胃と腸 7巻6号 (1972年6月)

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 胃疾患に対するX線,内視鏡および生検などの各種診断法の最近の進歩は著しく,胃癌の性状診断については,ほとんど確立された観がある.胃癌の性状診断の決め手となるX線学的な特徴としては,粘膜すう襞の中断,太まり,細まり,虫くい,不整な陥凹,陥凹周辺の隆起,胃小区の変北,隆起等がある.この様な形態的な特徴は,比較的X線写真に表現されやすいため,現在のところ,我々にとって最も信頼できる所見である.しかし,これは,病変を全体として(病変を面として)とらえた場合であっ断,太まり,細まて,きわめて部分的に見た場合,粘膜すう襞の中り,虫くい,不整陥凹の陥凹線,周辺隆起等がそのまま健常部分と癌との境界になるかどうかは問題である.

 このように,胃癌の浸潤範囲を正確に決定することは,必ずしも容易なことではないが,臨床的には,胃切除範囲の決定に欠くことができない.また,肉眼的に癌の境界がはっきりしないが,組織学的に癌の存在が確認された部位のX線像を詳細に検討することは,とりもなおさず,平坦型のⅡb~Ⅱb類似の癌のX線所見を検討することになる.したがって,胃癌の初期像の分析をすることになり,X線診断の限界を伸ばすのに役立つと思われる.

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 胃の診断学の基本は診断する対象を熟知した上で,その対象がX線または内視鏡写真上にどのように表現されているかを知ることであろう.かかる意味で,胃のX線,内視鏡診断をすすめてゆくためには,その肉眼標本の厳密な検討を行なうことが必要不可欠と考えられている.

 更に,胃癌の浸潤範囲の診断は,病理学的な癌の浸潤範囲を,X線,内視鏡にて診断せねばならないので,単に肉眼標本と検査資料との対比だけにとどまらず,病理組織学的な検索を十分に行なって,その組織構築と比較検討することも必要となる.

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 X線検査による胃癌の深達度診断の可能性は,癌の胃壁深層への浸潤が肉眼的形態にどのような変化をもたらすかということと,その肉眼的形態の変化がX線像の上にどのように反映されるかという点に依存している.一般に,胃癌は進行に伴って,大きさを増し,粘膜面の隆起が高まり,陥凹が深くなり,胃壁硬化が増強し,遂には進行癌の形態を示すようになる.昨今,胃癌の診断法の進歩ならびに普及によって早期胃癌症例が増加するに伴い,早期類似進行癌,すなわち肉眼的形態は早期胃癌に類似しながら,組織検索によって深部浸潤をみとめる進行胃癌症例や,逆に,進行癌類似の肉眼形態を示しながら早期胃癌であった症例に遭遇する機会が多くなった.ここに肉眼的検査法であるX線診断における深達度推定の可能性が問題として提起されるようになった.

 胃癌の深達度診断に関しては,すでに各分野において研究発表が行なわれており,1971年10月,津にて開催された日本医学放射線学会第7回臨床シンポジウム部会においても,白壁,佐野両博士の司会の下に,“胃癌の浸潤範囲と深達度の診断”という議題で取りあげられた.本稿は,このシンポジウムにわれわれが発表した内容を中心として,自験胃癌症例にもとづいて,X線診断の立場から深達度推定の現状を分析し,その可能性を検討したものである.

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 早期胃癌の質的診断がかなり一般的となった現在,つぎに残こされたものは癌の粘膜内拡がりの範囲と,癌が胃壁のどの程度の深かさまで達しているか,すなわち癌の深達度診断に関する問題であろう.前者は胃切除範囲の決定にあたって是非知らねばならぬことである.また後者は胃癌であるとすればそれが早期癌であるか進行癌であるか,また早期癌とすれば粘膜内の癌が粘膜下のものであるかを術前に推測することができたとすればリンパ節廓清の範囲および肝転移の有無についてより以上の慎重を期することができる.なぜならば粘膜内の癌であればリンパ転移は極めてまれであるし肝転移はない.これに対し粘膜下層に浸潤したものではリンパ節転移は増加し肝転移の危険性は大きい.胃癌の予後を左右する最も重要な因子としての深達度診断はこれからの胃癌診断および治療にあたって常識的な知識として要求される.

