胃と腸 49巻8号 (2014年7月)

今月の主題 表面型表層拡大型食道癌の診断と治療戦略

序説

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 1992年の「食道癌取扱い規約第8版」1)にて,目立った隆起や陥凹がなく,長軸方向に5cm以上の拡がりを示す表在型癌が,“表層拡大型食道癌”と定義された.目立つ隆起(0-I型)や陥凹(0-III型)がないということは,0-II型が主体の病巣であり,表層拡大型食道癌は表面型の病巣を示していたことになる.今回は,表層拡大型食道癌が表面型の病巣であることを強調するため,敢えて,表面型表層拡大型食道癌とした.本誌でも,1995年の30巻8号で表層拡大型食道表在癌が取り上げられ,表層拡大型食道癌の発育進展や病理学的な特徴が検討された.幕内ら2)は,表層拡大型食道癌の発育・進展に関して,(1) 食道に広範囲に多発する食道癌症例があること,(2) 表層拡大型食道癌の辺縁には上皮内癌の多発病巣が併存すること,(3) 表層拡大型食道癌で網目状に正常上皮の粘膜島を有しているものがあることなどから,ある一定の範囲で多発性に癌化が始まり,次第に増大,癒合して発生する,多中心性広範囲発生説を唱えた.この考えは,現在も支持されており,竹内ら3)の病巣の大きさから,表層拡大型食道癌(5cm以上)と非表層拡大型食道癌(10~30mm)に分けて検討した発育進展に関する報告でも,ほぼ同様の結果が得られている.

 病態として問題となるリンパ節転移や予後に関する問題について,吉田4)は,通常の粘膜下層癌と粘膜下層癌の成分を有する表層拡大型病変は変わらず,粘膜下層に浸潤した成分の組織型や浸潤量,浸潤様式が重要であると述べており,幕内ら2)が行った,粘膜癌と粘膜下層癌に分けた検討でも,脈管侵襲,リンパ節転移,予後に関して,差はなかったとしている.しかし,松本ら5)の,第31回食道色素研究会のアンケート集計報告では,浸潤部は多中心的に存在し,導管内進展が多く,脈管浸潤の割合も高いとされている.また,竹内ら3)の報告でも,脈管浸潤陽性,先進部組織型低分化型,浸潤様式INFcは,表層拡大型癌で多い傾向を示していたとしており,少なくとも表層拡大型病変の治療例では,組織学的な検索を十分行うことの必要性が示唆される結果であった.

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要旨 表面型表層拡大型食道癌は,“目立った隆起や陥凹がなく,長軸方向に5cm以上の拡がりを示す0-II型の表在癌”と定義される.この定義にかなった単純型の表面型表層拡大型食道癌21例を深達度別にpT1a-EP~LPMのA群8例とpT1a-MM~pT1b-SM3のB群13例に分けて,また比較検討群として一部に0-I型や0-III型の成分を伴う混合型のC群5例を臨床病理学的に検討した.混合型のC群では5例全てに0-I型や0-III型の局面で深達度MM~SM浸潤を伴い,脈管侵襲やリンパ節転移が高率で,他群とは明らかに区別すべき群であると考えられた.EP~LPMにとどまるA群とMM~SM浸潤のあるB群との鑑別ポイントが重要となるが,各群の0-II型局面では病理学的な特徴において相同性が高く,この部分での差異は捉えづらい.さまざまなバリエーションが存在するが,網目状形態(腫瘍内ヨード染色域)がA群4例(50%): B群13例(100%)とB群に有意に存在した(p=0.0011).背景のまだら食道はA群6例(75.0%): B群6例(46.2%)でA群における割合が高い傾向にあった.B群における浸潤部の特徴は,平均2.6か所以上の多中心性浸潤部で,その局在は中心部からややずれて散在し,最大浸潤幅は0.2~11.0mmと比較的狭いなどの傾向がみられ,multifocalな病態形成が窺われた.表層分化を保ったままでの粘膜下への浸潤様式が目立ち,一部では導管内進展成分の介在もみられることから,表面構造の観察にて深達度を診断する内視鏡診断には限界があると考える.

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要旨 表面型表層拡大型食道癌25例を対象に,X線造影検査による深達度診断について検討を行った.これまでに報告した側面変形による深達度診断に当てはめると,A群13例はB1~B2型変形であり,ピンポイントに浸潤する部位を正確に診断できなかった.B群は12例存在し,T1b-SM2以深の7例中3例は側面変形から診断可能であったが,それ以外はB2型までの変形であり,A群と同様にピンポイントで浸潤する症例は診断困難であった.0-I型を伴う混合型病変7例は従来どおりの側面変形による診断で十分に対応可能であった.

