胃と腸 7巻7号 (1972年7月)

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 若年者の上部消化管癌の中で,最も多いのは胃癌であり,教室では若年者の食道癌や十二指腸癌は経験していないので,教室で最近経験した若年者胃癌を中心に文献的考察を加えて,その実態を述べる.

 因みに,世界最初の若年者胃癌の報告は,1848年Dittrichの報告した19歳女子の剖検例であり,本邦では1894年滝口の25歳男子の例が最初であるとされている1).また,最年少者の報告は,1859年Widerhoferの生後16日の新生児例で,本邦では1964年三浦2)の報告した1歳11月の女児である.この例では,嘔吐,腹部膨満の症状があり,腹部に手拳大の腫瘤が触知され,単開腹術が行なわれており,全経過は約5月で死亡している.

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 若年者大腸癌は,たとえばBaconによると全大腸癌の2.6%,後述のごとくわれわれの症例では3.4%と症例が少なく,本邦の諸報告中にも充分な統計的資料に乏しい.とくに小腸の若年者癌は稀で,われわれには経験がない.本稿では若年者大腸癌について述べたい.

 若年者大腸癌は,一般に予後がわるいと考えられているようであるが,若年者大腸癌はとくに病理学的悪性度がたかいのか,若年宿主においてはとくに癌の進行が速かであるのか,あるいは若年者においてとくに癌診断の遅延しやすい事実があるのか,検討を必要とするところである.

主題 若年者の消化管癌症例

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 患 者:20歳 男(昭和26年7月9日生)

 初 診:昭和46年9月23日

 主 訴:上腹部痛・胸やけ・悪心

 現病歴:約2年前より上腹部痛・胸やけ・悪心・曖気・体重減少などの症状が現われたため某病院に受診し胃潰瘍の診断を受け,服薬治療を続けていたが治癒しにくいため当院を訪れた.

 胃液検査所見 テトラガストリン法で高酸(最高遊離塩酸度104臨床単位)

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 患 者:T. Y. 21歳 ♂

 約2週間前より心窩部異常感を来たし,精査のため当成人病センターを受診した.

 家族歴:既往歴共に特記すべきことなく,臨床検査成績では胃液が高酸であるほか,血液検査および生化学検査ともに異常を認めなかった.

 胃X線検査では,立位像における胃角変形,辺縁不整像を認め,背臥位二重造影像における小彎の不整および浅い陥凹像,この陥凹内部は凹凸の変化を呈し,その部の圧迫像でも辺縁不整な陰影斑と,これに至る粘膜ひだの変化が明瞭であった.

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 患 者:S. Y. 22歳 ♀ 54254

 症例の要約

 主 訴:空腹時心窩部痛,病脳期問:6カ月

 X線診断 早期胃癌(Ⅱc)

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 患 者:加○正○ 22歳 男

 入院4カ月前より空腹時の心窩部痛とむねやけ出現.某病院で胃潰瘍と診断され加療されたが,腹痛が軽快しないのでと入院を希望.

 レ線所見 胃体中・下部小彎線は不規則で硬化し,胃角上部に小突出像が認められる(Fig.1).二重造影(Fig.2)で,胃体下部小彎寄りに不整形の陰影斑と集中する口側粘膜皺襞の中断像が認められる.

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 患 者:○谷美 23歳 ♀

 現病歴

 昭和45年5月,突然吐血,某病院に入院,輸血600cc受く,昭和45年7月,X線・内視鏡検査施行,異常を指摘されなかった(retrospectiveにはⅡc様病変を認める).昭和45年9月,再び吐血し,輸血1,000ccを受け,昭和46年4月,下血と貧血に気づき,某医でX線検査の結果,胃潰瘍を指摘された.その直後再び吐血,下血あり,Subshock状態で当科に緊急入院.

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 この症例は,自覚症なく若年であるにもかかわらず,職場の胃集団検診があった際,たまたま受診したために発見された症例である.

 患 者:平○澄○ 23歳 ♀ 公務員

 昭和44年10月胃集検を受診,要精検の診断をうけ,12月当院受診し,翌45年2月12日入院させ精査の結果,早期胃癌と診断し,3月3日国立栃木病院外科に転院させ3月11日手術した.

