているものが多く目につく.それでもアンギオテンシン受容体拮抗薬やビスホスフォネート,SERM(骨粗鬆症治療薬)のような新しいクラスのものも出てきている.わが国は経済的な要因で薬の使用を制限することのない幸福な国の1つである.本特集に載せられた薬は効果と安全性を中心に選ばれ,経済的な観点からの選択はしていない.しかし,わが国の医療を取り巻く環境も次第に厳しさを増してきた.医療経済的な視点からみた薬剤選択のあり方などという特集が組まれる時代も来るであろうか.
新しい医薬品を開発しているのは米国,ヨーロッパ,日本の3極だけである.1991年に始まった日米EU医薬品規制調和国際会議の取り組みは医薬品の世界同時開発へと進みつつある.2003年度産業別技術輸出・輸入統計では医薬品工業は輸出1,359億円,輸入365億円で,自動車工業,電気・情報通信機器産業に次いで第3の技術輸出産業である.もちろん,医薬品産業全体では製品の輸入があるので,輸入が5,136億円で輸出は2,944億円なので入超である.医薬品開発は人類の健康を守ることをめざした生命科学の集約であり,知的財産の塊である.わが国は自国で生産ができないが故に高病原性鳥インフルエンザ治療薬タミフルRの備蓄を余儀なくされたが,医薬品は安全保障の側面さえも持つ.新しい医薬品を開発していくことは技術立国という経済的側面ばかりでなく,人類の健康に寄与する平和的国際貢献への道でもある.
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