胃と腸 49巻9号 (2014年8月)

今月の主題 小腸潰瘍の鑑別診断

序説

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はじめに

 以前は暗黒大陸と呼ばれていた小腸も,カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の発展・普及に伴い多くの所見が集積され,新たな疾患の存在も明らかとなった.なかでも潰瘍・びらん・アフタは比較的高い頻度で遭遇する所見であり,典型像が得られた際にはその診断は比較的容易である.しかし,実際の臨床の場では非典型的,非特異的などの理由で,所見はあるものの診断には結びつかないことも多い.そこで本特集は,小腸潰瘍の本態に迫ることを目的として企画し,疾患を整理しやすくするため,時間軸を意識した構成を考えた.

 過去 : 今まで明らかとなった小腸潰瘍性病変の知見をまとめ,整理する.

 現在 : 分類困難な小腸潰瘍・びらんの現状を明らかにする.

 未来 : 今後の新たな展開を考える.

 なお,診断に際して最も難渋するのは非腫瘍性の潰瘍性疾患の鑑別であるため,今回総論(主題)で取り上げる腫瘍性疾患はびまん性の形態を呈するものだけとした

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要旨 小腸潰瘍の病理診断について代表的な非腫瘍性疾患〔Crohn病,腸結核症,腸管Behçet病・単純性潰瘍,非特異性多発性小腸潰瘍症,NSAIDs起因性小腸病変,虚血性小腸炎─特に狭窄型虚血性小腸炎,結節性動脈周囲炎,関節リウマチ,IgA血管炎(Schönlein-Henoch紫斑病),エルシニア腸炎,腸チフス,サイトメガロウイルス感染症〕の肉眼像と組織所見を中心に概説し,鑑別の要点を述べた.小腸潰瘍の肉眼像と組織所見は疾患ごとに特徴を有している.したがって,鑑別診断を行う際には,これらの特徴を十分に把握することが重要である.特に,非腫瘍性疾患では病期による変遷や,治療による修飾を考慮する必要があるため,臨床情報を加味したうえで総合的に判断することが肝要である.

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要旨 小腸潰瘍の鑑別診断についてX線診断を中心に言及した.内視鏡の通過,挿入が困難な管腔狭小化例では,X線造影検査が全体像の把握に有用である.狭窄部の形態を片側性(偏側性)と両側性に大別しさらに後者を輪状狭窄と管状狭窄に分類すること,加えて,周囲粘膜の所見を加味することが鑑別診断に有用と考えた.一方,小潰瘍のみから成る症例においてはX線造影ではその描出に限界があり,存在診断と質的診断の両面でカプセル小腸内視鏡(capsule endoscopy ; CE)とダブルバルーン小腸内視鏡(double balloon endoscopy ; DBE)が有用である.このように,小腸潰瘍の診断には想定される病変の性状と検査特性を考慮することが重要で,CE・DBEにX線造影検査を相補的に選択あるいは組み合わせて施行することにより鑑別診断能が向上する可能性がある.

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要旨 バルーン内視鏡の登場で,小腸潰瘍の詳細観察や組織生検も可能になった.小腸潰瘍には打ち抜き潰瘍や縦走潰瘍,輪状潰瘍,地図状潰瘍など,さまざまな形態があり,病変分布も多様である.潰瘍の発生部位について,腸間膜付着側との関係が重要な情報となる場合がある.しかし,特徴的な内視鏡検査所見を伴う一部の疾患を除いて,小腸潰瘍の原因を内視鏡検査所見のみから診断することは困難である.背景疾患や服薬歴を含む病歴,血液検査,各種画像検査,病理組織学的検査,細菌学的検査,ステロイド薬治療や栄養療法に対する治療反応性も含め,総合的に判断する必要がある.本稿では,小腸潰瘍の内視鏡的診断について,多数の画像を示しながら解説する.

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要旨 小腸びまん性疾患における潰瘍性病変の特徴とその鑑別診断について概説した.びまん型小腸リンパ腫のうち,腸症関連T細胞リンパ腫ではKerckring皺襞の肥厚と大型の潰瘍性腫瘤,成人T細胞性白血病/リンパ腫では白色調の顆粒状粘膜と小潰瘍が特徴的である.全身性エリテマトーデスや好酸球性胃腸炎では粘膜浮腫が主体で潰瘍形成はまれだが,びらんや小潰瘍を来すことがある.Schönlein-Henoch紫斑病では十二指腸と回腸に大小の不整形潰瘍が好発する.Churg-Straus症候群では小腸全域にわたって大小の深い潰瘍を認める.移植片対宿主病は終末潰瘍に広く浅い地図状潰瘍がみられる.各疾患における潰瘍の好発部位と形態的特徴を理解して,適切なX線造影・内視鏡検査を行うことが重要である.

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要旨 本邦において,原因不明消化管出血に対してカプセル内視鏡を施行した場合,およそ30%の対象に潰瘍性病変が指摘される.NSAIDsを服用している場合においてはNSAIDs起因性と診断されることが多いが,正確な診断は簡単ではない.さらに,健常者においても10%程度は無症候性の小腸潰瘍性病変を有しており,原因疾患の診断は困難を極めている.近年,腸内細菌叢が小腸潰瘍性病変に深く関与している可能性が指摘されており,今後の解明が望まれている.

