胃と腸 55巻9号 (2020年8月)

今月の主題 一度見たら忘れられない症例

序説

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 本号のテーマは「一度見たら忘れられない症例」である.今まで何度か序説を書かせていただいたが,正直なところこの序説を書くことに非常に苦しみ,困難を極めている.この業界にいて写真を撮ることは当たり前のことであるが,この“当たり前”を“当たり前”として説明することほど難しいものはない.

 本誌は,美麗な臨床画像をもとに病理組織学的視点も加えて消化管疾患の理解を深めることを目的としている.“美麗な臨床画像”とは単に風景をパチパチ撮ったわけではない.放射線診断にかかわる大家の先生や技師の方からはお叱りを頂戴するかもしれないが,例えば一定の条件で撮像されるCT像において額縁に入れて自室に飾りたい画像があるかと言えば,“ない”のではないだろうか.しかし,筆者には自分で撮影した内視鏡画像を美しいと感じて,他の絵画のように自室に飾りたいと思うことがある.実際には家内に“気色悪い”と言われそうなので飾れないでいるのが,家長としてだらしない.

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臨床経過

 40歳代,男性.2歳時に苛性ソーダの誤飲により腐食性食道狭窄を発症.胃瘻造設術が施行された.その後,食事摂取は可能であったが,40歳代になり,胸部のつかえ感が増強したため近医を受診した.上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)にて食道狭窄を指摘され,食道拡張術目的に当科に紹介され受診となった.

 当院のEGDでは,切歯列より20〜26cmの食道粘膜は白濁し,血管が透見できず,多数の瘢痕を認めた(Fig.1a〜c).切歯列より26cmから食道狭窄が始まり,狭窄部の左壁〜後壁に1/2周程度の病変を認めた.左壁側は表面に付着物があり,一見盛り上がって見えたが,後壁側は境界が明瞭な陥凹性病変として観察され,病変は峡谷のような切り立った崖状を呈していた(Fig.1d〜f).細径scopeでの肛門側の観察では,左壁および後壁側の病変は,発赤した厚みのある病変として捉えられ,中央には深い溝状の陥凹がみられた(Fig.1g,i).しかし,NBI(narrow band imaging)近接観察では,病巣表面にB2血管らしき所見がみられ,前壁側には血管が増生するBA(brownish area)もみられた(Fig.1h).狭窄部にできた病変のため,病変が誇張されて見えている可能性も考慮し,MM-SMの表在癌と診断した.内視鏡が狭窄部を通過できないため,病変の全貌は確認できなかったが,ヨード染色にて不染を示す病変部の生検にて,扁平上皮癌と診断された(Fig.1f).

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臨床経過

 患者:70歳代,女性.

 食道X線造影検査(Fig.1):食道胃接合部の混合型ヘルニアと,下部食道の表面に大小不同の結節を伴う約30mm大の隆起性病変および,粘膜の顆粒状変化を伴う丈の低い隆起(Fig.1b,黄矢頭部)を認めた.後壁側の辺縁像は平滑で,この領域において病変の連続性はないと考えた.また,食道壁の伸展は保たれていた.以上より,混合型ヘルニアを背景とした隆起型Barrett食道腺癌と診断した.

 上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD):白色光観察で食道胃接合部から口側に約60mm長の全周性の発赤粘膜を認め,LSBE(long-segment Barrett esophagus)と診断した.LSBE内の左側壁に,30mm大の丈が高く基部の狭い0-Ip型隆起を認め(病変A,Fig.2a),隆起表面は凹凸不整で白苔が付着していた.病変Aの対側には,中心部に相対的な陥凹を有する丈の低い0-I型隆起がみられ,表面は顆粒状の粘膜変化が観察された(病変B,Fig.2b).病変Aと病変Bの間には,丈の低い0-IIa型隆起が介在しており(病変C,Fig.2a),病変の口側端は扁平円柱上皮接合部(squamo columnar junction ; SCJ)と接していた.病変付近の食道壁の伸展は良好であった(Fig.2a).

