胃と腸 51巻10号 (2016年9月)

今月の主題 表在型Barrett食道癌の診断

序説

表在型Barrett食道癌の診断 門馬 久美子
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はじめに

 Barrett食道癌は地域により,発生率に差があることはよく知られている.しかし,欧米でも,1980年代までは,本邦と同様に扁平上皮癌が大半を占めていた.米国において食道腺癌が急増したのは1970年代後半からであり,1990年代後半には食道癌の半数を超え1),2005年には約60%を占めるに至った2).食道腺癌の発生頻度は,地域間だけでなく,男女間にも差があり,女性に比較し,男性で非常に発生率が高いとされている.しかし,最近の傾向として,女性の増加率には大きな変化はみられないものの,男性は,肥満の減少や喫煙率の低下などにより,増加率がやや鈍化してきている3)

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要旨●欧米の食道腺癌の頻度は,1970年代後半から急増し,1990年代後半に扁平上皮癌を逆転,現在では腺癌が約6割を占めている.しかし国や地域によって増加の程度が異なり,その背景には人種や生活様式などによる差が関与していると思われた.本邦の食道腺癌の頻度は2%以下であったが,5.4〜6.4%まで上昇してきている.その背景には,食生活の変化により肥満が増え逆流性食道炎が増加したこと,H. pyloriの感染率の低下などが挙げられる.しかし,欧米に比べて肥満の程度が軽く,逆流性食道炎が少ない本邦には,好発人種である白人もおらず,今後欧米ほどの急上昇はみられないと考えている.

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要旨●Barrett食道癌と診断された36例の病理学的特徴を検討した.肉眼型では隆起型がやや多く,粘膜下層浸潤部浸潤癌で隆起型の頻度はより高くなった.壁深達度診断においては,粘膜筋板二重化の認識が重要だが,判断に迷う場合もあり留意すべきと考えられた.組織分化度については,粘膜内で高分化〜中分化主体だが浸潤とともに低分化となる例が多かった.口側における扁平上皮下進展所見は高頻度に認められた.背景のBarrett粘膜は,SSBE(short segment Barrett's esophagus)が9割超を占め,LSBE(long segment Barrett's esophagus)は少なかった.リンパ節転移は1例のみに認めた.これら特徴を欧米と比較する際には病理診断基準の違いを理解するだけでなく,SSBEとLSBEの有病率の差やサーベイランス方法などの違いも含めて総合的に考える必要がある.

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要旨●表在型Barrett食道癌は治療方針を決定する際,転移・再発の危険因子の把握が重要である.本稿では欧米の文献の評価と食道色素研究会で行った多施設アンケート調査の結果を合わせ,転移・再発の危険因子について記述した.欧米の文献では,腫瘍径20mm以内で,pT1a癌,高・中分化型腺癌で脈管侵襲のないものが“low risk”とされる.今回の集計結果ではさらに,浸潤様式INFc,また肉眼型0-I型はリンパ節転移の危険性が高かった.pT1b癌は,取扱い規約のSM1までで“low-risk”の症例は,内視鏡治療で根治可能と考えられた.今回の集計結果でリンパ管侵襲や再発の有無に差があることから,SM1の深さは500μmまでが適当と考えられた.

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要旨●表在型Barrett食道癌12例を対象に,X線造影検査による深達度診断および範囲診断について検討を行った.Barrett食道癌の診断には,食道胃接合部(EGJ)や扁平上皮円柱上皮接合部(SCJ)の同定が必要となるため,良質な二重造影での撮影が必須であり,背景にBarrett食道の存在を読み取ることが重要となる.病変の範囲診断に関しては,平坦に拡がる病変の側方進展および表層に凹凸変化の乏しい上皮下進展の診断は困難であったが,深達度診断に関しては側面変形を含めた従来の診断で十分に診断可能と思われた.

