理学療法ジャーナル 49巻10号 (2015年10月)

特集 歩行支援機器による歩行up to date

EOI(essences of the issue)
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 さまざまな歩行支援機器の現状とそれらの意義について,さらに今後展開されるであろうロボティクスを用いた歩行支援のあり方を解説.脳卒中や脊髄障害などに伴う歩行障害に対して用いるACSIVEとWPAL-Gについて,開発に至った経緯を含めて特徴と使用法について,さらに体重免荷式歩行器について客観的立場で紹介する.ロボットは使うだけで効果が得られるものではない.音刺激など,理学療法士の介入も重要な要素である.

歩行支援機器の現状と未来 大畑 光司
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はじめに

 さまざまな歩行障害を生じる疾患に対する理学療法では,歩行機能の再建は重要な目標の一つである.特に脳卒中後片麻痺患者や脊髄損傷患者のような重篤な中枢神経疾患や変形性関節症などの運動期疾患では,歩行の再獲得が日常生活を左右する要因となる.

 杖,装具や歩行器など,これまで多くの歩行補助器具でさまざまな工夫がなされてきた.近年,さらにロボット技術の応用が進められ,歩行を補助する技術の体系が大きく変化しようとしている.本稿では,そもそも歩行支援技術の役割とは何かについて,その意義を明確にした後,今後の展開が予想されるロボット技術などの先端技術を用いた歩行支援のあり方を議論したい.

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はじめに

 近年,歩行機能再建に向け,ロボット工学などの工学的観点からのアプローチが盛んになっている.ヒューマノイドロボットの歩行制御技術は,ヒト歩行のアシスト・リハビリテーションへの応用の期待も高い.本研究では,受動歩行由来の無動力の歩行支援機器を提案している1〜3)

 受動歩行ロボットは,動力モータ(含バッテリ)やセンサをもたず,制御を一切行わず緩やかな下りスロープを歩くことができる.ロボットを支えながら脚に位相差を付けてスロープに解き放つと,力強く歩み出す.ロボットが手元から離れていくとき,本質的に「歩ける」ことを実感する.受動歩行は,重力効果のみによって遊脚膝が自然に曲がり,脚の振り抜きが行われる.また,脚軌道があらかじめ決められているわけではなく,ロボットのもつダイナミクスと環境との相互作用のみによって歩容を生成する.したがって,動いているけれども,必ずしも動かしているわけではない.

 受動歩行ロボットは,エネルギー効率が高いことで知られ,ヒトの歩行に近いとも言われる.歩行現象の力学的原理(歩行力学)を探究するうえで重要である.一方,調子の良し悪しがあり,不意に転倒するなどの側面をもっているが,見方によっては,ヒトにも通じる歩行機構の繊細さがしっかり表現されている.

 等身大の受動歩行ロボットは,ヒトがアシスト力を加えることで,簡単にスロープからわれわれの生活空間に活動範囲を広げた.図1に示すように,ヒト形受動足機構や外装が備わった受動歩行ロボットは,極めてヒトに近い歩容を見せる4).また,受動歩行ロボットに独自開発した股関節バネ機構(関節トルク発生装置)5)を搭載したことにより,膝折れやつまずきによる転倒が大幅に低減し,2012年5月,27時間(13万歩,72km)の連続歩行(図2)を達成した.

 受動歩行ロボットによる歩行支援の最初の実験は,2009年10月であった.図3に示すように,受動歩行ロボットの特徴である円弧足の上部平面に足を置き歩行を試みたが,極めて歩きづらいものだった.受動歩行ロボットがよく歩けたとしても,それをどのようにヒトの歩行支援につなげればよいかは未知の領域であった.本稿では,その後,無動力歩行支援機ACSIVE(アクシブ)を実用化するまでを振り返り,ACSIVEのコンセプトと構造を紹介し,ヒト歩行をどのように支援するかを概説する.

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はじめに

 脊髄損傷による対麻痺は,一度生じると不可逆的であり,車椅子が唯一の実用的移動手段となるが,車椅子での生活は骨粗鬆症,関節拘縮,便秘,肥満などさまざまな医学的問題を生じやすい1).また,低い視線を余儀なくされることは対麻痺者にとって大きなストレスであり2),対麻痺者の歩行に対する希望は高い3).対麻痺の歩行再建に対する期待は大きく,さまざまな骨盤帯長下肢装具による歩行再建が行われてきた.