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要旨 炎症性腸疾患(IBD)の臨床においては,粘膜における“deep remission”が重視されつつある.今回,筆者らはIBD症例について回腸末端の拡大内視鏡観察を行い,その意義について検討した.Crohn病では,Peyer板および周囲の絨毛が高頻度に萎縮し変形を来していた.また,Peyer板内にびらんなどの病変を認めた場合には,同部からの生検において高頻度に非乾酪性肉芽腫が証明され,確定診断のための狙撃生検に適していることが示唆された.潰瘍性大腸炎では回腸末端に炎症を認めることはあるものの,Peyer板のドーム領域や周囲絨毛の萎縮がないか,もしくは軽度であることからCrohn病とは区別された.

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要旨 患者は26歳,男性.1歳時より難治性鉄欠乏性貧血,低蛋白血症を認め,18歳時に小腸型Crohn病と診断されていた.高度な貧血を認め,当センター入院となった.小腸X線造影検査では,中部小腸に非対称性の変形・狭窄が多発し,地図状のバリウム斑を認めた.小腸内視鏡検査では,ひだ集中を伴う境界明瞭な浅い類円形潰瘍,非同心円状の全周性潰瘍,斜走する潰瘍を認めた.小腸切除標本では,境界明瞭で平坦な輪走・斜走する地図状・テープ状の潰瘍が多発し,大部分がUl-IIまでの非特異的潰瘍または瘢痕であった.以上より,自験例は特徴的な臨床経過,X線造影・内視鏡所見,切除標本の肉眼・組織学的所見から非特異性多発性小腸潰瘍症と診断した.

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要旨 患者は60歳代,男性.下痢が増悪したため近医に入院となった.胸腹部造影CT検査で小腸全体に壁肥厚を認めたため,小腸精査目的で当院へ紹介され,受診となった.カプセル内視鏡検査で小腸全体に粗糙粘膜,潰瘍,びらんなど多彩な変化を認め,ダブルバルーン内視鏡下の精査でenteropathy-associated T-cell lymphomaと診断した.化学療法後に行った内視鏡検査では顆粒状粘膜はみられたが,潰瘍は消失していた.病理組織像では腫瘍細胞は残存していた.その後治療を行ったが,効果はなく,初回診断後から1年1か月後に死亡した.enteropathy-associated T-cell lymphomaは腸管原発のT細胞性リンパ腫であり,内視鏡所見の報告は少なく,予後不良である.自験例では内視鏡検査での診断,経過観察が可能であり,治療効果判定に有効であった.

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要旨 患者は30歳代,男性.主訴,腹痛.25歳時に,腹痛を認めたが原因不明であった.渡航先で腹痛を自覚し,現地の病院を受診した.抗菌薬の投与を受けたが症状は改善せず,紹介され受診し,入院となる.血液検査で好酸球増多,IgE高値,CTで小腸の全周性肥厚,浮腫,腹水を認めた.経口から行ったシングルバルーン小腸内視鏡検査では,十二指腸,空腸に,浮腫,発赤,びらんが認められ,病理組織学的所見は,好酸球の著明な浸潤が認められた.プレドニゾロン投与を開始し,症状は改善,治療効果判定のため行ったカプセル内視鏡検査では,上部空腸に軽度の発赤,浮腫を認めた.その後,プレドニゾロンを漸減中止としたが,症状の再発は認められなかった.

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要旨 患者は40歳代,男性.主訴は腹痛・腹部膨満感.20年以上の経過が推測される小腸大腸型Crohn病患者で,4年前に小腸癌2か所と痔瘻癌に対し手術が施行されていた.再燃時の寛解導入療法効果判定目的での経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査で,回腸に潰瘍と多発小結節隆起を伴う狭窄を認めた.生検にて粘液癌との診断を得たため,小腸部分切除・回盲部切除術が施行された.切除標本の病理組織学的所見では前回吻合部の肛門側に回腸~回腸瘻が形成され,その裂溝潰瘍部に粘液産生豊富な中分化~低分化型腺癌がびまん性に浸潤し,周囲粘膜面にはdysplasiaを伴っていた.本邦のCrohn病小腸癌合併例の文献的検討やサーベイランスに関する考察などとともに報告する.

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要旨 患者は70歳代,女性.高血圧,糖尿病の診断で近医に通院中であった.下痢,腹痛の出現の後,意識障害も認めたため当院へ緊急入院となった.感染性腸炎を契機とした高血糖,糖尿病性昏睡と診断し,インスリン療法,抗菌薬にて加療を行った.しかし,腹痛,下痢は持続したため精査を行ったところ,下部消化管内視鏡検査にて,盲腸とS状結腸に巨大な潰瘍を認めた.サイトメガロウイルス(CMV)antigenemia陽性で,大腸潰瘍からの生検でもCMVの存在が確認され,CMV腸炎と診断した.他臓器検索目的で,小腸X線造影検査を行ったところ,小腸にも多発潰瘍を認め,その後に行ったカプセル内視鏡検査,ダブルバルーン内視鏡検査では全周性,帯状,輪状と多彩な形態を呈した潰瘍がほぼ全小腸に多発していた.ガンシクロビル投与にて,穿孔などの重篤な合併症なく,症状は改善した.CMV腸炎の小腸病変を詳細に画像評価しえた報告はまれであり,貴重な症例と考え報告した.