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 患 者:宅○美○仁 26歳 男 バンドマン

 家族歴:特記すべきものなし,

 現病歴:昭和45年11月25日から翌26日にかけて少量下血,28日朝に突然吐血(中等量).某医にて胃潰瘍の診断のもとに入院治療中のところ,精査を希望し46年1月16日当院入院.

 現 在:特記すべきものなし.

 検査成績:初診時すでに貧血はなく,胃液酸度正酸,他の諸検査にも異常を認めない.

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 患者は14歳女子.昭和45年9月頃より食後心窩部痛あり,漸次全身るそう,貧血著明となり来院.同年11月胃立位X線撮影にて,胃角部より幽門前庭部にかけ壁硬直,前庭部の伸展不良あり,腹臥位X線撮影にては大なるCraterを伴う陰影欠損が認められる(図1,2).ファイバースコープ検査では,図3のような大きな進行癌を確認した.

 手術所見 胃体部より幽門前庭部にかけ,漿膜におよぶ腫瘤を認めるも,肝,膵,腹膜,卵巣などに肉眼的転移を見ず,従って大網全剔,所属第1群及び第2群リンパ節廓清を含む胃切除術(Billroth Ⅰ法)を施行した.後述するようにこの症例はn2(+)であったので,結果的には相対的治癒切除に終った.

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 患者は16歳女子,主訴は心窩部痛,既往歴は生後6カ月にヒ素ミルク中毒があるが,家族歴に特記すべきことなし.昭和46年8月頃心窩部痛,嘔吐を訴え,渡辺内科にて胃癌と診断され当院に紹介された.

 腹部所見は心窩部に圧痛ある腫瘤様の抵抗を触れ,臨床検査は血沈の亢進以外,著変なし.

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 昭41年4月以降,昭46年12月まで過去5年9カ月間に若年者胃癌12例を経験した.0歳~20歳に3例,21歳~30歳に9例,20歳未満は若年者胃癌全例の25%に相当する.20歳未満の3例は♂1,♀2で,♂♀各1例(Borr.Ⅱ―前庭部,早期癌Ⅱc―胃角部)が切除可能であり,他の♀1例(食道・噴門癌)は胃瘻造設術に終った.20歳未満で切除可能であった♂の進行癌の1例を記載する.生後17歳3力刀の学生で,昭42年1月26日上腹部痛とるいそうにて来院.胃X線検査で立位充盈像(Fig.1)にて前庭部幽門近くに陰影欠損像あり,圧迫像(Fig.2)にて前庭部後壁より小彎側におよぶ示指頭大のニッシェと,それを囲む透亮帯を証明.ニッシェの陰影は濃淡不規則.Borr.Ⅱと診断す.内視鏡像(Fig.3)では前庭部小彎中心の底部に壊死を伴う,周囲不規則な深い潰瘍を証明,その周囲はたかまりを作りBorr.Ⅱであった.胃洗滌細胞診(GFC)にてClassⅣであった.切除胃肉眼的所見(Fig.4)で幽門に近く前庭部で小彎中心前・後壁におよぶ大きなBorr.Ⅱを証明した.病理組織学的所見(Fig.5)でAdenocarcinoma tubulareであった.若年者胃癌はその特徴として進行が成人に比し速く,発見された時は既に進行癌でしかも手術不可能例が多く.本院にても12例中切除可能は6例であった.しかも,手術成功例が陥凹型(Borr.Ⅱ-5,早期癌Ⅱc-1)であったことは興味深い.

一頁講座

若年者胃癌 小林 世美
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 癌は一般に高年者の疾病とされているが,消化管癌も概して同様な傾向を示す.ところが,胃癌では,食道癌や大腸癌に比し,若年者癌をより多く見る.何故かは最後に述べよう.

 若年者胃癌の年齢を,多くの文献は30歳までとしているが,36歳までを含めた報告もあり,著者らは34歳までを取扱って昨年の癌学会で発表した.男女比は,胃癌一般では2対1だが,若年者では約1対1,あるいは女性の方が多いとの報告もあり,一般比に比べて女子に多いことは間違いない.思春期の盛んなエストロゲン分泌が発癌に関係ありとする考え方がある.

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 胃癌患者の前検査資料を過去にさかのぼって蒐集し,retrospectiveに胃癌の発育進展過程を推定しようとする方法は,北里大学岡部教授によるものである.

 しかし,このような前検査資料の殆んどは病変の存在を見落した資料であるために,胃癌の発育進展を類推する客観資料として役立てるよりも,むしろ診断学の面より誤診の原因となった理由を反省し,今後の診断に寄与させる材料として使用する方が良いと思われるものが多い.