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要旨●表在型Barrett食道癌の拾い上げ診断について,通常内視鏡検査のWL(white light)による肉眼型,色調変化,平坦陥凹型ではNBI弱拡大所見,拡大所見を中心に検討した.また,背景がLSBE(long segment Barrett's esophagus),SSBE(short segment Barrett's esophagus)の違いについて言及した.検討症例はLSBE背景が21症例25病変,SSBEは85症例86病変で,計106症例111病変である.隆起型,平坦陥凹型に分けると,LSBEは14/25(56.0%),11/25(44.0%)で,SSBEは55/86(64.0%),31/86(36.0%)と,LSBEで平坦陥凹型の比率がやや高かったが,半数以上の症例が隆起型の形態を呈していた.平坦陥凹型のほとんどの症例で発赤調を呈し,さらにNBIでLSBE 10/11(91.0%),SSBE 27/31(87.1%)が茶色様変化を呈しており,認識が可能であった.したがって,平坦陥凹型病変の90%が発赤調を呈することを考慮すると,隆起型もしくは発赤,NBIで茶色様変化を認識することで106/111(95.5%)の症例は発見可能である.しかし,約5%の症例はWL,NBI弱拡大観察のみでは発見困難な症例があった.また,0-I+IIb型,0-IIa+IIc型など複合型の肉眼型をとる病変はLSBEに多く,LSBE 13/25(52.0%),SSBE 28/86(32.6%)であり,複合肉眼型のSM癌率,組織混合型率が多かった.また,0-IIb型もしくは随伴0-IIb型はLSBEで10/25(40.0%),SSBEで5/86(5.8%)とLSBEに多くみられた.病変の局在は,右前に存在する症例がLSBEでは9/25(36.0%),SSBEで63/86(73.3%)とSSBEで圧倒的に多くみられた.すなわち,SSBEでは右前の隆起もしくは発赤に注目することが重要である.LSBEでは分布が広く,発赤,NBIによる茶色様変化に注目していく必要がある.

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要旨●通常内視鏡検査における表在型Barrett食道癌の深達度診断において重要なことは肉眼型,大きさ,硬さなどである.広基性の0-Is型に有意にSM癌が多く,くびれがあり基部の狭い0-Ip型においてはほとんどがM癌である.平坦型である0-II型においてはM癌が多いが,病変内に色調の差や陥凹,びらん,潰瘍を伴っている場合には一段深い可能性を考えるべきである.画像強調内視鏡検査は現状では深達度診断に有用であるとは言えず,超音波内視鏡検査も病変が食道胃接合部に存在するため技術的に描出困難なことが多い.そのため,各々単独の検査ではなく通常内視鏡検査と合わせて診断をする必要がある.

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要旨●2000年1月〜2016年3月までの間に,当センターにてESDを施行した49例,63病変のBarrett食道表在癌を対象とし,SSBE群とLSBE群に分けて術前の範囲診断正診率を検討した.SSBE 40例,LSBE 9例で,肉眼型はSSBEでは隆起型が,LSBE群では平坦陥凹型を多く認めた.0-IIb合併率はSSBEでは51%(21/41),LSBEでは89%(8/9)であった.腫瘍長径中央値はSSBEで13(4〜116)mm,LSBEで45(2〜96)mmであった(p<0.01).全例に拡大内視鏡検査にて表面構造,血管構造をもとにマーキングを施行し,癌がこの範囲にとどまっている場合を正診とした.結果:SSBEに対する正診率はWLI:56%,拡大内視鏡検査96%.LSBEではWLI:7%(1/15),拡大内視鏡検査100%と有意差を認めた(p=0.01).扁平上皮下進展を示した癌はSSBEで60%(29/48),LSBEで27%(4/15)で,進展距離中央値は,それぞれ4(1〜12)mm,5(1〜20)mmであった.上皮下進展を示唆する所見の出現率は色調変化88%(29/33),厚み36%(12/33),異常血管88%(29/33),小孔42%(14/33)であった.拡大内視鏡検査はBarrett食道表在癌の範囲診断に有用だが,それでも範囲診断が困難な症例があり,SSBEでは扁平上皮下進展,LSBEでは随伴0-IIbの存在に配慮すべきである.

