耳鼻咽喉科・頭頸部外科 89巻7号 (2017年6月)

特集 耳鼻咽喉科で診る睡眠障害

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POINT

●睡眠と覚醒のリズムには,ホメオスタシス機構と体内時計機構(サーカディアンリズム)が重要な役割を果たしている。

●睡眠には,種々のサイトカイン,プロスタグランディン,ホルモンが関与している。このうちメラトニンはサーカディアンリズムを調整し,オレキシンは覚醒の維持にかかわっている。

●睡眠には,ノンレム睡眠とレム睡眠があり,ノンレム睡眠はその深度により4段階に分けられ,ノンレム睡眠段階2以上で睡眠の自覚が得られる。

●睡眠障害のうち耳鼻咽喉科医が遭遇する機会の多い閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)では,筋緊張が弛緩され舌根沈下などが惹起されるレム睡眠期に重篤化する。

●睡眠疾患の治療のみならず,睡眠の質の改善という観点からも治療法を選択することが大切である。

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POINT

●耳鼻咽喉科で診るべき睡眠障害は,医療機関によって異なる。しかし睡眠呼吸障害の診療を行ううえで,睡眠医療全般,すなわち他の睡眠障害の診断と治療に関与せざるをえないのが日常臨床での現実である。

●睡眠呼吸障害は,睡眠障害をきたす一疾患であり,他の睡眠障害との鑑別が必要になる場合がある。また睡眠呼吸障害と他の睡眠障害が合併している場合も少なくない。すなわち睡眠呼吸障害の診療は,睡眠医療の一環として行わなければならない。

●睡眠障害にはどのようなものがあり,日常臨床でよく遭遇する睡眠障害にはどのようなものがあるのか。どのような診療体制で,睡眠呼吸障害に合併した他の睡眠障害を見落としやすいのか。睡眠呼吸障害と合併していることが稀ではない睡眠障害にはどのようなものがあるのか,理解しておくとよい。

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POINT

●成人の20%以上に睡眠の問題があり,耳鼻咽喉科医にとっても睡眠障害は身近な存在である。

●問診や質問票を活用し睡眠障害のタイプや原因を把握することが,睡眠障害の対応への第一歩である。

●睡眠障害の原因として抑うつ傾向が疑われる場合は,精神科や心療内科に診療を依頼する。

●睡眠中の問題で耳鼻咽喉科外来を受診する症例のほとんどは睡眠呼吸障害であるが,ナルコレプシーなどの睡眠障害が内在している可能性があり,PSG結果の判定時には注意を要する。

睡眠障害の保存的治療 若林 健一郎
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POINT

●耳鼻咽喉科で主に診療対象となる睡眠障害として睡眠時無呼吸症候群があり,その保存的治療について概説した。

●持続陽圧呼吸(CPAP)機器の性能向上や医療経済的な面からAuto CPAPによる治療が容認されつつあるが,CPAP使用データの確認は必須であり,無呼吸低呼吸指数(AHI)の改善が乏しい症例や眠気が残存する症例ではタイトレーションや精査のため睡眠専門施設での診療を検討すべきである。

●閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の保存的治療にはCPAPのほかに口腔内装置(OA),体位治療,減量療法などがあり,これらを単独あるいは併用して適切かつ継続可能な治療法を提案することが重要である。

●OSA以外の睡眠障害の可能性も考慮しながら診療にあたる必要があり,睡眠障害全般の知識を備えておくとともに,睡眠専門施設との連携体制を整えておくべきである。

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POINT

●米国小児学会のガイドラインでは,小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)でアデノイド・口蓋扁桃肥大があり,手術禁忌でなければ,adenotonsillectomyを治療の第一選択としている。

●小児では,OSAが身体発育や認知機能の障害に関与するため,手術適応がある場合には,いたずらに手術時期を先延ばしにすることは避ける。

●成人のOSAでは,まず上気道疾患の評価を行い,OSAのフェノタイプを理解したうえで手術的治療の適応を検討する。

●単純いびき(primary snoring)であっても,自他の人生を変えるほどの影響をもたらす病態であり,その状態によって口蓋垂切除,軟口蓋凝固術(OPPP)や口蓋扁桃摘出術などを考慮する。

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POINT

●現在,不眠治療目的で用いられている睡眠薬は,作用機序による分類から,①ベンゾジアゼピン系,②非ベンゾジアゼピン系,③メラトニン受容体作動薬,④オレキシン受容体阻害薬が国内で使用されている。

●臨床で主に使用されている睡眠薬はベンゾジアゼピン系であるが,「睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン」では,睡眠薬を使用する場合には,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を第1選択とすることが好ましいと推奨されている。

●メラトニン受容体作動薬であるラメルテオンは,ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比較して催眠効果がそれほどシャープではない印象がある。しかし,「退薬症状」や「耐性」などが現れない薬と考えられている。また,呼吸抑制,筋弛緩作用などがないので,睡眠時無呼吸症候群の不眠例には投与可能である。

●これまでの不眠治療は,薬物治療が主体であったが,ベンゾジアゼピン系睡眠薬のリスク・ベネフィット比が不良であることが明らかにされ,睡眠衛生指導や認知行動療法が重要視されている。

