胃と腸 52巻8号 (2017年7月)

今月の主題 臨床医も知っておくべき免疫組織化学染色のすべて

序説

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 免疫組織化学(immunohistochemistry ; IHC)とは,抗体を用いて組織標本中の抗原を検出する組織化学的手法のことで,免疫染色(immunostaining)とも呼ばれる.

 抗体の特異性を利用して組織を染色し,抗原の存在および局在を顕微鏡下で観察できるので,特定遺伝子の発現確認や各種のいわゆる“マーカー蛋白質”を用いることで病理組織の診断に頻用されている.同じ蛋白発現を検索するwestern blot法などとは異なり,実際の組織構築の中でその局在が正確に評価できることがこの手法の特徴であり,強みでもある.

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要旨●免疫組織化学的手法が病態解析や病理診断に取り入れられるようになって久しい.免疫染色技術の進歩,諸種抗体の市販化,マーカーの意義に関する知識の普及,機能形態学的な解析ニーズの増加,分子標的治療の導入,より正確な病理診断への期待と意欲など,さまざまな要因が挙げられる.しかし,免疫染色は決して万能ではない.免疫染色などしなければよかった,という経験を通して,症例から一つひとつ学んでゆく姿勢が問われる場面も少なくない.マーカーの特異性を信じすぎて痛い目にあった経験の積み重ねを大切にしたい.本稿では,免疫染色の技術面での工夫や落とし穴を,筆者の経験を中心に解説する.

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要旨●食道腫瘍の病理組織診断はHE染色標本で形態を観察することが基本である.しかし,一部の腫瘍では免疫染色が確定診断あるいは診断補助の重要なツールとなりうる.免疫染色を診断に用いる場合,生検検体と切除検体で意義が異なる.生検診断においては質的診断が最重要であり,扁平上皮癌,神経内分泌細胞癌,癌肉腫,類基底細胞癌などの組織型の鑑別に免疫染色が有用である.また,扁平上皮性腫瘍でKi-67,p53による免疫染色が良悪性判定に役立つことがある.一方,食道癌の切除検体では組織型,壁深達度,脈管侵襲,切除断端の評価において免疫染色を利用することが多い.特に内視鏡的切除検体で追加切除の必要性を判定する際には,免疫染色を用いて慎重かつ丁寧に行うことが望まれる.

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要旨●胃の上皮性腫瘍性病変の鑑別に有用な免疫染色法について,Ki-67とp53染色,形質発現を知るための分化マーカー染色,特殊型胃癌の染色,その他の重要な免疫染色の順に解説した.Ki-67とp53の染色ではその結果を過信せず,p53蛋白は領域性に強陽性を示すもののみ診断的価値がある.分化マーカーの発現に基づいた胃腫瘍の形質発現の解釈は,胃上皮の多分化能と腫瘍内多様性をよく理解したうえで行いたい.これらの免疫染色は一般型の胃癌や腺腫の診断では必須ではないが,特殊型胃癌の診断や転移性癌との鑑別には免疫染色による確認が必要となる.そのほか,胃腫瘍の診断に有用で一般の病理検査室で施行できる免疫染色について紹介する.

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要旨●大腸の上皮性腫瘍に対する免疫染色を,その目的別に概説した.①病変の質的診断:Ki-67染色とp53染色が有用であるが,p53蛋白過剰発現は,強陽性細胞が連続性に出現した場合にのみ判定されることと,逆にp53染色陰性の場合にも遺伝子変異が存在する可能性に留意する必要がある.②癌の発生に関わる遺伝子変異経路の推定:ミスマッチ修復蛋白の免疫染色によりMSI pathwayを介した癌の診断が可能である.③腫瘍の粘液形質分類:ムチンコア蛋白に対する免疫染色とCD10染色が用いられ,大腸上皮性腫瘍も胃と同様に腸型(大腸・小腸型),胃型,胃腸混合型に分類される.これら粘液形質分類の,癌の組織発生や悪性度推定への応用が期待される.④UC関連粘膜内腫瘍の病理診断:Ki-67染色とp53染色の併用が必須である.bottom-up typeの増殖動態でp53蛋白過剰発現を示す異型上皮はUC関連粘膜内腫瘍の可能性が高い.しかし,両染色の有用性は,あくまでHE標本による的確な組織評価を前提に成り立っている.

