臨床整形外科 36巻6号 (2001年6月)

シンポジウム 膝複合靭帯損傷の診断と治療

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 膝複合靱帯損傷(complex ligamentous injury:CLI)は複雑な膝不安定性を呈するが,大きな機能障害をもたらすのは複合不安定性である回旋不安定性である.この回旋不安定性はACLまたはACLを含んだCLIで生じることが多い.また靱帯損傷には完全断裂から不顕性の不全断裂まで組み合わされるので,CLIの診断は個々の靱帯の制御機能の理解を基に,単純X線写真,stress X線写真,関節造影,MRIなどの画像所見,Knee Arthrometer,関節鏡所見を補助診断法とし,きめ細かい徒手検査により下される.

 手術により診断を確定したACL,PCLおよびACL+PCL損傷を含むCLI自験例96例を対象として,膝関節の代表的CL1の病態と診断について述べる.

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 膝関節複合靱帯損傷例で,gradeⅡ以上の内側支持機構損傷を合併したものを対象とし,その治療成績の検討を行った.内側支持機構に対する治療方針は,新鮮例には保存的治療を原則とした.また,陳旧性で著明な不安定性を有する例に対しては,1995年以来,自家移植腱を用いた靱帯再建術を行っている.手術に際しては,患側の半腱様筋腱・薄筋腱を3~4重の腱束としたものを用い,内側側副靱帯前縦走線維の近・遠位付着部に作製した骨孔に固定し,再建術を行った.治療成績について見ると,新鮮損傷例での保存的治療の成績は,ほぼ良好な成績であったが,ときに残存する内側不安定性に伴う症状を有する例があった.一方,靱帯再建術を施行した例に関しては,対象となった18例全例において,ストレスX線撮影上,左右差2mm以内の良好な安定性が再獲得されていた.

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 膝関節の後外側支持機構の解剖は複雑であり,広く正確に知られているとは言えない.また複合靭帯損傷例では十字靭帯損傷に後外側支持機構損傷が合併することは稀ではない.新鮮損傷例では解剖学的修復術が望ましい.陳旧例に対して,筆者らはproximal advancement,次いでhigh tibialosteotomy+distal advancementを行ってきており,最近はanatomical reconstructionを行っている.前二者の術後成績は比較的良好ではあるが,不安定性の残存が認められた.再建術においては,後外側支持機構のうちlateral colateral ligamentとpopliteofibular ligamentを解剖学的に再建した.術後成績は安定性,可動域ともに良好であった.

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 前・後十字靱帯の損傷に対する自家腱を用いた鏡視下前・後十字靱帯同時再建術につき,手術方法の詳細,術後リハビリテーション,近隔成績につき述べた.本法は,安全で良好な成績が期待できる術式であるが,行程が多く,かつ中間位の決定などに難渋するなど,問題点も残されている.施行に当たっては,綿密な術前計画と手慣れたチームによる正確で迅速な手術手技と,慎重な術後リハビリテーションが要求される.

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 前および後十字靱帯複合損傷22膝に対して屈筋腱ハイブリッド材料を用いた関節鏡視下再建術を行い,平均27カ月間経過観察した.新鮮例(7膝)は二期的に再建し,陳旧例(15膝)ではすべての靱帯の同時再建を行った.術後成績において伸展制限が認められた症例はなく,屈曲制限は全例で15度以下であり,12膝で正座可能であった.前後総合不安定性の健患側差は,新鮮例では術後1膝を除いて5mm以下であり,陳旧例では5mm以下が10膝,5~7mmが3膝,8mm以上が2膝であった.術後IKDC評価は,新鮮例で6例がB (ほぼ正常)1膝がC (やや異常)であり,陳旧例でBが10例,Cが3例,D (著明に異常)が2例であった.複合靱帯損傷に対するこの治療方針は,現時点ではほぼ妥当であると考えられた.しかしその成績は,ACLあるいはPCL単独再建術の成績と比較するといまだ満足できるものではなく,今後更なる研究と改良が必要である.

視座

頻発する医療事故に思う 落合 直之
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 昨年は,堰を切ったかのごとく毎日のように医療事故が報じられた観がある.急にこの手の事故が増えたわけではないはずで,これまでは病院内部で処理されていたものが,すべて白日に晒すべきという情報公開の理念の導入に伴う社会通念の変革期を反映した結果といえよう.いわゆる世間の考え方の変化,別の言い方をすれば患者と医師の人間関係が日本的なウェットな関係から,欧米的なドライな関係にシフトしてきていることの表れともとらえられる.

