胃と腸 52巻11号 (2017年10月)

今月の主題 非特異性多発性小腸潰瘍症/CEAS─遺伝子異常と類縁疾患

序説

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要旨●岡部・崎村の非特異性多発性小腸潰瘍症(CNSU)の発表(1968,1972)以降,九州大学医学部附属病院病態機能内科で蓄積された症例とその長期経過から,Matsumotoら(2011),Umenoら(2015)によって,その遺伝子変異が見出され,CEASと名称変更に至るまでの過程を述べた.CEASのより強固な疾患概念確立のため,九大2内科,病態機能内科,その関連施設の論文をまとめ,他の症例報告を見直し,本症の病態,臨床的特徴,鑑別診断について解説した.CNSUはTPN腸切除前後でも慢性貧血は持続,しかし狭窄出現などの臨床や形態学的所見が変化するので,治療の前後を明記して提示する必要性を強調した.今後の問題として,①上下部消化管病変についての検索(画像提示の必要性).②早期診断への期待と方法,③遺伝子変異以外の疾患関連因子などの検索に,CEAS症例の蓄積が必要なことを述べた.

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要旨●非特異性多発性小腸潰瘍症は,1960〜70年にかけて本邦で報告された原因不明の慢性小腸潰瘍症である.臨床例の集積から,本症に同胞発症や両親の血族結婚が認められること,本症の小腸内視鏡所見が非ステロイド性抗炎症薬起因性小腸潰瘍に類似することが明らかとなり,さらに遺伝的素因について解析を行った.家系内発症3家系のエクソーム解析,および肥厚性皮膚骨膜症を伴う小腸潰瘍症家系の遺伝子解析の結果から,原因遺伝子としてプロスタグランジントランスポーターを規定するSLCO2A1が同定された.以上の結果より,本症の新たな名称として,CEAS(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene)を提唱したいと考える.

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要旨●遺伝学的に確定診断された非特異性多発性小腸潰瘍症45例の臨床像を検討した.本症は女性に多いこと,貧血は必発するが肉眼的血便はほぼみられないこと,炎症所見は比較的低値にとどまること,約30%に血族結婚を認めることが確認された.また,終末回腸を除く回腸を中心に,輪走ないし斜走する比較的浅い開放性潰瘍が腸間膜付着側と無関係に多発することが小腸病変の形態学的特徴と考えられた.性別による比較では,胃病変は女性に有意に多く,ばち指,骨膜症や皮膚肥厚といった肥厚性皮膚骨膜症の所見は男性に有意に多かった.本症の診断に際しては,小腸病変の評価に加えて,上部消化管病変や消化管外徴候の評価,SLCO2A1遺伝子変異の検索も必須と考えられた.

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要旨●非特異性多発性小腸潰瘍症の原因遺伝子が明らかとなり,その英語疾患名がCEASという新名称に変更された.AMED班が中心となって,本症の認知度を向上させ,他疾患との内視鏡所見の相違を明らかにし,さらなる症例を集積することを目的に,画像診断アトラスを作成した.このアトラスの一部を紹介し,CEASの内視鏡所見を提示する.CEASの内視鏡所見の特徴は,多発する比較的浅い潰瘍,非対称性の斜走潰瘍,斜走する変形,輪状もしくはテープ様潰瘍,狭窄(比較的軽度)である.

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要旨●非特異性多発性小腸潰瘍症本邦報告例および自験例46文献62症例について集計し,臨床病理学的特徴の再確認を行った.診断年齢の平均は39.3歳で,推定発症年齢の平均は22.5歳であったが,50歳以上の比較的高齢発症と考えられる症例もあった.男女比は23:39で女性に多かった.姉妹発症は4組8例,両親がいとこ同士の結婚である症例が10例あった.貧血,低蛋白血症共におよそ9割の症例にみられ,便潜血陽性所見と合わせ,本症を疑ううえで重要な所見であった.多くの症例が回腸末端は保持されていた.潰瘍の形態は輪状,輪走,斜走,横走,帯状,全周性などの記載があった症例が79.3%と大半を占め,狭窄は81.0%にみられた.大多数がUl-IIまでの浅い潰瘍で,当院経験例では腸間膜対側で潰瘍の幅が広い傾向にあった.上記臨床的特徴をおおよそ満たし,さらに特徴的な小腸潰瘍(curved ulcer)の確認が可能であった報告例は12例であった.

