胃と腸 49巻10号 (2014年9月)

今月の主題 colitic cancerの初期病変─遡及例の検討を含めて

序説

  • 文献概要を表示

はじめに

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)患者数および長期経過例の増加に伴い,本邦でもUCを母地とする腫瘍性異型上皮(dysplasia)や大腸癌(colitic cancer)の頻度が増してきている.これらの早期診断は大きな課題であり,大腸内視鏡検査が果たす役割もさらに重要となってきている.潰瘍性大腸炎におけるdysplasiaの考え方は日本消化器病学会が編集した『大腸ポリープ診療ガイドライン』1)のCQ8-17に記載されており,“dysplasiaは潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌の前癌病変と考えられている”とされている.本特集を熟読いただく前に,これまでの研究で明らかとなっているUCに合併するcolitic cancer/dysplasiaの基本的事項について以下に列記する.

  • 文献概要を表示

要旨 外科的に切除された潰瘍性大腸炎(UC)関連colitic cancer 10症例13病変の主病変部および周囲粘膜の病理組織学的所見に基づき,colitic cancerが組織レベルでどのように生じてくるのかについて検討した.7症例(10病変)では,細胞質の好酸性が一様に目立つ低異型度腺管やdystrophic goblet cellを含む杯細胞に富む低異型度不規則腺管の領域を伴っており,一部は鋸歯状変化も伴っていた.主病変の浸潤癌部の腫瘍上皮がこれらの低異型度上皮に類似した異型度を呈している例がみられたことや,これらの腺底部から微小浸潤癌が生じている所見を認めたことから,このような低異型度腺管領域はcolitic cancerの発生母地として重要と考えられた.これらは上皮の増殖・分化異常を示し,一部はp53が強陽性を呈しており,しばしばhuman gastric mucin(45M1)が陽性であった.他の3症例では平坦な萎縮粘膜内に進展した高異型度腺管領域から浸潤癌が生じていた.そのうちの1例では粘液豊富な絨毛状の低異型度上皮も認められたがp53強陽性であり,これも注意すべき所見と考えられた.colitic cancerの早期診断のためには,colitic cancerの発生に関連するとみなされる,これらの低異型度上皮・腺管領域を認識する努力が重要と思われる.一方,散発性腺腫と同様の組織像を呈する小ポリープ病変を伴うUC非手術例9例(平均経過期間5.8年)では,手術例のようなcolitic cancerおよび関連した所見が生じた例は認められなかった.

  • 文献概要を表示

要旨 寛解期潰瘍性大腸炎における潰瘍性大腸炎関連腫瘍(UCAN)と散発性腫瘍(SCA)の注腸X線造影所見を比較した.UCAN 15病変は9病変が表面型,6病変が隆起型であった.一方,SCA 6病変は表面型が4病変,隆起型が2病変であった.表面型を呈したUCANとSCAのそれぞれ2病変でバリウム斑を有していた.表面型UCANでは9病変のうち7病変で病変境界が不明瞭であったのに対し,表面型SCAでは4病変とも明瞭な病変境界を有していた(p=0.02).一方,隆起型腫瘍ではUCANはSCAに比べて隆起の大小不同が顕著であった.以上より,早期病変におけるUCANとSCAの鑑別には,X線造影像における病変境界所見と隆起の大小不同に着目することが有用と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 近年の診断技術の進歩により,潰瘍性大腸炎(UC)に発生するdysplasiaの多くは通常光による内視鏡観察で視認可能になってきた.dysplasiaやcolitic cancerを初期の段階で内視鏡的に診断するためには,腫瘍が呈する内視鏡所見の特徴をよく知ることが重要である.UC関連腫瘍の80%以上は,典型的な内視鏡所見である乳頭状隆起,ポリープ状隆起,粗大顆粒状隆起,不整扁平隆起,平坦隆起,ビロード状粘膜,平坦発赤粘膜,平坦褪色粘膜の狙撃生検(targeted biopsy)から検出される.LGD(low grade dysplasia)の自然史は十分に解明されておらず,その取り扱いは確立されていない.個々のLGD患者に対して,病変の形態などを考慮して,手術または慎重な経過観察の方針を決める必要がある.