 1月20日付けの読売新聞には,“医療事故調”設置へという見出しで以下のようなことが書いてあった.多発する医療事故を減らすために,厚生労働省は,新年度から医療安全対策検討会を設置する.そこでは,ヒューマンエラー部会で人がかかわった事故を扱い,医薬品・医療用具対策部会で医療用具の欠陥などが原因の事故を考える.さらに医療事故を複合的に分析し防止対策を練るために,委員には,医師など医療従事者のほか,トータルな事故分析が定着している航空業界からも事故調査の専門家を招く.将来的には航空機事故の際に設置される事故調査委員会のような組織に発展させたい.同省は,今後ニアミス体験のデータを全国的に収集し,共通事故レポート用紙から事故原因を統計的に処理し再発防止策の提言をしていきたい,といった内容である.

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 抄録:1998年6月から99年12月までの1年6カ月の間に当科でinstrumentationを用い腰椎椎体間固定術を施行した症例22例を対象に,骨癒合と術後のinstrumentによって生じる問題について,椎体骨密度(BMD)との関係を調査した.臨床症状は,JOA score術前12点が術後26点へと改善し,改善率は83%と良好な結果が得られた.X線評価では,22例中20例(91%)において良好な骨癒合(fusion insitu)が得られた.2例については,術後に,移植骨の圧潰が生じたが,骨癒合が得られた(collapsedfusion).また,臨床的には問題とはならなかったが,3例においては,pedicle screwのゆるみやscrewにより椎弓根の骨折を生じた.手術対象症例おける椎体骨密度は,年齢との間に相関関係は認められなかった(R2=0.001).男女の比較では,BMDは男性に比較して女性では有意に低く(p=0.0003),また,椎体別にみると上位腰椎は下位腰椎に比較して有意に骨密度は低下していた(p=0.0001).骨密度の低下した症例のうちBMDが0.8g/cm2以下の症例の約50%に,移植骨の圧潰やscrewによる椎弓根の骨折など何らかの問題が生じていた.

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 抄録:DEXAを用いて,女性の健常者265例,大腿骨頚部骨折32例,変形性股関節症53例について腰椎,大腿骨近位部の骨密度(BMD)を測定したところ,健常女性におけるBMDは,50歳代より有意な低下がみられた.大腿骨頚部骨折例におけるBMDは,健常群に比べ低下傾向がみられた.変形性股関節症例におけるBMDは,健常群との差はみられなかった.今回の結果では,大腿骨頚部骨折におけるBMDの低下が明らかで,骨折発生における危険因子となっていると思われたが,変形性股関節症に関しては,BMDに影響すると考えられる罹病期間,臥床期間,生活様式,歩行能力などの条件を厳密に統一すべきとの報告が多く,今後更に再検討を要すると思われた.

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 抄録:人工膝関節形成術(TKA)において,𦙾骨コンポーネントの被覆はその弛みの要因に大きく関与している.したがって,十分な被覆が要求されることは明白である.今回われわれは,正しい回旋位で設置された𦙾骨コンポーネントの被覆率を,市販されている6種類の機種間(DELTFIT,GENESISI,KINEMAX,NEXGEN,PROFIXおよびLFA)で比較した.日本人17屍体膝を用い,実際のTKAの手技と同じ骨切りとコンポーネントの設置を行って写真撮影をし,コンピュータ画像処理によって𦙾骨骨切り面に対するコンポーネントの被覆率を算出した.総被覆率に関してはLFAがKINEMAX,GENESISIよりも有意に高かった.最荷重である後内側部でもLFAはPROFIX以外のどの機種よりも有意に高かった.LFAのみがすべての領域で90%以上の被覆率を示した.

