臨床整形外科 26巻8号 (1991年8月)

視座

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 紙巻きタバコが肺癌の危険因子とされて久しいが,臨床研究における疫学的研究の占める割合は増し,最近では臨床疫学なる分野も誕生した.疫学的手法に則らない臨床研究はいかに規模が大きくても国際的にはもはや全く問題にされないという.

 整形外科領域でも悪性骨軟部腫瘍の予後調査や挿入された人工関節の生存率分析あるいは治療評価の際の有意差検定など,統計学的手法が繁用され,疫学的手法が取り入れられてはいるが,疫学を理解している整形外科医はまだ少数派ではないだろうか.

論述

指尖切断再接着 山野 慶樹
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 抄録:手指の指尖は機能上大切な部位であるが,損傷されやすい.ここは切断指の分類上,zone Iとzone IIに分けられるが,血管が細く再接着は等閑視されている.

 1976年から1989年までにzone I 160指,zone II 112指の切断に再接着を行った.zone Iでは吻合可能な動脈は0.5~0.1mm径程度で極く細く,繊細なultramicrosurgical手技ではじめて吻合できる.

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 抄録:脊髄損傷患者における仙骨部と坐骨部の褥瘡再建に対する基本方針を述べた.周囲の皮膚や皮下組織に十分余裕がある場合は単純縫縮を行い,余裕がない場合に何らかの皮弁を施行する.皮膚欠損が主体である場合が多い仙骨部の褥瘡には筋膜皮弁を選択する.皮下軟部組織の欠損が主体である場合が多い坐骨部の褥瘡には,皮下軟部組織のボリュームを再建し,死腔を消失させるため,筋膜皮弁に加え筋弁,筋皮弁を使用する.将来の褥瘡再発に備え,皮弁の栄養血管(動脈系)を十分把握したうえで,他の皮弁が犠牲にならないように皮弁の選択順位を決めている.必要であるならエクスパンダーや遊離皮弁も考慮する.再建外科医として褥瘡再建について述べたが,褥瘡の再発の最大の要因は,社会復帰後の患者および看護人の再発予防への自覚であり,そのことを医師として積極的に指導していくことが褥瘡治療には重要である.

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 抄録:1982年から1990年までに経験した25例を検討した.男13例,女12例,平均28.9歳であり,右5例,左19例,両側1例であった.損傷手段は,全例とも鋭利な刃物であった.精神障害のある者は7例で,精神分裂病5例,うつ病2例であった.損傷は,皮膚皮下組織のみの損傷13例,深部組織に達する損傷12例であり,手関節の橈掌側に多かった.「ためらい傷」を8例に認めた.創は鋭的であり,創治癒の条件は一般的に良好であった.深部に達する損傷は,精神障害者に多かった.手術方針として,腱は長掌筋腱以外可及的にすべて,神経はすべて,動脈は桟骨動脈と尺骨動脈の内1つ以上を修復した.

 治療には,救命救急処置のほか,精神障害の鑑別と社会的背景の把握が重要である.精神障害者では,初診時から精神科医の併診が不可欠であり,精神医学的治療が,手の機能回復を左右した.非精神障害者では,手の機能回復は一般に良好であった.

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 抄録:悪性骨腫瘍の治療成績は改善されてきているが,手術や組織診断の困難な症例に再発がみられており,また,種々の合併症も増加している.1966年から1987年の期間に当教室で手術が施行された悪性骨腫瘍98例のうち,再発や合併症のみられた21例(3例は再発と合併症例)ついて検討した.手術再発例は骨悪性線維性組織球腫,骨肉腫,軟骨肉腫,脊索腫などの18例で,また,重大な合併症を伴った症例は6例である.再発の原因としては,術前に良性とされたものやsurgical marginの決定に問題のみられたものなどであった.合併症は,動脈と神経損傷は手技上のもので,動脈血栓は動脈にテープを掛けたためであり,神経麻痺は軟部組織の欠如から神経を圧迫したものである.