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要旨●Barrett腺癌は時に正常の扁平上皮下へと側方進展し(BCUS),癌が表層に露出していないため内視鏡による範囲診断が困難となる.BCUSの内視鏡所見として,WLIでは淡い発赤,NBIでは淡い茶色変化などが挙げられるが,時に不十分である.1.5%酢酸を撒布すると,BCUSはそれまで視認されなかった淡い白色変化(SWS)が観察される.病理組織では酢酸撒布で所見が得られた領域に一致して扁平上皮下の癌腺管が表層へと開口する像(rising gland)が観察される.本稿ではBarrett腺癌の扁平上皮下進展部の内視鏡的特徴であるSWSに関して自験例をもとに解説する.

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要旨●表在型Barrett食道癌の診断において,本邦では狙撃生検を行うための詳細な内視鏡観察による診断がその基本であるが,米国を含めた欧州ではSeattle protocolに基づくランダム生検による病理診断がその基本である.その理由として,①欧州には早期胃癌の頻度が低く,その内視鏡診断学が十分に周知されていないこと,②内視鏡画像がsystemやscopeの違いにより本邦ほど高画質でないこと,③内視鏡画像と生検標本および切除標本との対比が行われず内視鏡診断がfeedbackされないこと,④癌の質的診断あるいは伸展範囲が困難な平坦病変が発生するLSBE症例が多いことなどが挙げられる.今後はこれまで以上に本邦から世界に向けて,表在型Barrett食道癌の内視鏡診断学を広めていく必要がある.

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要旨●患者は60歳代,男性.下部食道の前壁から右壁側にかけて,8cm大の2型潰瘍性病変を認めた.潰瘍辺縁からの生検標本では中型〜大型の異型細胞が充実性に増殖し,各免疫組織化学染色がすべて陰性であり,食道癌,Type 2,未分化癌,cT3-4N1M1,cStage IVbと診断した.噴門部リンパ節転移,多発肝転移を認め,化学療法を施行したが入院後77日で原病死された.本例は診断5か月前の人間ドックにてEGDが施行されており,遡及的検討が可能であった.GERD-Bを伴うC2M5のSSBEを認め,NBI拡大観察にてBarrett食道に異型はなく,扁平上皮領域にもbrownish areaを認めなかった.特徴的な舌状Barrett粘膜をもとに原発部位を推定したところ,SSBEから発生した未分化癌と推察された.5か月前の内視鏡検査では腫瘍を疑う所見はなく,急速に発生,増大したと推察された.

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要旨●背景粘膜に逆流性食道炎を伴うSSBE内に発生した0-I+IIb病変である.内視鏡的には積極的に癌を疑う所見が捉えられず,炎症性ポリープと診断したが,生検にて腫瘍の可能性を指摘され,全生検を目的にESDを施行した.病理学的に,0-I部分は炎症性ポリープとBarrett食道癌が混在する像で表層はびらんや肉芽組織で覆われており,口側のIIb部分は扁平上皮下を腺癌が進展する像をとっており,腫瘍の露出を認めず,癌としての診断には生検診断のみが有用であった.

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要旨●患者は50歳代,男性.上腹部痛のため近医で施行されたEGDでSCJ(squamocolumnar junction)に隆起性病変を認め,精査加療目的で当院に紹介され受診となった.食道X線造影検査では,長径約40mmの不整な丈の高い,結節状の隆起性病変で,側面像では陰影欠損を認めた.EGDでは,一部表面に白苔を伴う発赤調を呈し,太いくびれを有していた.周囲にはSSBE(short segment Barrett's esophagus)を伴い,前医生検で腺癌と診断されており,粘膜下層深部以深へ浸潤したBarrett食道腺癌と術前診断した.胸腔鏡下食道亜全摘・胃管再建・リンパ節郭清術を施行した.病理組織学的には,高分化管状腺癌成分と充実性の低分化腺癌成分から成るBarrett食道腺癌で,壁深達度はpT2(MP)であった.免疫組織化学染色検査で,病変肛門側で内分泌細胞への分化を認めた.内分泌細胞への分化を示したBarrett食道腺癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告した.