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 噴門という言葉はしばしば食道胃接合部(gastroesophageal junction)と同義語的に用いられているが,esophageal orifice of the stomachとして定義されている.この墳門の機能は食物の通過を容易にし,胃内容物の食道内への不本意な逆流をふせぎ,胃内から曖気あるいは必要に応じ嘔吐をさせるいわゆる弁の作用をしている.

 下部食道の解剖学的,X線検査はずいぶん古くから行なわれているが,この部の機構に関しては多くの問題が残されている.PalmerのClinical Gastroenterologyに述べられているように,食道・胃境界の部分は一つのorgan-complexとしてこれに生理解剖学的な意義づけを行なうことが必要である.

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 〔第3例〕患 者:K. K. 52歳 女

 主 訴:心窩部痛

 理学的検査所見:特に異常なし

 胃液酸度:ガストリン法で,最高総酸度56mEq/L.

 胃カメラ所見:図1に示すように胃角小彎に活動期の不整形の潰瘍が見られる.小彎上の潰瘍の後壁側から肛側の辺縁に出血がある.後壁から集中する粘膜ひだに階段状のヤセと虫喰状の中断をみる.

一冊の本

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 最近,ファイバースコープの普及にともなって,上部消化管出血に対する緊急内視鏡検査の気運が盛上ってきた.一方では上部消化管を1本のファイバースコープで観察しようという意図でもって,いわゆる“Panview”式のファイバースコープが開発されており,緊急内視鏡検査をより容易にすべく努力されている.

 上部消化管出血に対して早期に積極的に内視鏡(食道鏡,胃鏡)検査およびX線検査をすべきことを提唱したのはE. D. Palmerで,彼の上部消化管出血のVigorous Diagnostic Approach(VDA)はたいへん有名である.

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Ⅰ.症例

 患 者:Y. W. 66歳 家婦

 主 訴:心窩部不快感

 家族歴,既往歴:特記することなし.

 初診:45年11月10日

 手術施行日:45年12月20日

 切除胃肉眼所見(図1,図2)

 切除胃は大彎で切開,病変は幽門より5cm口側の後壁にあり,10×14mmの大きさである.

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 わが国における近年の胃診断学の進歩はいちじるしく,小さな病変でも発見できるようになった.早期胃癌の診断学的問題点は,大きさから言えば1.0cm以下の小さな病変の診断,型から言えばⅡb型の胃癌の診断に努力がなされている.それ故病巣が小さくなればなる程,また病変の凹凸が低くなればなる程,内視鏡所見と切除胃所見との正確な対比が要求される.

 今回,手術前の点墨により病巣の範囲に関して切除胃肉眼所見(新鮮および半固定),病理組織学的所見および内視鏡所見を正確に対比できた,小さなⅡc型早期胃癌を経験したので報告する.

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 胃悪性リンパ腫は肉眼形態の多彩性で知られているが,一般には潰瘍形成を伴なった症例の報告が多い.筆者らは,腫瘍の浸潤が筋層に及ばず,粘膜下層を中心に粘膜固有層に拡がり,肉眼的には潰瘍形成を伴なわない多発性隆起性病変を呈した胃細網肉腫の1例を経験したので報告する.

Ⅰ.症例

 患 者:岩○幸○ 63歳 男

 主 訴:腹部膨満感.

 病 歴:生来著患を知らないが,昭和45年8月頃より腹部膨満感を訴えるようになり受診した,前病歴,家族歴には特記すべき事項はない.貧血(-).るいそう(-).

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 胃の良性lymphoid lesionは一般に胃RLH(reactive lymphoreticular hyperplasia)と呼ばれ,臨床的には胃癌との鑑別診断において,また病理組織学的には胃悪性リンパ腫との関連性において興味ある病変である.

 著者らは最近胃粘膜下腫瘍状を呈し,病理組織学的にも特異な所見をみとめたいわゆる胃RLHの2症例を経験したので報告する.

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 脳卒中発作覚醒後より上腹部愁訴が続き,その後の検査で胃潰瘍の存在が確認され,以後加療を続けて来た患者を検査する機会があり,胃角部前壁にⅡc+Ⅲタイプの微小胃癌を発見した.今日前壁病変の診断は比較的容易となって来たが,卒中後遺症患者の場合,その取り扱いに留意せねばならぬ点がある.本例も左半身不随があるためどうしてもX線にて病変の性状を描写することができず,内視鏡検査および生検にて確診しえた例である.

