胃と腸 45巻4号 (2010年4月)

今月の主題 スキルス胃癌と鑑別を要する疾患

序説

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はじめに

 日常臨床においてスキルス胃癌に類似した形態変化に遭遇することは多い.ひだの蛇行や腫大,胃壁の肥厚や硬化,胃全体の狭窄や収縮などの所見を認めたとき,スキルス胃癌とそれに類似する疾患とを鑑別することは治療方針を決めるうえでも重要である.本号では,スキルス胃癌に類似する多くの疾患について,臨床画像を提示しつつ,鑑別診断に焦点を合わせてその所見を整理することを狙いとしている.まず,スキルス胃癌の基本的所見を種々の立場から提示し,次に,スキルス胃癌に類似する種々の疾患を腫瘍性疾患と非腫瘍性疾患に分け,その画像と鑑別診断をまとめる構成としている.非腫瘍性疾患については本誌37巻13号「胃癌と鑑別を要する炎症性疾患」の中で一部取り扱われたことがあるが,今回は疾患別に整理してまとめられている.

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要旨 びまん浸潤型胃癌,いわゆる4型スキルス胃癌を,粘膜内成分の癌組織型に着目して背景粘膜および癌進展形式を検討した.対象は,術前治療を施行されていない胃切除例161例で,粘膜内成分に腺管形成のない純粋低分化型(pure type,n=98)と腺管形成のある腺管混合型(mixed type,n=63)に分けて比較した.純粋低分化型の粘膜内病変は,胃体部に有意に多く(p<0.001),胃壁内に線維性組織の著しい増生を伴い孤立散在性に浸潤していた.一方,腺管混合型の粘膜内病変は幽門前庭部に多く,浸潤部でも腺管形成能は保たれ(36.5%/2.0%,p<0.001),リンパ管侵襲が著明でリンパ節転移も高率に認めた(p<0.001).背景粘膜の萎縮や腸上皮化生の程度は,純粋低分化型で有意に軽かった(p<0.001,p=0.01).以上から,組織学的にスキルス胃癌には,萎縮や腸上皮化生が軽い胃底腺領域に発生した低分化型腺癌が増生した線維性間質の中に孤立散在性に浸潤するものと,体下部~幽門前庭部から発生した分化型腺癌が浸潤するにつれて低分化になり,高率にリンパ管浸襲,リンパ節転移を認めるものの,2つの異なるタイプが存在することが示された.

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要旨 “スキルス胃癌”のX線診断について,胃壁の伸展状況の違いから症例を提示して概説した.スキルス胃癌はびまん性に広範囲で粘膜下組織を浸潤し,線維性組織増生を伴い胃壁の硬化と収縮,管腔の狭小化を示す.その特徴的なX線所見は,概観像では管腔の狭小化をはじめ辺縁の硬化や伸展不良,不整な彎入で,ひだの所見は肥大や横径の不同,屈曲・蛇行,間隙の辺縁不整などを示す.一方で,スキルス胃癌のうちLP型胃癌の中には“伸展が保たれている”症例が存在し,そのX線所見は典型的な変形や伸展不良,ひだ走行の変化があらわれにくく,浸潤領域内においても限局した部位でのみ所見が得られることがある.その際には浸潤を来した領域の粘膜に着目し,不規則な胃小区様模様や顆粒陰影,ひび割れ様所見などのわずかな粘膜像の所見を有するので撮影と読影には注意を要する.胃底腺領域のIIc様病変を認めた際には,LP型胃癌を念頭に置いて,撮影では空気による胃壁の伸展を調節し,バリウムの移動を利用してはじきやたまりからわずかな伸展不良や硬化像の有無を明らかにし,診断においては軽微な粘膜所見をとらえてゆくことが重要である.

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要旨 典型的なスキルス胃癌の内視鏡所見の特徴は,伸展不良,ひだの変化(巨大皺襞,ひだ肥厚,直線化,蛇行,横走ひだ),primary lesion(初期病変)の存在である.特にひだの所見は,巨大皺襞や伸展不良を来す他疾患との鑑別に重要であり,その特徴を知ることが重要である.当院のスキルス胃癌41例の検討ではひだ肥厚,蛇行所見の出現頻度は胃底腺領域型で81%,幽門腺領域型で44%であった.横走ひだは両者とも約10%の症例で認められ,area模様の拡大所見は前者のみ,16%に指摘できた.幽門腺領域に発生するスキルス胃癌はひだの変化を伴いにくく,幽門狭窄を来しやすい傾向があった.

