胃と腸 45巻3号 (2010年3月)

今月の主題 出血性小腸疾患─内視鏡診断・治療の最前線

序説

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はじめに

 本誌では,10年前の2000年35巻6号に「腸管の血管性病変─限局性腫瘍状病変を中心に」が企画された.同号はカプセル内視鏡(capsule endoscopy ; CE)とダブルバルーン小腸内視鏡(double balloon enteroscopy ; DBE)が実際に使用される前の時代である.同号では,古賀ら1)は消化管の血管性病変を文献的に集計し,1990~99年の10年間で607例の臨床像を分析した.その要旨は,腸管部位別にみると動静脈奇形と血管腫は小腸に好発すること,angiodysplasiaは大腸に好発すること,さらに時代的にみると後半5年間に報告例が1.5倍に増えたことであった1).現在の原因不明消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding ; OGIB)と同様の傾向を文献的に予言したことになる.同号で岩下ら2)は,血管異形成と動静脈奇形の用語の用い方の混乱を指摘し,vascular ectasia,arteriovenous malformationを形態,発生機序と頻度を考慮して分類を進めた.これは,その後のYanoら3)の小腸血管病変の内視鏡分類につながる.

 このように同号の内容は,概念を整理しangiodysplasiaという用語よりもangioectasiaを採用する3)など,用語の統一や内視鏡所見の統一が徐々に進む礎になった.しかし,現在も分類や用語の統一は完全ではない.

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要旨 出血を来す小腸疾患は,主に血管性病変,炎症性潰瘍性病変,腫瘍性病変に分類される.現在,出血性小腸疾患を疑った場合,カプセル内視鏡検査とバルーン内視鏡検査の使い分けが重要であるが,患者背景や出血の重症度などを考慮したうえで従来のX線造影検査や血管造影検査,体外式超音波検査など他の診断法と組み合わせながら適切に検査を進めていく必要がある.大量の血便などに伴うショック状態の患者に対しては全身状態の改善が最優先であり,その後に大腸内視鏡検査に続いて小腸内視鏡検査を行うか,血管造影あるいは出血シンチグラフィを行ったうえで小腸内視鏡検査を行う.出血性小腸疾患に対する内視鏡的止血手技は,止血機序から機械的止血法,熱凝固法,薬剤局注法,薬剤撒布法に大別されるが,バルーン内視鏡の発展により従来行われていた開腹手術が回避されるなど,患者のQOL向上に貢献できるようになった.

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要旨 日本では,上部および下部消化管の検査を行っても原因が不明な消化管出血に対して,2種類の小腸用カプセル内視鏡〔PillCamTM SB(ギブン・イメージング),Endo Capsule(オリンパス)〕が保険適用になっている.本稿では,それら小腸用カプセル内視鏡のシステムとメカニズムおよび検査法について述べ,PillCamTM SBとRAPID(R) 5 Accessによる出血性小腸疾患診断のための読影法とカプセル内視鏡検査の標準用語集であるCEST(capsule endoscopy structured terminology)について紹介した.

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要旨 山本らによるバルーン内視鏡の開発により,全小腸への内視鏡的到達が日常臨床で可能となってきた.ダブルバルーン内視鏡に加え,内視鏡本体にはバルーンを付けないシングルバルーン内視鏡が開発され,小腸疾患の診療に使用されている.挿入経路は,検査前に病変位置が不明な場合,顕性出血時には経口,それ以外では経肛門が選択される.深部挿入性の改善には炭酸ガス送気が有効である.ストロークごとのcrystal violetを用いたマーキングは,挿入距離の測定を容易にし,病変の位置の記録にも有用である.narrow band imagingによりangioectasiaは緑色を帯びて観察され,さらに水浸下観察により拡大効果が得られる.今後は,挿入性の向上,鉗子孔径の拡大や拡大機能の付加などが望まれる.

