胃と腸 52巻2号 (2017年2月)

今月の主題 消化管結核の診断と治療─最近の進歩

序説

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要旨●1.最近13年間の腸結核の症例報告102例の解析と考察.①免疫抑制剤使用中の腸結核発症は13例(12.7%:うち,緊急手術4例,術後死亡1例)であった.②いわゆる原発性腸結核は37%,以前の報告例より低下していた.③便中結核菌の検索:喀痰培養陰性の場合に有用.④報告例の過半数が手術例,うち,穿孔,腸閉塞が65%.2.画像診断78例の解析.①全大腸内視鏡検査:腸管の変形,短縮,萎縮瘢痕帯の診断能はX線検査に劣る.内視鏡診断には,伸展・遠見の観察・描出・提示が必要.②小腸検査:手術原因の90%は小腸病変.治療前,あるいは後の小腸X線検査施行が必要である.③萎縮瘢痕帯の診断に拡大内視鏡の応用が期待される.また,その成立機序の解明と再検討が必要であろう.3.生検診断:向上していた.近接観察が診断能向上をもたらしたと推測した.

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要旨●近年21年間(1995〜2015年)の本邦の消化管結核報告583例を収集し,主に腸結核の臨床像について過去の八尾集計(1985〜1994年)との時代的変遷も含め,その臨床像について解析した.その結果,罹患部位は八尾集計同様に大腸,回盲部,小腸の順に高率であったが,近年では大腸の報告は減少し小腸結核報告が増加しており,高齢発症者の割合が増加していた.消化管結核の補助診断法はツベルクリン反応からIGRAへ移行してきており,CT画像診断の普及などにより肺結核診断能が向上し,近年では原発性腸結核は3割程度にまで減少してきていた.一方,今日においても腸結核の確定診断は容易ではなく,通過障害や穿孔による手術例が半数以上認められ,今後はバイオ製剤に伴う腸結核発症にも注意が必要である.最後に,腸以外の消化管(食道,胃,肛門)結核の特徴についても言及した.今回の解析から,今日においても腸結核のX線・内視鏡による画像診断の重要性に変わりはないことが検証された.

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要旨●当科で経験した回盲部以外の小腸に主病変を有する腸結核14症例を遡及的に検討した.診断時年齢は67.6±13.7歳と高齢で,性差は4:10と女性が多かった.ツベルクリン反応(ツ反)や抗原特異的インターフェロンγ遊離検査は施行されていたすべての症例で陽性であり,4例(28.6%)はツ反強陽性であった.内視鏡所見では多彩な形態と活動性の潰瘍が混在して認められる傾向にあった.活動性潰瘍は9例(64.3%)に認められ,4例(28.6%)は輪状潰瘍を呈し,輪状狭窄を4例(28.6%)に認めた.生検所見や各種の培養検査を加味しても内視鏡施行後の結核診断確定例は4例(28.6%)のみで,10例は疑診例であった.疑診例10例のうち6例は治療的診断がなされた.腸結核の診断確定は容易ではなく,Crohn病を代表とする他の炎症性腸疾患との鑑別が重要である.また,炎症性腸疾患患者では,抗TNF-α抗体が汎用されており,治療前の結核スクリーニングや潜在性結核感染への対処に十分な配慮が必要である.

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要旨●活動性大腸結核を有した54例の臨床像,X線造影・内視鏡所見を遡及的に検討した.24例(44%)では明らかな臨床症状を認めなかったが,盲腸(74%)と上行結腸(72%)を中心に,不整形潰瘍(63%),輪状潰瘍(56%),びらん(50%)などの活動性病変が観察された.このうち,80%では腸管変形や回盲弁開大,萎縮瘢痕帯などの所見も併存していたが,軽微な活動性病変のみの症例も11%にみられた.一方,生検標本における結核菌同定は培養法の48%が最も高く,乾酪性肉芽腫は15%で確認されたのみであった.以上より,大腸結核の診断はX線造影・内視鏡検査における所見の拾い上げが中心となるが,軽微な病変のみの症例ではIFN-γ遊離試験を含めた総合的な判断が必要と考えられた.

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要旨●消化管結核は難治性潰瘍性病変の鑑別診断として必ず挙げられる疾患で,迅速な対応,治療を行うためには各臓器でのその特徴を把握しておくことが重要である.確定診断には乾酪性肉芽腫や結核菌の検出が必須だが,生検のみで両者を確認するのは比較的困難である.活動性病変ではCrohn病との鑑別が特に重要で,潰瘍の走行や形態,肉芽腫の大きさや形態に加え,血液検査やツベルクリン反応,そして肛門部病変の有無などの臨床的所見と総合し,両者の鑑別がなされるべきである.典型的な乾酪性肉芽腫や結核菌が検出されなくても,大型で癒合性のある非乾酪性肉芽腫はCrohn病との鑑別に有用である.腸結核では輪状潰瘍の他に,病理組織学的におそらく粘膜筋板の上下を主座とした多数の潰瘍や瘢痕,それらの周囲の粘膜下層を中心とした炎症が治癒して生じたと推測される線維化が観察される.これにより生じたKerckring皺襞の不規則な走行や途絶,消失が萎縮瘢痕帯の一部として認識されると推察される.