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 抄録:1993年から1999年の間,通常型骨肉腫13例に対し金沢大学のK-1,K-2プロトコールに準じたカフェイン併用化学療法を施行した.対象症例のsurgical stage (Enneking)は,stageⅡが10(ⅡA1例,ⅡB9例)例,stage Ⅲが3(ⅢB3例)例で,術前化学療法による組織学的効果では,grade 0が1例,grade 1が2例,grade 2が2例,およびgrade 3が8例であった.最終調査時における転帰は,stage Ⅱがcontinuous disease free 6例,alive with disease (AWD)2例,dead of disease (DOD)2例であり,stageⅢがno evidence of disease,AWD,そしてDOD各1例ずつであった.Kaplan-Meier法による5年累積生存率は76%で,stage別にみると,stage Ⅱ症例の5年累積生存率は80%であり,stage Ⅲ症例の3年累積生存率は67%であった.骨肉腫に対するカフェイン併用化学療法は,局所有効性と生命予後において有効と思われた.しかし,効果の期待できない症例が2~3割存在していた.

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 抄録:FluoroNavTM(仮想イメージシステム)は術中のイメージ画像を利用する新しいイメージガイドシステムである.術前操作は全く必要がなく,キャリブレーションターゲットをイメージのC―アームに装着して画像を撮影するだけで,ナビゲーションが可能である.手術器具の位置を赤外線カメラで捉え,その位置がリアルタイムにモニター上のイメージ画像に表示される.精度検証には腰椎モデル10セット,50椎体を使用した.正面,側面2方向のイメージを撮影し,このデータに基づいてドリルガイドを用いてドリルで椎弓根にスクリュー刺入孔を作成した.また,モデル表面を触れて精度を確認した.ドリルの逸脱もなく,システムの精度はきわめて高かった.また,2方向の画像を同時に見ることはきわめて有用であり,椎弓根スクリュー刺入だけでなく骨接合術など様々な手術に応用可能である.

シリーズ 関節鏡視下手術―最近の進歩

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 抄録:屈曲拘縮を伴うような進行した変形性膝関節症の加療となると鏡視下手術では不可能であると考えられている.しかしわれわれが行っている鏡視下後内側解離術は重度の症例にも一定の割合で有効であることがわかっており,初期の変形性膝関節症にとどまらず適応範囲が広い点で,現時点では唯一の鏡視下手術である.この手術で施行することは内側半月板の可及的全切除と内側側副靱帯および内側関節包を𦙾骨内側顆より剥離し,内側コンパートメントをリリースすることである.ここでは鏡視下後内側解離術の術式につき概説し,その術後成績を提示し,適応を考察した.手術の適応に関しては,臨床症状が膝内側に限局した変型性膝関節症であること,中でもMRI所見にて大腿骨内側顆の輪郭をなす軟骨下骨の像に不整のない症例ではよい適応となると考えられた.

最新基礎科学/知っておきたい

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 トランスジェニックマウス(遺伝子導入マウス)とは外来遺伝子を組み込んだマウスのことである.受精卵の前核に遺伝子DNAの溶液を注入すると,受精卵の染色体に組み込まれ,その後の発生過程において細胞分裂が起こる度に,すべての体細胞にその染色体の一部として分配されていく.因みにノックアウトマウスは特定の遺伝子を全体細胞で不活化したマウスのことである.トランスジェニックマウスは,導入遺伝子がコードする蛋白の生体における機能を調べるための有用な手段である.例えば,がん遺伝子を導入されたトランスジェニックマウスにがんが発生し,成長ホルモン遺伝子を導入されたトランスジェニックマウスは過成長し,巨人症様変化を呈する.軟骨形成因子(carti―lage-derived morphogenetic protein-1)遺伝子を導入したマウスは軟骨原基の増大とともに関節の癒合を来す.このような軟骨形成因子の機能は培養細胞では決して調べられず,個体まで発生させなければわからないことである.

国際学会印象記

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 2000(平成12)年10月4~7日まで,スペインのバルセロナにて第5回国際OA学会Osteoarthritis ResearchSociety International (OARSI)が開催されました.本学会は1990年に変形性関節症に対する臨床的,生化学的,分子生物学的取り組みを目的として初回が開催され,今回で5回目です.OARSIはアメリカのワシントンDCに本部を置き,世界各国に414名の会員を擁しており,その学会誌である“Osteoarthritis andCartilage”は整形外科医のみならず軟骨の研究に携わる多くの基礎研究者から投稿されており,高いインパクトファクターを持つことで近年注目されています.第5回の本学会につき報告いたします.