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要旨●非特異性多発性小腸潰瘍症は女性に好発し,若年より慢性に経過する鉄欠乏性貧血と蛋白漏出性腸症に伴う低蛋白血症を主徴とする.近年,プロスタグランジンのトランスポーター遺伝子SLCO2A1が責任遺伝子であることが判明した.ただし,SLCO2A1遺伝子変異と臨床病態に有意な相関はなく,今後のさらなる病態の解明と治療法の開発が必要とされる.

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要旨●肥厚性皮膚骨膜症(PDP)は太鼓ばち状指,長管骨を主とする骨膜性骨肥厚,皮膚肥厚(頭部脳回転状皮膚を含む)を3主徴とする遺伝性疾患である.原因遺伝子であるHPGD遺伝子,SLCO2A1遺伝子の機能不全によるプロスタグランジン過剰が本症の病因に関与する.これまで20名の日本人PDP患者からHPGD遺伝子変異1種類,SLCO2A1遺伝子変異9種類が発見された.合併症ではCEASなどの消化器病変のほか脱毛症,眼瞼下垂,関節症,リンパ浮腫,低カリウム血症など多彩である.進行を遅らせる治療法は確立されていないが,発熱・疼痛には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),眼瞼下垂や皮膚肥厚には形成外科的アプローチが試みられている.本邦では,2015年7月に公費負担が開始された.

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要旨●CEASの原因遺伝子であるsolute carrier organic anion transporter family member 2A1(SLCO2A1)遺伝子はプロスタグランジン輸送蛋白をコードする.SLCO2A1蛋白は小腸粘膜の血管内皮細胞に発現しており,in vitroの実験ではCEAS患者で認められた変異型SLCO2A1ではプロスタグランジン輸送能が障害されていた.これによりCEASの病態解明の手がかりを得たが,なぜCEASでは特徴的な潰瘍形態を呈するのか,同じくSLCO2A1遺伝子が原因と考えられている肥厚性皮膚骨膜症との関係についてはいまだ謎である.

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要旨●CMUSE(cryptogenic multifocal ulcerous stenosing enteritis)は空腸,回腸に境界明瞭な浅い潰瘍と多発性再発性狭窄を来す原因不明の慢性希少疾患である.本邦からの報告はこれまでに認めていない.腸管病変は短い求心性狭窄が主体で,粘膜下層までの線維化にとどまり,これにより慢性/再発性の腸管閉塞症状を来す.治療には主にステロイドや手術が選択され,内視鏡的バルーン拡張術も選択肢の一つである.近年,本疾患の病態にプロスタグランジン(PG)が関与していることが示唆されているが結論はついておらず,今後の症例蓄積が必要である.

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要旨●患者は73歳,男性.12歳時貧血,貧血症状でCEAS発症.以後19年間,頻回の入院加療,鉄剤静注,輸血などを必要とした.29歳時胃潰瘍として胃切除(H. pylori抗体陰性).30歳時,回腸─回腸吻合術施行,31歳時,BL(blind loop)切除.65歳時,繰り返すイレウス症状のため吻合部の経肛門的内視鏡的バルーン拡張術(EBD)を施行した.31歳時のBL切除後の42年間は鉄剤内服のみにて,貧血症状なく,中等度の労働に従事し,通常の社会生活を送っている.また,EBD後現在までの8年間は無症状で吻合部狭窄も解除した状態が持続している.以上,CEASの中では,良好な経過をたどっている1例の臨床経過と切除標本,X線造影検査・内視鏡検査の画像を提示し,考察を加えた.なお,合併した肥厚性皮膚骨膜症(PHO)の脳回転状頭皮の診断にヘリカルCTが極めて有用であった.