 主に欧米で用いられてきたreciprocating gait orthosis 4)やhip guidance orthosis 5)は生体の外側に股継手を有する外側系装具と呼ばれ,歩幅の確保には優れるが,歩行時のエネルギー消費が大きい,立位安定性が低いという問題に加え,骨盤の外側に大きな股継手を有することから,車椅子上での脱着が困難であった.日常生活での使用を考えると,現実的な移動手段である車椅子との併存性は非常に重要である.

 そこで,筆者らは股継手を両下肢の内側に配置した内側系装具が有用であると考え,内側股継手付き両長下肢装具(Primewalk)を開発し,臨床で積極的に使用してきた6,7).図1に外側系,内側系の比較をまとめた.Primewalkは車椅子上で装着可能なだけでなく,股関節を伸展位で固定させることにより,優れた立位安定性を提供可能であった.しかし,下肢に力源がなく,膝・足関節を固定して用いるため,平行棒などの手すりがなければ起立・着座が困難であった.また,下肢を振り出すための重心移動やバランス保持を上肢に依存することから上肢の疲労が大きく,長距離移動は難しかった8).対麻痺者の実用的歩行を達成するためにはこれらの問題の解決が必要であり,筆者らはロボット技術を導入して,対麻痺者用歩行補助ロボットWPAL(Wearable Power-Assist Locomotor)の開発を進めてきた.本稿では,複数の対麻痺者が利用可能となるよう汎用性を持たせて発売されたWPAL-Gについて解説する.

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はじめに

 脳卒中歩行障害に対する理学療法は,神経発達学的アプローチに代表されるような経験を体系化したものが主流であった時期を経て,現在はニューロリハビリテーションの考えにもとづいたものへと変遷してきている1).体重免荷式(Body Weight Support:BWS)歩行支援装置を用いた練習は,その考えにもとづいたアプローチの一手法であり,日本でも多くの施設で実施されるようになった.その特徴として,免荷により体重負荷量を軽減できること,歩行困難な状態であっても早期から歩行練習が行えること,反復して両側性のパターン運動が可能であることから,効率的な運動学習へとつながる可能性があり,注目されている.

 一方で,BWS装置を用いた練習は,部分免荷トレッドミル練習(BWSTT)が一般的であり,歩行器と一体化した機器による練習効果の報告は少ないのが現状である.本稿では,BWS歩行器POPO(POPO REH-100株式会社モリトー)のコンセプトと構造について紹介する.また,POPOによる歩行によってpushing現象を伴った脳卒中片麻痺患者に生じた身体変化についても,客観的データを交えて紹介する.

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はじめに

 リハビリテーションを含む医療分野において,さまざまなロボットが研究,開発され,その臨床応用への道が開かれつつある.しかし,患者を取り巻く開発者,医療従事者双方で,それらが臨床現場でどのように使われるべきであるか,その方法は確立されていないのが現状である.

 本稿は,筆者が産業医科大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座に在籍中に行った,歩行支援ロボットGait-Assistance Robotを用いた研究成果の一部である.興味深い結果が得られたので,ご紹介したい.

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 理学療法士として臨床一筋と思っていましたが,縁あって養成校の教員となり,あっという間に10年間が経過しました.教育現場では,教員の期待とは裏腹に学生の理解度は深まらず,日々思い悩むことばかりです(当初から的確なアドバイスをいただいた高知医療学院の宮本省三氏や県立広島大学の沖田一彦氏には心から謝意を表したい).それでも,学生の顔つきや振る舞いに変化がみられ,少しずつ理学療法士という専門家に近づくのが感じられると,本当に嬉しい気持ちになります.

 さて,理学療法の臨床実践と養成校における教育現場とを重ね合わせてみると,意外に共通点が多いことに気づかされます.例えば,立ち上がり動作の自立を目標としている対象者に対して,私たちの治療介入を考えてみましょう.動作の習得には,動作方法の教示,モデル提示,動作の試行,KR・KPの付与,課題の難度調整,課題の反復練習という一連の学習プロセスが必要不可欠であり,理学療法士の治療方略は「学習支援」と言っても過言ではありません.このプロセスは対象者と理学療法士の相互作用(interaction)によって生み出されるわけですが,教育現場も同様に学習という視点は欠かせません.