  • 文献概要を表示

要旨 潰瘍性大腸炎の長期経過例では,dysplasiaやcolitic cancerが発生する危険性が高まる.当院で通常内視鏡検査で評価しえたdysplasia 32病変とcolitic cancer 12病変の検討では,dysplasiaはcolitic cancerよりも短い罹病期間で発見されており,dysplasiaでは平坦粘膜や扁平などの表面隆起が多かったのに対し,colitic cancerでは結節状や広基性隆起など,dysplasiaよりも丈の高い病変が多くみられた.また,平坦な病変は限局した発赤や粘膜面の凹凸不整で発見されていた.遡及的検討では,LGD 15病変中5病変で経過観察中に形態の変化を認め,このうち4病変で組織学的にもHGDやcolitic cancerへの進展が認められた.形態変化したLGDの5病変は初回内視鏡検査で,領域のある発赤した平坦粘膜や扁平隆起,粘膜の凹凸不整,わずかな陥凹として捉えられていた.以上から,これらの所見はUC関連腫瘍の初期病変の可能性があることが推察された.

  • 文献概要を表示

要旨 拡大内視鏡を用いた潰瘍性大腸炎患者におけるサーベイランス内視鏡についてpracticalなポイントを中心に述べた.サーベイランス内視鏡のステップのうち,detectionとcharacterizationが大切で,色素やNBIによる拡大内視鏡観察が鑑別診断の精度向上に有用である.colitic cancerの初期病変を炎症関連粘膜内癌とhighおよびlow grade dysplasiaと定義した場合,非腫瘍や炎症非関連腫瘍とcolitic cancer/dysplasia初期病変との鑑別,dysplasiaと癌との鑑別,colitic cancer/dysplasiaの範囲診断や深達度診断に拡大内視鏡観察は寄与する.dysplasiaの初期病変はcolitic cancer/dysplasiaの病理学的特徴に乏しい病変の割合が高くなるため,内視鏡所見や臨床的経過を加味した診療方針が必要になる.

  • 文献概要を表示

要旨 【背景と目的】UC関連癌は早期の診断が困難なため,進行癌で発見され予後が不良なことが多い.初期病変である粘膜内腫瘍(pTis癌,HGD)を対象に,拡大観察を含めた内視鏡像を解析し,早期発見につながる所見を見い出す.【対象と方法】当院で診療したUC関連腫瘍を対象とし,特に粘膜内腫瘍21症例27病変を抽出して以下の検討を行った.(1) pT1以深の症例との臨床病理学的比較検討.(2) 拡大内視鏡観察を中心とした内視鏡所見の解析と病理組織像との対比.【結果】 (1) pT1以深の病変と比し,臨床背景に差はないが,有意に主病変の大きさが小さく,分化度が高かった.(2) pTis癌・HGDのうち平坦型,平坦病変を主体とする病変が33.3%を占め,いずれも発赤領域として認識された.陥凹型は1病変あり,低分化型腺癌であった.(3) 全病変で腫瘍性pit patternの診断が可能であり,IVV型pit patternが全体の56.5%にみられ,平坦型病変の71.4%が管状pit,陥凹型病変はVN型を呈した.(4) 腫瘍・非腫瘍の鑑別はpit pattern観察およびNBI拡大観察ともに全病変で可能であった.(5) 癌・HGDの鑑別は絨毛状の表面構造を呈する病変では限界があった.【結論】UC関連pTis癌・HGDの40%近くが平坦型病変であり,発赤領域として認識される.pit patternはIVV型の頻度が高いが,平坦型に限ると管状pitが約70%を占める.拡大観察では,表面構造が絨毛形態を示す病変における癌・dysplasiaの鑑別診断能には限界があるが,周囲粘膜との比較において腫瘍・非腫瘍の鑑別診断は可能である.以上,領域のある発赤に注意し,積極的な拡大観察を行うことが,初期病変である平坦型病変の発見に寄与する可能性が示唆された.

  • 文献概要を表示

要旨 潰瘍性大腸炎の長期経過例では,慢性持続炎症を背景とした大腸癌の合併リスクが高いことから,大腸内視鏡検査によるサーベイランスが推奨されている.しかし,その病変は,通常の散発性大腸癌と比較して内視鏡的に同定困難であるとされてきた.このため,これまでは盲目的な生検で大腸癌や前癌病変であるdysplasiaを確率的にとらえようとするランダム生検が行われてきたが,侵襲の大きさと同定率の低さが費用対効果に見合わないことが問題であった.近年,内視鏡の解像度の向上に加え,色素内視鏡や拡大観察などの応用で以前より病変の視認性が向上してきていることを背景に,狙撃生検の有用性が示唆されるようになってきた.現在本邦で行われているランダム生検と狙撃生検の無作為ランダム化比較試験の結果が待たれるところである.

