耳鼻咽喉科・頭頸部外科 77巻12号 (2005年11月)

特集 耳管機能検査

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Ⅰ.はじめに

 今回の特集である「耳管機能検査」は,さまざまな耳管,中耳疾患の診断,治療に非常に重要であるが,その割には一般臨床医の間ではあまり普及しているとはいえない。その理由の1つとして,耳管機能についての知識はあるものの,それが耳管の形態と結びついていない可能性が考えられる。すなわち,耳管機能検査を行って,機能不全,狭窄や開放などの結果は解釈できるが,耳管のどの部分がどのように狭窄,あるいは開放しているのかは必ずしも理解されていないのではないだろうか。

 本稿では主に耳管の形態を解説するが,できるだけ機能に関連させて解説するように心がけた。

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Ⅰ.はじめに

 中耳機能を正常に維持するうえで,耳管は重要な役目を果たしている。その大きな機能として,換気能と排泄能がある。古くからそれらを検査する方法が考案されてきたが,現在では,そのいくつかは保険診療として認められ,検査機器も市販されている。この耳管機能検査装置で行える耳管機能検査は,耳管鼓室気流動態法,音響耳管法,加圧・減圧法があり,また一部の機種では耳管通気度検査が行える。本稿では,日常診療においてよく行われる耳管鼓室気流動態法,音響耳管法,加圧・減圧法検査法の原理や,特徴,問題点についてまとめてみる。

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Ⅰ.はじめに

 鼓室,乳突洞,乳突蜂巣からなる中耳腔は,骨組織に囲まれ薄い粘膜で被覆された空間である。中耳伝音系の機能が維持されるためには,この空間が含気化され,かつ大気圧と等圧であることが必要で,そのためには外界と交通していなければならない。一方,中耳腔は自声強聴が生じないために鼻咽頭と遮蔽されていることも必要となる。この背反する2つの機能をこなしているのが耳管である。加えて耳管には,貯留液の排出能や感染防御能も要求される。このことから,中耳腔を生理的な状態に保つ役割の多くを耳管が担っているといえる。また,中耳炎症性疾患が成立するにはさまざまな要因が複合的に関与するが,耳管の機能不全は,その中で最も大きなものと考えられる。

 滲出性中耳炎の病態の説明として,耳管閉塞が起こると中耳腔内の陰圧化が生じ,それにより血漿成分が析出し,液の貯留が起こるという補腔水腫説が古くから支持されてきた。この概念は,現在に至るまで滲出性中耳炎の成り立ちを説明するうえで最も基本的な考え方となっている。しかし,滲出性中耳炎の病因は多岐にわたり,また耳管が担う機能も多様なため,補腔水腫説のみでは滲出性中耳炎の病態をすべて説明することはできない。本稿では,滲出性中耳炎の成因,病態と耳管機能との関係について過去の報告を紹介しながら考える。

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Ⅰ.はじめに

 後天性中耳真珠腫の発症機序は単一ではない。過去には,種々の成因に関する学説が呈示されてきた。内陥説1~4),基底細胞乳頭状増殖説5),穿孔説6)などがその代表である。このなかでは内陥説が広く支持されるに至っているが,内陥から真珠腫が形成されるためには,表皮ならびに皮下組織の増殖・分化にかかわる各種サイトカインの関与が必要と考えられている7,8)

 鼓膜内陥の原因としては,耳管機能不全が想定しやすく,過去にも多くの耳管閉塞実験が行われた9,10)。一方,本庄(1987)11)は,陥凹型真珠腫では耳管の通気圧は正常かむしろ低いものが多く,耳管の器質的狭窄はないことを指摘した。また,多くの症例が陰圧を能動的に解除できることから,Bluestone(1978)12)のいう機能的閉塞も少ないことを述べた。森山(2004)13)は後天性真珠腫の耳管機能について,音響法では正常型が約半数と最も多かったが,健常者に比較すると狭窄型が多かったとしている。

