X線検査による胃癌の深達度診断の可能性は,癌の胃壁深層への浸潤が肉眼的形態にどのような変化をもたらすかということと,その肉眼的形態の変化がX線像の上にどのように反映されるかという点に依存している.一般に,胃癌は進行に伴って,大きさを増し,粘膜面の隆起が高まり,陥凹が深くなり,胃壁硬化が増強し,遂には進行癌の形態を示すようになる.昨今,胃癌の診断法の進歩ならびに普及によって早期胃癌症例が増加するに伴い,早期類似進行癌,すなわち肉眼的形態は早期胃癌に類似しながら,組織検索によって深部浸潤をみとめる進行胃癌症例や,逆に,進行癌類似の肉眼形態を示しながら早期胃癌であった症例に遭遇する機会が多くなった.ここに肉眼的検査法であるX線診断における深達度推定の可能性が問題として提起されるようになった.
胃癌の深達度診断に関しては,すでに各分野において研究発表が行なわれており,1971年10月,津にて開催された日本医学放射線学会第7回臨床シンポジウム部会においても,白壁,佐野両博士の司会の下に,“胃癌の浸潤範囲と深達度の診断”という議題で取りあげられた.本稿は,このシンポジウムにわれわれが発表した内容を中心として,自験胃癌症例にもとづいて,X線診断の立場から深達度推定の現状を分析し,その可能性を検討したものである.