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要旨 出血性小腸疾患に対する診断学体系はカプセル内視鏡とバルーン内視鏡の登場により大きく変わってきた.しかし出血の責任病変同定に関してはいまだ問題点も多い.一般臨床の場では原因不明の出血の場合,小腸出血が疑われるが,その中には通常の検査タイミングでは発見できない大腸や胃のangioectasiaや憩室出血なども含まれる.今後は得られた所見と責任病変の関連を明確にしていくことが臨床における治療方針決定に必須である.そのうえでCEとDBEをより効率的に使い分けた診療体系の確立が望まれる.

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要旨 小腸内視鏡検査と小腸X線造影検査を併用実施した非顕性小腸出血例を抽出,提示して,小腸X線造影検査の有用性を考察した.NSAID起因性潰瘍2例は,ともに微小な多発性潰瘍性病変の形態を呈し,バルーン内視鏡検査(BE)で発見されたが,経口X線造影検査(圧迫法)で描出可能であり,小腸X線造影検査はNSAIDの使用中止後の評価,経過観察に有用と考えた.また管外性発育型GIST 2例は,存在診断と質的診断の両面においてゾンデ法X線造影検査が有用であった.出血性小腸疾患の初期診断におけるカプセル内視鏡(VCE)とBEの有用性に疑いの余地はないが,待機的に対応可能な非顕性出血例の診断においては,従来のX線造影検査と内視鏡検査を併用実施することにより診断能が向上する可能性がある.

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要旨 小腸の画像診断は,バルーン内視鏡やカプセル内視鏡の開発により飛躍的に向上した.それに伴い,小腸における血管性病変の実態が明らかになり,小腸出血における血管性病変の占める割合は最も高く,重要な疾患であることがわかってきた.血管性病変の診断には,検査時期・方法の選択が成功の鍵を握っているが,その判断は各施設の基準にゆだねられている.また内視鏡を用いて正確な診断を行い,病変に適した治療選択を行うために,病変の病理背景・種類・合併症・部位などの病態背景を知ることが必要である.今後さらなる症例の蓄積により,病態理解を深め,適切な診断・治療を確立する必要がある.

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要旨 小腸腫瘍は比較的まれな疾患である.当施設において小腸悪性腫瘍,小腸GISTと診断された症例におけるDBEの検査成績について報告する.2003年12月から2009年7月までに当科においてDBE,SBEを施行した614例について検討した.小腸悪性腫瘍は17例に認めた.原発性小腸癌が10例,転移性小腸癌が4例,悪性リンパ腫が3例であった.内視鏡下生検による診断は13例(76.5%)において可能であった.OGIBで精査した294例のうち小腸悪性腫瘍を認めたものは9例(3.1%)にすぎないが小腸悪性腫瘍17例中9例(52.9%)がOGIBを契機に診断されており,OGIBは小腸悪性腫瘍診断の契機として重要である.

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要旨 カプセル内視鏡によりNSAIDs起因性小腸粘膜傷害の実態が明らかになりつつある.アスピリンを含むNSAIDsの常用患者の70%以上に,また通常型NSAIDsの2週間の内服で60%近い服用者に小腸の粘膜傷害が認められた.選択的COX-2阻害薬は短期的には小腸粘膜傷害の発生を軽減させるが,長期的には通常型NSAIDsと粘膜傷害の頻度に差がないという報告もあり,NSAIDs起因性小腸粘膜傷害の治療・予防薬が望まれる.近年,本邦でミソプロストールやレバミピドを用いてNSAIDs起因性小腸粘膜傷害の抑制効果を調べた研究が行われ有望な結果が得られた.今後,他の薬剤を含め投与法,投与量などの検討が望まれる.