 前術の画像,組織診断をよく検討し,低悪性の骨腫瘍であっても,十分なsurgical marginを得なければならない.また,動脈を剥離した場合は血栓症の発生を念頭におく必要がある.

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 抄録:すべり症を除く腰椎椎間板症に対して,下部腰椎固定術後3年以上経過した前方固定群24例(平均年齢49.7歳)と,後側方固定群25例(平均年齢49.4歳)の,隣接椎間比可動域と腰椎前彎度を計測し,固定椎間別に両術式を比較検討した.L4-5固定では,前方固定群は3-4,5―Sの,後側方固定群は3-4の可動性が大きく,5―Sの比可動域は後側方固定群が有意に小さかった.L4-5―S固定では,両群とも上位腰椎まで可動性が大きく,後側方固定群は下部腰椎の前彎が減少しアライメントが悪かった.L5―S固定では,前方固定群の4-5の可動性が大きく,後側方固定群より4-5が変性しやすいと思われた.全体としてみると,可動性の変化に伴う非固定椎間への影響は後側方固定術の方が少ないが,腰椎の生理的アライメントの保持については前方固定術の方が優れていた.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

足関節・足の切断 川村 次郎
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はじめに

 足関節以下の切断を最も特徴づけるのは,断端荷重のできる切断であり,義足なしでも歩行のできる断端である.反面,切断にあたっては細心の注意が必要であり,失敗して高位での再切断の危険性も多い切断部位である22).また義足を装着した上から格好よく靴をはくことは困難であり,義足歩行は機能的にも外見的にも低いレベルにとどまる19).このような長所と短所をもつ足関節以下の切断は,義足歩行の修得に困難が多く,入浴や夜間の用便を義足なしに行えることが望ましい高齢者に特に適するといえる.

 したがって,足関節以下の切断では,断端荷重を目標とすべきであり,それが達成できなければこの部位で切断しても何のメリットもなく,もっと高位レベルで切断した方が,創治癒や治療期間などを含む総合結果はよい.

整形外科を育てた人達 第95回

John Charnley(1911-1982) 天児 民和
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 最近,人工関節の進歩には著しいものがある.その一役を担っているのがJohn Charnleyであると言っても過言ではないと信じているので,今回は彼の伝記の資料を集めて,この偉大な整形外科学者を紹介する決心をした.

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 抄録:人工膝関節置換術を行った17例に術前ceftazidime 1 gをone shotで静注し,血清中濃度・骨髄血中濃度・骨組織中濃度を測定し,抗生物質の組織移行が疾患・年齢・体重・駆血帯の使用により影響されるか検討した.

 駆血前投与では血清中濃度は平均41.2μg/ml,骨髄血中濃度35.8μg/ml,骨組織中濃度15.1μg/gであった.慢性関節リウマチと変形性膝関節症の各組織濃度はほぼ同等の値を示した.71歳以上で体重51kg以上の症例では骨組織濃度は8.6μg/gと著明に減少した.駆血後投与ではceftazidimeの骨組織への取り込みは皆無であった.ceftazidimeを駆血前7~15分に投与することにより骨組織への十分な移行が得られ,また,駆血中にも骨組織中の抗生物質は高濃度に維持された.

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 抄録:5歳,女児のレックリングハウゼン病患者にみられた高度後側彎症に対して,手術的治療を行った.本症例はdystrophic typeの左胸椎後側彎を呈し,側彎は128°,後彎は62°であったが,神経学的異常所見は観察されなかった.Halo-pelvic牽引による矯正後,まず後方よりLuque instrumentationによる固定術を施行,6週後に血管柄付腓骨移植による前方固定術を追加した.肋間神経はneurofibromaによって置換され,肋骨は著しく菲薄化しており,病理組織学的にも腫瘍が肋骨骨髄内に浸潤している像が確認された.術後1年6ヵ月の現在,側彎は67°,後彎は45°に矯正され,correctionlossも認められていない.5歳児で,neurofibromaが脊椎や肋骨の周囲に認められた事実から本疾患の脊柱や肋骨変形の発生には腫瘍の発育が関与していることが示唆された.また,若年者の高度脊柱変形に対しては前方および後方からの固定術が必要と思われ,前方固定には血管柄付骨移植が有効と考える.