初めての学会発表

新たな挑戦 福島 沙季
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 2015年6月5〜7日,第50回日本理学療法学術大会が東京国際フォーラムにて開催されました.ガラス張りの広々とした綺麗な会場にて,2日目の6月6日にポスター発表の機会を得ました.本稿では,学会発表までの経過や発表を終えて感じたことをご報告します.

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 2015年6月19〜21日の3日間,第49回日本作業療法学会が神戸ポートピアホテル・神戸国際展示場で開催された.学会長は古川宏氏(神戸学院大学),テーマは「温故知新〜五十路(いそじ)を還り将来(みらい)を展(の)ぶ〜」であった.わが国の作業療法は先人が欧米の知識や技術を輸入し,試行錯誤しながら日本の文化に合うよう創造してきた.この過程を50年という節目に際し,十分吟味し新しい知見を積み足し,作業療法が伸び広がってほしいという学会長の願いがこのテーマには込められている.本稿では,印象に残った講演等を紹介する.

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 理学療法士になって39年という年月が経ち,来年には還暦を迎える歳になってしまいました.月日の流れは本当に速いものです.私がこの道に入った最大の理由は,「親に迷惑をかけずに上級学校に行くこと」でした.私は小さいころに父を亡くしています.幼い子供2人を抱えて再婚もせず私たちを育て上げた母を楽にするには,お金のかからない学校に行くことしかありませんでした.そのころの九州リハビリテーション大学校は労働省(当時)の養成校であり,全寮制でほとんどお金がかかりませんでした.とてもありがたかったです.「理学療法士」が何であるかなど,まったくわからない状態での入学でした.その学校で教えられ,今でも心の支えになっている言葉があります.それは,「君たちはリハビリテーション医療のプロフェッショナルであり,君たちが日本のリハビリテーション界を引っ張っていくのだ」という言葉です.

 この39年間にいろいろなことがありました.個人的には「結婚,3人の子供の出産・子育て,自宅の購入,子供たちの進学,私自身の大学や大学院への入学」などなど,社会的には「大学病院,療養型病院,理学療法士・作業療法士養成校2校の勤務を経て,国家試験予備校の設立」.そのたびに何度も何度も悩みました.家庭,子育て,仕事,経済,挙げればきりがないほど…….でもそのたびに思い出されるのが学生時代に言われたあの言葉でした.そしていつも傍にいて励ましてくれる夫の「頑張れば必ず何とかなるさ」という言葉でした.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

筋硬度 金子 秀雄
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●硬度とは

 硬度は,硬さと同じ概念であり,工学分野では物体の変形のしにくさを表す.これは物体がほかの物体による押し込みなどで変形を与えられたときの抵抗の大小を示す尺度となるものであり1),日本工業規格では硬度ではなく硬さが用いられている.生体組織においては,一般に触診により圧迫などを加えたときの弾性が硬さとして認識され,その違いを識別することでさまざまな病変や障害を推定するための所見として利用される.臨床的には結節,腫瘤,硬結,筋緊張の有無などが判断される.

1ページ講座 日本理学療法士学会・分科学会の紹介

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 日本理学療法士協会内部障害理学療法研究部会代謝班では,大平雅美 先生(信州大学医学部保健学科)を班長として,「糖尿病理学療法研修会(評価・運動療法・運動機能障害・合併症・教育)」の開催,「理学療法診療ガイドライン(糖尿病)」の作成,認定理学療法士(代謝)の認定や必須研修会の開催などを行ってきました.

 2013年6月に日本理学療法士協会が日本理学療法士学会ならびに下部組織である分科学会・部門を設立し,その一分科学会である日本糖尿病理学療法学会の代表運営幹事として筆者が選出されました.日本糖尿病理学療法学会では,旧代謝班の実績を基盤に,関連学協会とも連携・協働し,理学療法に必要な専門領域の学術(academy)を重視し,理学療法を基盤として発展させることはもとより,糖尿病の予防と治療に貢献し,患者の利益を追求したいと考えています.

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はじめに

 多くの臨床ガイドラインでは,根拠にしたエビデンスの質の高さをいくつかのレベルに分けて評価している.例えば,「脳卒中治療ガイドライン2009」1)のエビデンスレベルに関する分類(表1)では6段階に分けられ,無作為化臨床試験(randomized clinical trial:RCT)によるエビデンスが高いレベルに位置づけられている.ところがリハビリテーション医療にはほかの領域に比べ,RCTが行いにくい2).薬剤の効果を捉えるのに比べ,リハビリテーション医療の場合は多職種チームによる介入であり,退院後の生活再建という長期的な効果も期待されていることなどがRCTを行いにくくしている.

