化学療法の領域 33巻12号 (2017年11月)

特集 性感染症におけるup to date

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 淋菌の抗菌薬耐性化,非淋菌性尿道炎の原因微生物の抗菌薬低感受性化,梅毒罹患率の増加など性感染症は変化しており,それに応じて診断法と治療法も絶えずup to dateに進化している。また,性器クラミジア感染症は継続して罹患率が高く,ウイルス性感染症である性器ヘルペスと尖圭コンジローマも罹患率はおおむね変わらない。このような現状をふまえて,本稿では母子感染と予防教育も含めた性感染症のup to dateについて詳述する。

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 淋菌感染症は淋菌による感染症の総称であり,代表的疾患は淋菌性尿道炎と子宮頸管炎である。淋菌感染症は2002年頃をピークに減少しているが,2008年頃からは多少の増減はあるもののほぼ横ばいである。抗菌薬の適正使用のためには正確な診断が必要であり,淋菌の検出法として,鏡検法,培養検査および核酸増幅法検査がある。鏡検法は煩雑であるが,もっとも迅速であり感度も高く,培養法は薬剤感受性が併施でき,核酸増幅法検査のみがクラミジアを同時に検出できる。したがってベッドサイドで正確な診断が可能な鏡検法の施行が勧められる。すでに淋菌は各種抗菌薬に耐性を獲得している。わが国においても,ペニシリン,テトラサイクリン,キノロン,経口セファロスポリンやマクロライドの耐性率は高い。そのため現在,CTRX(セフトリアキソン)とSPCM(スペクチノマイシン)のみが推奨薬となっている。海外のガイドラインはCTRXとAZM(アジスロマイシン)のdual therapyが推奨されているが,synergy効果はなく,また各々の容量が少なく推奨できない。

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 性器クラミジア感染症は,わが国において,また世界的にも,いまだにもっとも罹患率の高い性感染症である。クラミジア・トラコマティスが原因微生物であり,細胞内感染により増殖する。クラミジア・トラコマティス感染による妊孕能への影響,骨盤内炎症性疾患などの重症化,母子感染などを防ぐために適切な診断と治療が重要である。最近のわが国でのサーベイランス報告では,幸いにも耐性化傾向は認められず,標準治療が有効である。今後は核酸増幅法を用いた迅速診断が普及してくると予想される。その結果として,1回の通院で感染の有無が判明し,結果を伝えることができること,そして初期治療において,その有効性が高くなることが期待されている。

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 Mycoplasma genitaliumは,男性の尿道炎,女性の子宮頸管炎の原因微生物である。Mollicutes網に属し,自己増殖が可能な最少の細菌である。細胞壁をもたず,その構成成分であるペプチドグリカンを合成しない。臨床検体からの培養はきわめて困難であり,検出は核酸増幅法による。しかし,わが国ではM. genitalium感染症に対する検査・治療に対して保険適用がないため,自費検査または研究目的での検出が行われている。マクロライド系抗菌薬やニューキノロン薬の中ではモキシフロキサシンやシタフロキサシンがM. genitaliumに対して強い抗菌活性をもっていた。しかし,マクロライド耐性株が分離され,その耐性メカニズムはマクロライドの標的となる23S rRNAの遺伝子変異による。現在,わが国ではマクロライド耐性の割合が約40%以上と考えられている。さらに,モキシフロキサシンやシタフロキサシンにも耐性を示す株が分離されており,その割合は増加している。キノロン耐性のメカニズムは完全には解析されていない。今後,これらの耐性M. genitaliumはさらに増加することが予想され,難治性尿道炎症例の増加が危惧される。

