胃と腸 48巻9号 (2013年8月)

今月の主題 食道表在癌治療の最先端

序説

食道表在癌治療の最先端 門馬 久美子
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食道表在癌治療に先立ち

 1966年に中山ら1),あるいは山形ら2)により,早期食道癌の最初の報告がなされ,進行癌が中心であった食道癌の領域に表在癌が加わり,食道癌の診療が大きく変わった.1970年代に色素内視鏡検査法が開発され,ヨード染色を併用すれば,容易にヨード不染帯が見つけられ,上皮内癌や粘膜癌が発見できるようになった3)4).凹凸が明瞭な粘膜下層癌は,食道造影検査で発見可能であるが,凹凸が軽微な上皮内癌や粘膜癌は色素の併用が可能な内視鏡検査でしか発見できないため,内視鏡検査によるスクリーニング検査が広く行われるようになった.

 発見された粘膜癌および粘膜下層癌に対しては,外科切除が行われ,予後を左右する主たる因子はリンパ節転移であり,臓器転移には脈管侵襲も関与していることが示された.外科切除例の検討から,リンパ節転移と脈管侵襲は,癌の壁深達度と相関しており,粘膜癌はリンパ節転移がまれで,脈管侵襲も少ないのに対し,粘膜下層癌ではリンパ節転移を30~50%に認め,脈管侵襲はほぼ必発であった.

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要旨 食道表在癌(扁平上皮癌)の高悪性度に関連する組織学的因子を評価した.壁深達度T1a-MMが11例とSMが53例,計64症例の外科切除材料を対象とし,組織学的因子とリンパ節転移との関連およびリンパ節転移個数や病期(TNM分類)との関連を検討した.壁深達度T1a-MMよりSMのほうがリンパ節転移の頻度は高かったが,浸潤度(距離)はリンパ節転移の危険性評価には有用ではなかった.検討した組織学的因子のうち,胞巣分化(-),不整胞巣(+),簇出(+),ly(+)の4因子がリンパ節転移の危険因子として抽出された.そして,リンパ節転移個数の多いものではこれら4因子の出現数が多くなるほど,リンパ節転移率やより進行した病期のものが多くなり,悪性度評価にこれらの4因子が有用であることが示唆された.

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要旨 初回治療としてESDを施行した早期食道癌249症例を対象とし,組織深達度別にT1a-EP,LPM/T1a-MM,T1b-SM1/T1b-SM2の3群に分類して治療成績(一括切除率,R0切除率,偶発症,局所再発,リンパ節・遠隔再発,予後)を検討した.各群の治療成績は,一括切除率が99.4%/100%/92.3%,穿孔率が0.6%/3.3%/3.8%,治療後食道狭窄率が25%/37%/46%であった.中央値38か月の観察期間において,3年の疾患特異的生存率は100%/97.4%/100%と良好であったが,リンパ節・遠隔再発を0%/10.7%/7.7%に認めた.MM・脈管侵襲なしの症例や追加治療施行例にもリンパ節再発例を認めており,治療後の慎重な経過観察が重要と考えられた.

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要旨 当センターにおいてESDを行った食道癌208例を対象に予後を検討した.ESDは208病変中205病変(98.6%)が一括切除であった.そのうち25例に異時性多発癌,7例に転移再発を認め,分割切除となった1例に遺残再発を認めた.転移再発を来したのは,SM2癌が4例,T1a-MM,ly1,v0癌が2例,T1a-LPM,ly0,v0癌が1例であった.SM2癌とT1a-MM,ly1,v0癌には再発を予防するためのCRTが行われていたにもかかわらず,転移再発を来した.208例中9例(食道癌3例,下咽頭癌2例,膵癌1例,肺炎2例,肝硬変1例)が死亡していた.T1a-EP/LPM癌,T1a-MM/SM1癌,SM2癌の3年全生存率はそれぞれ98.8%,95.8%,88.9%であった.

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要旨 筆者らは食道SM癌に対する外科治療として胸腔鏡補助下食道切除術を施行している.2005~2010年までに胸腔鏡補助下食道切除術を78例に対して施行し,平均手術時間は529分,出血量は152ml,リンパ節郭清個数は35個であった.合併症は39.7%で,その内訳は反回神経麻痺6.4%,肺炎6.4%,縫合不全17.9%,創感染1.3%,膿胸5.1%,乳び胸2.6%であった.術死はなく,在院死は2例(2.6%)であった.平均ICU滞在日数は2.0日,在院日数は22.0日であった.pT1b-SM癌は36例で,5年生存率は78.6%であった.胸腔鏡補助下食道切除は術後合併症,長期予後などの手術成績も良好であり,安全かつ確実な治療法である.