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要旨 本検討は,Crohn病(CD)における小腸出血の頻度,内視鏡検査の有用性および治療経過を明らかにすることを目的とした.当科においてダブルバルーン小腸内視鏡検査(DBE)を施行した155例のCD患者を対象とした.上下部消化管内視鏡検査で出血源を指摘できない,(1)DBE施行前の顕出血例,(2)出血源検索目的のDBE施行例,(3)出血症状の有無にかかわらずDBEで出血源を指摘しえた症例,を小腸出血例と定義した.小腸出血例は15例(9.7%)であり,このうち10例(66.7%)は,DBEで出血源を同定しえた.内視鏡的止血術(6症例)を含む保存的治療によって,すべての症例で一時止血が得られた.再出血は,15例中5例(33%)に認められ,累積非再出血率は,12か月後で73%,36か月後で63%だった.出血が原因で外科手術に至った症例や死亡例はなかった.再出血例5例は,非再出血例10例と比較し,出血部位が吻合部である頻度が有意に高かった.病型,初回出血後の治療内容および内視鏡的止血術の有無別での比較では,再出血例と非再出血例に明らかな相違を指摘できなかった.

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要旨 原因不明の消化管出血に対してカプセル内視鏡(VCE)およびダブルバルーン内視鏡(DBE)を施行した117例のうち,血管性病変と腫瘍性病変以外の小腸疾患について内視鏡所見を遡及的に検討した.その結果,特発性虚血性小腸炎,Behçet病,放射線性小腸炎,門脈圧亢進症性小腸症,およびMeckel憩室が小腸出血性病変の原因として重要と考えられた.特発性虚血性小腸炎は全周性区域性潰瘍を特徴とし,急速な管腔狭小化を伴っていた.Behçet病に伴う出血性病変は多発する円形潰瘍を特徴としていた.放射線性腸炎では絨毛萎縮と血管拡張を認めた.門脈圧亢進症性小腸症では血管拡張のみならず浮腫状粗糙粘膜が特徴的であった.一方,VCEのみでMeckel憩室を診断することは困難で,X線とDBEが診断に有用であった.出血性小腸疾患の原因として,これらの記病変もその原因となり得ることを念頭に置いた慎重な診断が望まれる.

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要旨 バルーン内視鏡を用いることで深部小腸の出血性疾患を内視鏡的に診断・治療することが可能になった.バルーン内視鏡は深部小腸でも良好な操作性を保つことができ,鉗子口も有していることから,電気焼灼法,止血クリップ,局注法,ポリペクトミー・EMRなど,胃や大腸で用いられている方法を深部小腸でも用いることが可能である.小腸出血の原因となる病変として,血管性病変,潰瘍性病変,腫瘍性病変,静脈瘤,憩室などがあり,病変種類に応じた治療方法を選択する必要がある.しかし,内視鏡治療を行うためにはタイミングよく検査を行って病変を見つけることが必要であり,そのためにはバルーン内視鏡のさらなる普及が望まれる.

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 〔患 者〕 60歳代,女性.

 〔主 訴〕 特になし.

 〔現病歴〕 2006年7月,2型糖尿病で近医に入院中,検診目的の上部消化管内視鏡検査で胃病変を認めたため,当院へ紹介された.

 〔既往歴・家族歴〕 特記事項なし.

 〔身体所見〕 バイタルサインに異常なく,胸腹部に異常所見なし.

 〔血液検査所見〕 脂肪肝による軽度の肝障害と糖尿病(HbA1C 6.9%)を認めるが,貧血や腫瘍マーカーの上昇は認められない.

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はじめに

 今回はリンパ球・組織球・造血器腫瘍の鑑別について解説する.

 血液細胞(リンパ球,赤芽球,顆粒球,マクロファージ,血小板)は,すべて骨髄の幹細胞に由来する.幹細胞が分化していくとその機能により,形態および抗原性が異なってくる(Fig. 1)1)2).Fig. 1のように分化に従い抗原の変化がみられる.これらの多くの抗原は,単離細胞浮遊液を用いたフローサイトメトリー(flow cytometry ; FCM)による検索が中心である.しかしながら,病理検索ではパラフィン包埋標本が主体である.今回は血液細胞について簡単に解説する.資料として,Table 1にパラフィン材料でも染色可能な血液細胞関連抗体を示す.

