胃と腸 7巻8号 (1972年8月)

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 オスラー病1)は遺伝性出血性毛細血管拡張症とも呼ばれ,顔面,指腹などの皮膚,あるいは鼻粘膜,舌,口唇,口腔,消化管粘膜に好発する,毛細管拡張および出血を主徴とする遺伝性疾患である.

 本邦では,1942年大久保2)の報告以来,25家系内外の記載がみられるが,消化管の内視鏡検査がなされた報告は,野村13)ほか数例にすぎない.

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 内臓の悪性腫瘍に諸種皮膚疾患が合併することは以前から時々報告されており,悪性腫瘍の存在をある程度推定しうるともいわれている.われわれは胃の巨大潰瘍が約1カ月後著明縮小した時,Ⅱc様変化が著明となり悪性サイクル1)の一面を把えたと判断したと時を同じくして,偶然にも水疱性皮疹が出現し一種の天疱瘡と診断された症例を経験し,両者の経過を詳細に観察しえたので報告する.

症例

 患 者:鍛○屋○枝,58歳,女.

 主 訴:心窩部痛.

 既往症:以前より胃弱,3~4年前胃下垂症を指摘.2年前より癌痒性水疱性紅斑が出没していたが初診時には消失している.

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 十二指腸良性腫瘍は従来稀なものとされて来たが,小腸全体から見ると十二指腸は比較的良性腫瘍の好発部位であり殊に十二指腸球部には比較的多く見られる.わが国でも近年漸次発表例が増加の傾向にあるが,十二指腸内視鏡の普及は発見率の向上に拍車をかけるであろうといわれて来た.今回私共は十二指腸良性腫瘍の中でもきわめて稀なcystを経験したので,過去本邦における文献に見られた十二指腸cystic tumor例と共に若干の考察を試み報告する.

症例

 患 者:69歳,男.

 主 訴:食事直後の上腹部不快感.

 家族歴:特記すべきことはない,

 既往歴:6年前十二指腸潰瘍で3カ月入院加療を受けたほか,4年前より高血圧症,動脈硬化性心臓病で断続的に加療を受けていた.

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 膠原病が全身性疾患として捉えられるようになってから,罹患臓器のX線所見についての報告はかなり多い.消化器のX線所見についても同様であるが,Systemic Lupus Erythematosus(以下SLE)についての記載はすくない8).わが国でも,成書7)にはSLEの症状の一つとして腹部症状があげられているが,小腸のX線像にっいての記載がみられるものはきわめてまれである.ここに報告するSLEの小腸のX線所見は従来報告されたものよりかなり著明であり,血管炎にみられるsegmental infarctionに類似して興味深い.

症例とX線所見

 患 者:H. U. 23歳,♀.

 昭和41年12月頃より発熱,全身倦怠感,顔面の浮腫性紅斑等の症状で発病し,副腎皮質ホルモンの内服を続け,これらの症状は軽快していた,昭和45年5月30日頃より急に腹痛,嘔吐,下痢等の症状が出現し,某医にて急性虫垂炎の診断で虫垂切除術を受けたが,症状は変らず精査のため胃腸透視の依頼を受けた.胃腸透視では食道および胃には著変がみられなかったが,小腸では粘膜ひだが厚く浮腫状であり,一部ではthumb-printingないしはpseudotumor様の陰影欠損がみられ,バリウムの通過も促進していたが,結腸には異常所見はみられなかった(図1).整腸剤,プレドニゾロン40mg/dayの投与を施行したが,悪心,嘔吐,下痢,腹痛等の症状は続き,るいそうが著明となり顔貌は無欲状態となった.プレドニゾロン60mg/dayに増量と同時に合成ACTH 1mg/dayを併用したところ,はじめてこれらの腹部症状はおさまった.この間下痢は約1カ月続き,便は黄緑色水様で軽度に粘液を混じていたが病原微生物は検出されなかった.末梢血液では軽度の貧血がみられ,検尿では乏尿,血尿,蛋白尿等がみられたが,血清蛋白,電解質等ほぼ正常であった.昭和45年10月の胃腸透視所見では,上部小腸はほぼ正常の部分が多かったが,なお空腸,回腸では部分的に粘膜ひだの肥厚がみられた(図2).