 真珠腫の成因説として発想を転換したものに,1970年代後半にMagnusonら14)が提唱した鼻すすり説がある。耳管閉鎖障害(耳管開放症)患者では,嚥下やあくびの際に耳管が開放状態となると,耳閉感や自声強聴などの不快感が生じる。このときに「鼻をすする」ことにより中耳腔の陰圧化に続いて「耳管のロック」が起こり,不快感が取り除かれる(図1)。このとき,鼓室内陰圧は時に1,000mmH2Oにも達し,これが鼓膜の内陥やポケット形成を引き起こし,真珠腫を発症する基盤となるとの考えである。

 筆者らもこの説に注目し調査を行ってきた。その結果,真珠腫症例全体の約25%にMagnusonの説を裏付ける鼻すすり癖が認められ15),上鼓室陥凹例でも20%に鼻すすり癖を認めた。もちろん,鼻すすり説以外にも真珠腫の成因は複数存在する可能性があるものの,鼻すすり癖は真珠腫の重要な成因の1つであると考えられる。

 本稿では,後天性真珠腫の耳管機能について耳管閉鎖障害の観点を中心として述べ,鼻すすり癖を有する真珠腫(以下,「鼻すすり真珠腫」)の取り扱いおよび治療について述べる。

5.耳管開放症の診断と治療 山口 展正
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Ⅰ.はじめに

 耳管開放症はJago1)自身が忘れ得ぬ体験を報告し,日本では高原2)が2症例を報告した。その後も稀な疾患と考えられていたが,決して稀な疾患ではなく日常茶飯事にみられる疾患である3)

 稀であった理由は,常識と固定概念によるところも一理あったと思われる。鼓膜が正常,聴力正常ならば異常なし,鼓膜内陥,中耳炎は耳管狭窄,感音難聴があれば内耳あるいは後迷路性と決め付けられて,耳管開放症が隠蔽されていたことが挙げられる4)。耳管開放症は,耐えがたい症状,精神的苦痛を与えうる疾患である。

 耳管開放症の症状として,耳閉塞感,自声強聴,呼吸性耳鳴,難聴,閉鼻声などがよく知られていたが,耳痛,耳の違和感(小児),顔半分の違和感,低周波音の異常感,フラフラするめまい感,鼻閉,顔から頭がボーとする,頸凝り・肩凝り,頭痛・頭重感などの症状はあまり認識されていなかった。耳管開放症の耳管を試験的に閉塞することにより判明してきたものである4)。咽頭・喉頭異常感など多彩な症状が耳管開放症に関与しており,さらに,うつ状態,パニック障害,聴覚過敏症,気象病にも関与していると考えられる。

 どんなに医学,科学が進歩しようとも,William Osler(1849-1919)が残した言葉“Listen to the patient. He is telling you the diagnosis.”は患者を診察する臨床医にとって本疾患の診断の基本になることには間違いない。

 疾患・症状(表1,2)を知らずして診察すれば,本疾患の診断に至らないことになりうる。患者の訴えを聞き,診断を推測し,診て,聴いたうえで,客観的検査を行い,結果により治療的診断4)を行うことは有用であると考えている。本稿では,日常臨床での診断の組み立てを中心に記した。

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Facial dismasking flapは,頭蓋底外科領域で用いられていた冠状皮膚切開によるアプローチを応用し顔面への術野展開を可能とした手技で,1993年に報告された1)。今回われわれは,頭蓋底合併切除を念頭に置いてfacial dismasking flapを選択し上顎洞癌に対する手術を行い,良好な結果を得たので報告する。

 症例:70歳,男性

 主訴:左鼻閉

 既往歴:2001年,慢性副鼻腔炎の診断で某院耳鼻咽喉科にて,両側内視鏡下鼻内手術を受けた。

 現病歴:2002年7月,副鼻腔炎術後経過観察中の耳鼻咽喉科にて,左鼻腔内の腫瘤を指摘され生検を行ったところ,腺癌の病理組織診断であったため当科を紹介された。

 初診時所見:左鼻腔内を充満する壊死性の腫瘤を認めた。CT検査で,左上顎洞と左鼻腔を占拠し,篩骨洞と眼窩に浸潤する腫瘍陰影がみられた(図1a)。MRI検査では,篩骨洞,前頭洞の腫瘍は頭蓋底に接し浸潤が疑われた(図1b)。

