臨床整形外科 33巻12号 (1998年12月)

視座

整形外科と生体医工学 安田 和則
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 最近,「整形外科を研究するための方法として,生体医工学はもう時代遅れです」と忠告をしてくれた米国留学帰りの若い先生がいた.この忠告の根拠は,米国における整形外科関連の研究費の獲得し易さに関する近況からきているようだ.米国におけるそれは,研究方法における「流行(はやり)」を映している.約10年前の米国では生体医工学がその「流行」であり,萌芽的研究でも研究費を貰えたが,最近では価値ある結果を出さなければ研究費を獲得し難くなったというのは事実である.しかし,見方を変えると,これは生体医工学が整形外科の基礎研究を行うための方法として成熟したことを意味している.成熟した学問領域では,当然,方法よりも結果の真の価値が各研究ごとに厳しく問われることになる.この忠告者の勘違いは,研究方法における「流行」と研究の真の価値とを混同したことにある.もっとも日本での研究費の獲得に関しては,幸いこのような「流行」の影響は少ないようで,方法にかかわらず発展的に実績を残す研究を継続していれば,さして問題はない.

 ところで,この類の忠告があちこちでなされているのか,整形外科研究における生体医工学の将来に対して悲観的になっている若い研究者が,最近増えているようにも思える.そのような方は,生体医工学がどのような学問領域であるかを,もう一度考えてみることを勧めたい.

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抄録: 人工股関節置換術後のゆるみに対する大腿骨遠位固定型のセメントレス再置換術の有用性を検討した.対象は20例,21股関節,男性6例(7股),女性14例(14股)である.再置換術後の経過観察期間は平均4年8ヵ月であった.

 JOAスコアは術前平均50.5点(20~62点)が術後平均71.1点(52~90点)に改善した.21股中13股にbone ingrowthが得られ,unstableの症例はなかった.骨破壊が大腿骨骨髄腔の海綿骨のみでなく骨皮質にまで達していた17股関節のうち,骨皮質の部分的菲薄化が修復されたものは11股であった.また,皮質骨の部分的な欠損を有する7股のうち,修復されたものは5股であった.

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抄録: 人工膝関節置換術(TKA)後の骨化陰影の出現に関与する因子と,骨化が術後の関節可動域に与える影響を検討した.Deltafit型TKAを施行した51例(男性7例,女性44例,平均年齢68歳)64関節を対象とした.原疾患は変形性膝関節症(OA)44関節,慢性関節リウマチ(RA)19関節,大腿骨内側顆骨壊死1関節であった.術後64関節中25関節(39%)に何らかの骨化陰影を認め,そのほとんどは大腿骨前面に出現した.しかし,25関節中16関節(64%)は骨化陰影は徐々に縮小し,そのうち3関節は完全に消失した.骨化陰影はRA例に比べOA例で,特に術前の骨棘形成が高度な関節や,関節内遊離体を認めた関節で出現頻度が高かった.また,骨化は術後3~6カ月では関節可動域制限の原因となるものの,術後1年の追跡時には関節可動域は改善し,非進行性の病変であると考えられた.

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抄録: 1989年より1997年までの9年間に兵庫県立成人病センター整形外科外来を受診した癌骨転移患者199症例中,診断確定や原発巣の検索のために組織検査を行った患者は48例であった.このうち38例にX線コントロール下で針生検を施行し,診断確定率,手技の問題点を検討した.

 48例の組織検査のうち開創生検8例,細胞診2例,trephineによる針生検38例で,針生検の36例(94.7%)が癌転移と診断された.腎癌,甲状腺癌,肝癌,肺癌の一部は原発巣が組織診で推定された.合併症はなく,創も一時的に治癒し,早急に放射線照射された.

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抄録: 膝前十字靱帯再建術を施行された40歳以上の症例26例(平均46.1歳,40~61歳)の中期成績およびX線学的関節症変化について検討した.術後経過観察期間は平均3年1カ月(2~5年)であった.臨床成績は中期的にも良好に維持されており,半数の症例が術後も術前以上のactivity levelであった.また,IKDC最終評価で88.5%の症例がAまたはBであった.46.2%の症例において,X線学的に関節症変化の僅かな進行が認められたが,臨床上問題とはならなかった.これらの症例の術後activity levelは有意に高かった.中高齢者に対するACL再建術は侵襲の小さな手術と適切な後療法により良好な結果が得られると考えられた.しかし,activity levelの高い症例に対しては,スポーツ活動の回数や強度の低減を指導すべきと考えられた.