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要旨 表面型表層拡大型食道癌63病変に対し,通常・色素内視鏡および日本食道学会拡大内視鏡分類を用いたNBI併用拡大内視鏡観察による深達度正診率を検討した.正診率は通常・色素内視鏡観察では66.7%(42/63),NBI併用拡大内視鏡観察では76.2%(48/63)であり,約10%の上乗せ効果を認めた.特に,T1a-MM/T1b-SM1癌の正診率は12%から60%に飛躍的に向上した.しかし,NBI併用拡大観察による誤診例の多くは表層をT1a-EP/LPM癌が被覆する病変であり,関心領域同定後に通常・色素内視鏡観察で病変の厚みや硬さを再度確認し,総合的に深達度診断を行う必要があると考えた.

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要旨 当院における表面型表層拡大型食道癌の深達度診断精度は75.6%であった.内視鏡によりT1a-EP/LPM癌と診断した場合の深達度診断精度を大きさ別に検討したところ,25mm未満が94.0%,25mm以上,50mm未満が86.8%,50mm以上が71.9%と,病変が大きくなるほど低下した(p<0.001).誤診例の多くは,実際の深達度より内視鏡で浅く診断した,いわゆる浅読み症例であった.誤診例9病変のうち4病変は表層とは非連続的な成分で深部浸潤しており,その診断は困難と考えられた.他の5病変は1mm程度の小さな範囲で浸潤しているものであった.今後診断精度を向上させるには,1mmレベルの微小浸潤を同定し,診断しなければならない.

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要旨 当科で前治療なく手術または内視鏡治療を行った表在性食道扁平上皮癌432例〔男性363例,女性69例,平均年齢67.8(32~91)歳〕594病変中,通常内視鏡検査にEUS検査,拡大内視鏡検査,食道X線造影検査のいずれかを加えて精査を行った342病変の検討では,T1a-EP/LPM癌は拡大内視鏡(91.7%),T1a-MM,T1b-SM1癌はEUS検査(67.9%),T1b-SM2~3癌は食道造影(80.0%)の正診率が高かった.このうち表層拡大型食道癌は49例で,EUSを行った22例の正診率は72.7%であった.通常内視鏡観察,拡大内視鏡観察で最深部を絞り込み,EUSを加えることで,正確な診断が可能となる.

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要旨 2000年1月~2010年12月までの間に,対象施設で内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が施行された腫瘍長径が50mm以上の表在型食道扁平上皮癌138例を対象とした.内訳は男性118名,女性20名と男性に多く,年齢中央値は69(42~88)歳であった.腫瘍長径が50~95mmと,大きな病変であるにもかかわらず,138例中137例で一括切除が施行され,分割切除はわずかに1例のみであった.また,一括完全切除率は88%(122/138)と,全食道ESDを対象とした既報と比し遜色のない結果であった.ESDの適応病変である深達度T1a-EP/LPMは,それぞれ30例,51例であり,全体の59%にとどまっていた.一方,相対適応であるT1a-MMが34例,T1b-SM1が5例と28%を占め,残りの18例(13%)はT1b-SM2であり,適応外病変であった.138例中,局所再発は1例のみで,51か月後に2型進行癌として再発を来した.138名中16名に追加治療が施行され,その治療法はRT 1例,CRT 15例で,外科切除例はなかった.追加治療が施行された16名は,観察期間中央値58(13~110)か月で,全例が無再発生存中であり,ESD+RT or CRTの予後は,深達度にかかわらず極めて良好であった.一方,経過観察された122名中1名は予後調査ができず,4例が原病死,18例が他病死された.追加治療なしで経過観察され,予後が判明している121名のcause specific,all overの5年生存率はT1a-MM : 90/71%,T1b-SM1 : 67/67%,T1b-SM2 : 90/67%であった.ESDは表層拡大型癌食道扁平上皮癌に対する,有効で,安全な治療法であった.一方,深達度T1a-MM以深の比率が約40%と高く,術前の深達度診断が残された課題である.

