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はじめに
1996年にKagaら1)は今まで気がつかれなかった聴覚障害の成人例を“auditory nerve disease”(AND)という疾患名で,同時に米国のStarrら2)は小児例と成人例を“auditory neuropathy”(AN)という疾患名で発表した。それから20年が過ぎた。筆者もStarrも聴性脳幹反応(ABR)の聴覚障害と神経疾患への応用に取り組み,たくさんの研究発表をしてきたことからANの特殊性に気づいたのである。Starrはもともと筆者のABRのmentorで,International Evoked Response Audiometry Study Group(IERASG)という2年に1回開催される聴覚誘発電位の学会で,2人ともこれまでに報告のない聴覚障害として,小生はAND,StarrはANとして報告した。その特徴が,純音聴力検査で軽中度の感音難聴,語音明瞭度検査で最高明瞭度が5%以下で,かつABRは無反応であるが,耳音響放射は正常の蝸牛神経障害を示唆する症例の,病態生理研究である。2人とも独立して論文化を進め,1996年に同一の内容の論文が別々に発表された。これとは別に,2008年,それまでイタリアのコモ湖で毎年開催されてきた新生児聴覚スクリーニング(newborn hearing screening:NHS)の国際会議での議論をもとに米国のコロラド小児病院グループがABR(−),DPOAE(+)の先天性難聴にauditory neuropathy spectrum disorder(ANSD)という名称を与え,ガイドラインを提案した3)。それ以後,NHSの世界的普及とともにANが再び脚光を浴びることになった。研究報告は多数あるが,現在に至るまで,成人の症例の研究報告は極めて少ない。
本稿では,この20年間の歩みと今後の課題についてANとANSDに分けて解説する。最近ではANとANSDをまったく同一のものと考える報告が散見されるが,正しくない。近年,StarrとSantarelliはANをsynaptopathyとも呼んでおり,その紹介も行う。
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