胃と腸 52巻9号 (2017年8月)

今月の主題 大腸スクリーニングの現状と将来展望

序説

  • 文献概要を表示

はじめに

 近年日本人の死因は悪性新生物が第1位を占め,そのなかで大腸癌と肺癌が急速に増加してきている.かつては胃癌が悪性新生物による死因のトップを占めていたが,胃癌の大きなリスク要因であるHelicobacter pylori(H. pylori)感染者の年代的な減少傾向,H. pylori感染症を軸とした胃癌予防対策,対策型胃検診への内視鏡の導入などによって,近い将来胃癌死亡は急激に減少していくと考えられる.

 一方,大腸癌のリスク因子として従来,遺伝的素因,脂肪摂取量の増加(食事の欧米化),炎症性腸疾患の罹患,大腸ポリープの既往,胆囊摘出など,さまざまな要因が挙げられている.しかし,大腸癌では“胃癌に対するH. pylori感染”,“肺癌に対する喫煙”,“肝癌に対する肝炎ウイルス”など“definite carcinogen”と言えるようなリスク因子が特殊な症例を除いては判明していないために一次予防が困難で,大腸癌の対策は二次予防が中心となって行われているのが現状である.

  • 文献概要を表示

要旨●当科で励行しているルーチン注腸X線造影検査の具体的な手技を概説した.施行医が,近接操作により,きめの細かいバリウム排泄・注入および送気を適宜施行し,動的な撮影を施行すること,内腔を満たした充分量のバリウムを空気量の少ない状態で移動させた後に,逆行性に最小限度の空気量で二重造影を撮影することにより,大腸全領域にわたるバリウム付着状態のよい二重造影の撮影を企図している.当科では注腸X線造影検査を,スクリーニング検査としてではなく,精密検査における主要なオプションの一つと考えており,診療科として注腸X線造影撮影技術の継承を重要と考えている.

  • 文献概要を表示

要旨●注腸X線造影検査における美しい画像を得るための基本的な考え方と撮影技術について報告した.注腸X線造影検査では,①残渣の少ない前処置法が必要条件であるが,前処置法(等張法,高張法)の相違によって,洗腸効果だけでなく腸粘膜の状態(wet,dryなど)が異なるため,②付着性を考慮してバリウムを選択することが重要である.撮影技術は,③バリウムをできるだけまとまった状態でダイナミックに移動させ,腸管の粘液や残渣を洗い流すために2〜3往復した後に均一に付着させる.④病変を,正面像・側面像・斜め像から,さらに病変周囲に溜めるバリウム量を変えて立体的多角的に描出する.⑤S状結腸は空気量少なめ,上行結腸は空気量多めにして,必要があれば圧迫枕を使用する.⑥撮影装置にCアームがあればひだは接線方向に描出すると読影しやすい.以上,バリウムの付着ムラがなく,病変の形態学的特徴を正確に描出することが重要である.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸癌は近年増加傾向にあり,その抑制には積極的な検査介入が必要であるため大腸内視鏡検査の果たす役割は大きい.しかし本検査では挿入能および診断能の個人差が課題である.筆者の意見として挿入法に関しては冷静な状況判断と複数の対応策を理論的に理解しておくことが重要であると考えている.また診断,特に存在診断能に関しては視覚的認識力を向上させることが重要である.筆者らはNT tube(non-traumatic tube)を用いることで病変の指摘率が約3倍向上し,微小病変以外の病変の指摘率も向上する効果があることを示した.いずれの課題に関しても真摯に取り組む意識の高さが重要であると考える.

本論文では,大腸スクリーニング手技の動画を見ることができます(公開期間:2020年8月まで).