 手術材料にもとづいた胃癌の肉眼的な深達度診断ではX線,胃カメラによる機能的な面からの観察,例えば伸展不良や胃壁の硬化等を知ることはできないが,主として経験的になされる臨床診断に組織学的なうらづけを与え深達度診断の判定基準をより正確なものにすることは筆者らに与えられた課題であろう.

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 〔第2例〕K. T. 64歳,女.

 主 訴:心窩部痛.

 理学的検査所見:特に異常なし.

 胃液酸度:ガストリン法で最高総酸度84mEq/L.

 胃カメラ所見:図1に示すように,胃角後壁小彎に治癒過程期前半の開放性潰瘍がみられる.その大彎側よりの陥凹部には数個の不正出血およびうすい白苔の付着等のびらん性変化がみられ,粘膜面の胃小区の大小不同も見られる.粘膜ひだはほとんど全てにペン先様細まり,不規則な中断,並びに階段状の変化をはっきりと示している.

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 消化管の疾患にたいする形態学的診断法は,近年驚く程進歩した.X線・内視鏡検査で,病巣の実に細かな変化まで判断できるようになった.

 ところが,これらの病変がどういう具合にできあがりどういうふうに成長していくのかという経時的な変化については依然として不明のことが多い.

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 1971年の11月に台湾消化器系学会に招待されて台北に講演に行ったときのことである.台湾の内視鏡研究者達から,大井のいう「“pepper and salt ulcer”というのはどういうものをいうのか」とたびたび質問された.最初はなにをきかれているのかさっぱりわからなかった.“pepper and salt ulcer”と訳した記憶はさっぱりないが“シモフリ潰瘍”のことをきいているのだとわかってあらためて返答に窮した.

 いわゆる“シモフリ潰瘍”という名称の由来は,1969年度の内視鏡学会総会のとき,大井が十二指腸潰瘍の内視鏡診断という展示発表をしたときに使用した名称である.現在“シモフリ潰瘍”の概念をめぐってかなりの混乱があるようだし,だいぶあちこちで使用されていると思う.混乱をおこした責任の一端はわれわれがもつべきであると考えて,現在のわれわれの考え方を述べておかなければならないと思ってペンを握った次第である.

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 従来,消化管の細胞診といえば,主として胃細胞診をさし,鼻管カテーテルを用いるキモトリプシン洗浄法は筆者が勤務したシカゴ大学消化器科細胞診室で,Rubinらがはじめ,日本では,山田の基礎実験以後盛んになった.1958年Hirschowitzが,胃十二指腸ファイバースコープを開発して後,筆者らは,内視鏡の直視下で細胞を剥離させようと考え,1964年,Hirschowitzのファイバースコープの外部に,鼻管カテーテルを装着し,病巣に洗浄液が当るよう工夫した.同じ頃,癌研の高木は,同様な方法で直視下胃生検を始めた.その後内視鏡メーカーの努力で,細胞診専用のファイバースコープが生まれ診断率の著明な向上をみた.当初は,細胞診断率が生検診断率を上廻っていたが,生検技術の進歩で,最近は後者が前者を上廻るようになった.1964年から1969年に到る,愛知がんセンターでの胃直視下洗浄細胞診の成績は131例の早期癌で,1回検査で82.55%,生検では,151例の早期癌の1回検査で,94%と後者が前者を約12%上廻った.癌診断は,組織レベルで行う方が,細胞診レベルで行なうより遙かに信頼性がある.従って,生検が容易な症例での細胞診の診断上の意義は少ない.それに直視下洗浄法は,通常細胞診用ファイバースコープを用いるので,生検と別の日時に行なわれる.従って,患者側の経済的,身体的負担が大きくなる.