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臨床経過

 患者は30歳代,男性.

 上腹部の不快感が続くため,近医で上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)を受けたところ,胃に多発した隆起性病変を指摘されて当院を受診した.家族歴や既往歴に特記事項はなかった.当院でEGDを再検したところ,前庭部,胃角部大彎,胃体部,胃穹窿部に多発する粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様病変を散在性に認めた(Fig.1).一部の病変は表面に発赤とびらんがみられ,背景粘膜には萎縮の所見はみられなかった.細径プローブを用いた超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS)では,第2,3層に主座のある比較的均一な低エコー像を認め,第4層は保たれていた(Fig.2).以上より,悪性リンパ腫を疑った.さらに,明らかな潰瘍形成を伴わないことやEUSで病変が粘膜下層までにとどまることから低悪性度リンパ腫〔MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫〕の可能性が高いと考えられた.

 しかし,病変が広範囲に多発してみられ,低悪性度リンパ腫にしては内視鏡所見が“派手過ぎる”印象があった.隆起型胃MALTリンパ腫では,病変の深部に形質転化したびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)が存在することがあるため,胃角部大彎の病変(Fig.1b)からボーリング生検を行った.病変の表層から採取された生検組織の病理組織学的所見では,小型異型リンパ球の浸潤を認め,lymphoepithelial lesionがみられた(Fig.3).免疫組織化学染色でCD20,IRTA1(FCRL4)が陽性,BCL2が弱陽性,CD3,CD5,CD10が陰性であったことからMALTリンパ腫と診断された.一方,ボーリング生検で病変の深部から採取された生検組織の病理組織学的所見では,中型〜大型の異型リンパ球のびまん性浸潤を認め(Fig.4),Ki-67染色では表層のMALTリンパ腫の部分に比べて明らかな陽性細胞の増加が観察され(Fig.5),DLBCLと診断された.AP12-MALT1染色体転座は認めなかった.

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臨床経過

 患者は30歳代,女性.特に自覚症状を認めなかったが,会社検診の胃X線造影検査を受け,胃の異常を指摘されたため精査加療目的で受診となった.家族歴,既往歴に特記事項はない.また,理学的所見,血液生化学検査でも異常を認めず,血清H. pylori(Helicobacter pylori)-IgGは陰性であった.

 胃X線造影検査では,背臥位充盈(Fig.1a)で胃穹窿部から胃体上部大彎に,比較的限局性の壁硬化像を認めた.また,背臥位・腹臥位二重造影像では(Fig.1b,c),胃穹窿部から胃体上部にかけて口径不同のある縦ひだに横走するひだの交錯する所見を認めた.

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臨床経過

 患者は30歳代,男性.

 健診の内視鏡検査で胃前庭部の褪色斑から生検され印環細胞癌が指摘されたため,当科に紹介され受診となった.既往歴に特記事項なく,父親がスキルス胃癌で28歳で死亡していた.血液検査では,血清H. pylori(Helicobacter pylori)抗体,便中抗原とも陰性で,腫瘍マーカーも正常範囲でPG(pepsinogen)1:65ng/ml,PG 2:12ng/ml,PG 1/2:5.4であった.

 通常内視鏡検査では,胃体下部から前庭部にかけて萎縮のない背景粘膜の中に径5mm前後の褪色斑が散在していた(Fig.1).NBI(narrow band imaging)拡大内視鏡観察では,褪色斑は境界明瞭で背景の血管と比較して細く疎になり部分的に消失していた(Fig.2a,b).また,褪色斑の中には表面構造が不明瞭になり縮れたcorkscrew様の血管が観察されるものもあった(Fig.2c,d).8か所の褪色斑からそれぞれ生検を行いすべてでsigが検出された.

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臨床経過

 患者:50歳代,女性.

 主訴:嘔気,腹部膨満.