詳細は,動画閲覧(アクセスコード取得方法)のご案内をご覧ください.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸内視鏡挿入一人操作法では,左手のみでスコープのアングルを操作し,右手はスコープの出し入れと軸の回転のみに使用する.一人操作法の基本は“軸保持短縮操作”で,常にスコープのフリー感を感じるように短縮操作を繰り返す.可能な限り送気を避け,むしろ吸引を多用することで屈曲部を鈍化させるように努める.スコープが彎曲した場合,その彎曲をトルクをかけながら解除することで生じるスコープの弾発力を利用して自然に深部挿入されていくという感覚が重要で,深部へスコープを進めることよりも,スコープを常に直線化しフリー感を維持するようにする.病変の拾い上げに関しては,ポリープを意識する感覚を捨て,胃の0-IIc型早期癌を見つけるような意識が重要である.表面型病変の診断には空気量を変化させながら,①淡い発赤,②血管透見像の消失,③粘膜面の光沢の異常,④ひだの太まりや不整,⑤fine networkの消失などに注意することが重要である.なお,小さな0-IIc型病変ばかりを意識していると,大きな側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)を見落とす危険性がある.

本論文では,大腸スクリーニング手技の動画を見ることができます(公開期間:2020年8月まで).

詳細は,動画閲覧(アクセスコード取得方法)のご案内をご覧ください.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸内視鏡の挿入において苦痛の発生を避けるためには,挿入時,内視鏡の直線化を保った軸保持短縮法が重要であるが,腸管癒着例,高齢の痩せ型女性に代表される過長,複雑な走行を伴う症例などでは,プッシュ操作を主体とした挿入法を選択せざるをえなく,苦痛の大きい検査となってしまう.プッシュ操作主体の挿入には細く軟らかい内視鏡が適しているが,従来の細径軟性スコープは深部挿入性が悪かった.PCF-PQ260(オリンパス社製)は,受動彎曲と高伝達挿入部の搭載により,プッシュ操作主体で苦痛が少なく深部挿入性が向上した.2005年5月〜2015年12月までにPCF-PQ260を用いて4,029例に対して全大腸内視鏡検査を施行した.NRS(numerical rating scale)を用いた疼痛の平均値は,癒着やS状結腸過長などの挿入困難因子を有する例で2.6±2.5,挿入困難因子のない例で1.05±1.7であり,sedationなしでも十分許容可能な苦痛の度合いと考えている.PCF-PQ260は男性肥満患者においては深部挿入は困難であり,汎用機ではなく,痩せ型の患者,複数回の腹部手術例を有する女性患者に対するbackupスコープとしての位置付けと考える.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸カプセル内視鏡は2006年に開発され,現在,第2世代内視鏡が汎用されている.従来の小腸用カプセル内視鏡と異なり,両側2か所にカメラが内蔵され,1秒間に4枚の撮像が可能である.大腸カプセルの場合,腸管洗浄度と撮影時間内に盲腸〜直腸まで全大腸観察が可能かどうか問題となる.内視鏡治療が必要である10mm以上の大腸ポリープの検出率における感度は88%,特異度89%と良好な成績が報告されている.また,本邦3施設で行われた多施設共同研究による大腸ポリープ検出の特異度は94%であった.今後,大腸がん検診における役割として期待されるが,運用コストや前処置,排出率などの問題点が挙げられ,今後の検討が必要である.