Ⅰ.症例

 患 者:T. N. 64歳 男

 主 訴:胃精検の希望.

 家族歴:癌死はない.

 既往歴:10年前より高血圧症で時々医治を求めていた他,特別なことはない.ことに胃腸に関する愁訴は全くなかった.

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 巨大細胞性封入体症(cytomegalic inclusion body disease),または唾液腺ウイルス感染症(以下CMIDと略す)は,1904年JesionekとKiolemenoglou1)の報告以来多数の文献があり,乳幼児剖検例の唾液腺には10~12%2)~4)もあると言われており,種々の内臓に巨大細胞性封入体,cytomegalic inclusion body(以下CMIと略す)がみられるものも,1~2%2)3)5)と決して稀ではない.しかし成人例の報告は比較的少なく,それも種々の重篤な疾患の末期に,各種臓器にCMIDが合併した剖検報告が多い.生検例では,1943年Hartz6)が直腸ポリープにCMIを証明した報告が最初である.著者らは最近臨床的に胃癌を疑われて切除した胃潰瘍例の幽門腺,および十二指腸腺に,広汎なCMIを認め,これが胃潰瘍の成立に何らかの関連を持つと考えられる結果を得たので,この点を中心に報告する.

症例

 患 者:31歳 男 国鉄職員

 家族歴:母方の祖父が胃癌で死亡.

 既往歴:18歳の時,鼻茸の手術,他特記すべきことはない.

 主 訴:吐血,悪心嘔吐,上腹部膨満感.

 現病歴:約1年半前から空腹時に胃部とう痛があった.昭和45年4月5日風邪気味で,売薬を服用,その2日後より悪心嘔吐が出現し,2回にわたりコーヒー残渣様の吐血をみ,某医を訪問し,胃レ線検査を受け,翌15日入院した.17日間の入院中に数回の吐血があり,発症以来約10kgも体重が減少した.胃レ線検査と胃内視鏡検査で胃癌を疑われ,5月2日新潟大学附属病院外科に入院した.

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 Gastromalaciaとは,成書によれば死後(ときに死戦期),胃液による自己消化のために,胃壁の軟化・融解が起り,胃壁はきわめて菲薄化し,高度な場合は穿孔をきたすものとされている.したがって局所の細胞反応は通例認められない.なお,このような変化は,時には食道(esophagomalacia)や十二指腸(duodenomalacia)にも認められることがあるといわれている.

 しかし,多数の剖検例を取り扱っていても,その頻度は低く,どのような条件下において発生するか,いまだ十分解明されていない.頭蓋内疾患との関連性1)~3)も指摘されているが,わが国においては,従来そのような定説もなく,gastromalaciaについてのまとまった報告も渉録の範囲では認められなかった.

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欧文目次

編集後記 信田 重光
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 昔に比べれば,診断技術も著しく進歩し,また患者も医師を比較的訪れやすい状態となっている現在,消化管癌における若年者癌の臨床像などが変ってきているかどうか,その実態を検討しようということが,本号での主題としてとり上げられた理由である.幸い九大古沢博士ら,癌研山田博士らから胃癌および大腸直腸癌における若年者癌の実態を詳細に分析した論文をいただくことができた.若年者で胃潰瘍症状で発症する胃癌症例が,医師により若年者であるということで見過されることが多いこと,女子患者の嘔吐が妊娠悪阻と誤認されやすいこと,しかし切癒切除可能例ではその予後がかなり良好であることなど,また若年者の直腸癌は進行度が高いことなど,日常の臨床上非常に教えられることの多い論文であったと思う.また読者の先生方にこの雑誌の作製に積極的に参画していただくことを目的として,若年者胃癌症例を公募したが,多数の先生方から症例を提供していただき,その中から本誌に掲載された10症例をえらばせていただいた.いずれの症例も極めて貴重な,写真も立派な症例ばかりであり,その選択にはかなり神経をつかったが,20数例を紙面の都合上,やむをえずお返ししなければならなかった.御協力をいただいた先生方に心から御礼と,また特に症例をお返しさせていただいた先生方にお詫びを申し上げたい.

基本情報

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胃と腸
7巻7号 (1972年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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