 病歴:嘔気,腹部膨満が数週間続くため,近医で腹部超音波検査と腹部単純CTが撮影され,腹水を指摘された.上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)で胃体部に粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様の隆起と皺襞腫大を認め,ポジトロン断層法で胃,腹膜,腹水に異常集積を認めたため,進行胃癌による腹膜播種が疑われ,精査加療目的に当院を紹介され受診した.

 当院で行ったEGDでは,胃穹窿部の皺襞腫大,胃体部に多発するSMT様隆起や皺襞腫大を認めた(Fig.1).多発病変であったことから,転移性胃癌が鑑別に挙がり,既往歴を確認したところ15年前に乳癌の手術歴があり,12年経った時点で経過観察が終了していた.

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臨床経過

 [症例1] 50歳代,女性.

 心窩部痛を主訴に当院を受診した.既往歴・アレルギー歴・家族歴に特記事項はなかった.常用薬はなかったが,生理痛のためにロキソプロフェンの頓服を行うことがあった.血液検査ではヘモグロビン値9.8g/dlと貧血があったが,好酸球数を含めその他に異常所見は認めず,血清H. pylori(Helicobacter pylori)IgG抗体も陰性であった.

 上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)では胃前庭部に浅い潰瘍が多発していたが(Fig.1a),他の消化管に異常はなかった.非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs)による消化性潰瘍を疑い,ボノプラザン20mg/dayの投薬を開始したところ,症状は速やかに改善し,1か月後のEGDで潰瘍の瘢痕化を確認した(Fig.1b).しかし,瘢痕部からの生検で高度の好酸球浸潤を認めたため(Fig.1c),好酸球性胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis ; EGE)と確定診断した.3か月後にもフォローアップの内視鏡検査を施行したが,潰瘍の再燃は認めなかった.

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臨床経過

 患者は40歳代,女性.検診にて十二指腸粘膜下腫瘍を指摘され脂肪腫と診断されたが,経時的に増大傾向を認めたため当院に紹介され受診となった.家族歴,既往歴に特記事項はなかった.当院初回の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)では,前医で指摘された粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様隆起(Fig.1)が虚脱して舌状の形態を呈し(Fig.2a),その付着部のある十二指腸下行脚は盲端になっていた(Fig.2b).また,呼吸により隆起は前後に移動していた(Fig.2c,d).

 初回のEGDから2日後に超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS)を施行したが,その際の内視鏡検査においてSMT様隆起は消失していた(Fig.3a).初回時と同様に今回も十二指腸下行脚は盲端になっていたが乳頭側に瘻孔を認め(Fig.3b),同部に内視鏡を挿入すると正常の十二指腸下行脚を認めた(Fig.3c).EUSにて20MHz超音波細径プローブを用いて十二指腸下行脚から抜去しながらscanすると,粘膜下層を挟むように粘膜が存在する,いわゆる鏡面像を呈する5層構造の膜様構造物を認めた(Fig.3d).低緊張性十二指腸X線造影検査を患者に提案したものの拒否されたため,静脈麻酔を施行したうえでアミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液(ガストログラフイン®経口・注腸用)を用いて内視鏡下でのX線造影検査を行った.X線造影像にて十二指腸下行脚近位部に膜様,囊状の構造物を認め,乳頭側の欠損部より十二指腸下行脚への造影剤の流出を認めた(Fig.4).

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臨床経過

 患者は40歳代,男性.

 下痢が出現して徐々に増強し,発熱も出現してきたため,近医を受診し,急性腸炎と診断され入院した.感染性腸炎の疑いで抗菌薬投与と絶食にて1週間以上経過観察されていた.しかし,症状が軽快せず,腹部単純X線検査で腸管の拡張も増強してきたため,当院へ転院となった.