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要旨 スキルス胃癌のEUS像の特徴は,壁肥厚とされている.壁肥厚を呈する症例として主なものは,Menetrier's disease,潰瘍瘢痕,悪性リンパ腫,迷入膵,梅毒,cytomegalovirus gastritisなどがある.これらの疾患は,主に粘膜,粘膜下層の肥厚がみられるが,スキルス胃癌では,胃壁全層,すなわち固有筋層まで肥厚が観察される.確定診断である生検診断は,肥厚が著しい部分の深部生検,EUS-FNAが有効とされている.

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要旨 スキルス胃癌のCT診断について,術前に化学療法などが併用されていない外科手術症例37例について,術前のCT所見と,手術および病理所見とを対比し,スキルス胃癌の局所所見(浸潤範囲ならびに深達度診断),リンパ節転移診断について検討した.CTについては通常行われている経静脈造影剤投与を用い,ダイナミック撮像や,水やガスなどによる胃内腔の伸展は行なわなかった.

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要旨 高分解能な断層診断法であるUSは,スキルス胃癌において病変そのものの診断や,治療方針の決定に有用である.スキルス胃癌の典型的なUS像は層構造の温存されたびまん性の壁肥厚であるが,各層の厚みは不整で,各層間の境界も不明瞭なことが多く,同様にびまん性の壁肥厚を呈する他疾患とは層構造や硬さから大半が鑑別可能である.また,播種性結節の描出や肝の小転移巣の検出においては他の診断法を凌駕すると思われ,治療方針を決定するうえでもUSは必須である.しかしながら,スキルス胃癌の初期病変であるとされる早期癌の段階におけるUSの診断能は,理論上も不良であると言わざるをえない.

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要旨 胃悪性リンパ腫のうち,肉眼型が巨大皺襞型を呈する症例はスキルス胃癌との鑑別を要する.低悪性度胃悪性リンパ腫は巨大皺襞型を呈する症例はなく,aggressive lymphomaの一部がこのような形態を示す.いずれも皺襞の腫大を認めるが,胃壁の伸展性が保たれているか否かが最も重要な鑑別のポイントである.胃壁の伸展性は内視鏡よりもX線造影検査のほうが評価しやすい.病変内の潰瘍の形態だけでは両者の鑑別が難しい場合がある.生検による鑑別は有用であるが,生検の採取部位に留意する必要がある.

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要旨 転移性胃癌はこれまでまとまった報告は少なく,その内視鏡的特徴も多岐にわたっている.その中でもスキルス胃癌と鑑別を要する4型進行胃癌類似型の頻度は非常に低く,乳癌からの転移によくみられる.ともに粘膜下層をびまん性に浸潤する進展形式をとるため,進行した状態では内視鏡・X線造影検査ともに鑑別が困難で,最終的には生検による組織学的診断が必要となることが多い.原発巣が存在する場合には比較的疑いやすいが,特に4型進行胃癌類似型を来す乳癌は,術後数年経過してから出現することも報告されており,注意が必要である.生検の際も粘膜下層の腫瘍組織を確実に生検するようにボーリング生検などの工夫が必要である.

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要旨 急性胃炎は,急激に発症する,各種の原因によって生じる胃粘膜の急性炎症である.その画像診断と組織学的診断の間に乖離が存在することが多く,注意が必要である.原因の多くは薬剤やアルコールなどであるが,H. pylori初感染やCMV感染などの関与も念頭に置く必要がある.画像的特徴として,著明な粘膜の発赤,浮腫が主所見である.時に出血斑や粘膜の皺襞の著明な腫大が認められる.スキルス胃癌との重要な鑑別点は,腫大した皺襞が軟らかく,空気量で変化することである.急性胃炎の治療は,原因または誘引の除去が基本となる.症状あるいは所見の強い症例に対しては,薬物療法が行われる.

