胃と腸 55巻8号 (2020年7月)

今月の主題 H. pylori未感染胃の上皮性腫瘍

序説

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はじめに

 H. pylori(Helicobacter pylori)感染率の低下に伴い,従来経験してきた胃上皮性腫瘍(腺腫・腺癌)とは異なる様相を呈する病変に遭遇する機会が増えてきた.H. pylori未感染胃上皮性腫瘍の症例報告も増え,前回の特集から6年が経過していることもあり,改めて現状を把握する必要があると考え本特集を企画した.

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要旨●H. pyloriの感染率は低下しているため,H. pylori感染胃癌と比べてH. pylori未感染胃癌は相対的に増加すると予想される.今回,2010年1月〜2016年5月の期間に当院(大阪国際がんセンター)で経験した,H. pylori未感染胃癌の臨床的特徴を考察した.H. pylori未感染胃癌の頻度は早期胃癌全体の1.26%と低く,若年例,U領域,未分化型癌が多かった.また,分化型癌の粘液形質は胃型の割合が高かった.

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要旨●H. pylori(Helicobacter pylori)未感染胃に発生した胃癌9例を用いてX線読影上の注意点を検討した.H. pylori未感染胃における上皮性腫瘍の発生部位と組織型には関連があり,少なくとも①胃噴門部癌・食道胃接合部腺癌,②胃底腺領域における胃型形質の(低異型度)分化型腺癌,③胃底腺と幽門腺境界領域の印環細胞癌・低分化腺癌,④前庭部のびらん類似型の高分化型腺癌,の4つのtypeが挙げられる.X線によるスクリーニング検査における読影では,H. pylori未感染胃と診断した場合には上記を念頭に置きながら読影することが重要である.

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要旨●H. pylori未感染胃癌の一つである胃底腺型胃癌(gastric adenocarcinoma of fundic-gland type)のNBI併用拡大観察を含む内視鏡診断体系について報告した.胃底腺型胃癌は,病理組織学的には胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌に分類され,今回,自施設で胃底腺型腺癌と診断された55病変を対象に内視鏡的特徴について検討した.白色光観察での内視鏡的特徴は,①SMT様の隆起性病変(60.0%),②褪色調・白色調(76.4%),③拡張した樹枝状の血管(58.2%),④背景粘膜に萎縮性変化なし(87.3%)の4所見で既報とほぼ同様であった.色調と肉眼型では,①白色調・隆起型(40.0%),②白色調・平坦/陥凹型(36.4%),③発赤調・隆起型(20.0%),④発赤調・平坦/陥凹型(3.6%)の4タイプに分類され,多様性があることが判明し,病理組織学的な考察とタイプ別の特徴を見いだした.H. pylori感染状況による比較では,感染状況により肉眼型の頻度に差があることが判明した.NBI併用拡大観察では,肉眼形態にかかわらず,①明瞭なDLなし(100%),②腺開口部の開大(59.6%),③窩間部の開大(90.4%),④irregularityに乏しい微小血管(80.8%)の4所見が高率に観察され,既報とほぼ同様であった.以上より,胃底腺型腺癌の内視鏡診断は,既報の白色光観察とNBI併用拡大観察の特徴を理解する必要がある.基本的にはH. pylori感染状況と色調・肉眼型を加味したうえで,内視鏡所見から表層の腫瘍成分の有無,表層の非腫瘍性粘膜と上皮下の腫瘍との関係性を推測することが,胃底腺粘膜型腺癌との鑑別も含めた胃底腺型腺癌の内視鏡診断につながると考えられた.