 入院時の腹部単純X線検査では大腸および小腸の著明な拡張がみられた(Fig.1).血液検査はWBC 15,600/μl,RBC 434×104/μl,Hb 12.9g/dl,TP 4.6g/dl,Alb 1.6g/dl,CRP 24.4mg/dl,ESR 44mm/hであり,著明な炎症反応の上昇と低蛋白血症を認めた.診断目的で緊急内視鏡を施行した.S状結腸遠位側には粘膜の著明な脱落がみられ,ごくわずかの粘膜残存を島状に認め,縦列していた(Fig.2).粘膜脱落部に,筋層と思われる線維構造がみられた(Fig.2a,d).これ以上近位側への挿入は危険と考え,内視鏡を抜去した.直腸には小びらんがびまん性にみられ(Fig.3a),潰瘍性大腸炎と考えられる像であったが,一部では正常粘膜がみられた(Fig.3b).中毒性巨大結腸症を合併した重症の潰瘍性大腸炎と考えたが,このような内視鏡像の経験はなく,生検病理組織学的診断結果を待つ必要があると考え,ステロイドパルス療法を開始した.

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臨床経過

 患者は50歳代,女性.高血圧で10年前から加療中であった(カンデサルタン,アムロジピンを服薬).200X−8年,下痢,粘血便,腹痛を自覚するようになり,徐々に増強したため近医を受診.大腸内視鏡検査で全大腸炎型の潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)と診断された.5-アミノサリチル酸製剤で症状は改善するも効果は十分でなく,経口ステロイド薬の投与を受け臨床的寛解を得た.しかし,ステロイド漸減中に再燃を認め,血球成分除去療法,免疫調整薬の投与などを受けるも軽度の活動性は持続し,軽症ではあるが慢性持続型として経過していた.

 200X年に経過観察目的に大腸内視鏡検査を施行した.左側結腸のハウストラは消失し,腸管は短縮,鉛管状を呈しており,粘膜混濁,血管透見像の低下を認めた(Fig.1).S状結腸近位側には浅く広い陥凹が多発しており(Fig.2a),インジゴカルミン色素撒布で陥凹面はより明瞭となった(Fig.2b).また,辺縁には炎症性ポリープを認めた(Fig.2a,b).陥凹面は比較的平滑であったが脆弱であり,スコープの接触や送気,送水によっても出血が容易にみられた(Fig.2c,d).なお,陥凹間の介在粘膜には,一部血管透見像が観察可能であった.NBI(narrow band imaging)拡大観察では,介在粘膜の大部分におけるvessel patternは,血管径は拡張しているもののnetworkを形成しほぼ均一であった.しかし,太い異常血管やAVA(avascular area)も散見された(Fig.2e).陥凹部のsurface patternは観察困難であり,口径不同の異常血管の断片化,途絶が観察された(Fig.2f).

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臨床経過

 患者は30歳代,女性.

 10歳時に1型糖尿病を発症し,インスリンで加療するも慢性腎不全となり透析が導入され,30歳時に脳死膵腎同時移植が施行された.その後ステロイド,タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチルなど内服.移植2年後に下痢が6週間持続するため当科に紹介され受診となった.大腸内視鏡検査にて,回腸末端にアフタの散在を認め(Fig.1a),盲腸には輪状傾向の幅の狭い潰瘍や瘢痕(Fig.1b),散在性に不整形びらん(Fig.1c,d)を認めた.盲腸からS状結腸にかけては血管透見消失像(Fig.1e〜g),orange peel appearanceが観察された.

 生検病理組織学的所見は,盲腸から上行結腸では好酸球やリンパ球,形質細胞を主体とした高度の炎症細胞浸潤と陰窩の減少,萎縮がみられた(Fig.2a).残存する陰窩には再生性の増生がみられ(Ki-67陽性細胞増加),アポトーシスが散見された(Fig.2b).横行結腸から下行結腸では腺底部にポップコーン状のアポトーシス(γ-H2AX免疫染色陽性)がみられ,同様の高度炎症と陰窩の萎縮を認めた.Ziehl-Neelsen染色は陰性,DFS(direct fast scarlet)染色陰性,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)感染陽性像はなく,病理組織学的に移植片対宿主病(graft-versus-host disease ; GVHD)に矛盾しない所見であった.以上より消化管GVHDと診断し,膵酵素製剤の補充療法を行ったところ,下痢は改善し退院となった.