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要旨 患者は75歳,女性.主訴は数か月間持続する水様下痢と全身の浮腫で精査目的で当科に入院となった.入院時の小腸内視鏡検査では,小腸の広範囲に絨毛の消失と多発潰瘍を認めた.組織学的にcollagen bandを認め,collagenous sprueと診断した.完全静脈栄養(TPN)で症状は改善したが,内視鏡的には絨毛の再生は認めなかった.プレドニゾロン(PSL)の投与と経口摂取を開始したところ,敗血症や偽膜性腸炎を合併したため,PSLを漸減し,再度TPNとした.偽膜性腸炎改善後の小腸内視鏡検査では,絨毛の再生を認め,collagen bandも消失した.その後,経口摂取を再開し,症状の再燃はない.

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要旨 患者は60歳代,女性.主訴は胸焼け.近医の上部消化管内視鏡検査で食道に異常を認め,生検で中~低分化型腺癌と診断され当院へ紹介された.切歯より24cmからLSBEを認め,26~29cmに表面に浅い発赤陥凹を伴う顆粒状隆起を認めた.X線造影検査では,長さ約12cmのLSBE内に長径50mmの0-IIa+IIc型病変を認めた.明らかな側面硬化像や陰影欠損は指摘できなかった.以上よりBarrett食道腺癌0-IIa+IIc型,術前壁深達度T1a-MM(DMM)と診断し,ESDで一括切除した.切除病理組織学的所見では高~低分化型腺癌,pT1a-DMM(M3),ly1,v0,INFa,HM0,VM0であった.リンパ管侵襲を来しており,追加化学療法を行い経過観察中である.

消化管組織病理入門講座・12

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はじめに

 胃の内分泌細胞腫瘍は比較的まれな疾患であるが,発生起源や生物学的態度が多彩であることから,臨床的もしくは病理学的な取り扱いにおいてその腫瘍に対する十分な理解が必要な疾患である.元来,内分泌細胞腫瘍は,低異型度細胞による特徴的な組織構築を示し,緩徐な発育を示すカルチノイドと,高異型度の腫瘍性内分泌細胞から構成され,急速な発育を示し予後不良な内分泌細胞癌という,発生起源や生物学的態度が全く異なる2種類に大きく分類されていた.近年,WHO分類において,Ki-67*1indexと細胞分裂数を重視したNET(neuroendocrine tumor)G1,G2,NEC(neuroendocrine carcinoma)という分類1)が示されているが,発生起源や生物学的態度の異なる腫瘍が混在した分類であり,運用には注意が必要である.

 今回は,WHO分類においては通常NET G1,G2に相当する胃カルチノイドの病理学的所見について概説する.

早期胃癌研究会

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 2014年4月の早期胃癌研究会は2014年4月16日(水)に日本教育会館3階 一ツ橋ホールで開催された.司会は,中村真一(東京女子医科大学消化器内視鏡科),大川清孝(大阪市立十三市民病院消化器内科),病理を和田了(順天堂大学医学部附属静岡病院病理診断科)が担当した.

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はじめに

 食道陥凹性病変の診断と鑑別は非常に幅広い内容である.そのため,本稿では潰瘍を含めた陥凹を呈する病変のなかで,食道良性疾患の診断と鑑別および食道表在癌陥凹部の深達度診断に焦点を絞って述べる.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

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投稿規定

編集後記 江頭 由太郎
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 かつて,小腸は,消化管最後の未開発地であり,奥地に侵入する交通手段は小腸X線造影検査にほぼ限られていた.近年,新たな交通手段としてバルーン内視鏡,カプセル内視鏡が導入され,普及し,小腸疾患臨床の新たな知見が集積されつつある.このような状況の中で,小腸画像診断において,びらん・潰瘍は比較的高頻度に遭遇する所見である.本号の藤森論文で述べられているように,小腸に指摘される病変の30~40%がびらん・潰瘍性病変であり,さらに,健常者においても約10%に無症候性のびらん・潰瘍性病変がみられる.ところが,このまれならず遭遇する病変であるびらん・潰瘍の原因疾患が同定される頻度は決して高くはない.むしろ,臨床的および病理的に“非特異的”とされ,診断が確定せず,何かモヤモヤした釈然としない状態で結末に至ることはよく経験される.

 本号は,松本主之先生(岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野)と野村昌史先生(手稲渓仁会病院消化器病センター)とともに企画した.企画の目的は,びらん・潰瘍を呈する小腸疾患の主に診断に関する知見を整理し,その進歩と問題点を明らかにし,小腸疾患の診断精度向上に寄与することである.

次号予告

基本情報

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胃と腸
49巻9号 (2014年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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