  • 文献概要を表示

要旨●CTC(CT colonography)の診断精度は,大腸スクリーニングの標的である腫瘍径6mm以上の病変では良好であり,径10mm以上では大腸検査のgold standardとされている全大腸内視鏡検査とほぼ同等である.CTCは低侵襲で診断精度が高く,大腸スクリーニングとして有用である.臨床面でのCTCの有用性は大腸癌診療において確立していると言える.今や術前検査としてCTCは注腸X線造影検査(BE)にとって代わろうとしている.大腸スクリーニングとして,本邦の大腸がん検診の精密検査法としてCTCの本格的導入が間近となっており,任意型検診では一次スクリーニングからCTCを導入する施設が増加してきている.CTCをスクリーニング法として確固たるものにするためには,診断精度・処理能力・偶発症を評価し,医療被曝低減・診断施設基準を明確化し,前処置法・撮影法・読影法などの標準化を図り,認定制度(医師,一次読影技師)を整備することが喫緊の課題である.これに対してMR colonographyを大腸がん検診に導入する機運はほとんどないのが本邦の現状である.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸癌におけるPET検診の有用性が報告されているが,高コストで放射線被曝などから対策型検診としては不適切である.PETを用いて検診を行った場合にはadvanced neoplasmのsensitivityは15〜16%である.進行大腸癌は良好に検出され,深達度MP以深では高い陽性的中率であるが,早期癌の描出は困難であり,小さな癌であればsensitivityが低下する.また,colitic cancerなど炎症との鑑別は困難である.したがってPET-CT単独での診断は,大腸スクリーニング検査としては不適切である.PET検診の死亡率減少における有用性を示すエビデンスは存在しない.PET-CTを他のモダリティと組み合わせ,低侵襲,低コストでより早期に妥当な感度で,偽陽性率の低いスクリーニングプログラムが実現することを期待する.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸癌スクリーニングにおいて全大腸内視鏡検査(TCS)は無作為化比較試験(RCT)による大腸癌死亡抑制効果は証明されていないが,精度の高いコホート研究の結果から死亡抑制効果が期待されている.米国ではスクリーニング法として推奨されており,ポリープがない場合の推奨検査間隔は10年である.現在,世界中でTCSを試験アームとし,大腸癌死亡をエンドポイントとしたRCTが進行中であり,その結果が待たれる.また,ポリープを有する患者に対するサーベイランスについては,欧米のガイドラインではリスク別の検査間隔の設定がなされている.本邦においてはJPS(Japan polyp study)など日本人のエビデンスに基づくサーベイランス間隔の設定が今後の課題である.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸癌死を減らすためには早期発見が重要である.免疫学的便潜血反応検査(fecal immunochemical test ; FIT)が大腸癌のスクリーニング検査として普及しているが,さらなる高精度かつ非侵襲的なスクリーニング方法の確立が望まれる.これまでに,便中遺伝子マーカーを用いた便検査が大腸癌早期発見に有用であるとの研究成果が数多く報告されてきた.また,複数のマーカーを組み合わせることで,FITよりも高感度が得られることも報告されている.今後,より簡便かつ高精度な検査方法が開発され,検査コストが低下し,便中遺伝子検査が実用化されることが期待される.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸癌スクリーニングにおける大腸内視鏡は,現在もgold standardとして位置付けられている一方で,前癌病変と考えられる腺腫の発見率は100%ではないことも知られている.その原因の一つに,ひだや屈曲部を有するなどの大腸特有の解剖的理由が挙げられるが,この問題点を内視鏡の視野角を拡げることによって解決することが試みられてきた.オリンパス社にて開発中の広角内視鏡(extra-wide-angle-view colonoscope)は,従来の直方視レンズと側後方の視野が得られるパノラマレンズとの2つのレンズを内視鏡先端に搭載し,それぞれで得られた画像が一つのモニターに表示されることを特徴とする.本内視鏡は,大腸癌スクリーニング目的の内視鏡としての期待を担いながら,そのプロトタイプにおける操作性や画質の改善・向上が段階的に進んでいる.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸癌の前癌病変である大腸腺腫を早期に発見し切除することは大腸癌予防の観点から非常に重要である.大腸内視鏡検査は腺腫の発見において有用な検査法とされているが,1回の大腸内視鏡検査では一定の割合で腺腫が見逃されていると言われている.そこで,従来型の大腸内視鏡検査では,解剖学的に観察が難しい部位に存在する病変の見逃し率を改善させるために広視野角内視鏡(Fuse®)が開発された.Fuse®は,スコープ先端部前方および左右両側面に合計3つのCCDレンズが搭載されていることが特徴である.これによって従来の前方視野角内視鏡の2倍の視野角330°での内視鏡観察が可能となったことから,ADRの向上が期待される.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸表面型腫瘍のスクリーニングは,内視鏡機器の進化とともに白色光(white light imaging ; WLI)からNBIなどの画像強調観察へと変わりつつある.当院でのWLIとNBIによる腫瘍発見能の比較検討では,NBIがLST-NGの発見に有用であった.また,陥凹型腫瘍のNBI所見は,陥凹面が白色調,反応性隆起部はbrownish areaとして視認され,これを“O-ring sign”と呼び,NBIによる陥凹型腫瘍発見の特徴像と考えられた.なお,盲腸に限局してWLI→NBI→インジゴカルミン色素(chromoendoscopy ; CE)の順に観察をし,微小腺腫の発見数を前向きに検討したところ,CE 47病変>NBI 37病変>WLI 11病変で,最終観察のCE観察で発見された微小腺腫が最多であり,CE観察がそのほかと比較して最も有用であった.現状の全大腸スクリーニングには,NBI観察による盲腸からの抜去観察が有用だが,将来へはCE観察を越える画像強調観察への開発が期待される.