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抄録: 高齢者(65歳以上)300例の膝内側部痛の原因を膝関節内注入と神経根ブロックを用いて検討した.それらの治療効果の判定から膝内側部痛は,膝OA群,根性膝痛群,および合併群の3群に分類できた.神経根症が関与している症例(根性膝痛群と合併群)が300例中21例(7%)存在した.それらの特徴は,訴えは膝内側部痛であっても,痛みの範囲が膝OA群に比して広いこと,特に大腿部への拡がりが認められること,大腿神経伸張テストやKemp徴候の手枝で膝内側部痛が誘発されること,膝蓋腱反射の左右差の存在,知覚障害の存在,そして腰痛の合併であった.膝OAの治療に抵抗する症例に対しては,腰部神経根症,特に第4腰神経根症の関与を疑って,神経根ブロックなどによる評価を追加する必要がある.

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抄録: 内反足3例6足(先天性多発性関節拘縮症2例4足,先天性内反足1例2足)に対してティッシュエキスパンダーを用いて皮膚を伸展した後に二期的に解離術を行った.平均1歳8カ月時にティッシュエキスパンダーを足関節後内側に留置した.外来で数回に分けて膨らませた後,平均3.5カ月後に後内外側解離術を施行した.ティッシュエキスパンダーの最大膨張時容量は平均6.6ml,初回術後の追跡期間は平均9ヵ月であった.全例矯正手術時に中間位で,皮膚の緊張なく創閉鎖することができたが,2足で尖足が再発した.経過中テイッシュエキスパンダーを抜去するような重篤な合併症はなかった.1足にエキスパンダー留置部の表層感染,1足に接続部での生食水のもれ,1足に原因不明の生食水の注入不全が生じた.重度内反足や皮膚拘縮のある内反足に対して,本術式は有効な方法であると考えられた.

専門分野/この1年の進歩

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 本学会は先天性内反足の研究を目的に設立されたが,小児のみならず成人の足部疾患や外傷についての発表が数多くなり,研究内容は多彩になった.昨年の本学会以降に開催された日英(第3回)および日米の合同会議での議論を含め,足の外科領域における最近の話題について2,3触れてみたい.

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 この時期,高地の八ヶ岳山麓にしては珍しいといわれる快晴の下,1998(平成10)年9月10,11,12日の3日間,第24回日本整形外科スポーツ医学会が開催された.場所は昨年オープンした八ヶ岳ロイヤルホテルである.有名なリゾート地清里に近く,また当ホテルの駐車場が台数制限なしという地の利を得てか,約500名の参加者があった.さらに開催地がスポーツアクティビティーに打って付けであることもあり,この方面の立案についても多くの先生方の共感を得たことが嬉しかった.

 演題数はポスターセッションの13題を含めた総数141題,シンポジウム2題,パネル1題,そして教育研修講演が1題であった.誌面の関係上すべてを紹介するわけにはいかないが,以下にいくつかを抜粋してみたいと思う.

基礎知識/知ってるつもり

タナ障害(膝関節) 榊原 壤
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【歴史】

 膝関節タナ障害は,関節鏡の発達とともにその本態が明らかになったclinical entityの一つである.

 文献上,最初に「棚」という語を用いたのは,1939年の水町らであり,当時から関節鏡視にてその構造が棚状を呈することからそのように呼びならわされた3).しかし,このヒダを最初に報告したのは1939年の飯野であり,彼はこれを“Band”と称して詳細に記載している2)

整形外科philosophy

整形外科医40年の反省 蓮江 光男
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 「整形外科philosophy」という欄に何か書くようにとの依頼を受け,先ず確固とした哲学の無いままの生活を恥じる思いが生じたが,何も難しく考えずに過去の反省点を書き連ね,前車の轍として記録に留めるつもりでと考え直し,敢えてお引き受けすることとした.従って,この文は一整形外科医のいわば懺悔録に過ぎない.

学会印象記

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 第3回日米加欧整形外科基礎学会合同会議(Third Combined Meeting of the Orthopaedic ResearchSocieties of the U.S.A.,Canada,Europe and Japan)が,本年9月28~30日までの3日間,浜松市のアクトシティ浜松で開催された.

講座

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症例:56歳,女性

 3カ月前より両側下腹部から鼠径部の痛みが出現,2カ月前より次第に増強し,同時に背部痛,両下肢の重苦感,しびれを自覚し受診した.