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 性感染症の蔓延が問題となっている。淋菌やクラミジアによる尿道炎や子宮頸管炎はもとより,最近わが国では梅毒の増加が著しく,HIVも減少傾向がみられていない。この現象は性器外の性感染症が一因となっている可能性が指摘されている。性器外性感染症を考える上で,性感染症の中で頻度の高い淋菌とクラミジア感染については,性器感染から進行した骨盤内感染や肝周囲炎と,異なるサイトの感染である結膜炎,咽頭炎,直腸炎を分けて考える必要がある。特に無症状で頻度が高いと考えられる咽頭炎は尿道炎や子宮頸管炎が蔓延する原因としてもっとも注目すべきである。性器外性感染症の診断や治療において,もっとも信頼できる拡散増幅検査や通常の性感染症で使用する治療薬が保険収載されていないことに注意が必要であり,感染制御の限界と言える。さらに治癒判定まで行われる可能性も低いため,治癒率を優先した適切な治療を行っておくことが肝要であり,少しでも性器外性感染症から性感染症が拡散する流れに歯止めをかけなければならない。

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 ヘルペスウイルスは大型DNAウイルスの代表的なウイルスで,無脊椎動物から高等哺乳類まで,さまざまな宿主から分離されている。ヒトに感染する9種類のヘルペスウイルスのうち,単純ヘルペスウイルス感染症は日常診療でもっとも高頻度に遭遇する機会が多い感染症のひとつである。性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex virus, type-1:HSV-1)または2型(HSV-2)の感染によるウイルス性の性感染症である。性器ヘルペスは古典的に知られている疾患であるが,非典型的な臨床像,病原診断における保険診療の有無,先制療法の保険未認可など,診療における克服すべき課題は山積である。本稿では,性器ヘルペスの臨床像,診断,治療,予防に関して,わが国における課題,最新の知見を含めて概説する。

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 尖圭コンジローマに関するトピックスは,4大性感染症の中で唯一予防が可能となったヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンと,尖圭コンジローマ合併妊婦からの母子感染症である呼吸器乳頭腫症(RRP)に関する情報であろう。HPVワクチンは全世界的に普及し,尖圭コンジローマが根絶されつつある海外に対して,国内ではHPVワクチンクライシスと言われるワクチン接種勧奨中止が問題となっている。一方,妊娠中の尖圭コンジローマについては,母子感染症のリスクがあるため,その診断から管理方法まで幅広い見識が必要である。それとともに妊婦へのインフォームドコンセントも慎重に行わなければいけない。本稿では尖圭コンジローマの診断を復習しつつ,これらの話題に触れたい。

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 近年,梅毒の報告数は急増しており再流行の兆しをみせている。梅毒はTreponema pallidum(TP)による慢性の感染症であり,その経過で無症候期があることを理解する必要がある。診断には血清学的検査が用いられ,脂質抗原法とTP抗原法の両者を測定する。病勢の把握や治癒判定には脂質抗原法が用いられる。血清学的検査は用手的検査から自動化法へ移行しつつあり,検査結果の解釈も変わってきている。治療にはペニシリンが使用されるが,わが国では世界的に用いられる筋肉内注射ではなく内服治療が通例である。梅毒を含む性感染症の拡大予防には,感染予防,早期発見,早期治療が重要である。

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 梅毒は妊婦に感染すると胎盤を通じて胎児に感染をきたし,先天梅毒をきたす。胎児への感染のリスクは,妊婦の感染時期,梅毒の病期,適切な治療の有無など,さまざまな因子によって規定される。国内での大きな問題点は,近年,国内での梅毒患者数が増加の一途をたどっていることであり,今後,妊婦の感染者も増加し,先天梅毒の症例数の増加が危惧される。先天梅毒は,妊婦への適切なスクリーニング検査と治療,児への適切な評価と治療によってその予防がほぼ可能な疾患であり,治療の閾値は低く設定しておく必要がある。一方で,母親からの移行抗体の影響で先天梅毒の血清学的検査結果の解釈とその診断は容易ではない。また,海外で標準的に使用されている薬剤が国内で使用できないという現実もある。

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 性病クラミジア感染症の原因菌であるクラミジア・トラコマティスは,母子感染により新生児における封入体結膜炎や肺炎をきたしうる。妊婦検診における性病クラミジア感染症のスクリーニング検査の普及により母子感染を未然に防ぐことがもっとも重要であるが,未受診妊婦や若年妊婦など比較的リスクの高い集団も存在する。クラミジア感染症は一般細菌感染症やウイルス感染症とは診断や治療が異なり,その特殊な疫学や臨床的特徴をふまえ,予防に至らず発症した患者の発見に努める必要がある。

