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本誌は,発行当時から消化管疾患の形態診断に特化した医学誌として発展を遂げ,1990年頃までは通常X線・内視鏡所見と病理所見を詳細に対比することが基本であった.すなわち,病変の肉眼所見とX線・内視鏡所見を対比し,その結果から病理組織所見を推測することが大きなテーマであり,その背景として質の高い病理組織学的診断が必須であった.しかし,その後の画像診断法の目覚ましい進歩に伴い,特に画像強調内視鏡を中心とした詳細な観察で得られた所見と病理所見を直接比較検討することが重要な課題となっている.その結果,病理所見と寸分も乖離することのない完璧な臨床診断を目指した診断学が確立されようとしている.以上のような流れのなかで,今回は早期胃癌研究会の中堅メンバーの皆さまを中心に,実際に経験した自身はもちろん,読者も一度見たら忘れられないようなインパクトのある「忘れられない症例」の提示とともに消化管診断学に対する「熱い思い」をお示しいただくようお願いした.
本号の掲載論文を通読してみたところ,各著者が「忘れられない」とした症例では,実際の診断過程のどこかで大変苦慮したであろうことを強く感じた.事実,初回検査では鑑別疾患に挙がることのなかった疾患が最終診断であったという症例が数多く取り上げられている.また,読者として画像を拝見しても,鑑別診断が列挙できない疾患が少なくない.おそらく,著者らはその症例を経験することにより知識レベルの向上を体験し,患者に貢献できたという爽快感を得たものと思われる.次に感じたのは,画像強調内視鏡所見がそれほど取り上げられていないことである.今回提示された画像の大部分は,おそらく著者自身が撮影したものと考えてよいであろう.すなわち,私たちは初回観察時のX線・内視鏡像でインパクトのある症例に感銘を受け,症例の貴重さにのめり込むものと推測される.そして,最後に注目すべき点として症例の多彩さが挙げられる.本号の企画に際しては,著者を領域別に大別したうえで症例提示をお願いしたが,重複する疾患は全くなく,上皮性腫瘍,非上皮性腫瘍,炎症性疾患,形態異常など幅広い疾患が集積された.その要因として消化管疾患が極めて多岐に及ぶことが考えられるが,それらを「忘れられない」と感じる感受性が臨床医によって大きく異なることも影響していると思われる.その差異こそ,臨床医の能力,および経験と知識を反映したものであろう.
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