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要旨●患者は40歳代,男性.貧血の精査目的で,当院に紹介され受診となった.上部消化管内視鏡検査では,十二指腸第二部に小潰瘍を伴った狭窄病変を認め,その口側に輪状傾向で境界鮮鋭な浅いびらんを認めた.小腸X線所見では回腸に非対称性の硬化像が多発し,小腸内視鏡検査では,斜走する浅い潰瘍が多発していた.内視鏡所見,X線検査から非特異性多発性小腸潰瘍症と診断され,十二指腸病変も回腸と同様の形態を呈しており,非特異性多発性小腸潰瘍症の十二指腸病変と考えられた.

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患者

 60歳代,男性.

現病歴

 4年前,胃角部前壁の早期胃癌に対して他院で内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)を施行された.サーベイランス内視鏡検査にて胃体下部大彎に異常を指摘され,精査目的に当院を紹介された.Helicobacter pylori(H. pylori)は既感染(除菌後)であった.

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要旨●患者は70歳代,女性.検診の上部消化管内視鏡検査で隆起性病変を指摘され当科へ紹介された.通常観察では胃穹窿部大彎に4cm大,顆粒状の0-IIa型病変を認めた.インジゴカルミン撒布で微細顆粒状のIIb進展が疑われた.NBI拡大観察で,主病変部は組織学的な乳頭状構造を示唆する大小不同なvessels within epithelial circle(VEC)patternを認め,随伴IIb部には細かく均一なVEC patternを認めた.周囲粘膜との間に境界・領域性があるため同部までを腫瘍の範囲と診断し,ESDを行った.切除標本病理では,腺窩上皮に類似した細胞異型に乏しい癌が乳頭状・管状に増生し,MUC5ACの発現を認めたため,胃型(腺窩上皮優勢型)の低異型度分化型癌と診断した.IIb進展部は主病変部よりさらに異型が弱く,腺腫相当の部分も認めた.

早期胃癌研究会

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 2017年3月の早期胃癌研究会は2017年3月15日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は江 (九州大学大学院医学研究院病態機能内科学)と長南(仙台厚生病院消化器内視鏡センター),病理は八尾(順天堂大学大学院医学研究科人体病理病態学)が担当した.また,「早期胃癌研究会2016年最優秀症例賞」の表彰式が行われ,受賞者の九州大学大学院医学研究院病態機能内科学・貫 陽一郎氏による症例解説が行われた.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

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 私が卒業したのは1972年であるが,当時からみると現在の消化器病学の進歩には本当に驚かせられる.上部消化管疾患に興味を持ってこれまで長い期間にわたって診療に従事してきたが,今日のような診療体系ができあがるなどとは考えることはできなかった.

 当時の上部消化管の診断はバリウム検査が主体であり,内視鏡検査がようやく芽吹いてきたところであった.先端カメラで視野が狭く,ファイバー繊維を通して観察するため,直視で診断することは難しく,カメラで撮った写真を皆で検討し,診断をつけていた.この時代,胃の生理学的研究をするなどほとんど考えられなかった.研究テーマとしては画像診断と病理しかなかったので,科学とは無縁の世界であると半ば公然と言われていた.確かに当時,胃潰瘍にしても,いくら薬を飲ませても本当に治らなかった.3割ぐらいは外科に回さざるを得なかったのである.

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 蔵原 晃一
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 本特集号「非特異性多発性小腸潰瘍症/CEAS ─遺伝子異常と類縁疾患」の企画を松本,八尾隆史,蔵原の3名で担当した.

 非特異性多発性小腸潰瘍症は1960年代に本邦から報告された慢性炎症性腸疾患であるが,第一報は岡部らが1968年に「胃と腸」誌に発表しており,本誌と縁の深い疾病と言える.

基本情報

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胃と腸
52巻11号 (2017年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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