 術前経過:頭蓋底合併切除も想定されたため当院脳神経外科と検討したところ,側頭部から頭頂部にかけた冠状皮膚切開による開頭が必要と考えられた。そこで,開頭も可能で,さらに顔面に皮切を加えず顔面の醜形が少ないfacial dismasking flapを用いて上顎洞癌の切除を行うこととした。

 手術所見:冠状皮膚切開のデザインののち(図2),皮弁を前下方へ翻転し,全周性に眼瞼を切開して,さらに上顎洞底が視野に入る下方まで術野を展開した(図3)。上顎洞,眼窩,頭蓋底は,すべてこのアプローチで観察可能であった。術中迅速病理診断で頭蓋底と上顎洞底には腫瘍の浸潤がなかったため,眼窩内容物摘出を含み上顎洞底は残した上顎亜全摘術を行った(図4,5)。欠損部は遊離腹直筋皮弁により一期的に再建した。

 術後経過:60 Gyの術後照射を追加し手術より3か月後に退院し,以後2年にわたり再発なく外来経過観察中である。

 本症例は,当初,冠状皮膚切開による頭蓋底合併切除が必要と考えられたため,さらに上顎全摘術に際し一般的なWeber皮切を加えて顔面皮膚への侵襲と醜形が過大になることを懸念してfacial dismasking flapを選択した。結果的に頭蓋底合併切除は要しなかったが,上顎洞底部までの操作は十分可能であり,Weber皮切に比べ術後の顔面醜形は軽微であった2)。本手技は上顎癌手術の全例に適応となるわけではないが,癌の占拠部位によっては根治性を損うことなく顔面の醜形を軽減しうる選択肢であると考えられた。

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Ⅰ はじめに

 嚥下は,多くの筋が巧妙なタイミングで収縮と弛緩を行うことで遂行される。この嚥下機構はきわめて複雑で,特に咽頭期においては,知覚神経系,脳幹の嚥下中枢,運動神経系,および嚥下関与筋がきわめて協調的に機能することにより成り立っている。それぞれの機能的役割については,これまでにも多くの研究者により基礎的・臨床的研究が精力的に行われ,複雑な嚥下機構の詳細が解明されてきた。われわれも嚥下関与筋のなかでもっとも重要な役割を担う下咽頭収縮筋を主な対象として,生理学的・形態学的研究を展開してきた。下咽頭収縮筋は頭側の甲状咽頭筋と尾側の輪状咽頭筋の総称であるが,前者が嚥下の咽頭期に食塊の駆動筋として機能するのに対し,後者は食道入口部括約筋として機能するという対照的な役割を担う。このようなことから下咽頭収縮筋の機能と形態を明らかにすることは,生理的な嚥下機構および嚥下障害の病態の解明につながる。本稿では,下咽頭収縮筋に関連してわれわれが行ってきた一連の研究成果を述べ,嚥下機能との関連性について概説する。

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I.はじめに

 急性中耳炎は,抗菌薬の進歩により治療を容易としたが,1990年代に入り重症化,遷延化,反復化したいわゆる難治例を日常臨床上しばしば経験するようになった。ムコイド型肺炎球菌によるムコーズス中耳炎も同様な再興感染症で,重症化例が近年報告されている1)。本疾患は戦前,抗菌薬がなかった時代には高率に急性乳様突起炎を併発し,約10%が頭蓋内合併症で死亡していたとされる1)。また,本症は高率に内耳障害を併発するため的確な判断と治療が重要となるが,基礎疾患が存在する場合は治療が困難となることもある。