 そこで筆者らは,消化管内の内視鏡検査可能な部位での悪性腫瘍の診断は,先ず生検を直視下に首尾よく行なうこと,細胞診は補助的に用いることにしている.従って,生検が陽性なら,細胞診は不要で,生検が偽陽性で細胞診が癌細胞を証明したときこそ,その真価が発揮されると考える.

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 症例

 患 者:高○貞○,46歳,男.

 主 訴:自覚症状なし.

 既応ならびに家族歴:特記すべき事項なし.

 現病歴:1970年10月に当院が行なった会社の胃集検で異常を指摘され,精密検査を行なうことになった.健康には自信をもっていた.

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 X線,内視鏡検査をはじめ,生検,細胞診などの診断技術の進歩により,早期胃癌の診断はかなり容易となったが,Ⅱb型早期胃癌に関してはいまだその手懸りに乏しい.著者らは最近併存した他病変のため胃切除を行ない,たまたまそれに接して発見されたⅡb型の2症例を経験したので,本邦において報告されている60例と併せ,計62例について考察を加えた.

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 著者らが最近4年半Dec. 1, 1966. -May. 31, 1971. に取り扱った切除胃の病理組織学的検査症例は254例であるが,そのうち胃好酸球性肉芽腫が4例(1.6%)含まれていた.3例は寄生虫によらないもので,1例は寄生虫(アニサキス)によるものであった.自験例について比較検討し,若干の知見を得たので報告する.

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 Behçet症候群は近年わが国に多発する傾向があり,その病状も多彩で難治である上に,青壮年層に罹患者が多いなどの点から社会問題にまで発展するに至った.臨床症状は単にmuco-cutaneo-ocularのみならず全身の炎症性疾患であることも漸次明らかとなり,口腔や会陰部と同様な潰瘍が胃腸管にも発生し,しばしば穿孔をきたして外科的処置を受ける症例が報告されるようになった.今回われわれは,Behçet症候群罹患中に回盲部に興味ある慢性炎症性腫瘤を形成した1例を経験したので報告する.

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 早期胃癌(表在癌)は転移がすくなく,手術の際に最も重要な点は原発巣の取り残しを防ぐことであり,そのためには癌の辺縁を正確に把握することが必要である.我々は早期胃癌辺縁の肉眼的判定(Makro)を行ない,組織所見(Mikro)と比較検討し,さらに両者の不一致の原因を探求した.

 対象は1964~1970年に我々の経験した89個の早期胃癌病変より本研究には検索方法の不適な18個を除いた71個である.内訳は表1の如く粘膜内癌,47個,粘膜下層までの癌,24個である.

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 胃癌の食道への進展型式を検討することは単に病理組織学的な興味のみならず,臨床的にもきわめて重要な意義を有している.

 噴門部の癌腫の形態によってその食道への進展の程度はさまざまであるが,とくに腫瘍口側からみた肉眼型と食道進展様式,および食道壁内の浸潤層との相関関係については,従来あまり明確に述べられていなかったように思われる.

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 胃病変の診断はX線学的には,二重造影法,内視鏡的には,ライトガイドファイバースコープの開発普及により著るしく向上した.また,内視鏡における色素剤散布法の開発により,内視鏡診断上の欠点とされていた粘膜の凹凸の変化が,よく観察できるようになった.これらの検査法は,いずれも多くの利点を有しているが,その反面,その操作上,かなりのコツを要し,また,両検査を同じ日に行なえないために,診断上必要な両所見の対比が,困難なことが少なくないという欠点もある.そこで,われわれはX線と内視鏡検査を同時に行ない,しかも,二重造影法と色素剤散布法の利点を併せもち,患者の肉体的負担が少ない簡便な検査法として,内視鏡による造影剤散布法(Barium-Spray Method)を考案してみた.さきに,内視鏡を用いないX線透視下での導管による造影剤を散布する方法については,1962年放射線学会関東地方会で発表して以来,その簡便性,正確性について基礎的研究を続けていたが,今回,単純な導管挿入に代わるものとして,内視鏡を応用することを考えた.この目的には,生検用および細胞診用の内視鏡であれば,すべて応用できる.この検査法は,内視鏡を利用して直視下で,造影剤を病変部へ選択的に散布し,胃X線検査および内視鏡検査を同時に行なえる点で,従来の検査法に比べて,一段と有利であると考える.