 一方,RCTにも弱点がある.選択基準を満たす対象者における内的妥当性は高いが,選択基準外の対象者や他施設・条件下でも,その結果が当てはまるという外的妥当性は保障されていない.したがって,RCT以外のリハビリテーション医療に適した研究デザインによる研究も必要である.その1つの方法が,大規模データベースを活用した研究である3).多施設共同で多数のリハビリテーション患者データが蓄積された日本リハビリテーション・データベース協議会(Japan Association of Rehabilitation Database:JARD)4)のデータベース(database:DB)を利用すると,「よくデザインされた比較研究」になり得る5).それによってRCTの次にレベルが高いエビデンスづくりができる可能性がある(表1).

 このJARDのデータを利用した研究論文が徐々に増えている.以前はデータ提供施設でなければ,データ利用ができなかった.今は,データ提供施設でなくても,日本理学療法士協会の会員で,研究計画が協会の公募で採択されれば,協会を通してデータを利用し,その研究結果を論文にすることも可能である.

 本稿では,JARDの概要,データの利用プロセスの概要,JARDのデータを利用し現在までに発表された研究を筆者の研究も含め紹介する.

講座 リハビリテーションにおけるロボットのいま・3

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はじめに

 世界に例をみないスピードで高齢化が進んでいるわが国では,今,介護ロボットが注目されている.介護スタッフの負担増や人材不足,増え続ける高齢者に対応するための打開策として,多くの介護ロボットが開発されている.その背景には,人手不足や介護分野の救世主としての期待がある.また,新産業として今後の市場拡大の期待もある.しかし,大きな期待がある一方で,現段階ではあまり普及していないのが実態である.それは「値段が高い!」という価格面のみならず,さまざまな課題を抱えているからである.それら直面する課題を整理しながら,介護ロボットの種類,利用の現状(課題),普及に向けた取り組み,それに将来のあり方について解説する.

臨床実習サブノート 臨床実習で患者さんに向き合う準備・6

パーキンソン症候群 加藤 新司
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はじめに

 実習生は実習前に実習指導者へ最終確認の連絡をしてくることがあり,以下のようなやり取りが行われる.

 学 生:どのような疾患がケースになるのでしょうか?

 指導者:当院は神経内科の患者さんが多いので,パーキンソン症候群をもっているケースになる可能性が高いでしょう.

 学 生:どのような準備をしていけばよいでしょうか?

 指導者:パーキンソン症候群に対し予習してください.

 このように,指導者もとりあえず回答していることが多い.本稿は,この「とりあえず」の部分に加え,一疾患にこだわらずパーキンソン病を含むパーキンソン症候群に対し,学生がどのような視点で向き合っていくべきか,考え方を中心に提示していく.

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目的

 理学療法において姿勢・動作解析手法に用いられる機器としては,三次元動作解析装置やデジタルビデオカメラが代表的である.しかし,患者に適用する際の問題として,解析用マーカーを貼付するために対象者を可能な限り裸に近い条件とする必要があり,臨床応用への制限がある.そこでわれわれは,衣服を脱ぐことなく解析を実施できるように,衣服上に貼付できる磁石を用いたマーカーを試作した.さらに信頼性と妥当性を分析することで臨床応用の可能性を検討した.

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はじめに

 南太平洋に位置するフィジー諸島共和国(以下,フィジー)は,自給自足の生活をしている村や集落が多く存在する開発途上国である.

 筆者は2007年9月からの2年間,フィジーにて青年海外協力隊員として活動した.本稿では,地域支援体制構築に向けた現地での取り組みと,任期終了後の情報交換から知り得た現在までの経過を報告する.

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次号予告

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

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 この度,糖尿病治療に携わってきた理学療法士の編集により『糖尿病の理学療法』が刊行されました.