 今回われわれは,糖尿病に合併した成人急性ムコーズス中耳炎新鮮症例を経験したので,その臨床像,治療,経過を述べるとともに,若干の文献的考察を加えて報告する。

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I.はじめに

 本邦では爆発物による自殺未遂例は少なく,生存例も稀である。爆発による顔面の高度の欠損に対して,遊離皮弁以外での再建手段は非常に困難である。今回,自殺企図にてダイナマイト点火用の雷管を口腔内で爆破させ,顎顔面の多発粉砕骨折を生じた1例を経験したので報告する。

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I.はじめに

 Intramuscular myxomaは稀な良性の軟部組織腫瘍で,1965年にEnzinger1)により初めて臨床病理学的に報告された。大腿や臀部,肩の大きな筋肉内に発生することが多く2,3),頭頸部での報告は10症例しかない。今回,われわれは,舌骨下筋群内に発生したintramuscular myxomaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

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I.はじめに

 耳鼻咽喉科の日常診療で,歯原性の炎症性疾患に遭遇することは稀ではない。しかし,歯原性であっても,歯牙に関連する症状がない場合や,歯牙および歯周組織に著しい変化のない場合,あるいはほかの症状が顕著に出現した場合,診断に苦慮することとなる。

 今回われわれは,埋伏智歯が原因となって慢性硬化性下顎骨骨髄炎を生じ,その炎症が周囲に波及することによって顎下部膿瘍を惹起したと考えられた症例を経験した。本症例の病態について報告するとともに,慢性硬化性下顎骨骨髄炎の診断と治療法について文献的考察を行ったので報告する。

シリーズ 難治性疾患への対応

⑩口内炎 山本 祐三
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Ⅰ はじめに

 口内炎とは口腔に生じる炎症の総称で,きわめて多くの疾患が含まれる。そのなかには,問診や口腔の特徴的な肉眼的所見から診断が比較的容易であったり,また小児ウイルス感染症や皮膚科的,内科的全身疾患などの部分症として口内病変を捉えることにより確定診断が可能となり,適切な治療を行えば治癒する疾患も多く含まれる。一方,肉眼的には非特異的な潰瘍所見を呈するだけで,生検を行っても診断が確定せず,治療にも抵抗する疾患が存在する。後者は,現時点では原因不明の難治性口腔咽頭潰瘍と呼ばれる。本稿では,難治性口腔咽頭潰瘍と,その鑑別診断のなかで最も類縁と考えられるBehçet病について論説する。

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1.なぜ側頭骨病理か―耳科学における機能と形態の重要性

 病態解明には,常に機能と形態の両面からのアプローチが必要であることは身体のどの器官でもいえることですが,聴器においては,生前に形態(病理)を明らかにすることはできませんので,耳疾患の病態解明には,側頭骨病理からのアプローチが不可欠になります。

 これまでの私の主な研究対象であった耳毒性薬剤の研究が一段落したのを機会に,恩師の大内仁教授の勧めもあり,側頭骨病理の研究を始めることにしました。まず,標本作製法を習得しなければなりませんでしたが,幸い村上嘉彦先生の推薦をいただき,Harvard大学(Massachusetts眼耳病院)のSchuknecht教授のもとに留学する機会を得ることができました。1982年のことです。私よりも以前に,Schuknecht教授のもとには,日本から12名の方々が留学されていましたが,これまで標本作製法の習得を目的に来た人はいらっしゃらないとのことでした。標本作製法をtechnician達から懇切丁寧に教えてもらうことができましたが,休日にまで出勤して準備をしてくださるなど,その親切さに頭の下がる思いでした。しかし,これまでのresearch fellowと違って,論文を書く気配のない様子に,technician達も気になるらしく,またSchuknecht教授からも,Bostonに留学した証拠もつくりなさいとよくいわれました。幸い周囲のお膳立てに助けられ,2編の論文を完成させることができました。Schuknecht教授の校閲では,discussionについての厳しい指摘や,共著者に自分の名前を削除してtechnicianの名前を入れるなど,Schuknecht教授の学問の対する厳しさと,優しい思いやりに感動したのを懐かしく思い出します。

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
77巻12号 (2005年11月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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