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要旨 胃梅毒は幽門前庭部に好発するが,画像上,幽門部のスキルス胃癌との鑑別が問題となることがある.スキルス胃癌との鑑別点としては,胃梅毒は,X線では狭窄は左右対称性の漏斗状を呈し,病変は幽門輪部にまで及び幽門輪の開大を伴いやすいこと,内視鏡では粘膜は易出血性でびらんや多発性の浅い不整形潰瘍を伴うが,壁の伸展不良は比較的軽度であることが挙げられる.さらに,梅毒性皮疹類似の特異的な胃粘膜疹が確認できれば鑑別は容易である.画像上,幽門前庭部のスキルス胃癌が疑われた場合には,鑑別診断として胃梅毒も念頭に置き,梅毒血清反応をチェックすべきである.

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要旨 胃蜂窩織炎は,粘膜下層を中心に胃壁全層にわたる炎症・浮腫を来す比較的まれな非特異的化膿性炎症性疾患である.成因別に原発性,続発性,特発性に分類され,起因菌としては連鎖球菌が最も多いとされている.急性腹症との鑑別目的に腹部CTが施行され,胃壁の肥厚から本症が疑われることが多い.腫大した皺襞や胃壁の伸展不良を認め,スキルス胃癌との鑑別が必要になることがあるが,通常は急激な臨床経過をとることから鑑別は比較的容易である.生検による膿汁流出,組織・胃液培養による細菌の証明,超音波内視鏡などが診断に有用である.まれではあるが慢性に経過する胃蜂窩織炎が存在し,スキルス胃癌と誤診されることがある.

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要旨 膵臓は胃の背側に接して存在するため,同部の炎症や腫瘍が胃の伸展不良を惹起することがある.なかでも,膵体部から尾部にいたる広範な膵炎は,胃に波及する範囲が広く,スキルス胃癌との鑑別が問題となる.鑑別にはX線所見が重要であり,膵炎では(1)胃の背側から波及するため胃後壁大彎側の軽度の伸展不良にとどまること,(2)管外性炎症であるため体位変換で伸展不良の程度が変化すること,(3)胃壁外の石灰化を伴う場合が多いこと,などに着目すべきと思われる.臨床像から膵炎の波及を疑い,腹部超音波やCTを積極的に活用すべきことは言うまでもない.

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要旨 60歳代,女性.上部消化管内視鏡検査にて胃角部前壁を主座とした著明なひだ腫大を認めた.超音波内視鏡の所見も合わせ炎症性変化が疑われたが,診断目的でESDによるjumbo biopsyを施行した.病理組織学的所見では粘膜下層に著明な好酸球の集簇による炎症所見を認め,経過も合わせアニサキス好酸球性胃炎と考えた.胃アニサキス症は時に限局性の病変として認められることがあり,中間型(vanishing tumor)と緩和型(好酸球性肉芽腫)に分けられる.鑑別のポイントとしては,まず,本疾患を疑ったうえで,臨床経過,内視鏡所見を把握することが重要である.

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要旨 サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患であるが,消化管に発生することはまれである.胃サルコイドーシスには,全身のサルコイドーシスの部分症として生じるものと,胃に限局して生じる限局型サルコイドーシスがある.大部分がこの限局型である.胃サルコイドーシスの肉眼所見は,多発潰瘍やびらん,スキルス胃癌を疑わせる粘膜の肥厚や硬化,結節性隆起性病変などが挙げられるが,多彩であり,特異的なものはない.今回報告する症例は前庭部型のスキルス胃癌との鑑別が必要であり,ステロイド治療にて症状,所見の明らかな改善を認めている.

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要旨 76歳,女性.重度の食欲低下,体重減少を主訴に来院した.内視鏡検査で胃全体にびまん性の萎縮とびらん性変化を認め,粘膜ひだは消失し壁は伸展不良であった.生検や診断的EMRを繰り返し行ったが,炎症性変化のみで悪性所見やそのほかの特異的所見を認めなかった.自己免疫機序の関与を考えステロイド剤の投与を試みたが,体重減少が続き経静脈栄養を要したため,初診より約1年後に胃全摘を行い軽快した.本例は2002年に藤沢らが提唱した自己免疫性汎胃炎と同一の疾患と考えられた.スキルス胃癌と鑑別すべき疾患にこのような特異な胃炎が存在することが広く認識され,症例集積から病態解明につながることが望まれる.