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 抄録:我々は,高齢者の手掌部に発生した希な骨外骨肉腫を経験したので報告する.症例は82歳男性で,左手掌部尺側に無痛性の硬い腫瘤が出現し,腫瘤は急激に増大し手掌の尺骨神経領域にしびれ感が出現してきたため当科を受診した.単純X線にて,腫瘤は第4,5中手骨の掌側に楕円形の軟部陰影として認められ,その内部には不規則なミネラリゼーションが散在性に認められた.腫瘍が中手骨と連続性の無いことはCT像でも確かめられた.生検にて悪性腫瘍と診断し,前腕部より切断した.病理組織より骨外骨肉腫と診断したが,患者が高齢のため化学療法は施行しなかった.術後3ヵ月で肺転移を認めた.骨外骨肉腫は中年の下肢に発生するものが多く,本邦での手掌発生の報告は無かった.

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 抄録:ochronosis患者で一側の股関節に変形をきたしたochronotic arthropathyに対し観血的治療を行った症例を経験した.症例は67歳女性,60歳頃より左股関節痛と腰痛があったが放置していた.脊柱の可動域制限と両眼強膜,両耳介軟骨に青黒い色素沈着を認め,日整会股関節判定基準で39点であった.尿は24時間放置で黒色に変化し,Benedict,Nylander反応で陽性を示した.単純X線では椎体が融合し椎間板は狭小化し,wafer様石灰化像を認めた.左股関節に対しTHRを行った.骨頭は象牙様変化を示し,関節包は黒炭様色素沈着を認めた.術後1年の現在,経過は良好である.アルカプトン尿症はホモゲンチジン酸が酸化酵素欠損により体内に蓄積され,尿中に排出される常染色体劣性遺伝の代謝性疾患であるが,股関節に変性をきたしたものは少ない.根本的治療がないため,早期診断,早期治療によりできる限り身体障害を最少限にとどめることを念頭に置く必要がある.

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 抄録:大腿骨線維性骨異形成に内軟骨腫を合併したAlbright症候群の1例を経験した.症例は2歳10ヵ月の男児で,跛行を主訴として来院した.左股関節に軽度の圧痛と可動域制限を認め,右前胸部から背部にかけて皮膚色素沈着がみられた.単純X線,骨シンチグラムにて線維性骨異形成と思われる多発骨病変を認めたが,これとは別に,左大腿骨転子間部に石灰化を伴った不規則な溶骨性陰影を認めた.同部の生検により,病理組織学的には線維性骨異形成や発育軟骨板とは明らかに異なる内軟骨腫と考えられる組織を認めた.年齢を考慮して生検のみにとどめたが,発育障害,変形および長期的には悪性化の問題などに対し,慎重な経過観察が必要と考えられた.

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 抄録:広範囲に骨破壊を呈した手関節の色素性絨毛結節性滑膜炎の2例を経験した.色素性絨毛結節性滑膜炎は膝関節に発生することが多く,手関節に発生することは稀である.症例1は29歳の男性で,右手関節の無痛性の腫瘤を主訴として来院.病巣掻爬・部分的関節固定を行った,骨破壊は橈骨,舟状骨に著明であった.症例2は53歳の男性,右手関節の腫瘤を主訴として来院.病巣掻爬・部分的関節固定を行った.骨破壊は全手根骨に及んでいた.

 手関節色素性絨毛結節性滑膜炎の特徴,骨破壊機序について若干の考察を加えて報告した.