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要旨●消化管間葉系腫瘍全体のうち約80%をGIST(gastrointestinal stromal tumor)が占める.消化管間葉系腫瘍の診断では,最も頻度が高く,著効を示す分子標的薬の存在するGISTの診断を間違えないことが重要となる.GISTの鑑別疾患には,比較的頻度の高い平滑筋腫や神経鞘腫をはじめとして,頻度は低いがその他の多種多様な軟部腫瘍も含まれる.GISTの鑑別診断にはKITの免疫染色が必須であり,紡錘型と類上皮型のGISTにおけるKITの免疫染色像の特徴を十分理解したうえで,鑑別すべき疾患における代表的な免疫染色パターンも考慮して,正確な診断をする必要がある.

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要旨●リンパ腫の診断はHE染色標本による組織および細胞観察と免疫染色との組み合わせが基本である.WHO分類でのリンパ腫の亜型が多岐にわたり,それぞれの診断に必要な免疫染色を掛け合わせるとその数は膨大な量となる.やみくもに免疫染色の数を増やしても診断にたどり着くわけではない.リンパ増殖性疾患については2016年にその概要がBlood誌上に示されたが,これまで以上に遺伝子異常が診断名に盛り込まれるようになった.つまり,形態と免疫染色だけでは現行のWHO分類に準じた診断名には至らないことがあることを意味する.本稿では消化管に発生するリンパ腫に対象を絞り,診断に必要な免疫染色について概説を行う.

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要旨●消化管のカルチノイド腫瘍と内分泌細胞癌は,内分泌細胞腫瘍と総称されているが,本態は別の病態の腫瘍である.カルチノイド腫瘍と内分泌細胞癌は異型度をもとに厳密に区別して取り扱うべきである.本稿では,下記とその関連事項について概説した.カルチノイド腫瘍と内分泌細胞癌が内分泌細胞から構成されていることは,内分泌マーカー染色を用いて確認する.カルチノイド腫瘍と内分泌細胞癌の鑑別には,Ki-67染色とp53蛋白染色が役立つ.カルチノイド腫瘍の予後推測に,脈管内皮マーカー染色による脈管侵襲の確認とKi-67染色によるKi-67指数が参考になる.カルチノイド腫瘍の薬物療法の効果予測に,SSTR2A染色やmTOR染色が用いられる.ホルモン染色や胃腸型粘液形質マーカー染色は,腫瘍細胞の特性の解明に有用である.カルチノイド腫瘍・内分泌細胞癌と非内分泌系腫瘍との組織学的鑑別診断は,内分泌マーカー染色と鑑別腫瘍の特異的カーカー染色とを組み合わせて行う.

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要旨●癌の転移性病変の病理診断は近年の化学療法・放射線療法の進歩と関連して重要性が増している.転移性病変における病理診断の役割は組織型の決定と原発性病変の同定である.転移性病変から原発性病変の確定を行うためには組織像の詳細な観察に基づいた免疫染色による発現解析が重要である.癌の転移性病変をみた場合,腺癌,扁平上皮癌,移行上皮癌の鑑別を行うべきである.腺癌の共通マーカーはないので,扁平上皮癌のマーカー(p63,p40,CK5/6)を用いて扁平上皮癌の同定を行う.移行上皮癌のマーカーはuroplakin II,IIIを用いる.腺癌の診断が確定された場合,原発の同定を行う.その場合はCK7とCK20のパターン分類を行うことが有用とされる.さらに各臓器に特徴的なマーカーを用いて原発臓器の同定を行う.特に乳癌の胃への転移は乳癌の組織像が小葉癌や硬癌の場合,胃原発の低分化腺癌と誤る可能性があるので注意が必要である.転移性病変の病理診断は組織像の観察と免疫染色を合わせて行うことにより正確な診断が可能になる.

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要旨●消化管非腫瘍性疾患の病理診断の基本となるのは,HE染色による診断で,免疫染色・特殊染色は補助手段にすぎないが,疾患・病変によっては免疫染色・特殊染色が非常に有用であるものや,必須であるものも存在する.本稿では,消化管非腫瘍性疾患の病理診断における免疫染色および特殊染色を,有用性が高いものと必須であるものを中心に,疾患・病変別に解説した.非腫瘍性疾患は感染症を代表に,病理診断が治療方針に直結することが多いので,適切な免疫染色・特殊染色の選択と運用がなされ,正確な病理診断がなされなければならない.このためには,病理医が疾患と免疫染色・特殊染色についての十分な知識を有していなければならないのは当然のことであるが,臨床医が免疫染色・特殊染色に対する理解と知識を有し,適切な部位より生検(手術材料の場合は切り出し)が行われ,鑑別診断を踏まえた的確な臨床情報の提供がなされることが重要である.