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要旨 里吉症候群は進行性筋痙攣(こむら返り),全身脱毛,下痢を3主徴とする疾患であり,まれにGCPに起因した消化管病変を来す.このうち,胃壁にびまん性の線維性肥厚を来した例においては,スキルス胃癌類似の広範な壁の伸展不良所見とともに,leather bottle様の変形を呈する例が存在する.典型的スキルス胃癌との鑑別所見は,(1)壁辺縁の不整硬化に乏しく,わずかに伸展性が保たれている点,(2)スキルス胃癌特有のIIc面を認めない点に加え,本疾患の特異的な形態所見である,(3)粘膜上皮の脱落あるいは著明な萎縮による島状の胃底腺粘膜の残存から成る多発性顆粒状隆起の存在,(4)粘膜固有層の腺の嚢胞状拡張,粘膜下層の深在性嚢胞に起因する多発性粘膜下隆起の存在である.病理組織学的所見ではGCPの所見に加え,粘膜固有層浅層に帯状あるいは層状の線維性増生,粘膜固有層深層に浮腫を認め,生検診断の一助となる可能性がある.このような病態を知ったうえで,特徴的な3主徴,先行する十二指腸,小腸病変の存在などから本疾患を疑い,上記所見をとらえることができれば,スキルス胃癌との鑑別は容易である.

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要旨 後腹膜線維症は,後腹膜の軟部組織が炎症性細胞浸潤や線維化を来した結果,尿管の狭窄から水腎症を来す病態の総称である.疾患の2/3以上を占める原因不明の原発性後腹膜線維症と,続発性後腹膜線維症として,薬剤に起因するものや悪性疾患による浸潤が原因となるものがある.胃癌の中でも後腹膜への浸潤,転移傾向が強いものでは続発性後腹膜線維症を来しうる.したがって,適切な治療を行ううえでも画像診断を中心とした鑑別診断が重要である.

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要旨 腐食性胃炎は胃壁の伸展不良に加えて潰瘍,びらんなど粘膜面の変化が強く,スキルス胃癌との鑑別を要することがある.特に胃壁の伸展不良は受傷から時間が経つにつれて強くなり,鑑別に難渋することがある.粘膜所見を評価する際には内視鏡検査が有用であり,胃壁の伸展性を評価する際にはX線検査が有用である.また,酸・アルカリなどの曝露時間の違いから傷害の程度は異なるが,腐食性胃炎では咽喉頭や食道にも粘膜傷害が認められることも鑑別のポイントである.両者の鑑別に際しては,酸・アルカリなどの飲用や精神疾患の既往など正確な問診の聴取が重要となってくる.

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要旨 好酸球性胃腸炎は,好酸球浸潤の部位や程度によりさまざまな症状と検査所見を呈し,特異的な所見もないため確定診断に到達できないこともある.なかでも粘膜および筋層に優位な病変が存在すると,スキルス胃癌との鑑別が必要となる場合があり,注意を要する.本疾患の存在を認知し,アレルギー疾患の既往や末梢血好酸球の増多などから本疾患の可能性を念頭に置くことが鑑別診断において重要である.病変が粘膜優位であれば,数か所の粘膜生検により診断は可能であるが,筋層以深に優位である場合は全層生検や,腹水採取が必要になることもある.

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要旨 患者は39歳,女性.10年前から鉄欠乏性貧血にて加療中であった.2年前より心窩部痛,背部痛を時々認めるようになり,近医を受診したところ,上部消化管内視鏡検査にて異常を指摘され,精査目的で当科を受診となった.上部消化管内視鏡検査では胃体上部から胃角部まで皺襞の腫大,内腔狭窄が認められた.腹部CT検査では胃壁の肥厚を認めたが,X線造影検査と超音波内視鏡検査では胃壁の層構造は保たれていた.99mTc標識アルブミンを用いたシンチグラフィーでは消化管への蛋白露出は認められなかった.診断目的で内視鏡的胃粘膜切除術を施行し,HP(Helicobacter pylori)感染を合併した巨大皺襞性胃炎と診断された.除菌治療のみで2年間経過するが,経過良好である.

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要旨 Cronkhite-Canada症候群は消化管ポリポーシスに加え,多彩な外胚葉系の消化管外病変を伴う非遺伝性疾患である.ポリポーシスは胃と大腸に好発し,組織像は若年性ポリープに類似する.強い発赤と浮腫を伴った無茎性のポリープが多く,密集して認められる.ポリープ間の介在粘膜にも炎症が存在し,発赤,浮腫,びらんなどの変化がみられ,胃においては巨大皺襞を呈することがあるため,スキルス胃癌との鑑別が必要となる.

