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Facial dismasking flapは,頭蓋底外科領域で用いられていた冠状皮膚切開によるアプローチを応用し顔面への術野展開を可能とした手技で,1993年に報告された1)。今回われわれは,頭蓋底合併切除を念頭に置いてfacial dismasking flapを選択し上顎洞癌に対する手術を行い,良好な結果を得たので報告する。
症例:70歳,男性
主訴:左鼻閉
既往歴:2001年,慢性副鼻腔炎の診断で某院耳鼻咽喉科にて,両側内視鏡下鼻内手術を受けた。
現病歴:2002年7月,副鼻腔炎術後経過観察中の耳鼻咽喉科にて,左鼻腔内の腫瘤を指摘され生検を行ったところ,腺癌の病理組織診断であったため当科を紹介された。
初診時所見:左鼻腔内を充満する壊死性の腫瘤を認めた。CT検査で,左上顎洞と左鼻腔を占拠し,篩骨洞と眼窩に浸潤する腫瘍陰影がみられた(図1a)。MRI検査では,篩骨洞,前頭洞の腫瘍は頭蓋底に接し浸潤が疑われた(図1b)。
術前経過:頭蓋底合併切除も想定されたため当院脳神経外科と検討したところ,側頭部から頭頂部にかけた冠状皮膚切開による開頭が必要と考えられた。そこで,開頭も可能で,さらに顔面に皮切を加えず顔面の醜形が少ないfacial dismasking flapを用いて上顎洞癌の切除を行うこととした。
手術所見:冠状皮膚切開のデザインののち(図2),皮弁を前下方へ翻転し,全周性に眼瞼を切開して,さらに上顎洞底が視野に入る下方まで術野を展開した(図3)。上顎洞,眼窩,頭蓋底は,すべてこのアプローチで観察可能であった。術中迅速病理診断で頭蓋底と上顎洞底には腫瘍の浸潤がなかったため,眼窩内容物摘出を含み上顎洞底は残した上顎亜全摘術を行った(図4,5)。欠損部は遊離腹直筋皮弁により一期的に再建した。
術後経過:60 Gyの術後照射を追加し手術より3か月後に退院し,以後2年にわたり再発なく外来経過観察中である。
本症例は,当初,冠状皮膚切開による頭蓋底合併切除が必要と考えられたため,さらに上顎全摘術に際し一般的なWeber皮切を加えて顔面皮膚への侵襲と醜形が過大になることを懸念してfacial dismasking flapを選択した。結果的に頭蓋底合併切除は要しなかったが,上顎洞底部までの操作は十分可能であり,Weber皮切に比べ術後の顔面醜形は軽微であった2)。本手技は上顎癌手術の全例に適応となるわけではないが,癌の占拠部位によっては根治性を損うことなく顔面の醜形を軽減しうる選択肢であると考えられた。
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