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要旨 食道SM2以深癌の内視鏡治療(ER)を中心とした温存治療の可能性を探るため,1990~2010年までに当院で深達度pSM2以深食道癌と診断した手術症例119例,ER症例65例の合計184例を検討対象とした.手術症例では,脈管侵襲を98例,リンパ節転移を51例に認めた.脈管侵襲陰性21例は,全例がリンパ節転移を認めず,無再発であった.ER症例は,追加治療未施行が22例,うち耐術能を有する7例は全例,無再発生存で,脈管侵襲陰性,SM2浸潤部の距離や面積が小さい特徴を認めた.化学放射線療法(CRT)は27例で,耐術能を有する症例は11例であった.そのうち1例が照射範囲外のリンパ節再発で原病死となった.手術療法が16例で,うち2例にリンパ節転移を認めたが,全例が無再発生存中であった.ER症例65例中49例(75%)に温存治療を施行した.他病死を除いた5年生存率は,ER単独が89%,ER+CRTが82%と良好で,特に脈管侵襲陰性11例は全例無再発生存であった.この結果から,SM2以深Stage I食道癌においてstep upとしてのERは有効であり,特に脈管侵襲陰性例では温存治療の可能性があることが示された.

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要旨 本邦における切除可能食道扁平上皮癌に対する標準治療は,食道切除術である.一方で,化学放射線療法でも食道切除術と比べて遜色ない治療成績が得られるようになってきた.JCOG9708の結果から,Stage I食道癌に対する根治的化学放射線療法の高い有効性が示唆され,標準治療である食道切除術と根治的化学放射線療法を比較する臨床試験が現在進行中である.また,近年内視鏡治療の開発も進み,内視鏡治療の結果非治癒切除と診断される事例も増え,こうした対象への追加治療としての化学放射線療法の有用性についても検討がなされている.治療後のQOLを保つ侵襲の少ない治療法としての化学放射線療法の確立,そしてJCOG0502/0508の結果に期待が寄せられている.

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要旨 食道ESDは2008年に保険収載となり,難易度がやや高いものの,その低侵襲性・高い根治性により全国的に広く普及してきている.一方で,3/4周以上の広範囲剝離症例では術後狭窄が高頻度に起こり,頻回の拡張術が必要となるため,患者や医療経済上の負担が大きいことが問題となっており,その克服が食道ESD普及の最大の課題となっている.このような広範囲剝離症例に対し,筆者らはステロイド経口投与もしくは局注療法の併用により拡張術回数・治療期間を有意に低減可能であることを報告してきた.そこで今回,ステロイド経口投与・局注療法の有用性とその限界,また,安全な局注のために筆者らが開発した局注針Nタイプに関して概説する.

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要旨 亜全周以上を占める広範囲な食道表在癌に対するESDは,術後狭窄が問題となる.亜全周切除例および全周切除例におけるtriamcinolone acetonide局注法(ETI)の治療成績を示し,同治療の難渋例について検討を行った.亜全周切除例では,局注群は非局注群と比べ,狭窄出現率,内視鏡的バルーン拡張術(EBD)平均回数の有意な低下を認めた.全周切除例では,両群間でいずれも有意差を認めなかった.亜全周切除例の局注群においては,生理的狭窄部を含む局在(Ce,Ut,Ae)のみが狭窄出現の独立規定因子であった.全周切除例および生理的狭窄部を含む亜全周切除例では,ETIのみでは難渋する可能性があり,今後新たな治療法の開発が必要である.

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要旨 早期食道癌に対して低侵襲性治療であるESDが積極的に行われるようになってきた.ESDは大きさにかかわらず一括切除可能なため,ESD後の大きな潰瘍に起因する狭窄が問題となってきた.筆者らは,細胞シート工学技術を応用した再生医療的治療法を,動物実験段階から開発し,さらに臨床研究を進め,10症例経験してきた.患者の自己口腔粘膜組織を採取し,単離した口腔粘膜上皮細胞を温度応答性培養皿に播種,16日間培養する.培養口腔粘膜上皮細胞シートは低温処理のみで非侵襲的に回収することが可能で,それをESD直後の潰瘍面に経内視鏡的に移植する.本研究のように消化器領域の再生医療は始まったばかりで,癌治療分野での応用が期待される.