●体質によって睡眠の多様性があることを考慮し,個々人に合った睡眠習慣や睡眠時間をアドバイスすることが大切である。

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はじめに

 1996年にKagaら1)は今まで気がつかれなかった聴覚障害の成人例を“auditory nerve disease”(AND)という疾患名で,同時に米国のStarrら2)は小児例と成人例を“auditory neuropathy”(AN)という疾患名で発表した。それから20年が過ぎた。筆者もStarrも聴性脳幹反応(ABR)の聴覚障害と神経疾患への応用に取り組み,たくさんの研究発表をしてきたことからANの特殊性に気づいたのである。Starrはもともと筆者のABRのmentorで,International Evoked Response Audiometry Study Group(IERASG)という2年に1回開催される聴覚誘発電位の学会で,2人ともこれまでに報告のない聴覚障害として,小生はAND,StarrはANとして報告した。その特徴が,純音聴力検査で軽中度の感音難聴,語音明瞭度検査で最高明瞭度が5%以下で,かつABRは無反応であるが,耳音響放射は正常の蝸牛神経障害を示唆する症例の,病態生理研究である。2人とも独立して論文化を進め,1996年に同一の内容の論文が別々に発表された。これとは別に,2008年,それまでイタリアのコモ湖で毎年開催されてきた新生児聴覚スクリーニング(newborn hearing screening:NHS)の国際会議での議論をもとに米国のコロラド小児病院グループがABR(−),DPOAE(+)の先天性難聴にauditory neuropathy spectrum disorder(ANSD)という名称を与え,ガイドラインを提案した3)。それ以後,NHSの世界的普及とともにANが再び脚光を浴びることになった。研究報告は多数あるが,現在に至るまで,成人の症例の研究報告は極めて少ない。

 本稿では,この20年間の歩みと今後の課題についてANとANSDに分けて解説する。最近ではANとANSDをまったく同一のものと考える報告が散見されるが,正しくない。近年,StarrとSantarelliはANをsynaptopathyとも呼んでおり,その紹介も行う。

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はじめに

 唾液の嚥下で偶発症が生じることはほんとんどない。耳閉感を自覚した場合,この不快な症状を解消するために嚥下をする場合が多い1)。今回,われわれは嚥下を繰り返したことにより,頭蓋底から縦隔にわたる広範囲の気腫が生じた稀有な症例を経験したので報告する。

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はじめに

 鼻口蓋管囊胞は上顎正中部に生じる比較的稀な非歯原性囊胞で,胎生期に存在する鼻口蓋管の遺残上皮から発生するとされている。今回われわれは,内視鏡下鼻内手術で鼻腔底に開窓した鼻口蓋管囊胞の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

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はじめに

 末梢前庭器(半規管と耳石器)が重要な役割を果たす前庭動眼反射(vestibuloocular reflex:VOR)は頭部の動きを代償する眼球運動であり,特に半規管は頭部の急速で高周波数の運動に対しても非常に精密かつ迅速に応答する反射である1,2)。末梢前庭機能検査においては,現在に至るまで回転刺激検査や温度刺激検査が主役を担ってきたが,いずれもやや侵襲的であり,検査に時間を要することが問題であった。一方,1988年にHalmagyiとCurthoys3)により報告されたhead impulse test(HIT)は,一側末梢前庭機能障害によりVORゲインに左右差が生じることを利用して,簡便に半規管機能の左右差を検出できる検査である。最初に報告されたHITは定性的な検査であったが,その後,高速CCDカメラと加速度計を備えたvideo head impulse test(vHIT)4)が出現し,半規管機能を定量的に評価できるようになった。現在は外側半規管に加えて前半規管と後半規管の機能も個別に検査できるが,手技に習熟が必要なこと,日本人では眼裂が狭小な場合も多いことなどから,前半規管および後半規管の検査には困難を伴うことも多い。すなわち,最も手技的に容易で困難が少ないvHITである外側半規管のvHITのみ行って,上前庭神経系の機能に加えて下前庭神経系の機能を部分的にでも推測できれば,vHITはより有用な検査として普及が進むと考えられる。

 今回,外側半規管のvHITを用いて外側半規管から上前庭神経系の機能と下前庭神経系の機能をどの程度推測できるか検討するため,温度刺激検査,胸鎖乳突筋由来の前庭誘発筋電位検査(cVEMP)を行い,外側半規管のvHITとの相関について評価したので報告する。

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欧文目次

バックナンバーのご案内

あとがき 丹生 健一
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 3月末で勇退された吉原俊雄先生の後任として,4月から東京慈恵会医科大学の鴻 信義教授を編集委員としてお迎えしました。皆様ご存知のとおり,内視鏡下鼻内手術のスーパースターです。早速,ご専門の鼻科学についてはもちろんのこと,わが国を代表する大教室での豊富なご経験を生かし多彩な視点からさまざまなアイディアをいただいています。強力なメンバーが加わり心強い限りです。これからも,より魅力ある雑誌を目指して小川 郁先生,鴻 信義先生と小生の3名で力を合わせて編集を担当して参ります。ご愛読のほど,よろしくお願いいたします。

 一方,去る4月17日,私の所属する神戸大学では,医療検査機器大手シスメックスのご支援により神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)跡地を購入し,ポートアイランドに「神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター」を開院しました。われわれ耳鼻咽喉・頭頸部外科は咽喉頭・唾液腺・甲状腺疾患に対して低侵襲な外科的治療を展開して参ります。国立大学で分院ができるのは極めて稀なケースだそうで,是非,成功させたいと願っています。こちらもご支援をお願い致します。

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
89巻7号 (2017年6月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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