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 性感染症(STI)は感染した個人の生命・健康に対するリスクがあるだけではなく,不妊や妊娠経過の異常,母子感染による次世代の生命・健康へのリスクもある。性欲は人間の基本的欲求のひとつであり,思春期以降に性的関心をもち,性的欲求が出現することは発達段階の正常な過程である。STI罹患率の減少は国の重要課題のひとつでもあり,医師や看護職など医療の専門家は,感染した患者が受診するのを待って治療するだけではなく,新規感染者を出さないための予防啓発活動を担ってほしい。STI予防は低年齢からの教育の積み重ねが必要であり,乳幼児期から成人までの各段階において医療者がさまざまな場面で予防教育を行い,また予防教育にかかわる人々を支援することが重要である。

連載 カラーグラフィック

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 感染症の病理診断に病原体の証明は欠かすことができない。臨床情報や検査所見を参照しつつ行う肉眼所見,HE染色,Papanicolaou(Pap)染色や,Giemsa染色による組織・細胞像の読みが基本中の基本である。本誌先月号(2017年11月号)で紹介した特殊染色の有用性・汎用性も忘れてはならないが,本稿では,特異性の高い病原体証明法である免疫染色(酵素抗体法),in situ hybridization(ISH)法およびpolymerase chain reaction(PCR)法の応用を紹介する。

連載 私達の研究(177)

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 医師主導型の臨床研究の推進はわが国における近年の課題である。いわゆる治験ではなく,臨床の現場における疑問から発展していく臨床研究を一般臨床医が必要に応じて積極的に行うことが望まれている。我々は呼吸器領域において,超高齢社会におけるわが国の肺炎ガイドラインの問題点を指摘し,それを解決するための研究を遂行してきた。本稿ではその過程の一端を紹介するとともに,若手医師へのメッセージになればと考える。

連載 忘れられない症例(2)

思い出に残る症例 尾内一信

連載 化学療法剤および抗生物質に関する文献紹介(142)

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◆ 直腸がんにおける放射線療法の効果:治療へのアジュバントとしてのアスピリン,スタチン,メトフォルミンの役割 ◆ リンパ腫の高齢患者に対する合理的な治療選択 ◆ アンスラサイクリンベース治療の心毒性:何がエビデンスでどのような障害の可能性があるのか? ◆ トリプルネガティブ乳がん患者の治療におけるPARP阻害剤

特集扉

性感染症におけるup to date

巻末資料

抗癌剤略号早見表

抗癌剤併用療法略号早見表

抗菌薬略号早見表

次号予告

2018年1月号予告
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化学療法の領域 2017年12月号(Vol.33 No.12) 化学療法の領域 次号(2018年1月号)おもな内容 特集「成人肺炎診療ガイドライン2017-残された課題と研究的視点を含めて-」 序  大分大学医学部呼吸器・感染症内科学講座教授 門田 淳一 1.成人肺炎診療ガイドライン2017の概要 長崎大学大学院医歯薬総合研究科呼吸器内科学分野(第二内科)教授 迎   寛 2.肺炎の分類と疫学 大阪大学医学部附属病院感染制御部教授 朝野 和典 3.肺炎発症病態における新知見 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学(臨床検査医学)教授 栁原 克紀 4.肺炎原因病原体の特徴 東京医科大学微生物学講座主任教授 松本 哲哉 5.肺炎の診断法 -特に原因微生物検査法と重症度評価について- 佐賀大学医学部国際医療学講座・臨床感染症学分野教授 青木 洋介 6.肺炎の治療 国立病院機構沖縄病院呼吸器内科統括診療部長 比嘉  太 7.肺炎患者の治療選択における倫理的側面 川崎医科大学総合内科学1准教授 宮下 修行 8.肺炎の予防 国立病院機構三重病院呼吸器内科 丸山 貴也 9.肺炎研究における新視点 -バイオマーカーの活用- 公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院呼吸器内科主任部長 石田  直 (12月25日発行)

基本情報

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化学療法の領域
33巻12号 (2017年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0913-2384 医薬ジャーナル社

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