ついである記・57

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 私が初めてモンゴルを訪れたのは1999年7月であった.そのとき,私の診察を希望して多くの子供患者が母親に連れられて病院に来ていたが,私はその内の約半数だけしか診る時間がなく,うらめしげな表情をした母子を残して病院を発たなければならなかった.その事情については「ついである記(41)」に書いた.あのときの後ろめたさが私の心の中にいつ迄も消えることなく残っていたので,翌年,再びモンゴル整形外科学会のブディー会長から要請があったとき,私は躊躇することなくモンゴル再訪を引き受けた.そして,今回は観光もショッピングも予定せず,滞在中のすべての時間を講義と診療に当てようと考えていた.

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 抄録:比較的稀なeccrine spiradenomaの1例を経験したので報告する.症例は55歳の男性で,10年前より右下腿に有痛性皮下腫瘍を認めた.画像上,MRI T1強調像で低信号,T2強調像で高信号を呈し,周囲に低信号領域を伴っていた.Gd-DTPAによる造影後T1強調像では,腫瘍はほぼ均一な増強効果を示した.組織学的には,真皮から皮下組織に存在する充実性腫瘍で,結合織性被膜で被覆されていた.腫瘍細胞は索状あるいは小葉状に増殖しており,好塩基性に淡染する大型の核を持つ明調細胞と,濃染する小型の核を持つ暗調細胞の2種類の細胞から構成されていた.大型の明調細胞は小集塊を形成し,その周囲を小型の暗調細胞が取り囲むように配列していた.本腫瘍は臨床的に通常直径1~2cmの境界明瞭な弾性硬の皮内・皮下腫瘍で,ドーム状・半球状に隆起するものが多く,自発痛・圧痛を伴うことが特徴とされている.

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 抄録:先天性皮膚洞を伴った頚椎部類表皮嚢腫の1例を経験した.症例は54歳の女性で,後頚部~左肩の疼痛,ふらつきを主訴に来院した.頚部背側正中にdimpleを認め,MRIにてC3高位頚髄背側の腫瘤と硬膜から背側皮膚に向かう索条物がみられた.術中所見では,dimpleからC3椎弓左側を貫通して硬膜に達する白色の索条物を認めた.また,脊髄背側に灰色の嚢腫を認め,その内容物は褐色の液体であった.病理組織にて,類表皮嚢腫と診断した.術後6カ月の現在,術前の症状は軽快して経過良好である.

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 抄録:鎖骨骨折は日常の診療でよくみかける頻度の高い骨折であるが,両側同時に受傷することは比較的稀である.今回両側鎖骨骨折を経験したので報告した.症例は33歳,男性.自転車走行中に右側より乗用車に衝突され,右鎖骨部痛が出現した.某院にて右鎖骨骨折の診断を受け,当院を紹介され来院した.左鎖骨部にも疼痛および圧痛を認めたためレントゲン撮影したところ左鎖骨中1/3の骨折を伴っていた.右鎖骨骨折に対してKirschner鋼線を用いた8の字締結法による観血的骨接合術を施行し,左鎖骨骨折は保存的に治療し良好な成績を得た.鎖骨骨折は骨折の部位や転位の程度により疼痛が少なく片側の鎖骨骨折を見落とすこともあるため,受傷機転によっては片側にとらわれず,両鎖骨骨折を受傷している可能性があることを念頭に置き診察することが必要である.

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 抄録:症例は45歳男性,24歳のときに第11胸椎巨細胞腫の診断のもと掻爬術を施行し,25歳のとき再手術,36歳のとき圧潰を来しLuqueロッドによる固定術を施行した.41歳のとき背部腫瘤,排液あり当科受診,ロッドならびにワイヤーの一部を切断した.以後,創の遷延治癒を見た.45歳のとき,頭痛,発熱,背部より排液あり他院を受診した.髄液漏,化膿性髄膜炎のため抗生剤の投与を受け,炎症が鎮静化したため髄液漏に対する加療目的で当科紹介受診となった.髄液漏はLuqueロッド,ワイヤーによる慢性機械的刺激が原因と思われたため,抜釘術を施行した.硬膜修復は行わず,低圧持続吸引を行ったが,排液が続き,頭痛が強いためCTを施行したところ,気脳症を認めた.髄液漏に伴う気脳症と診断し,硬膜修復術を施行し良好な結果を得た.気脳症については,整形外科領域では報告が少なく,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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臨床整形外科
36巻6号 (2001年6月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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