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 無ガンマグロブリン血症は非常に稀れな疾患であり本邦においてもその報告はあるが,しかし殆んどが小児である.ことに成人についての報告は低ガンマグロブリン血症を含めても少ない1)~5).一方外国における報告も成人に関するものは少ないがしかしこの疾患の小腸レ線像についての記載はHermans6),Hodgson7),Robbins8),Marshak9)によりくわしくなされているにもかかわらず,わが国の数少ないこれらの報告をみてもただsprue様症状があったという記載1)のみで小林の記載10)をのぞけばそのレ線像について全くふれたものを見出しえない.

 最近当科で後天性特発性無ガンマグロブリン血症と考えられる29歳の女性の小腸レ線像でこの疾患に特有といわれている汎発性結節性リンパ濾胞増殖性(diffuse nodular lymphoid hyperplasia)の所見を見たのでこのレ線像を中心に報告する.

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 胃や大腸の癌が多いのに反して小腸癌が非常に少ないことは興味があるが,これは東西に共通している.Paulson1)によると胃腸癌のうち小腸癌は僅か1%という.一方わが国では癌研における1946年より1968年までの23年間の手術において2),十二指腸,空腸,回腸10例,結腸,直腸820例,胃癌4,514例であり,小腸癌は0.2%弱にすぎない.

 倉金3)らによるとわが国における小腸癌(空,回腸)の報告例数は1912年西の報告以来155例にすぎない.また術前診断は困難であり,臨床的およびX線的に狭窄症状によって行われており,本邦症例中腸狭窄或は腸閉塞と診断され,開腹手術により癌が発見された場合が最も多いという.

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 家族性大腸ポリープ症は大腸に限局して無数に腺腫性ポリープが発生する疾患として知られているが,上部消化管の病変については意外に知られていない.私共は家族性大腸ポリープ症の家系の一員で大腸ポリポージスの外に胃にも多発性ポリープが観察されたので報告しこの問題について考察した.

症例

 22歳(1949年生れ)の女性.(No.8931).主訴,腹痛ならびに家族に大腸ポリープ症の患者がある為に精査を希望して来院した.

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 脱毛,色素沈着,爪の萎縮,低蛋白血症を伴うびまん性の消化管polyposisが,1955年はじめてCronkhiteおよびCanada1)によって報告せられ,それ以来この稀な疾患はCronkhite-Canada症候群とよばれている.

 最近われわれはこの症候群と考えられる1症例を経験し剖検する機会を得た.ポリープの病理組織学的検索によりAdenomatous polypとは全く異った興味ある所見を得たので報告する.

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 食道癌,とくに扁平上皮癌は主癌巣以外にその標本上,多様性を示すものが多く,従来.食道癌に伴う上皮内癌として記載され,また食道癌は縦軸方向に伸びることが多いということを述べた報告は多い.しかし食道癌の標本を肉眼的に十分吟味し,その随伴病変について類型を見きわめ,組織所見と対比した報告は比較的すくないように思われる.また,これら変化に対して食道癌切除時に払うべき関心とその対策について述べた報告もすくなく,外科臨床上とくに有意義であると考えるので報告する次第である.

Ⅰ.検査材料および方法

 ここに調査対象とした食道癌剔出標本は,1952年から1970年までの食道扁平上皮癌140例である.この調査では,食道癌の主癌巣ではなく,つぎのような“併存する粘膜病変”について肉眼的および病理組織学的に検討した.

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 近年X線および内視鏡検査の進歩改良により,わが国の胃疾患に関する形態学的な診断技術は,飛躍的な進歩をとげた.特に,その病理組織学的追跡と相俟って,胃内の微細変化は,詳細にわたって追求され,従来の概念に対して大きな変革が進行しつつある.

 しかしながら,胃X線診断学においては,前壁病変の描出は,特に充盈像で辺縁に変化の乏しい微少病変では,しばしば技術的に困難で,見落し率も決して低いものではない.たまたま他の目的で内視鏡検査を行い,胃前壁の微少病変の存在に驚くことは,誰もが経験することであろう.また近年広く行なわれて来た集団検診や,X線テレビによる撮影では,圧迫にも自から限界がある.秋山らの提唱する低濃度バリウムによる高圧撮影方式は,装置の関係から直ちに多くの実地医家の行い難い所である.熊倉,早川らの発表以来,現在最も普及されている前壁撮影法は,腹臥位二重造影法であるが,これとても爆状胃や肥満者の横位の胃では,必ずしも常に好結果を期し難い.これらの点に鑑み,われわれの行っている体位反転による前壁撮影法を,実際症例と共に紹介して,一般の参考に供したいと思う.

