胃と腸 52巻3号 (2017年3月)

今月の主題 表在型食道胃接合部癌の治療戦略

序説

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はじめに

 食道胃接合部癌の定義は,本邦と欧米で異なる.欧米ではSiewert分類1)が一般的で,食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)の口側1〜5cmをType I,口側1cm〜肛門側2cmまでをType II,肛門側2〜5cmまでをType IIIと分類している.一方,本邦では食道癌取扱い規約2)でも,胃癌取扱い規約3)でも西分類4)が採用され,EGJの上下2cmに発生した癌を食道胃接合部癌としている.ただし,このEGJを,いかに診断するのか? 問題が多い.

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要旨●食道胃接合部腺癌には,Barrett食道癌を含む食道腺癌および胃噴門部腺癌が含まれる.癌の組織発生の観点からは,両者の区別が必要であるが,腫瘍自体には発生母地を示す明確な所見がないため,腫瘍の存在主座から発生母地を推定せざるをえない.しかし,自験例の検討では,接合部癌は表在腺癌であってもその6.7%(2/30)では腫瘍の主座(食道か胃か)を決定できなかった.より進行した病変では,主座決定困難例の割合が増えると予想される.他方,癌周囲の微小環境やそれに起因するリンパ節転移などの生物学的悪性度の観点からは,組織発生よりも癌が食道浸潤を来しているかどうかが重要であると考えられる.目的(病因の追究,病期分類)により接合部癌を鑑別する必要性は異なる.

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要旨●SSBE由来Barrett食道癌の多くは食道胃接合部癌に該当し,噴門部胃癌との鑑別が問題となる.病理組織学的に大きな違いはないとする報告もある一方で,発癌の経路が異なる可能性も示唆されている.Barrett食道癌症例は若く,右側に多くみられる.また,食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎が多く,H. pylori感染や胃粘膜萎縮は少ないという点で,Barrett食道癌以外の食道胃接合部腺癌と明らかに背景が異なっていた.術前にBarrett食道癌を鑑別することはある程度可能であり,やはり食道胃接合部の注意深い内視鏡観察を行い,Barrett粘膜の有無および食道胃接合部腺癌の由来を評価することは重要と思われる.

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要旨●背景:Siewert分類Type II食道胃接合部(EGJ)癌は,胃噴門部癌(GCA)とBarrett食道腺癌(BEA)が混在しているため,内視鏡粘膜下層剝離術(ESD)適応や治癒切除の定まった基準がない.目的:Siewert分類Type IIのEGJ癌ESD症例からみたBEAとGCAの臨床病理学的特徴を明らかにする.対象・方法:2006〜2014年まで当院でESDが行われたSiewert分類Type IIのEGJ癌139例(BEA 54例,GCA 85例)を対象とした.比較項目は患者背景,内視鏡所見,内視鏡治療成績とした.結果:平均年齢はBEA群が有意に若年であり,生活習慣病の各因子,重複癌に有意差はなく,異時多発癌はGCAが有意に高率であった.腫瘍長径はBEAが小さく,肉眼型はBEAは隆起型,GCAは陥凹型の割合が高率であった.RAC,食道裂孔ヘルニア率は有意にBEAが高率であり,腸上皮化生はGCAが高率であった.一括切除率,局所再発率,合併症は両群に有意差なく,治癒切除率は有意にBEAが低率であった.結論:Siewert分類Type IIのEGJ癌において,BEAはH. pylori陰性の若年者に多く,内視鏡治療の非治癒因子になりうる.

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要旨●食道胃接合部腺癌の転移頻度や特徴は明らかではなく,内視鏡的切除の治癒判定が確立されていなかった.特にSM1を食道癌・胃癌どちらに準ずるべきか課題となっていた.われわれは食道腺癌の転移リスクを明らかにするため多施設共同研究を行い,今回その結果の中から食道胃接合部腺癌のみを抽出し解析を行った.外科的切除もしくは内視鏡的切除を行った粘膜癌,粘膜下層癌385例中54例に転移を認めた.深達度別では深層粘膜筋板浸潤癌では6.9%(6/87)に転移を認め,SM 500μmまでに浸潤した癌では3.9%(2/51)に転移を認めたが,病変径30mm以下で脈管侵襲,深層粘膜筋板以深の低分化腺癌成分を持たないものに限ると転移は認めなかった.この結果より食道胃接合部腺癌におけるSM1は500μmまでとするのが妥当と考えられた.