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要旨●目的と方法:2007年9月〜2019年12月までの期間に福岡大学筑紫病院で内視鏡的切除および外科的切除を施行された胃癌全症例のうち,病理組織学的に胃底腺粘膜型胃癌もしくは胃底腺型胃癌と診断され,さらにH. pylori未感染胃と診断され,術前の内視鏡所見の検討が可能であった病変を抽出しそれらの臨床病理学的特徴と内視鏡的特徴を求めた.結果:胃底腺粘膜型胃癌10病変の平均腫瘍径(7.7mm)は,胃底腺型胃癌11病変の平均腫瘍径(4.9mm)と比べて大きい傾向を示した.また,早期胃癌を対象とした平均SM浸潤距離を計測した結果,胃底腺粘膜型胃癌のSM浸潤距離は,胃底腺型胃癌のそれより,統計学的有意差をもって長かった(p=0.020).通常内視鏡所見の特徴は,①同色〜褪色調を呈する(80%,8/10),②上皮下腫瘤様の隆起性病変(80%,8/10),③拡張した樹枝状血管の所見を認める(60%,6/10),④インジゴカルミン色素撒布像での表面の領域性を有する微細顆粒状変化を認める(60%,6/10),の4つであった.胃底腺型胃癌の通常内視鏡所見と異なる点は,④の所見であった(p=0.002).NBI併用拡大内視鏡所見の特徴は,①DLを認める(90%,9/10),②irregular MV patternを呈する(100%,10/10),③irregular MS patternを呈する(60%,6/10),④vessel within epithelium patternを認める(80%,8/10),⑤病変周囲粘膜と比べ病変のMCEの幅が広い(80%,8/10),⑥窩間部の開大(90%,9/10)の6つであった.胃底腺粘膜型胃癌のNBI併用拡大内視鏡所見は,VS classification system,MESDA-Gを用いた癌の診断基準を90%(9/10)の病変で満たしたが,胃底腺型胃癌の所見は,すべての病変において癌の診断基準を満たしていなかった(0%,0/11)(p=0.001).結語:胃底腺粘膜型胃癌は,NBI併用拡大内視鏡により癌と診断できる可能性が高いことが示唆された.

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要旨●当院で胃型腺腫(幽門腺腺腫)と診断された25例25病変を検討した.H. pylori未感染胃に発生した症例(癌化例含む)は2例(8.0%)のみであり,23例(92.0%)はH. pylori現感染胃,もしくは既感染胃に発生した症例であった.全症例U領域もしくはM領域に位置しており,L領域の症例は認めなかった.色調は白色調,褪色調,発赤調,同色調までさまざまであり,特徴的な所見は認めなかった.肉眼型は隆起型,もしくは表面隆起型に鑑別できるものが大部分であった.全25例中12例(48.0%)に癌合併を認めており,胃型腺腫に対して内視鏡治療を行うことを検討すべきと考えられた.

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要旨●H. pylori未感染者のラズベリー様腺窩上皮型胃癌32例39病変の臨床病理学的特徴を検討し,8病変の全ゲノム解析を行った.年齢は中央値57(38〜78)歳,男女比は21:11,腫瘍は中央値3(1〜6)mm,すべてUM領域に発生し,6例は多発癌であった.白色光像ではいわゆるラズベリー様外観を呈し,NBI拡大像では不整な乳頭状/脳回様構造を呈した.すべて上皮内病変であったが,Ki-67 labeling indexは中央値62.0(4.4〜96.5)%と高値を示した.腫瘍数(多発vs. 単発)と背景因子の検討では,喫煙(83.3% vs. 34.6%,p<0.05),飲酒(66.6% vs. 30.7%,p=0.12),男性(p=0.059),胃底腺ポリープ併存(100% vs. 57.7%,p=0.059)で多発癌を多く認めた.ゲノム解析ではKLF4遺伝子のDNA結合ドメイン内で共通するSNVsを認め,CNVsは半数以上で染色体1p,9q,17qでの増幅および6qや18qでの欠失を認めた.

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要旨●近年報告が増加しているH. pylori未感染胃癌のうち,特徴的な病態の一つである印環細胞癌について自験例を検証した.2007年4月〜2019年12月の期間に経験した症例は28例で,26例が褪色調ないし白色調平坦型の粘膜癌であった.好発部位は胃角部〜前庭部に集中し,胃底腺と幽門腺の境界領域に相当した.典型例の病理組織像は,粘膜腺頸部に粘液豊富な印環細胞癌が間質を伴わず密に存在しており,粘膜固有層内で腫瘍量が増した症例はみられるが浸潤癌はまれであった.類似の形態と病理組織像を呈した除菌後発見胃癌症例も存在し,本疾患がH. pylori感染により浸潤癌に進展するポテンシャルを有するのか,H. pylori感染に依存しない増殖活性の低い独立した病態であるのか,今後の検討課題と考える.

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要旨●H. pylori未感染進行胃癌の特徴を明らかにする目的で,自験例の中で,食道胃接合部癌と残胃癌を除くH. pylori未感染胃癌を対象として抽出し早期胃癌と進行胃癌に分類したうえで,進行胃癌症例の臨床病理学的所見を早期胃癌との比較を含め遡及的に検討した.内視鏡的ないし外科的に切除された胃癌1,911例のうちH. pylori未感染胃癌は27例(1.4%)であり,そのうち進行胃癌は6例(全体の0.31%)であった.6例の平均年齢は59.3歳,男性4例,女性2例であり,A型胃炎の合併例を認めなかった.6例中4例が未分化型癌であり,粘液形質は胃型優位の胃腸混合型ないし胃型であった.肉眼型は明確な周堤形成が乏しいSMT様の様相を伴う3型進行癌が4例を占め,3例がL領域に位置していた.

