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腰痛は国民愁訴で第1位を占める慢性疾患であるにもかかわらず,その発症機序や病態の理解,解明は不十分であり,治療を含む腰痛の診療すべては必ずしも科学的に構成されたものではない.その結果,治療成績は停滞し,腰痛の治療成績に向上は認められていない——これは,本邦の腰痛研究の第一人者としてこの分野を牽引されてきた菊地臣一先生が編集された成書「腰痛(第2版)」において先生が示された腰痛診療に対するご認識である.かつては85%が非特異的腰痛といわれていた腰痛の病態も,昨今の最新研究ではその割合は30%程度まで低下したといわれている.しかし,それでもなお,現代社会におけるめざましい近代化と医療技術の発展の速度と比較すれば,やはりその全容が見えるようになるにはまだまだ時間を要するであろう.見えないものを見えるようにする,そして理解を進める,そのためには自分とはまったく立場や視点の違うモノ・人や考え方が集まり,融合していくことが非常に重要である.特に人工知能(AI)やロボット技術の進歩が加速し人智に近づこうとしている現代では特に重要であり,その速度は指数関数的に飛躍し留まるところを知らない.しかし,根底にあるのはやはりそれを進め,支える「ヒト」である.
個人的なことにはなるが,私は医学の道を歩む前は某国立大学の工学部でエンジニア系研究者として消化器外科領域のロボティクスや脳神経外科領域の脳腫瘍ナビゲーションシステムに関する研究を行っていた.工学研究に従事していた西暦2000年前後の当時,80MHz(GHzではない)のCPUが「公道を走るF1マシン」と呼ばれ(通常の一般的なPCは当時33MHz程度が主流であった),さらに500MHz(今でいえば0.5GHz)のCPUを抱いたPCが「業界最速」と謳われていた.さらに,500MB(GBではない)のハードディスクが大容量としてもてはやされていた時代であり,1GBのハードディスクは一般人には手の届かない高嶺の花の存在だった.今からみればスマートフォン以下,貧弱と呼ばざるを得ないこれらのシステムを使って1つのプログラムを書き,いざコンピュータが計算実行するのに一昼夜を要したこともある.夜まで眠い目をこすってプログラムを作成し,実行ボタンを押して翌朝に無事に終了することを期待して帰宅するのだが,翌朝研究室にやってきた私を待ち構えているのは,非情にも冷酷にエラーメッセージを表示して停止したままのディスプレイであった.しばらく固まりながら絶望とむなしさであふれそうになる涙を拭いつつ自分の書いたプログラムを見直してプログラムを修正(デバッグ)した.そして,学位論文提出前は研究室の床に寝袋で寝泊まりするのが常であった.先輩方がそうしているのを目の当たりにして,自分はそうなるものか,と思っていた自分がその姿を後輩にそのまま伝承していたのである.結局,最終的に前に進むにはやはりヒトの力が重要なのだ.
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