 現症:胸腰椎移行部付近に軽度後弯変形を認め,脊椎運動性は疼痛のため全方向で制限されていた.神経学的には,Th11以下知覚鈍麻,腸腰筋と大腿四頭筋の筋力4/5で,深部腱反射は亢進し病的反射陽性であった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・72

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 今年の10月8日に沖縄放射線技師の卒後生涯教育の一環として,私が光栄にも招待されて,“整形外科英語アラカルト”という題で講演する機会があった.これも医学書院のこの雑誌に,執筆させて戴いたことが取り持つ御縁であると感謝している.

ついである記・30

St.Petersburgへの船旅 山室 隆夫
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 1971年,アメリカの科学者ヘンチ教授(Larry L. Hench)は硅素とカルシウムを含む一種のガラスが骨内に移植されると骨組織と化学的に直接結合することを発見した.合成された材料が,生きている骨組織と化学的に直接結合するというような現象は,それまでに誰も見たことがないので,当時多くの科学者は,彼の発表に対して半信半疑であった.私達の研究グループもヘンチ教授の研究にヒントを得て,1981年に骨と化学的に結合する高強度の人工骨を開発した.その後,私達のグループは人工骨の化学的結合の機序の解明と臨床応用への研究を進める中で,ヘンチ教授と個人的にも接する機会が多くなり,特に私は彼とその奥さんの人柄に引かれて親交を結ぶようになった.今では互いにその自宅に泊りあったりするほどの極めて親しい仲となっている.

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 抄録:上腕骨顆間骨折は治療に難渋することの多い骨折といわれる.今回手術治療を行った本骨折の7例につき検討した.手術は受傷後平均5.4日で行い,外固定除去・自動運動開始は術後平均15.3日で行った.治療成績はRiseborough & Radinの評価基準で,授動術前good 1例,poor 6例,授動術後good 3例,fair 1例,poor 3例.日整会肘機能評価法で授動術前平均76.1点,授動術後平均80.3点であった.治療成績は年齢・性別,開放性の有無,骨折端の転位の大きさ,等とは関連がみられなかった.一方,骨折治癒の異常経過をとる症例が高頻度に生じ,それらに成績不良の傾向があった.本骨折治療の要点としては,骨折の正確な整復・固定を目指すとともに骨化性筋炎等の骨折治癒の異常経過の予防に努めることにあると考えられた.

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抄録: 症例は39歳の女性で,バレーボール中受傷し,アキレス腱断裂の診断のもとに翌日縫合術を行った.断裂部を展開すると踵骨後方に停止する約20cm,幅10mm,厚さ2mmの扁平な腱が存在した.その近位側断端には筋が付着し,アキレス腱断裂に伴って筋腱移行部で断裂した破格筋腱と考え,アキレス腱断裂部を縫合後,その腱を用いて縫合部を補強した.

 本例の破格筋腱は下腿三頭筋の破格が考えられ,第3腓腹筋やaccessory soleusの一種と推測した.

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抄録: 今回われわれは,第1肋骨の偽関節様構造が原因と思われる胸郭出口症候群の1例を経験したので報告する.症例は21歳の女性で,主訴は左鎖骨部痛と左手掌のしびれである.理学所見では,左第1肋骨部の圧痛と同部の圧迫による症状の出現がみられ,Wrightテスト,Morleyテストで症状の再現がみられた.単純X線写真で第1肋骨の形態異常を認め,三次元CTで第2肋骨と偽関節様構造を形成している所見が確認された.血管造影では,偽関節様構造形成部位に一致して左鎖骨下動脈に50%の狭窄像が認められた.手術は経腋窩アプローチによる第1肋骨切除術を施行した.術中,第1肋骨は第2肋骨と癒合しており,第1肋骨切除により鎖骨下動脈の拍動が十分に得られた.術後約2週間で症状はほぼ消失し,現在も症状の再発はみられていない.

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抄録: 粉瘤は日常診療上,比較的よく見られる疾患であるが稀に悪性化する例もある.今回われわれは40年を経過し悪性変化をした殿部の巨大粉瘤の1例を報告するとともに粉瘤の悪性変化について文献的考察を加えた.患者は71歳の男性で,40年前から右殿部に発生した腫瘤を自覚していたが放置していた.単純CTにて嚢腫内腔に突出する壁を認めた.大きさは19×17×7cmの巨大な腫瘤で1,050gの重量があった.被膜に包まれた多胞性の腫瘤で隔壁が認められた.組織像はケラチン角化を認める外毛根鞘由来の毛嚢嚢腫で内壁の突出部に扁平上皮癌を認めた.このため追加切除とリンパ節生検を行った.本邦で報告されている悪性変化した粉瘤は46例であるが長期経過した例が多く,平均19.4年の経過を持つ.また20例(43.5%)は殿部に発生しており,悪性化した粉瘤には殿部発生例が多い.長期経過した,巨大な粉瘤は悪性変化の可能性があるため注意が必要である.