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 二重造影法の開発によって,早期胃癌の発見は著しく増加した.内視鏡検査,胃生検,細胞診の併用によって発見される早期胃癌は,より小さなより平坦なものへとなっていく.部位別でも,今まで比較的発見の難かしいとされていた前壁,大彎および上部に発生した早期胃癌の発見数も増している.胃のX線検査では,X線テレビの導入によって,径1cm以下の微細な異常所見までとらえることができるので,圧迫法を充分活用すれば微小早期胃癌の発見数は,さらに増すことであろう.

 筆者らは,今までに角部大彎側陥凹性早期胃癌2例,幽門部のそれは2例経験しているが,そのうちで,胃X線四大撮影法を駆使して診断しえた角部大彎の比較的小さなⅡc型早期癌を選んで,ここにそのX線検査方法を中心に報告し,そのX線検査方法に若干の検討を加えてみる.

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 1901年Opie1)がいわゆるcommon channel theoryを提唱してより,十二指腸乳頭部については,単に解剖学的検索にとどまらず,病態生理学的追求がなされて来た.

 しかし,その研究は乳頭部のX線像と,手術あるいは剖検に際しての観察との対比によってはじめてなされたというさまざまな制約のため,遅々として進まなかった.

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 結核の化学療法の進歩ならびに結核予防対策の推進によって,かつて頻々とみることができた腸結核症は,最近非常に少ない疾患となってしまった.今日,一般病院で,日常診療において本症を経験することは稀である.

 過去2年間に,著者らが内視鏡で観察しえた本症は,確診のついたもの4例,強く腸結核症を疑うも,組織学的な裏付けが得られなかったもの3例の計7例であって,いずれの例でも主病変は回盲部に存在した.

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 噴門部病変の内視鏡所見について述べる.

 1)食道炎.胃液,胆汁,膵液等の逆流による逆流性食道炎(Reflux esophagitis)が,噴門部殊に食道下部によくみられる.十二指腸潰瘍の患者に,胸やけを主訴とするものが多いが,食道鏡検査をやると,30~80%に食道炎を認めたときの報告がある.胃切除後は,胃十二指腸,胃空腸吻合,または食道空腸吻合の吻合部を通じて,膵液,胆汁の逆流がおこり,食道下部に炎症をおこし,Alkali esophagitisといわれる.所見は,軽度の場合発赤が認められる.食道粘膜は,胃粘膜に比べて蒼白で,毛細血管の透見像が著明で,胃粘膜との境界がよく分るが,発赤がおこると,これらの所見が不明瞭になる.炎症が強くなると,びらん状を呈し,出血のみられることがある.炎症が慢性化すると,固有層以下に線維化がおこり,噴門部の開口不全や非対称性開口を示し,潰瘍性変化を伴っていると,悪性疾患との鑑別が問題になる.

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 Hennlng's signは消化器病学とくに内視鏡を勉強している人で知らないものはないくらい有名である.

 かなりながい間,Henningがいつこのsignについて発表したのか気になっていたが,雑誌がみつからなかった.そこで,今春来日し講演してくれたErlangen大学のDr. Classenに調べてもらった.図か彼の返事である.彼は非常にていねいにHenning's signの記載のある書籍のコピーまで送ってくれたが,どれもわれわれが座右においている本であった.Classenによると,胃潰瘍あるいは瘢痕にみられる胃角のgothic arch deformationを“Henning sign”と命名したのはRudolf Schindlerで,彼のGastroscopy1)にちゃんとHenning was the first to describe this sign, which I have called, therefore, the “Henning sign”と書いてある.たいへんうかつであった.それではいつHenningが記載したかという問題であるが,1935年のN. Henning著Lehrbuch der Gastroskopie, Leipzigが最初で,彼は1949版のLehrbuch der Verdauungskrankheiten, Georg Thieme(p.236)にはspitzbogenartige Ausziehung des Anguls(Spitzbogenangulus)は胃潰瘍あるいは瘢痕による内視鏡間接所見と考えた.Brühl2)もHenning'sches Zeichenは胃角附近に潰瘍あるいは瘢痕が存在することを示すものであると述べている.