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要旨●感染症の適切な治療のためには原因微生物を迅速かつ正確に特定することが大切である.そのためには,抗酸菌感染症の診断では特に遺伝子検査が重要な位置を占めている.遺伝子検査は検体から直接の迅速診断のみならず,抗酸菌の分離培養条件(培地や温度)を変更するための有益な情報も提供できる.最近では,核酸抽出から増幅反応,検出までをすべて自動で行う次世代型の遺伝子検査システムが開発されている.そして,“ポストゲノム時代”を迎えた今日,質量分析装置を用いることによって,細菌に由来した蛋白質成分の分子量情報(マススペクトル)のパターンから,わずか10分足らずで分離菌株の同定ができるようになった.

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要旨●本稿では腸結核の治療と合併症について主に述べるが,最近,生物学的製剤(Bio)投与中の炎症性腸疾患の結核併発が問題になっており,まずそれについて述べる.潜在性結核感染症がある場合は,Bio開始3週間前よりイソニアジドを少なくとも6〜9か月間投与する必要がある.また,Bio投与中に結核が発症した場合は,原則Bioは中止するが,継続すべき場合もみられる.腸結核の治療については,肺結核と同様に抗結核薬4剤投与で始めるのが原則である.肺結核に比べて腸結核では菌が検出できないことも多く,診断的治療を行わなければならないことも比較的多い.肺結核の効果判定は菌の消失で行うが,腸結核では内視鏡検査による潰瘍の観察で行う.判定時期は明らかな根拠はないが,2か月後が適当と筆者は考える.腸結核の合併症については,抗結核薬治療中の穿孔と腸閉塞が特に問題であり,あらかじめ患者に説明しておくことが重要である.

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要旨●腸結核における補助診断法であるツベルクリン反応(ツ反)は近年INF-γ遊離試験(IGRA)に急速に移行している.IGRAではBCG接種やほとんどの非結核性抗酸菌の影響を受けないことが強みである.一方,ツ反強陽性は感染診断において有意とされている.IGRAの診断精度は十分とは言えず陰性症例もみられる.ツ反とのIGRAの乖離がみられる症例も存在しており,ツ反の意義についての再検討が必要である.

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要旨●患者は60歳代,男性.検診の胃X線検査で異常を指摘され,当科外来を受診した.上部消化管内視鏡検査では胃体上部後壁にひだ集中を伴う不整形な陥凹性病変を認めた.CT検査では肺に異常は認めなかったが,縦隔,両側肺門,上腹部および両腋窩,鼠径部のリンパ節が多数腫大していた.胃の陥凹内部からの生検組織に乾酪性類上皮細胞肉芽腫がみられ,Ziehl-Neelsen染色にて抗酸菌を認めた.また,生検組織の抗酸菌培養とPCR法で結核菌が同定され,胃結核と確定診断した.胃液・喀痰の抗酸菌培養と気管支洗浄液の抗酸菌培養が陰性であり,肺結核の合併はないと判断した.鼠径リンパ節生検では抗酸菌感染を示唆する肉芽腫の形成はみられなかったが,臨床像,血液検査所見,末梢血液像,骨髄像より,胃結核に伴う結核性リンパ節炎と診断した.抗結核薬の投与を行い,胃病変,全身リンパ節腫大は共に改善した.

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要旨●患者は67歳,女性.前医で成人Still病と診断され,加療が行われたが発熱などの臨床症状が改善しないため当院へ転院となる.転院後,免疫抑制剤やステロイド薬の投与などの加療中に突然下血を認めた.大腸内視鏡検査では盲腸から直腸にかけて多発する粟粒大の白色粘膜下腫瘍様隆起を認めた.生検組織から炎症細胞浸潤を伴う壊死組織および抗酸菌が確認された.その後の全身精査で喀痰,肝臓,骨髄,胃液の培養検査で結核菌が検出されたため,粟粒結核症と診断した.腸結核で粘膜下腫瘍様の所見がみられることは大変まれである.また,本例は腸病変から粟粒結核症の診断に至った症例であり,教訓的であるため報告する.