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臨床経過

 患者は60歳代,女性.

 20XX年に定期検査目的で施行した大腸内視鏡検査にて,横行結腸肝彎曲に病変を指摘された.白色光観察では径5mmの隆起性病変に連続して径5mmの扁平隆起性病変を認め,肉眼型は0-Is+IIaと診断した(Fig.1a).NBI(narrow band imaging)拡大観察では隆起部分(Is)の立ち上がりは整なsurface patternとvessel patternを呈していたが,隆起頂上は陥凹しており血管径の太い不整なvessel patternとその周囲のsurface patternは不明瞭であった(Fig.1b,c).インジゴカルミン色素撒布像では,扁平隆起部分(IIa)において粘液付着を認めた(Fig.2a,b).拡大観察では隆起頂上の陥凹は明瞭となり陥凹部分のみ腫瘍性pitを認めたが,その周囲はI〜II型pit patternを認めた(Fig.2c).

 以上より鋸歯状病変に異型を伴った病変と診断し,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)を施行した.

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臨床経過

 患者は50歳代,女性.

 肛門痛を主訴に近医を受診し,病変を指摘されたため当院に紹介され受診となった.既往歴に特記事項はなかった.当院の下部消化管内視鏡検査(total colonoscopy ; TCS,Fig.1)では,肛門縁から脱出する巨大な黒色腫瘤を認めた(Fig.1a〜c).また,盲腸(Fig.1d),上行結腸(Fig.1e),上部直腸(Fig.1f)にも黒色の隆起性病変や,色素沈着が散在性に認められた.さらに,上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)(Fig.2)では,胃角部後壁(Fig.2a),胃体中部大彎(Fig.2b)にびらんを伴う黒色の色素沈着を認めた.

 その他,CTにて両側鼠径リンパ節の腫大を認めた.以上より直腸肛門部原発の悪性黒色腫(anorectal malignant melanoma ; AMM)を考え,皮膚悪性黒色腫に準じたstaging(第7版AJCC皮膚メラノーマ病期分類)で,cT4bN0M1,cStage IVと診断した.肛門の疼痛,また出血のコントロール不良のため,AMMに対して経肛門的局所切除術が施行された.

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臨床経過

 患者は30歳代,男性.

 全身倦怠感にて前医受診し,血液検査にてHb 4.9g/dlと高度貧血を認めたため,上・下部消化管内視鏡検査,造影CTを施行したが,貧血の原因となる病変は指摘できなかった.鉄剤内服を開始し4か月後にHb 11.3g/dlまで改善した.その後に小腸精査目的で当科に紹介され受診となった.

 家族歴,既往歴に特記事項はなかった.入院時現症は,身長167.6cm,体重49.4kg,血圧139/81mmHg,脈拍85/min,体温36.5℃で理学的所見に異常は認めなかった.

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臨床経過

 患者:60歳代後半,男性.

 主訴:排便時の腫瘤脱出.

 既往歴:20歳代後半から痔核(無治療).

 現病歴:数年前から排便時に肛門から腫瘤が脱出するようになり,当科外来を受診した.

 初診時現症:肛門診察において,視診では痔核,裂肛,痔瘻は認めなかった.肛門指診では6時方向(背側)に表面平滑で軟らかい腫瘤を触知し,疼痛,圧痛はなかった.また,血液生化学検査に異常所見はなかった.

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要旨●患者は40歳代,女性.近医にてスクリーニング目的で施行された下部消化管内視鏡検査(TCS)で盲腸に異常を認め,生検の結果虫垂癌が疑われ当院に紹介となった.TCSでは,虫垂開口部周囲はSMT様に隆起し,表面は発赤調でイクラ様の顆粒状粘膜を呈していた.NBI併用拡大観察ではI型pit様の腺管開口部周囲の窩間部が開大し,虫垂開口部近傍では顆粒の一部にirregularな血管が観察された.造影CT検査で虫垂の腫大を認めるも,壁外への浸潤や転移を疑う所見はなく,腹腔鏡下右半結腸切除術が施行され,虫垂印環細胞癌と診断された.切除標本の病理組織像との対比から,拡大観察所見は盲腸上皮直下まで進展した虫垂癌を見ていたと考えられた.