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 〔第4例〕 O. S. 50歳,男.

 主 訴:胸やけ.

 理学的検査所見:特に異常なし.

 胃液酸度:ガストリン法で最高総酸度 56mq/L.

 胃カメラ所見:図1に示すように胃角上小彎前壁よりに辺縁の不正出血といくぶん腫脹した活動期の潰瘍がみられる.その肛側には発赤した島状隆起をみる.集中する粘膜ひだには階段状のヤセ及び太まりおよび不規則な中断がみられ,胃角の弧の変形は著明である.

 胃生検:図2.潰瘍辺縁より採取された標本で,Moderately differentiated adenocarcinomaであった.

印象記

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 ハンガリーの消化器病学会は内科学会から独立してから15年になり,200余名の会員をようしています.この国で最も活動的な学会と聞きました.近く国際的な消化器病専門誌を創刊する計画が進んでいる由ですし,また国際消化器病学会の開催地として立候補するとか,意気の盛んなところを見せています.

 15回総会は5月11~13日の3日間にわたり,Budapestの北東100キロのParad鉱泉で開かれました.内容を紹介しますと,肝内性胆汁欝滞に関するシンポジウムではビリルビン代謝,形態,臨床,外科,生化学検査,X線診断,腹腔鏡の面から4時間にわたり討論されました.第2の主題の慢性膵炎の臨床に関する円卓会議では,シンチグラム,十二指腸鏡,十二指腸造影,生化学検査,血管撮影,外科治療,内科治療について意見が交わされました.

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 最近,続けて上記2学会に出席する機会を得たので,簡単にその印象を記してみたい.

 西独のエアランゲンは,ニュールンベルグから電車で40分の所にある小さな学園都市で,大学の内科はProf. Demlingのもとに,ヨーロッパの消化器内視鏡のメッカとなっているが,ここで第5回ドイツ内視鏡学会が3月10日から金土日の3日にわたって開催された,内視鏡学会と聞けば,消化器内視鏡がまず頭に浮んでくるが,消化器,胆道系はいうに及ばず,脳室,鼻腔,副鼻腔,気管,気管支,喉頭,尿管,膝関節更に輸卵管,後腹膜の内視鏡に関する演題まであり,人体の腔という腔は容赦なく内視鏡の管が挿入され直視下に検索されているという感があった.会場は大学医学部の大講堂で朝8:30から夕方6:30まで10分間の演題が計60題.類似演題2~数題毎に10分間の討論があり,活発な質疑応答が行なわれていた.討論の時スライドを使う質問者も少なくなかった.午前中に20分の休憩,昼食休憩が2時間とってあるのは大変ありがたかった.フランス,スエーデン,ルーマニア,イギリス,スイス,オーストリアからも演題が出ていたが,日本人の演題が4題あり―Tubaloscopy(毛利―横須賀)Duodenal diaphragma(木原―岡山)Stereoencephaloscopy(Iizuka-Bonn),Colonoscopy(武藤―東京)―心強いことであった.ドイツ人の講演中に日本の諸先生の名が度々引用されるのを聞くと,今更のように日本内視鏡学のレベルの高さを痛感させられた.

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欧文目次

編集後記 古沢 元之助
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 「胃と腸」の編集室には貴重な投稿原稿が集中していると聞く.本号はこれらの投稿された症例と研究の特集で,今回は腸に関する論文が多く,十二指腸囊腫の症例,Systemic lupus erythematosusやAgammaglobulinemiaにおける小腸の異常X線像など,教えられるところが多く,読んでいるうちに暑さも忘れてしまう.また,Osler病の内視鏡像,胃に多発性ポリープが発見された家族性大腸ポリポージスの大腸亜全摘出術の胃ポリープの消褪など,掲載された症例の一つ一つが興味をそそる.

 天疱瘡と胃癌の合併例の消長は,私自身,最近,31歳男子の胃癌患者で,胃切除後3か月目に,下肢に尋常性天疱瘡を生じた症例を経験し,黒色表皮腫と胃癌との関係にも思いを廻らして,皮膚疾患と悪性腫瘍との関係に興味をもっていただけに,興味深く読んだ.

基本情報

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胃と腸
7巻8号 (1972年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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