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要旨 患者は38歳,男性.主訴は空腹時痛,体重減少.内視鏡検査で胃壁の伸展不良は軽度であるが,ひだの伸展不良と屈曲蛇行などの走行異常を認めた.原発巣とみられる陥凹性病変は認めず,びらんからの生検ではすべて陰性であった.X線検査でも同様の所見で収縮所見は軽度であったが,胃体部から穹窿部にかけてひだの密集と蛇行が観察された.CTでは胃体部全周に壁肥厚の所見を認めた.最終的にスキルス胃癌と診断し,胃全摘術を施行した.切除標本の病理検索ではひだの走行異常部分に一致し,広範に粘膜下層以深の浸潤を認めるスキルス胃癌(LP型)で,噴門前壁に8mmの原発巣を認めた.生検陰性であっても,ひだの走行異常などの画像所見に注目し,スキルス胃癌を診断することが重要と考えられた.

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要旨 患者は29歳,男性.2007年4月より上腹部痛が出現し,近医での上部消化管内視鏡検査にて異常所見を指摘され,当院を受診した.胃前庭部大彎に丈の低い粘膜下腫瘍を認め,超音波内視鏡検査で胃壁外に少量の腹水を認めた.確定診断に至らず,経過観察していたところ,約7か月後,上腹部痛が再度出現し,各種画像検査で腫瘍の増大を認めたため外科手術を施行した.病理組織所見は炎症性変化,嚢胞形成を伴った胃迷入膵と診断し,胃迷入膵に膵炎が発症し増大したものと考えた.術後,症状は消失し,現在まで再発は認めていない.

形態診断に役立つ組織化学・分子生物学

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はじめに

 今回は悪性リンパ腫の鑑別について解説する.

 悪性リンパ腫の分類としては,形態に加えて臨床像,免疫組織化学染色,染色体検査,遺伝子解析が加味され,発生分化および分子生物学的観点から,リンパ腫を疾患単位として分類し,治療に有用な分類が行われている(Table 1)1).新WHO分類が,免疫組織化学染色,染色体検査,遺伝子解析の特徴に立脚した分類とはいえ,診断の第一歩は形態診断によることが多い.まずは,Hodgkinリンパ腫にみられる巨細胞の有無,次に結節性病変かびまん性病変かの判定,さらに細胞の大きさが形態診断においてはポイントとなる.非Hodgkinリンパ腫は発生分化により,前駆型と分化型に分かれる.さらに免疫組織化学染色法により,各々は,B細胞型,T細胞型〔分化型の場合はNK(natural killer)細胞を含む〕に分けられる.

 分化型(抹消型)B細胞性のものは,形態に加え,臨床像,免疫組織化学染色,染色体検査,遺伝子解析が加味され,分子生物的観点から,疾患単位が列挙されている.Fig. 1で示すように,B細胞の分化マーカーはかなり解析されており,免疫組織化学染色を組み合わせることで,分化段階がわかると分類しやすくなる.例えば,汎B細胞マーカーのCD20陽性で,胚中心マーカーのCD10,bcl6陽性であると,濾胞中心由来が考えられ,Burkitリンパ腫,濾胞性リンパ腫,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫のどれかになる.一方,T細胞の分化マーカーはいまだ発展途上である(Fig. 2).分化型(抹消型)のT/NK細胞性リンパ腫は,形態的にも小細胞,大細胞,未分化大細胞と多岐であり,免疫表現型,遺伝子型においても疾患単位は,多岐であり,B細胞性リンパ腫とは異なり,むしろ疾患単位というより症候群にとどまっている.

早期胃癌研究会

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 2009年9月の早期胃癌研究会は9月16日(水)に笹川記念館国際会議場で開催された.司会は八巻悟郎(こころとからだの元氣プラザ消化器内科),野村昌史(手稲渓仁会病院消化器病センター),病理は菅井有(岩手医科大学分子診断病理)が担当した.また,第15回白壁賞は岩男泰(慶應義塾大学内視鏡センター),第34回村上記念「胃と腸」賞は中村昌太郎(九州大学大学院病態機能内科学)が受賞され,表彰式と受賞講演が行われた.