 これまで理学療法の領域は,主に神経系,運動器系,小児・発達,内部障害に区分されてきました.このうち,内部障害は呼吸,循環,代謝に細区分されていましたが,近年では,対象者の増加,運動療法の治療的根拠の蓄積,保険制度の変更などが相まって,それぞれの領域で積極的な取り組みが加速しています.糖尿病については,以前から,薬物・食事・運動の3つの療法を合理的に組み合わせることが重要とされ,運動がインスリン抵抗性に与える影響などについて,多くの研究が進んでいます.運動療法と理学療法の違いについての検証は十分に進んでいませんが,合併症を有する対象者や重症者への理学療法への期待は年々高まっていました.

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 本書は,在宅療養者に対する訪問理学療法に特化した内容のため,疾患や障害についての詳しい説明はないが,訪問時における在宅療養者の診かたについて図表を多用し,わかりやすく解説されている.

 最近では,理学療法士が在宅訪問する機会が国の政策に伴って増えている.代表的な疾患である脳卒中,パーキンソン病,脊髄小脳変性症,脊髄損傷,脳性麻痺,心不全,切断,骨折,認知症について具体的な症例を提示し,問診の行いかた,バイタルサインのチェック,理学療法評価の行いかたや評価にもとづく理学療法プログラムが提示されている.

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 発達障害児の対応は理学療法士にとっては苦手な領域ではないだろうか.私はNICUでの仕事,およびフォローアップに本格的にかかわり10年が経過した.ここ数年,外来リターン組の多くは多動や不器用,言語発達の遅れを示すような発達障害児であり,時代とともに避けて通れない領域になったと痛感している.しかしながら,私自身,発達障害児とそのご家族のQOLに十分貢献できた手応えが少なく,困難な領域であることも感じていた.困難な領域に向かうには,優秀なガイドが必要であろう.そんな折にこの本に出会った.

 本書は,コミュニケーション障害を主徴とする発達障害児に対する身体特性の評価と運動療法介入を解説したものである.著者は本書の冒頭で発達障害児の歴史的変遷,自閉症,アスペルガー症候群,広汎性発達障害,注意欠陥・多動性障害,学習障害の心身の特性を記したうえで,発達障害児全般の身体機能に言及している.正常な中枢神経の成熟には,経過とともに組織化される感覚と運動の密接な関連が不可欠であるが,その要素を切り離すことなく発達障害児のさまざまな特性を「発達の障害,遅れ,偏り」として捉え,その基盤には定型的な発達とは異なる非定型的な認知・行動パターンが存在することを示唆している.評価のなかでは,全般的な感覚のモニタリングを独自の方法でスクリーニングし,姿勢のコントロールや協調運動,各要素の集大成となる運動イメージを確認したうえで,治療計画を立案する.また治療に関しても,その中心は運動であるが,体性感覚の及ぼす作用を常に意識しており,理学療法士的な視座に立ったなじみやすい内容である.運動種目の説明に写真が多用されている点も本書の特徴であり,これもまた正確な理解と実践の助けになる.

文献抄録

第27回理学療法ジャーナル賞について

編集後記 吉尾 雅春
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 今年の夏の太平洋高気圧はお盆を過ぎると急速に弱まり,北から降りてきた冷気との間で大気は不安定になって各地で大雨や雷雨の被害が出ています.竜巻や突風のニュースもしばしば報じられています.秋雨前線が例年以上に活発なようで,日照不足による農作物への影響も深刻なようです.10月は食欲や行楽,スポーツの秋とも言われるように,人間がリフレッシュするのに最も適した季節です.雨空から解放され,高い青空のもと,爽やかな日々を過ごしたいものです.

 今月号の特集は理学療法士が最も重きを置いている課題のひとつ,歩行に絡んだテーマです.特に近年注目されている歩行支援機器による歩行を取り上げてみました.歩行支援機器は歩行を補完あるいは改善するものですが,実際の歩行場面で用いられるものや歩行トレーニングで用いられるものなど,幅広く存在しています.具体的な歩行支援機器としては杖や歩行器に始まり,装具,functional electrical stimulation(FES),体重免荷式トレッドミル,そしてロボットなどがありますが,それらの選択や使用法について,理学療法士の能力が求められます.その使用によっては脳の可塑性や運動学習としての効果がみられるものもあると言われていますから,積極的に考えていかなければならない課題です.再生医療も本格的に行われるようになり,ロボットが積極的に活用される時代になれば,理学療法士の存在が危うくなるという話もありますが,むしろそういう時代だからこそ理学療法士の真価を発揮すべきであると私は思います.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
49巻10号 (2015年10月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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