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要旨 患者は20歳代,女性.10歳代から難治性の多発胃潰瘍と診断されていた.近医でプロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与,Helicobacter pylori(H. pylori)除菌治療を受けたが潰瘍の瘢痕化がみられず,またPPIの休薬で自覚症状が増悪するため,精査治療目的で当院に紹介となった.胃X線および上部消化管内視鏡検査では,胃体部に3か所の潰瘍性病変を認めた.3病変は,胃体下部小彎にひだの集中を伴う境界明瞭な類円形の潰瘍,胃体中部大彎前壁に多中心性の潰瘍,胃体中部大彎後壁に潰瘍瘢痕として認められた.胃生検では,胃粘膜上皮に好酸球浸潤とCharcot-Leyden結晶を認め,好酸球性胃炎と診断した.プレドニゾロン内服で潰瘍は瘢痕化したが,その後プレドニゾロンの減量に伴い潰瘍は再発し,PPIの継続投与を行っている.

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要旨 患者は51歳,女性.18歳で潰瘍性大腸炎と診断されたが,最近20年間は治療を受けていなかった.健診の便潜血反応が陽性のため,前医で下部消化管内視鏡検査が施行された.直腸に隆起性病変を認め,当センターを紹介された.当センターで再検し,隆起性病変 (1) に加え,平坦型病変を2病変(病変 (2),(3))認めた.生検で病変 (1) は潰瘍性大腸炎関連大腸癌,病変 (2) はdysplasiaと診断され,腹腔鏡補助下大腸全摘回腸囊肛門吻合術が施行された.病理組織学的には,病変 (1) はSM深部浸潤癌,病変 (2),(3) はlow to high grade dysplasiaであった.また内視鏡検査で指摘しうる範囲を超えた部位で,HE染色で診断できないp53陽性を示すlow grade dysplasiaを認めた.

Coffee Break

見る 8.鏡と写真機 長廻 紘
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 白雪姫の継母である王妃は,自分が世界で一番美しいと信じており,彼女のもつ鏡もそれに同意していた.ある日,王妃がその鏡に「世界で一番美しい女性は」と聞くと,白雪姫だという答えが返ってきた.王妃は怒りのあまり,白雪姫を森に連れて行き,殺して肝臓をとってくるように云々(グリム童話『白雪姫』).

 鏡はなんでもありのままに映す.鏡は鑑とも書き,模範・手本とすべきものを表す.『資治通鑑』や『吾妻鑑』のように歴史書の書名につかわれる.内視鏡,顕微鏡のように正しく見るための道具にも用いられる.鏡はカミに通じ,古来霊的なもの,嘘をつかないものと信じられている.しかし,鏡は決して真実をありのままに映すのではない.「見る」の場合と同じように,鏡を見るのは人だから見る人が見たいようにしか映してくれない.鏡の中で自己を客観視できる目を養わなければ鏡を見ても真実はわからない.

消化管組織病理入門講座・4

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はじめに

 “神経内分泌腫瘍”(neuroendocrine neoplasms*1)は,神経内分泌細胞から構成される腫瘍群の総称である.消化管の神経内分泌細胞は粘膜内細胞が分化して生じた細胞であり,神経外胚葉ではなく内胚葉性起源であることから,単に“内分泌細胞”とも表記される.一方で,胞体内に神経細胞と共通する形態の神経内分泌顆粒を含有し,ペプタイドホルモン産生能を有していることから,“神経内分泌細胞”とも表記される.「2010年WHO分類」1)では,これら細胞から構成される腫瘍群は,“神経内分泌腫瘍”として統一されており,本稿でもこの名称を用いることとする.

 従来,小腸・大腸を含めて消化管原発の神経内分泌腫瘍は,組織学的に低異型度で生物学的に低悪性度のカルチノイド腫瘍と,高異型度で高悪性度の内分泌細胞癌に大別されてきた.「2010年WHO分類」1)では,これら消化管および膵原発の神経内分泌腫瘍は,細胞増殖能に基づき統一して分類されることとなった.すなわちNET(neuroendocrine tumor)とNEC(neuroendocrine carcinoma)とに大別され,さらにNETはGrade 1(G1)とGrade 2(G2)とに分類される.NETは従来のカルチノイドに,NECは内分泌細胞癌にそれぞれ相当する.