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要旨●Barrett食道癌のリンパ節転移リスクに関して,これまで本邦からは症例数の問題などからその報告はほとんどなく,内視鏡的切除後の追加治療の是非については各施設に委ねられているのが現状であった.今回多施設共同研究(EAST group)を行い,外科的あるいは内視鏡的切除された311例のBarrett食道表在癌を解析した.深達度SMM/LPM癌およびリスク因子〔病変径3cm以下,脈管侵襲,深層粘膜筋板(DMM)以深の低分化腺癌成分〕のないDMM癌においてリンパ節転移はみられず,SM癌ではリスク因子(病変径3cm以下,脈管侵襲,DMM以深の低分化腺癌成分)のないSM 500μmまでのBarrett食道癌においても転移頻度は0%であった.さらなる検討は必要であるが,現段階ではSM1の定義は胃癌と同様に500μmの浸潤距離が妥当と考え,深達度LPMまでの癌では内視鏡的切除後の追加治療は不要であり,DMM癌やSM1癌ではリスク因子を病理組織学的に十分検討したうえで追加治療を判断すべきである.

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要旨●ESDを施行した表在型食道胃接合部癌(Siewert分類Type II)76例76病変の治療成績を検討した.ESDの適応,治癒切除基準は胃癌治療ガイドラインに従った.一括切除割合,一括完全切除割合,治癒切除割合はそれぞれ100%,82.9%,65.8%であった.後出血割合は0%,穿孔割合は2.6%であり,術後狭窄割合は9.2%であった.観察期間中央値は6.4年で,治癒切除で経過観察された49例に再発,原病死は認めず,5年無再発生存率,5年全生存率,5年疾患特異的生存率は100%,97.8%,100%であった.食道胃接合部癌に対するESDは技術的に妥当であること,長期予後の観点から内視鏡治療の治癒切除判定は胃癌に準じて行える可能性が示唆された.しかしながら,症例数が少なくリンパ節転移リスクの検討やESDの長期成績については,さらなるエビデンスの構築が必須である.

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要旨●食道胃接合部癌には,縦隔側と腹側の両方向のリンパ流が存在しているため,縦隔リンパ節と腹腔内リンパ節の双方を郭清する必要がある.本邦で行われた多施設共同後向き研究の結果をもとに作成されたアルゴリズムによると,胃側に中心を有する表在型食道胃接合部癌に対しては腹腔内リンパ節のみの郭清で十分とされる一方,食道側もしくは食道胃接合部直上に中心を有し,組織型が腺癌の場合は腹腔内リンパ節と下縦隔リンパ節,組織型が扁平上皮癌の場合はこれらに加えて中縦隔リンパ節の郭清も必要となる.現在,日本胃癌学会と日本食道学会合同による前向きの臨床試験を実施しており,より正確なデータに基づいた郭清範囲が決まるものと期待される.

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小山 本座談会のテーマは,「表在型食道胃接合部癌の取り扱い」です.司会は私と小野先生が務めさせていただきます.話題としては,まず表在型食道胃接合部癌に対する内視鏡検査でのスクリーニング法と診断,鑑別方法についてお話しいただきます.次に病理の立場から,その特徴を議論し,特にSM1の定義を見直したいと思います.最後に外科の立場から表在型食道胃接合部癌に対する手術方法の現状と課題について議論したく思います.それではよろしくお願いいたします.

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要旨●特異的な大腸内視鏡像を呈し,診断に難渋した糞線虫症の1例を経験した.患者は70歳代,男性.主訴は慢性下痢,体重減少.2年前に感染性腸炎の疑いで入院加療を受けたが,保存的加療で症状は改善し,経過観察となっていた.精査のため,大腸内視鏡検査を施行したところ,S状結腸から直腸に発赤,びらんを伴う小隆起が多発していた.診断がつかなかったため,上部消化管内視鏡検査を施行した.十二指腸粘膜の浮腫と白色絨毛を認めた.生検上,十二指腸の陰窩内および大腸の粘膜固有層に虫体を,両部位の粘膜下層に好酸球中心の炎症細胞浸潤を認め,糞線虫症と診断した.糞線虫感染による大腸炎の報告は少なく,さらに病変が左側結腸優位の症例はまれであるため報告する.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

第23回「白壁賞」論文募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小野 裕之
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 本号は表在型食道胃接合部癌,そのうちでも特に腺癌を中心に特集されている.これまで,外科的切除例においては,食道外科にコンサルトした場合と胃外科にコンサルトした場合で切除術式が異なる例がみられることがあった.また,内視鏡的切除においては,例えばSM1 ; 400μmであったとき,Barrett食道癌とした場合と胃癌とした場合で片や非治癒切除,片や適応拡大治癒切除となってしまい,かつBarrett食道癌かどうかの診断が難しいという問題があった.

 これらの問題を解決するために近年いくつかの多施設後ろ向き研究が行われ,食道および胃癌治療ガイドラインにおいてもある程度の根拠をもって食道胃接合部癌に対応するようになってきている.今回の特集号はいくつかのエビデンスが出てきて,取り扱いが統一されつつある今,臨床医家,病理医に参照していただくべき一冊として企画された.

基本情報

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胃と腸
52巻3号 (2017年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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