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要旨●患者は30歳代,女性.めまいを主訴に当院を受診し,貧血(Hb 3.0g/dl)を認めた.EGDを施行した胃体下部前壁にbridging foldを伴う大きさ約35mmの隆起性病変を呈していた.隆起の立ち上がりは急峻であり境界明瞭,辺縁は整であった.生検にて紡錘形細胞腫瘍,特にGISTが疑われた.2か月後の内視鏡検査では,頂部に白苔を伴う深い陥凹を有する大きさ20mm程度のSMTへと形態変化を来した.切除標本では固有筋層内に紡錘形細胞から成る腫瘍性病変を認めた.c-kit弱陽性,CD34陽性,DOG1陽性,PDGFRA陽性でGISTと診断した.今回筆者らは,表層に腫瘍が露出し短期間で脱落したまれな胃GISTの1例を経験したので報告する.

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患者

 70歳代,女性.

主訴

 検診の精査希望.

生化学的検査所見

 血清抗H. pylori(Helicobacter pylori)抗体0.4U/ml.

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目次

欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

次号予告

編集後記 松本 主之
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 本誌は,発行当時から消化管疾患の形態診断に特化した医学誌として発展を遂げ,1990年頃までは通常X線・内視鏡所見と病理所見を詳細に対比することが基本であった.すなわち,病変の肉眼所見とX線・内視鏡所見を対比し,その結果から病理組織所見を推測することが大きなテーマであり,その背景として質の高い病理組織学的診断が必須であった.しかし,その後の画像診断法の目覚ましい進歩に伴い,特に画像強調内視鏡を中心とした詳細な観察で得られた所見と病理所見を直接比較検討することが重要な課題となっている.その結果,病理所見と寸分も乖離することのない完璧な臨床診断を目指した診断学が確立されようとしている.以上のような流れのなかで,今回は早期胃癌研究会の中堅メンバーの皆さまを中心に,実際に経験した自身はもちろん,読者も一度見たら忘れられないようなインパクトのある「忘れられない症例」の提示とともに消化管診断学に対する「熱い思い」をお示しいただくようお願いした.

 本号の掲載論文を通読してみたところ,各著者が「忘れられない」とした症例では,実際の診断過程のどこかで大変苦慮したであろうことを強く感じた.事実,初回検査では鑑別疾患に挙がることのなかった疾患が最終診断であったという症例が数多く取り上げられている.また,読者として画像を拝見しても,鑑別診断が列挙できない疾患が少なくない.おそらく,著者らはその症例を経験することにより知識レベルの向上を体験し,患者に貢献できたという爽快感を得たものと思われる.次に感じたのは,画像強調内視鏡所見がそれほど取り上げられていないことである.今回提示された画像の大部分は,おそらく著者自身が撮影したものと考えてよいであろう.すなわち,私たちは初回観察時のX線・内視鏡像でインパクトのある症例に感銘を受け,症例の貴重さにのめり込むものと推測される.そして,最後に注目すべき点として症例の多彩さが挙げられる.本号の企画に際しては,著者を領域別に大別したうえで症例提示をお願いしたが,重複する疾患は全くなく,上皮性腫瘍,非上皮性腫瘍,炎症性疾患,形態異常など幅広い疾患が集積された.その要因として消化管疾患が極めて多岐に及ぶことが考えられるが,それらを「忘れられない」と感じる感受性が臨床医によって大きく異なることも影響していると思われる.その差異こそ,臨床医の能力,および経験と知識を反映したものであろう.

基本情報

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胃と腸
55巻9号 (2020年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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