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 抄録:手指の屈伸に際して弾撥現象を呈する症例は日常多く見られるが,足趾におけるこのような現象は比較的稀である.最近,我々は足趾に発生した弾撥母趾の1例を経験した.症例は鳶職に従事する40歳の男性で,主訴は左母趾の弾撥現象である.足関節底屈位において母趾を中間位から自動的に屈曲すると,母趾の弾撥現象が生じた.MRI像より長母趾屈筋腱の肥大を認めた.長母趾屈筋腱腱鞘造影では,足関節底屈位により足関節内果後方で明らかに腱鞘にくびれを認め,さらに,この肢位で母趾を自動的に屈曲すると,くびれた部位を肥大した長母趾屈筋腱が通過して弾撥現象をきたした.術中所見として腱はosseo-fibrous tunnelの入口部で強く圧迫されており,これを切開することにより母趾の屈伸時での腱の滑動は良好となった.術後6ヵ月の現在,疼痛の訴えはなく,弾撥現象の再発を認めない.

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 抄録:筋肉損傷症例に超音波検査を行い,所見の得られた16症例17筋肉について検討した.その結果,筋肉損傷を筋肉の①完全断裂,②部分断裂(横断裂,縦断裂,混合型),③腫脹,④筋間損傷の各形態に分類した.断裂や腫脹の大部分は,多頭筋を構成する筋肉のうち,多関節筋に生じていた.筋肉内の断裂部位はその単関節筋側に偏在していた.いわゆる「肉ばなれ」例には,筋の部分断裂と腫脹が多くみられた.部分断裂は筋の長軸方向に生じる縦断裂が多く,これがスポーツ選手で問題となる「肉ばなれ」と思われた.部分断裂は,筋肉に急激な収縮や強力な伸展力が加わった時に筋線維間の収縮距離や収縮速度の差により協同運動が乱れて生じるものと思われた.

 打撲例では,筋間損傷を含むすべての損傷形態がみられ,損傷部位,損傷筋肉にも一定の傾向は認められなかった.

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 抄録:非常に稀な小児の両側距骨骨折を経験し,4年間の経過を観察したので報告する.症例は9歳の男児で交通事故により受傷.左側はHawkins分類II型の脱臼骨折で観血的整復固定術を行い,右側はHawklns分類I型の骨折でギプス固定をした.両側に無腐性壊死を生じたが,長期の免荷治療で回復し,良好な機能的回復を得た.本例は,アキレス腱の強い緊張下に前足底部への衝撃が加わり受傷したことが判明しており,Petersonらの距骨頸部骨折に関する実験結果を臨床的に裏付ける格好の症例と考えられた.

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 抄録:介達外力による前脛骨筋腱皮下断裂の報告例は極めて少なく,しかも診断を下すのに難渋する場合も多い.また,発症年齢も高年齢層であるため,加齢による腱の変性が背景にあることが多い.このため治療として,腱移行を中心とした再建術が行われるべきであるが,端々縫合を行うのみの報告例も見られる.

 今回,我々は,歩行中に受傷し,直ちに前脛骨筋腱皮下断裂と診断し,端々縫合と装具療法を用いることにより術後約4ヵ月で日常生活に復帰した症例を経験した.

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 抄録:上腕骨顆上突起は上腕骨内上顆の約5cm近位にみられる骨性突起で,正常の変異と考えられている.日本人には極めて稀とされており,本邦における臨床例の報告は,調査し得た範囲では13例のみであり,そのうち症状を呈して発見されたものは4例にすぎない.我々は上腕骨顆上突起の2例を経験し,うち疼痛の強い1例に対し,手術的切除を行い,良好な結果を得た.手術時の所見では,正中神経は左側ではStruthers靱帯の下を,右側では靱帯の上を通っていたが,両側ともStruthers靱帯および円回内筋の過剰頭により,極めて圧迫を受け易い状況にあることが観察された.症状を有する顆上突起に対しては,手術的切除が有効である.

基本情報

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臨床整形外科
26巻8号 (1991年8月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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