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要旨●患者は60歳代,男性.LSBE(C12M13)の右壁に1cm大の発赤調0-IIc型病変を認めた.他には発赤隆起・陥凹はなく,領域性のある発赤粘膜も認めなかったが,LSBE全体が粗糙で,ひび割れ様所見を認めた.0-IIc型部のNBI拡大観察では,軽度不整なvilli様構造を認め,高分化型腺癌と診断した.背景粘膜は平滑で,NBI拡大観察にて比較的整な表面構造を認めたことより,Barrett's esophageal adenocarcinoma(EAC),0-IIc,tub1,T1a-M,10mmと診断した.拡大内視鏡検査では,非腫瘍と診断した部位から採取した生検にてlow grade tub1が検出されたことから,内視鏡を再検し,さらに外側の非腫瘍と思われた5か所から生検を採取したところ,いずれもlow gradeのtub1であった.広範な病変であること,LSBEは異時多発癌の危険も高く,全Barrett粘膜の除去が望まれることから,胸腔鏡下胸部食道全摘術を行った.最終診断は4個の同時多発癌で,いずれもtub1,T1a-DMM,ly0,v0であり,N0,Stage 0であった.自験11例のLSBEに発生したEACでは本例のみが範囲診断が困難であった.その頻度は低いがLSBEには内視鏡診断が極めて困難なlow grade EACが存在することを念頭に置き,生検を併用した慎重な範囲診断が望まれる.

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患 者

 40歳代,男性.

現病歴

 特に自覚症状はなかったが,会社健診の胃X線造影検査で陰影欠損を指摘され,精査目的で当科を受診した.

家族歴

 父:胃癌.

X線造影検査所見

 胃体上部大彎に約20mm大で立ち上がりのなだらかなbridging foldを伴う隆起性病変を認めた.表面はほぼ平滑だが,頂部には不規則なバリウム斑がわずかにみられた(Fig.1).

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要旨●患者は60歳代,女性.心窩部痛のため近医を受診し,上部消化管内視鏡検査(EGD)にて十二指腸潰瘍と診断された.薬物治療を受けたが改善しないため,当院へ紹介された.EGDでは十二指腸球部に潰瘍形成を伴う粘膜下腫瘍様病変を認め,生検でT細胞性リンパ腫と診断された.病期診断の目的で画像検査を施行したところ,偶然空腸に別の腫瘤が発見された.小腸内視鏡検査にて空腸に全周性の潰瘍性病変を認め,生検でDLBCLと診断された.2つの病変の関係が問題となったが,十二指腸病変は治療前に自然消失し,その後の検討でまれな消化管T細胞性リンパ増殖性疾患(T-LPD)と考えられた.空腸病変は小腸部分切除を行い,DLBCLへの形質転化を伴う濾胞性リンパ腫(FL)であった.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

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 このたび,医学書院から『H. pylori除菌後発見胃癌の内視鏡診断』が上梓されました.評者は内視鏡医ではありませんが,書評を強く依頼されました.数回ほど読み返しましたので,読後の感想を正直に述べたいと思います.

 まず,90ページほどの,やや薄手のテキストゆえ,一気に読み終えることができました.病理医の評者にも記述内容を理解することができました.大変平易な言葉遣いで著述されています.掲載症例は全て八木一芳先生の自験例のため,文章にも説得力があります.そして,病理組織像は味岡洋一先生が的確に,かつ美しく撮影されており,術語も吟味して用いているので臨床家にも理解しやすくなっています.出身校も学年も同じというお二方のコラボレーションの賜物だと感じました.掲載写真はいずれも美しく,目にも優しいレイアウトに仕上がっています.評者の個人的感想はこれくらいにして,本書の内容について少し言及してみましょう.

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次号予告

編集後記 新井 冨生
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 本号は「表在型Barrett食道癌の診断」という特集号として企画された.本誌46巻12号に「Barrett食道癌の診断」という特集が組まれて以来のBarrett食道の特集であり,本号では内視鏡的治療の対象となりうる表在型に焦点を当て,内視鏡・放射線画像による診断,病理学的特徴について最新の情報を提供している.

 欧米では食道癌の約60%が腺癌という時代になったが,本邦でもBarrett食道腺癌は漸増傾向にあり,現在食道癌の5〜6%を占める.西論文では,肥満の程度が低く,逆流性食道炎が少ない本邦ではBarrett食道癌の急上昇はみられないと予測しているが,今後の動向を注視して見守るべきと警鐘を鳴らしている.

基本情報

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胃と腸
51巻10号 (2016年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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