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要旨●患者は60歳代,女性.下痢,食欲不振にて受診.腹部CT検査で腸間膜リンパ節腫大,腸管壁肥厚を認め,大腸内視鏡検査で回腸末端のびらんを認めた.小腸カプセル内視鏡検査およびバルーン内視鏡検査で中部空腸〜回腸末端までほぼ全域で多発する網目状潰瘍を認めた.生検では陰窩膿瘍を認めていた.Crohn病としてステロイド薬が投与されたが,病状悪化,血中サイトメガロウイルス(CMV)アンチゲネミアが陽転化し,CMV腸炎の診断で,ガンシクロビルが投与されたが,潰瘍治癒は得られなかった.結核菌,乾酪性肉芽腫は未検出,抗結核特異INF-γ陰性であったが,腸結核の可能性を考慮し,抗結核薬による診断的治療を行った.4か月後に行った小腸内視鏡にて小腸潰瘍の消失を確認した.

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要旨●患者は60歳代,男性.3週間持続する右下腹部痛と発熱のため当院へ紹介され入院した.血液検査で炎症所見と肝胆道系酵素の上昇,CT検査で回腸終末の限局性全周性の壁肥厚を認めた.下部消化管内視鏡検査では回盲弁から盲腸腸間膜側にびらんの集簇と帯状の顆粒状粗糙粘膜がみられ,回盲弁は開大し,回腸終末にかけて全周性の潰瘍性病変が連続していた.注腸X線造影検査では回腸終末の潰瘍性病変は口側の境界が明瞭で,辺縁に厚みを有していた.生検で上皮下ならびに潰瘍底に小型肉芽腫の多発とZiehl-Neelsen染色像で多数の桿状抗酸菌を認め,培養で結核菌が同定された.腸結核の像としては境界明瞭な全周性潰瘍の辺縁に厚みを有し,近傍に萎縮瘢痕帯を伴わない点が非典型的であり,滲出性肉芽に多数の抗酸菌が確認されたことからも腸管病変の高度急性期の所見と考えられた.

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要旨●水様便,体重減少の精査の内視鏡にて十二指腸,回盲弁に白色調の病変を認めた.病変部の生検による病理組織学的評価および培養検査からMycobacterium avium complexによる消化管病変と診断された.消化管非結核性抗酸菌症は,まれであるが,抗HIV薬投与前,CD4の低下したHIV感染者の内視鏡を行う際は念頭に置くべき疾患のひとつである.

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要旨●患者は60歳代,男性.近医の上部消化管内視鏡検査で病変を指摘されたため,当科に紹介となった.胃体下部小彎に境界やや不明瞭な10mm大の白色扁平隆起を認めた.NBI併用拡大内視鏡検査では病変部のwhite zoneは乳頭・顆粒状構造を呈し,異型に乏しい微小血管の増生を認め,EUSでは第2層の肥厚を呈していた.確定診断を目的にESDを行った結果,病理組織学的には粘膜固有層内に形質細胞がびまん性に増生し,免疫組織化学的にはIgA,κ鎖の単クローン増殖を来しており,髄外性胃形質細胞腫と診断した.H. pylori陽性であり,除菌治療後経過観察中である.

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要旨●患者は60歳代,男性.2013年11月中旬頃から頻回の水様性下痢と腹部膨満感が出現し,当センターを受診した.大腸内視鏡検査および注腸X線造影検査では横行結腸の肝彎曲部から中部にかけて軽度の進展不良を伴う全周性びまん性の粗大顆粒状粘膜面を認め,一部に縦走する潰瘍を認めた.腹部造影CT検査では腹腔内に20cm大の造影効果に乏しい腫瘍を認め,内部に横行結腸が走行していた.大腸内視鏡検査での生検組織結果から,横行結腸MALTリンパ腫と診断した.著明な管外性発育を示し,興味深いX線造影所見・内視鏡所見を呈した大腸MALTリンパ腫の症例であったため,文献的考察を踏まえて報告する.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

第23回「白壁賞」論文募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 八尾 隆史
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 日本は先進国ながら結核の罹患者は少なくはなく,現在でも消化管結核の症例に時に遭遇する.本誌では1995年に「腸結核」の特集が組まれて以来,特集は組まれていなかった.最近では消化管結核の発生頻度,罹患部位,X線や内視鏡像など臨床像の現況については,消化管の診断・治療を行う立場としては知っておく必要がある.また,結核の補助診断としてツベルクリン反応(ツ反)以外に,インターフェロンγ遊離試験(interferon-gamma release assay ; IGRA)が用いられるようになり,新しい菌同定法も開発され,これらの有用性にも興味がある.

 まず,序説では消化管結核の分野の第一人者である八尾恒良先生が最近13年間の症例報告から,病歴からみた問題点,画像診断の現状,生検診断について解析した.小林論文では1995年の八尾集計から現在に至るまでの消化管結核の推移を解析し,大腸の報告は減少し,小腸は増えているが,腸原発は3割程度まで減少していることが判明した.そして,報告例の過半数が手術例であり,その原因の90%は小腸病変であることから,診断・治療における小腸検査の重要性も指摘されている.

基本情報

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胃と腸
52巻2号 (2017年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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