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要旨●コンパニオン診断は分子標的治療薬の効果が期待できる患者を選定するための重要な検査である.免疫組織化学染色を用いた消化器癌のコンパニオン診断はトラスツズマブの投与対象であるHER2過剰発現胃癌に行われている.胃癌特有の問題としてHER2過剰発現の腫瘍内不均一があり,1切片で実施されたHER2判定がその患者の腫瘍全体を反映しているとは限らないことを考慮し結果を解釈する必要がある.コンパニオン診断における免疫組織化学染色は,組織固定〜包埋過程,染色過程,判定過程のすべてにおいて,推奨された適切な方法で実施されることで初めてその結果が担保される.今後コンパニオン診断がさらに増えていくことが予想され,検体の質の担保を継続してはかっていくことが重要である.

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Q1 病理に免疫染色を断られた場合の対処法を教えてください.

A 抗体・試薬を購入すること,疾患や免疫染色をよく勉強することにより解決する場合があります.

病理医が臨床医からの免疫染色依頼を断る理由には大きく2つあります.一つは,対象となる免疫染色の抗体やその他の試薬などを院内に持ち合わせていない,体制が整っていない場合です.もう一つは,依頼された免疫染色が対象疾患に対して臨床的もしくは病理学的な意義を病理医が見出せない場合です.前者の場合は,抗体や試薬を購入することにより解決しますが,1抗体あたり通常5万円以上の価格となりますので,使用頻度などをよく考えて購入すべきです.また,染色を外注する方法もあります.一方,後者では,目的とする疾患,免疫染色の種類をよく勉強して,その必要性を病理医に説明することが必要となります.

そのほか,個人的な人間関係により断られる場合も多分にありますが,それはこのQ&Aの関知するところではありません.

回答:海崎 泰治(福井県立病院病理診断科)

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要旨●患者は50歳代,女性.検診の上部消化管X線造影検査で異常を指摘されたために内視鏡検査を施行したところ,胃穹窿部に病変を認めた.病変は粘膜下腫瘍様隆起で,頂部は陥凹し,発赤調を呈していた.生検では診断に至らず,内視鏡的粘膜切除術を行った.病理組織学的所見では,粘膜表層から粘膜下層にかけての結節状病変で,紡錘形から類円形の腫瘍細胞の増殖を認め,小型の類円形核と淡明な胞体から成る紡錘形細胞が毛細血管を中心にして,渦巻き状に増殖していた.免疫組織化学染色でGlut-1陽性,claudin-1部分的陽性,EMA,S-100蛋白,CD34,αSMAは陰性であり,以上より胃神経周膜腫(perineurioma)と診断した.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 味岡 洋一
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 免疫組織化学染色(以下,免疫染色とする)が日常の病理診断や疾患の病態解析研究ツールとして用いられるようになって久しい.その技術も確立,簡便化され,現在はどの病理関連施設でもルーチン化作業として行えるようになっている.病理診断の領域でも,良悪性診断,癌の組織型診断,悪性度推定,転移性腫瘍の場合の原発巣推定,治療法の選択など,その用途は全臓器で多岐にわたっている.また,病態解析研究ツールとしても常に新たな抗体が開発され,これまでのHE染色標本の形態解析ではわからなかった新たな知見が得られるようになってきている.

 免疫染色を最も身近な存在として活用しているのは,おそらくは病理医であろうと思われる.しかし,その病理医でさえ,免疫染色の種類や用途,評価法,評価の限界の全てに精通しているわけではなく,専門と異なる臓器に関しては,これらのことや,その臓器では標準的とされる免疫染色の種類や意義,染色の組み合わせ(免疫染色パネル)について不案内なことも少なくない.一方では,臨床の専門分野化が先鋭化している現在,特定の臓器・疾患に精通している臨床医の免疫染色に関する知識が,病理医のそれを凌駕していることもまれではない.

基本情報

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胃と腸
52巻8号 (2017年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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