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抄録: 大きな外傷の既往なく急激な膝関節痛を主訴とする高齢者の中に骨粗鬆症による骨脆弱性のために生じたinsufficiency fractureが存在することがある.MRIはこの早期診断に有用である.今回われわれは𦙾骨プラトーに生じたinsufficiency fractureの2症例を経験し,経時的にMRIで観察できた.初期のMRIではT1強調画像で骨髄内に広範な低信号域を認め,T2強調画像では𦙾骨プラトーと平行な線状の高信号とその周囲の広範な低信号域が認められる.この高信号は3~4カ月で消失する.その臨床像の特徴は,以下のとおりである.①50歳以上の女性に多い傾向を示す.②明らかな外傷の既往なく突然発症する.③荷重にて症状が悪化し,膝内反変形を増悪させる可能性があるため免荷が必要である.④強い症状は6~12週続くが6~12カ月後には症状の軽快ないしは消失が得られる.

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 抄録:症例は26歳男性.歩行障害,胸部以下のシビレ感,尿勢の低下を主訴に来院した.初診時,Th4レベル以下に触・痛覚鈍麻を認め,著明な痙性歩行を呈していた.CTではC7椎体下縁よりTh2椎体中央部にかけて,石灰化を伴った腫瘍が脊柱管後方から脊髄を前方に圧排しており,MRIでも同部位にT1,T2ともに低~等信号の混在する腫瘍が存在した.脊髄硬膜外腫瘍(髄膜腫)と診断し手術を施行したが,病理組織診断は良性骨芽細胞腫であった.良性骨芽細胞腫は若年者の脊椎・長管骨に多く発生する稀な疾患である.脊椎発生例では腫瘍が脊柱管内に進展すれば重篤な脊髄神経症状を呈することがあり,脊髄症状を呈する腫瘍性病変として良性骨芽細胞腫も念頭におく必要がある

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抄録: von Recklinghausen病に合併した悪性神経鞘腫の1剖検例を経験した.症例は52歳,女性.全身皮膚に神経線維腫,café au lait spotが散在しており,von Recklinghausen病の診断を受けていた.1996年11月,両下肢の脱力を主訴に当科に入院した.術前の画像診断で脊髄円錐部に髄内腫瘍の像が認められた.術中迅速病理診断で悪性所見がみられたため髄内腫瘍部分摘出術を行った.病理診断は悪性神経鞘腫であった.1997年4月から歩行不能となり,複視,視力低下,上肢の弛緩性麻痺が徐々に増悪進行したが,MRIでは頚髄,頭蓋内に転移はなく,視神経への浸潤,圧迫も認めなかった.死後,これらの病態を解明すべく剖検を施行した.脊髄の病理組織では腫瘍細胞が髄膜内に広く播種していたが,全身の他の臓器に転移はみられなかった.以上の臨床所見,剖検所見から脊髄円錐部悪性神経鞘腫によるlep―tomeningeal carcinomatosisが死亡の原因と思われた.

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抄録: 軸椎歯突起後方非腫瘍性硬膜外腫瘤の2例を経験した.1例は70歳男性で,主訴は両手巧緻運動障害,両肩挙上困難であった.他の1例は69歳女性で,主訴は両手巧緻運動障害,歩行障害であった.2症例ともMRI画像はT1強調像で脊髄と等信号,T2強調像で低信号を示した腫瘤が歯突起後方より脊髄を圧迫していた.2症例とも環椎後弓を切除し経硬膜アプローチにて腫瘤を摘出した.腫瘤の発生部位は環軸関節部であった.腫瘤に対して病理検査を施行した.両症例とも腫瘤は黄色で,病理学的には変性に陥った軟骨組織を含む線維性組織であった.腫瘤は環軸関節の不適合性によるosteophyteの形成過程で,関節面の適合性を得た後に変性壊死の傾向に変化したものであると考えた.

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基本情報

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臨床整形外科
33巻12号 (1998年12月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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