  • 文献概要を表示

要旨●2012年にレーザーを光源とする消化器内視鏡システムが登場した.レーザー内視鏡では狭帯域光観察であるBLI(blue laser imaging)やLCI(linked color imaging)が可能であり,BLIにはBLIモードとより明るいBLI-brightモードがある.筆者らは以前にBLIモードによる拡大観察が大腸ポリープの質的診断や癌の深達度診断に有用であることを報告している.また,BLI-brightは明るい視野を有し,遠景観察に適しており,ポリープの視認性が向上される.一方でLCIはBLI-brightよりもさらに明るく病変の発見に有用である可能性が示唆されている.本稿ではBLI,LCIの原理と性能について実例を交えて詳説する.

  • 文献概要を表示

要旨●大腸内視鏡施行時にスコープ先端に透明フードを装着することにより視野の確保や処置が容易となり,ポリープの検出率が向上し,大腸内視鏡の盲腸までの挿入率向上や挿入時間の短縮にも有用である.また,エンドカフを装着した場合は,柔らかいフラップがスコープの抜去時にひだにかかるため,ひだの口側の観察しづらい部位や屈曲部の口側でもひだを押さえ込んでめくりながら観察したり,S状結腸などではひだを押し広げて伸ばしたりしながら観察することが可能である.腫瘍検出率やポリープ発見数の向上に有用であるが,盲腸までの挿入率や挿入時間の向上はみられない.重篤な偶発症はみられていないが,フラップによる軽度の粘膜損傷が報告がされている.

  • 文献概要を表示

患者

 70歳代,女性.

現病歴

 主訴はなし.潰瘍性大腸炎に対して寛解導入後,無投薬で寛解維持し,その後は近医にて経過観察中であった.近医にて行ったスクリーニングの上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)で胃に隆起性病変を認め,精査加療目的で紹介となった.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,男性.直腸に病変を認め当院紹介となった.全大腸内視鏡検査を施行し,直腸S状部に径20mm大のIp病変を認めた.色調は赤色調,表面は比較的平滑な部分と凹凸が目立つ部分の2つの異なった構造を認めた.拡大所見では間質は広く,多様な形状の腺管開口部を認めた.上皮性病変と判断したが腫瘍・非腫瘍の判断は困難であり,診断的治療目的に内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した.病理診断はadenocarcinoma in adenoma ; carcinoma component,well to moderately differentiated adenocarcinoma(tub1+tub2) ; depth,m(pTis) ; ly0 ; v0 ; adenoma component,tubular adenoma with moderate atypia(low grade) ; margin,negativeであった.拡大所見も含め,従来の管状腺腫,早期癌とは異なった内視鏡所見を呈し,非常に興味深い病変と考えた.

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 2016年3月度の早期胃癌研究会は3月16日(水)に笹川記念会館2F国際会議場にて,司会は長浜(千葉徳洲会病院消化器内科内視鏡センター)と永田(広島市立安佐市民病院内視鏡内科)が,病理は二村(福岡大学医学部病理学講座)により行われた.

--------------------

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 鶴田 修
  • 文献概要を表示

 大腸癌は癌発生のリスク因子が判明しておらず,癌死を減らすには早期発見・早期治療が重要である.発見方法には従来の注腸X線造影検査,内視鏡検査以外に最近ではカプセル内視鏡,CT colonography,MR colonography,PET/PET-CTなども行われている.また,最新の方法としては広角内視鏡による観察も試みられている.本号では,①従来の方法による観察・撮影のコツ,②新しい検査法とその診断成績,③最新の検査法の紹介,などについて専門の先生方に解説していただき,読者の明日からの大腸スクリーニングに役立つ一冊を目指して企画された.

 序説は赤松が対策型・任意型検診の現状と問題点について解説し,将来展望についても述べている.

基本情報

05362180.52.9.jpg
胃と腸
52巻9号 (2017年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月25日~12月1日
)