  • 文献概要を表示

要旨 大腸腫瘍発生の高危険群である長期罹患・広範囲罹患潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)は,大腸腫瘍の早期発見のため定期的な大腸内視鏡検査によるサーベイランスが推奨されているが,その内視鏡診断や組織学的診断は困難なことが少なくない.UCに合併する大腸腫瘍の診断には色素内視鏡検査やNBI(narrow band imaging)を併用した内視鏡検査,p53遺伝子異常の解析の有用性が報告されており,臨床的にも応用されている.しかし,増加傾向を示すUCに対して効率のよいサーベイランスを行うためには腫瘍発生がさらにハイリスクな症例を拾い上げる必要がある.そのため,慢性炎症性粘膜や血清,糞便中の遺伝子変化が新たな危険因子の候補として検討されており,臨床応用が可能となればサーベイランスの有用性の向上に寄与することが期待される.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は34歳,男性.31歳時に全大腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断され,原発性硬化性胆管炎を合併していた.診断時,S状結腸狭窄を伴っていたため,内視鏡検査に加え注腸X線造影検査も行ったが明らかな腫瘍性病変は指摘できなかった.慢性持続型の経過を呈し,ステロイド薬抵抗性であったため診断6か月後からインフリキシマブ投与を開始し,以後維持投与を継続した.診断から3年後の2013年5月に施行した大腸内視鏡検査で上行結腸に40mm大の隆起性病変が発見された.生検で中分化型腺癌と診断され,手術を施行したところ,漿膜下層まで浸潤する進行癌(pStage II)であった.発癌危険因子を有する潰瘍性大腸炎症例に,短期間に進展したと考えられる進行大腸癌が発生した症例を経験したので,遡及可能であった画像の検討を含めて報告する.

  • 文献概要を表示

要旨 潰瘍性大腸炎(UC)発症19年目に診断された,S状結腸のhigh grade dysplasia発生部位の内視鏡画像を遡及検討し,診断までの5年間の画像において平坦な発赤領域を指摘できた.慢性炎症による所見の修飾や,組織学的な確認はなされていないため断定はできないが,初期病変である可能性が強く示唆された.平坦dysplasiaの一部には,本症例のように比較的長く粘膜内病変として留まる病変が存在すること,炎症粘膜においても周囲の性状と異なった発赤領域として認識できる可能性があると考えられた.UC合併腫瘍の発生・進展過程の推定や,サーベイランスにおける関心領域を考えるうえで示唆に富む症例と考え,報告する.

  • 文献概要を表示

要旨 全国アンケート調査により潰瘍性大腸炎(UC)に伴う大腸癌の初期病変形態を推定し,その進展と形態変化ならびに発育速度を推定することを目的とした.対象は,初期病変が内視鏡撮影され,最終的に切除され病理学的検査が十分に行われた54病変49例で,腫瘍発見時年齢は平均50.5歳,罹病期間平均15.9年.病変部位はS状結腸と直腸に43病変(79.6%).初回病変の内訳は,内視鏡的に腫瘍と認識可能な22病変(40.7%)では,隆起18病変(IIa 12,IIa+IIc 2,Is 3,Is+IIb 1)と陥凹(IIc 3,IIc+IIb 1)4病変(18.2%)より成り,腫瘍と認識不可能な32病変(59.3%)では,活動期粘膜20病変と寛解期粘膜12病変であった.最終的に進行癌であったものが19病変(観察期間32.8か月)で,最終的に早期癌(あるいはdysplasia)35病変(観察期間38.6か月)に分けられた.最終病変は隆起39病変,平坦・陥凹5病変と狭窄10病変であった.進行癌の発育形式は,管腔狭窄(42.1%)や隆起が増大(100%)することが多かった.早期癌の発育形式は,隆起増大ないし隆起形成例が68.6%を占めた.初回病変が3年以内に進行癌となった急速発育例が進行癌の68.4%(13/19)を占め,全癌では24.1%であった.結論としてUCに伴う癌の初期像は約3年前の検査で40%が認識されえたが,60%は炎症粘膜と判定されていた.早期の腫瘍発見には,炎症粘膜からの積極的な生検が必要であり,腫瘍が比較的短時間に発育することも念頭に置いたサーベイランス策定が望まれる.