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欧文目次

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 近年特に多くの医学書が発刊され,手軽に勉強するにはまことに便利な時代になって来たことを有難く思っている.医学書にもいろいろあるが私は著者自身の経験を客観的に掘り下げたものに最も強く惹かれる.嘘がなく,実際に真似すればできるからである.しかしそのような本を書く人の立場に立って考えてみるとまことに大変な大事業であろう.そのような本は長い年月の経験の労苦がそのさりげない一行一句の間に浸み出ているものである.この本をひもといた時の第一印象は正にそれであり“ああ! やんぬるかな”と羨ましい気もして先ず序から読み始めた次第である.そして編集者白壁教授がその序に述べられたように私も一挙に読み下す気になった.読み終ったときには確かな満足感があった.本書の価値はその長い経験が淡々とにじみでている点にあるといえる.

 すべてもれなく欲しい写真を集めることは一見容易に思われるが実際には並大抵のことではない.写真をうつす技師の技術に左右されたり,担当する医師の方針も時期によって変るからである.

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 New ZealandのAucklandで2月に開催された第2回アジア太平洋地域国際リウマチ学会に出席して,帰国したのは3月上旬であった.留守中に山積していた郵便物を整理していると,その中に書籍小包が医学書院から届けられているのが見つかった.あけてみると浜島義博,安田健次郎両教授の著書『螢光抗体法・酵素抗体法』であった.

 B5・総頁数642,全巻アート紙に印刷せられた,ずっしりと手重いこの著書は,最近20数年の学界における螢光抗体法の驚異的な普及率と重要性そのものを暗示するかのように,堂々たる偉容を誇る巨冊である.またこれを通覧してみると,その内容がすばらしい.もちろん単なる免疫組織学的検査手技の指南書などではなく,これによって獲得せられた複雑多岐なこの方面の知見を,ほとんどあますところなきまでに蒐集,整理統合して,これを詳細に紹介するとともに,さらに適切な著者らの論評を付加した独創的な論著である.また,その巻尾に記載されている文献の集大成がみごとである.文献の頁数250,研究題目別に分類せられていて,完壁に近いものである.言うならば,本書を手にすることによって,研究者は過去に遡って文献の探索をする必要が全く無く,しかもこれら文献が本文において詳細に紹介され論評されているのであるから,本方面のことについては本書をもってその出発点とすれば良いということになる.まことに研究者にとっては,この上もない便利な有益な書物ができたものである.

編集後記 熊倉 賢二
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 胃癌の浸潤範囲と深達については,常日頃なやまされているだけに,今月号の主題は読んでいて思わず引きこまれてしまう.複雑にもつれた問題を一つ一つ解きあかしてゆく過程は推理小説以上の面白さがある.古賀先生は拡大撮影という方法を導入された.八尾先生は次々に新しい課題を解決してゆかれる.中井先生は,多年にわたる研究を,きわめて簡明にまとめて下さった.佐野先生は,病理の立場から,深達度診断の方向づけをして下さった.これだけ各方面から明快に手がかりを説き明かしていただくと,今日からすぐ役に立つようにと思う.また,各地で浸潤範囲や深達度の問題が,やかましく議論されるようになることであろう.

 主題に関連した問題として,崔先生,多羅尾先生,吉野先生のⅡbについての症例や研究は貴重である.ごく微細病変のX線写真や内視鏡写真が,うまく印刷されているかどうか心配である.また,胃癌の食道進展型式についての秋山先生の研究は,内視鏡の立場からばかりでなく,X線診断の立場からも役に立つであろう.

基本情報

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胃と腸
7巻6号 (1972年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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