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要旨 表層拡大型食道癌66例に対する外科切除例 : 43例と内視鏡的切除(endoscopic resection : ER)例 : 23例について臨床病理学検討を行った.内視鏡検査,食道X線造影所見による壁深達度診断の正診率は37.0%であり,表在型での71.0%と比較し極めて低率であった.リンパ節転移に関しては,T1a-MM/T1b-SM1の18例中5例(27.7%)に認め,表在型より多い傾向が認められ,危険因子は脈管侵襲陽性例であった.表層拡大型癌の治療方針に関しては,術前診断精度が低いため,T1a-EP/LPMと診断される症例では,まずERの適応とし詳細な病理組織診断を行う.5cmよりはるかに長い全周性病変でSM浸潤の可能性が高い病巣では手術も考慮する.リンパ節転移が疑われる症例は外科的根治術の適応と考える.

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要旨 表面型表層拡大型食道癌に対する治療は,内視鏡治療,外科手術,化学放射線療法(CRT)があり,その治療選択に迷うことも多い.JCOG9708試験では,cStage I食道癌に対する根治的CRTが外科手術と同等の有効性を持ち,それに伴う有害事象が軽微であることが報告され,内視鏡治療困難例で外科手術拒否例や不耐例に対してはCRTが行われている.また,内視鏡治療技術の進歩により,絶対適応病変のみならずT1a-MM以深の病変にも内視鏡治療を施行することが増えてきている.追加治療としてのCRTについてもその有効性が報告され,現在多施設前向き臨床試験で評価中である.一方,CRT後再発は局所再発例が多く,その早期診断が重要である.早期診断により内視鏡的サルベージ治療が可能となり,その有効性も報告されている.

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要旨 患者は57歳,男性.早期胃癌EMR後の経過観察目的に上部消化管内視鏡検査を施行し,食道病変を指摘した.胸部中部食道の表層拡大型食道表在癌で,術前診断は深達度T1b-SM2だったが,患者希望により診断的治療を目的にESDを施行した.ESD標本の病理組織診断はsquamous cell carcinoma,pT1b-SM2(500μm),ly0,v0,INFa,HM0,VM0,Type 0-IIc,52×31mmであった.ESD後狭窄を生じ,バルーン拡張術を2回施行した後,追加治療としてESD後3か月に放射線化学療法を施行した.ESD後9か月の上部内視鏡検査で,粘膜下腫瘍様の立ち上がりを呈する局所再発を認めた.再発病変の壁深達度はSM深部浸潤と評価し,サルベージ手術を施行した.最終診断はsquamous cell carcinoma(por),pT1b-SM3,INFb,ly0,v1,N0であった.ESD後7年経過するが,これ以降は再発なく生存中である.

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要旨 患者は80歳代,女性.近医にて貧血の精査目的で受診した上部消化管内視鏡検査で,胃体中部小彎に10mm大の立ち上がり明瞭で扁平な隆起性病変を認めた.インジゴカルミン色素撒布観察では,表面に不整な陥凹や潰瘍形成を認めなかった.NBI併用拡大内視鏡観察では,拡張した血管の末梢で細かいnetworkを形成した異常血管を認めた.また,胃体部優位の胃粘膜萎縮を認め,抗胃壁細胞抗体と抗内因子抗体が陽性であった.以上から,I型カルチノイドと診断した.超音波内視鏡検査で,腫瘤は第2層に限局しており,ESDを施行した.クロモグラニンA陽性の腫瘍細胞は,粘膜内に限局して横方向に伸展し,脈管侵襲を認めず,断端陰性であった.非典型的な形態のI型カルチノイドに対して,詳細な内視鏡観察の後にESDを施行した症例を経験したので報告する.

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はじめに

 前編ではリンパ腫の組織像を理解するために必要なリンパ組織の正常構造を概説した.後編では消化管に発生する代表的なリンパ腫の組織像について解説する.必要に応じて前編の正常組織像と比べながら読み進めていただきたい.なお,現在,国際分類として汎用されている「WHO分類第4版」1)における病型リストの詳細は,2008年9月に公刊された成書を参照されたい.

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編集後記 大倉 康男
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 「表面型表層拡大型食道癌の診断と治療戦略」と表題を掲げ,特集を企画した.本誌では1995年に「表層拡大型食道表在癌」(30巻8号)が特集されており,20年ぶりの企画である.本号はこの間に表層拡大型食道表在癌の診断と治療がどれだけ進歩したのかを知ることができる興味深い特集である.

 本誌30巻8号を再読してみると,これまでの20年間で表層拡大型食道癌の診断法が内視鏡で大きく進歩していること,治療法の選択肢が増えていることがわかる.その一方で,症例数の少なさにもかかわらず導き出された結果が本号の論文にも引用されており,先人の慧眼に敬服させられる.

次号予告

基本情報

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胃と腸
49巻8号 (2014年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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