  • 文献概要を表示

 見ることの本質は,「盲人にとっての見る」はなにかを参考にすると分かりやすい.ヘレン・ケラーのよく知られたエピソードに次のようなものがある.「ヘレンが顔を洗っていた時,水という名前を知りたいと思いました.私はwaterと綴りました(1).……その後,私達はポンプ小屋に行きました.冷たい水がどっと流れ出てコップを充たしたときに,私はヘレンの水のかかっていない方の手にwaterと綴りました.手の上にかかってくる冷たい感覚に密接に結びついてきたこの言葉は彼女を驚かしたようでした.彼女はコップを落とし,釘づけにされたように立っていました.彼女は数回waterと綴りました(2).家に帰る途中,彼女はすっかり興奮して,さわるものの名前を聞きみな覚えました.そして急に振り返って私の名前を聞いたのでした.私はteacherとつづりました.いまや,すべてのものが名前をもっている筈です.彼女の顔が毎日毎日と豊かな表情となるのに気づいているのです(ヘレンの先生サリヴァン夫人)」.

 盲人が象の一部に触れて手掌にelephantと書かれてもピンとこない(群盲象を撫でる)ように,指で字を書かれても(点字でも同じこと)目が見えない者にはその意味するところはよくは分からない.それが冷たい水の感覚が伴ったのでヘレン・ケラーには水というものがよく理解できた,水が直観できた.すべてのものが名前をもっている.名前をつけることができたとき始めてそのものを意識的に見た,なにかと見なしたことになる.ものが本当に見えたときに,そしてその時にだけ見ているものが何であると「見なす」ことができる.水の実物と名前の一致がヘレンにとって急激なショックとして,あたかも知的な革命として出現した.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は77歳,女性.主訴は,右下腹部腫瘤,腹満,腹痛,便秘.大腸内視鏡検査で回盲部~上行結腸は暗紫色調で浮腫状であった.組織学的検査にて,粘膜下層~漿膜にかけて,静脈壁の肥厚と血管周囲性の膠原線維沈着を認めた.Congo red染色像は陰性で,アミロイドーシスは否定的であった.腹部造影CT検査にて肥厚した結腸壁内と腸間膜の石灰化を認め,特発性腸間膜静脈硬化症の診断となった.病因との因果関係は不明であるが,便秘症のため,22年間センナ系下剤を内服していた.最終的に臨床症状が強くなったため手術し,症状の改善に至った.長期的に経過と病変の進行を観察しえた症例である.

--------------------

欧文目次

「今月の症例」症例募集
  • 文献概要を表示

 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
  • 文献概要を表示

早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 岩男 泰
  • 文献概要を表示

 本号はUC関連腫瘍,いわゆるcolitic cancerの初期病変に焦点を当てた特集である.前回は6年前の2008年に,奇しくもその6年前の2002年にも特集が組まれている.タイトルの変遷をみると,37巻7号(2002年)は「炎症性腸疾患と腫瘍」と題し本邦におけるcolitic cancerの実態・サーベイランスの実情をまとめ,43巻9号(2008年)では「colitic cancer/dysplasiaの早期診断─病理組織診断の問題点も含めて」として早期診断の可能性を探ったものであった.colitic cancerも,いよいよ初期病変・粘膜内腫瘍の診断を議論する時代になった.初期病変を検討することで初めて組織発生,発育進展の解析が可能になり,より早期の診断につながる所見を見いだすことができる.本号の企画意図はそこにある.

 序説において斉藤は,colitic cancerの実態とその特徴,診断に当たっての課題を整理した.病理側から,伴は外科手術標本を詳細に検討し,colitic cancerの発生母地として低異型度不規則腺管上皮および平坦な萎縮粘膜内に進展した高異型度腺管領域が重要であることを示した.罹患範囲内に発生した通常の腺腫様病変には,こういった所見を伴わないことも示している.

次号予告

基本情報

05362180.49.10.jpg
胃と腸
49巻10号 (2014年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月18日~3月24日
)