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はじめに

 胃の潰瘍疾患には良性・悪性両者のさまざまな疾患が挙げられる.本レクチャーでは頻度の高い消化性潰瘍,胃癌,リンパ系腫瘍の鑑別点とそれぞれの疾患の特徴について述べたい.

早期胃癌研究会

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 2013年3月の早期胃癌研究会は2013年3月13日(水)に笹川記念会館国際会議場で開催された.司会は平澤大(仙台市医療センター仙台オープン病院消化器内科)と田中信治(広島大学病院内視鏡診療科),病理は和田了(順天堂大学医学部附属静岡病院病理診断科)が担当した.また,「早期胃癌研究会2012年最優秀症例賞」の表彰式が行われ,受賞者の松山赤十字病院胃腸センター・河内修司氏による症例解説が行われた.

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欧文目次

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 私が胃拡大内視鏡を学び始めたころ,異常粘膜をみた際に“何となく変だ”というのはわかっても,どうして変なのか,なぜそういった像になるのかということは全くわからなかった.理詰めではなく,こういうものなのだと納得していくしかないのかと諦めかけていた矢先に出合ったのが本書である.拡大内視鏡に関しての参考書はいくつかあるが,拡大内視鏡所見をここまで詳しく論理的に説明している本はないと思う.

 本書の特徴は,何をおいても各症例の拡大内視鏡所見と病理所見の一対一の対比検討であろう.局所的,表面的観察にとどまりがちな内視鏡所見を,病理所見と細かく対比・検討し,著者らの正確で豊富な知識に基づいた説明が加えられている.平面である内視鏡所見と,病理所見を対比することで3次元的構造をイメージしながら勉強することができ,新たな世界が広がってくる.まさに目からうろこである.本書の流れとしては,まずは基本となる正常粘膜の拡大内視鏡像の説明から始まり,次に慢性胃炎,分化型早期胃癌,未分化型早期胃癌と順序立っており,最終的には拡大内視鏡観察時の胃癌診断のフローチャートが示されている.必要な場所には親切な解説やシェーマ,細かい用語解説が添えられ,これから拡大内視鏡を始める人,あるいは初心者にとっても極めてわかりやすい内容となっている.写真や実際の症例を多数掲載することによって,系統立った理解に加えて視覚的な理解も十分得られる.また,拡大内視鏡の他にも,胃内視鏡診断学において重要な酢酸併用法の解説もされており,酢酸撒布で観察される立体的な像を加えることでさらに理解を深めることができる.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

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編集後記 小澤 俊文
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 2008年4月に保険収載された食道ESDはすでに広く行われているが,治療の安全性確立には根治性と合併症低減の2つが担保されなければならない.T1a-LPMまでにとどまる食道癌の転移,再発リスクは極めて低い.一方,T1a-MM以深癌では脈管侵襲陽性やリンパ節転移の頻度が高く外科切除が原則であるが,手術侵襲の大きさや術後合併症,少なくとも50%はリンパ節転移を認めないことから,T1b-SM1癌はER(endoscopic resection)の相対適応となっている.ER後の病理結果を参考に追加治療を決めるが,適応基準もいまだ確立されたものはない.また,広範囲切除を要する症例での狭窄が問題であり,頻回の拡張術は患者に肉体的,経済的負担を負わせる.本特集では,予後の悪い食道表在癌の病理組織学的特徴,現時点における食道表在癌に対するESDの治療成績,pT1b癌に対する種々の治療法の成績の比較,ESD後の狭窄予防対策などの現況を把握し,食道表在癌治療の最先端に迫ることがねらいである.

 序説に引き続き,切除後の方針決定に重要な病理学的立場から悪性度の高い食道表在癌について八尾が執筆した.その特徴として,胞巣分化(-),不整胞巣,簇出(+),ly(+)の4因子を挙げ,特に胞巣分化の有無が悪性度評価に有用であり,従来の角化を指標とする分化度は悪性度の評価には意味がないとした.

次号予告

基本情報

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胃と腸
48巻9号 (2013年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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