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欧文目次

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医学の進歩につきまとう「闇」を見つめ直して

 本書は病気を切り口にした医学史書です.ペスト,コレラ,天然痘などのパンデミックはこれまで,戦争以上に多くの人命を奪ってきました.異文化の接触のたびに病原体の交流が行われ,それはしばしば1つの文明を滅ぼすほどでした.人類の歴史とは感染症との闘いであったといっても過言ではありません.本書ではそうした歴史が,疾患ごとに見開き8ページ前後で解説されています.各章の長さは,診療の合間に読むのにもちょうどよいボリューム.そして何より一番の特徴は,誌面のビジュアル的な美しさでしょう.B5判全ページカラー,いずれのページにも医学の歴史を伝える貴重な絵画や生き生きとした写真が満載.医薬史研究家の小林力氏の流麗な邦訳と相まって,圧倒的な迫力で読者を時間旅行にいざなってくれます.まさに目で見る医学史の決定版といえるでしょう.

 医学の進歩には「闇」がつきまといます.学者たちはしばしば,疾患の原因を突き止めるためにぞっとするような実験を行ってきました.感染症説を否定しようと,コレラ菌入りのフラスコを飲み干したペッテンコファー,ペラグラの感染を否定するため,患者の汚物を飲んだゴールドバーガー,患者を用いてハンセン病の感染実験をしたために,医学界を追われたハンセン,梅毒の経過を調べるために,患者を無治療のまま追跡調査したアメリカのタスキギー研究……本書はそうした医学の闇についても容赦なく切り込みます.それらには倫理に反する試みも多いのですが,安全で衛生的な社会に生きる現代人は,先人たちの闇の果実の恩恵にあずかっているのだという事実もまた,認めなければなりません.

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盲点のない内視鏡検査の指南書

 編者には食道癌と胃癌のX線および内視鏡の形態診断に携わった膨大な実績がある.その豊富な経験から,内視鏡検査で早期癌を見落としてほしくないという熱意のもとに本書は生まれた.日常臨床で検査を実際に行う内視鏡医の立場に立って,見ている内視鏡像の理解がより進む内容で構成され,狙い通りの盲点のない内視鏡検査の指南書に仕上がっている.掲載されている内視鏡画像は正常症例であれ疾患症例であれ,すべて明瞭で的確である.

 第5章「どのような順序で観察・撮影をすすめていくか」では,写真と図を多用し,胃全体からみてどの部分を観察しているのかがわかりやすく示され,X線像との対比を視野に入れようとする意図がにじみ出ている.

編集後記 赤松 泰次
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 日常診療においてスキルス胃癌と類似した形態変化に遭遇することは少なくない.皺襞の蛇行や腫大,胃壁の肥厚や硬化,胃全体の狭小化や収縮などの所見を認めた場合,スキルス胃癌とそれに類似する疾患とを鑑別することは,治療方針を決定するうえで極めて重要である.生検で癌組織が証明される場合にはそれほど診断に苦慮することはないが,X線や内視鏡所見でスキルス胃癌を疑うにもかかわらず,通常の鉗子生検では癌組織が採取されない場合は,臨床医にとって極めて悩ましい状況に陥る.すなわち,治療方針を“経過観察”とすると,結果的にスキルス胃癌であった場合には診断が遅れて切除不能となったり,逆に“外科手術”を選択した場合にはover surgeryとなる可能性があるからである.このような観点から,今回スキルス胃癌と鑑別を要する疾患という特集を企画した.企画のコンセプトは,まずスキルス胃癌の特徴について理解を深め,そのうえでスキルス胃癌と形態が類似した疾患を列挙して両者の鑑別点を読者にわかりやすく解説することである.

 前半は病理(平橋論文),X線(山本論文),内視鏡(丸山論文),EUS(村田論文),CT(奥田論文),体外式US(畠論文)の立場から,様々なmodalityにおけるスキルス胃癌の形態的特徴を,それぞれのエキスパートの先生方に解説していただいた.後半は多くの施設に依頼し,スキルス胃癌と鑑別を要する疾患について症例を提示してもらい,各疾患の解説とスキルス胃癌との鑑別のポイントを図表とともに簡潔に記載してアトラス風にまとめていただいた.

基本情報

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胃と腸
45巻4号 (2010年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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