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はじめに
脊髄内に空洞が形成される病理所見を初めて報告したのは,1546年のEstienneであった.その後,1827年にOllivier d'Angersは著書の中でこの疾患をsyringomyeliaと記載している.一方で,Hans Chiariは菱脳の形成異常を報告し,これを4型に分類した.現在ではその臨床症状や発生機序の違いから,脊髄髄膜瘤の合併のないものをⅠ型,あるものをⅡ型として2型に分類することが一般的となっている.脊髄空洞症とChiari奇形との関係を初めて指摘したのは,1888年のChiariであり,本症が手術により治療可能なものであることを報告したのは1957年のGardnerであった1).これ以降,脊髄空洞症は注目されるようになり,その発症機序に関して多くの研究者が独自の説を発表していった.大きく分けて第四脳室のobex(閂)において開存した中心管から脊髄内に髄液が流入するといった説(Gardner説6〜8),Williams説29,30))と,脊髄の血管周囲腔または後根進入部から髄液が脊髄実質内に浸入するといった説(Ball & Dayan説3),Oldfield説23))であるが,いずれも十分に空洞の発生を説明しきれてはおらず,定説には至っていないのが現状である.脊髄空洞症はChiari奇形だけでなく,外傷や出血,くも膜炎やくも膜囊胞などでも発生することが知られている.これらに共通することはいずれもくも膜下腔の髄液流通障害を伴っていることであり,流通障害が解除されれば空洞が縮小することは知られている.しかし,空洞内の液体がどのような機序でどのような経路をたどり脊髄内に貯留するのかについては,いまだ十分に解明されていない.
したがって,本症の治療戦略として,空洞によりすでにダメージを負った脊髄神経の回復は難しいとしても,いかに慢性進行性に悪化し得る状態から継続的に離脱できるかが重要である.つまり,いかに髄液流通障害を解除し,空洞症を増悪させずに縮小したままに維持できるかがコンセプトとなる.そうすることで,神経症状の改善もしくは進行の停止を目指せる.本稿では,ChiariⅠ型奇形による脊髄空洞症の病態,診断について概説し,小脳扁桃下垂から生じる個々の症例に応じた治療について,これまでの経験をもとに述べたい.
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