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要旨●患者は6X歳,男性.胃がん検診の精密EGDで胃体中部小彎やや前壁よりに,辺縁にSMT様隆起を伴う境界明瞭な発赤陥凹面を認め,生検で分化型腺癌の診断を得た.抗H. pylori抗体価3U/ml未満であり,H. pylori未感染胃に発生した0-IIc型,SM以深への浸潤疑いで加療目的に当科に紹介となり,腹腔鏡下胃全摘術が施行された.切除標本では,病変中央の発赤陥凹面に一致して中分化腺癌が漿膜下組織まで浸潤しており,陥凹周囲の胃底腺粘膜深部には主細胞優位の胃底腺型胃癌が認められ,さらに腺窩上皮型の腫瘍腺管が加わって胃底腺粘膜型胃癌とも言える病理組織像に移行し,中分化腺癌まで連続的に病理組織像が変化する多彩な所見を呈する進行癌であった.

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要旨●患者は60歳代,女性.前医の内視鏡検査で胃前庭部大彎に腫瘍径5mm大の発赤調の0-IIc型病変を認め,生検で高分化腺癌を認めたため,当院に紹介され受診となった.ME-NBI観察では陥凹部に一致してループ状の血管所見を認めた.内視鏡治療適応と診断し,ESDを施行したところ,病理組織学的結果は腸型の分化型癌であった.なお,内視鏡検査で胃体部〜胃角部にRACを認め,尿素呼気試験陰性,ペプシノーゲン法陰性,抗H. pylori抗体陰性であり,以上からH. pylori未感染腸型分化型癌と診断した.

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要旨●H. pylori未感染胃の前庭部に発生した胃型分化型早期胃癌の2例を報告する.[症例1]40歳代,男性.前庭部前壁の単発,3mm大の隆起性病変.[症例2]60歳代,女性.隆起型びらんが散在する前庭部前壁の周囲より目立つ5mm大の隆起性病変.EGDで両症例ともに萎縮なし,尿素呼気試験陰性,H. pylori血清抗体陰性であった.生検でtub1の診断でESDを施行した.病理組織学的所見はともに粘膜内のtub1で周囲は非萎縮幽門腺粘膜であった.免疫組織化学染色でMUC5AC,MUC6陽性,MUC2,CD10,pepsinogen I,H/K-ATPase陰性で胃型形質を示した.H. pylori未感染胃癌は前庭部では印環細胞癌が多いと報告されているが,分化型癌が発生する場合もあり,単発の粘膜変化や多発びらんの中でも目立つものに関しては注意が必要である.

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要旨●患者は90歳代,女性.腹痛に対する上部消化管内視鏡検査にて胃体部の高度萎縮と胃体下部から胃角部にかけて表面隆起性病変を指摘された.大球性高色素性貧血と低ビタミンB12血症が併存していた.PG I 5.6ng/ml,PG I/II比0.4と高度萎縮を呈し,血清ガストリン値は7,660pg/ml,抗胃壁細胞抗体は40倍であった.前庭部には萎縮性変化を認めず逆萎縮を呈していた.以上より悪性貧血を伴った自己免疫性胃炎と診断した.0-IIa型病変は診断的ESDにて切除した.病理組織学的には,0-IIa+IIb,27mm,tub1,pT1a(M),Ly0,V0,pHM0,pVM0,intestinal typeと診断された.癌周囲には胃底腺消失とリンパ球浸潤像,腸上皮化生を認め,癌部および非癌部深層には内分泌細胞の胞巣状増生が観察された.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

次号予告

編集後記 小田 丈二
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 本号は,病理から九嶋先生,臨床から平澤先生と筆者の3人で企画し,編集委員会での議論を経てこのように仕上がった.今回の企画では,食道胃接合部(噴門部)癌や家族性腫瘍(遺伝性胃癌など)は対象としていないことをはじめにお断りしておきたい.

 さて,胃癌の主たる原因がH. pylori(HP)感染によるものと考えられるようになり,その後HP陰性胃癌の報告も増え,今後増加が予想されるHP未感染胃の上皮性腫瘍について,現状を把握すべく取り組んだものである.

基本情報

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胃と腸
55巻8号 (2020年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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