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欧文目次

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DBEの基本を再確認するには,必携のアトラス

 小腸内視鏡は,現在学会や研究会で研究対象として隆盛を極めている.また,日本に限らず世界でも臨床応用が急速に進んでいる.その礎をつくられた山本博徳先生の本ができた.過去を振り返ると,カプセル内視鏡(VCE)の臨床応用が始まって間もなくダブルバルーン内視鏡(DBE)が作製された.当時のわれわれの心境は,「そんなの信じられない」であった.間もなく,DBEが実際に現れ,山本先生が指導に来られた.多くの驚きと期待でDBEの使用が始まった.壮大なマジックを見るような思いであった.それまで小生の施設では,小腸疾患の多くはX線検査で診断され,プッシュ式内視鏡や術中内視鏡で確認する作業が行われてきた.それで不自由はないと思ってきた.現在も小腸疾患の初回診断はX線検査が行われ,それは有用性を失ってはいない.ただし,そのような世界は九州のわれわれの関連施設に限られるようである.DBEの挿入技術は著しく進歩している.それに伴いDBEの診断能も日進月歩である.本書では,まず手技に関する総論に相当のページが割かれている.その内容は,DBEの仕組み(なぜ小腸全域を観察できるのか),DBE検査を行うに当たって(知っておくべき基本事項),挿入手技(効率のよい挿入に,基本原理はここでも活きる),偶発症と防止策(特有の偶発症を理解することで,事前に防止できる),治療手技(内視鏡治療の実際)である.DBEが普及し多くの診療に使用されているが,基本に立ち戻って確実で安全な操作をしてほしいとの希望が込められている.DBEの安全性に関する治験が行われ保険申請前でもあり,重要な願いであろう.海外にも極めて多くのDBE使用者がおり,既にアトラスが出版されている.本書は,それに負けない内容になっていると思われる.

編集後記 斉藤 裕輔
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 近年,高齢者の増加,薬剤の多用などにより,原因不明消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding ; OGIB)を呈する患者数は増加している.一方,カプセル内視鏡(video capsule endoscopy ; VCE)およびバルーン小腸内視鏡(balloon enteroscopy ; BE)の開発・普及により,小腸内視鏡診断は目覚しい進歩を遂げ,OGIBにおいて主要な位置を占める出血性小腸疾患に対する診断・治療も可能となった.これら現状を踏まえて,小腸出血性疾患の原因疾患,VCE,BE,造影検査やCTなどそのほかのmodalityの使い分けと位置づけ,さらに,これらの最新の診断機器を用いた場合の出血源診断能など,OGIB診断・治療の現状と問題点を明らかにする目的で本号が企画された

 まず,序説で松井がOGIBが増加している現状と,近年の検査法の進歩,問題点について概説した.岡論文ではOGIBに対する診断・治療の進め方について述べられた.特にVCE,BEなどの新しい診断機器と,従来の小腸造影検査,腹部US,CT,血管造影検査などの効率的な診断法の組み合わせと,内視鏡的止血手技について提示された.次に,出血性小腸疾患に対する診断手技として,中村論文ではVCEの適応と禁忌,具体的検査法と効率のよい読影法が解説された.工藤論文ではsingle BEの工夫として,炭酸ガスを用いて深部挿入が可能となり患者負担が軽減すること,今後のNBI(narrow band imaging),拡大機能の搭載などについて解説された.松田論文ではOGIBに対する844件のdouble BEの診断・治療成績について疾患ごとの成績が示され,OGIBの診断・治療におけるBEの重要性が強調された.蔵原論文では出血性小腸疾患診断における小腸X線造影検査の位置づけと有用性について解説され,特に壁外発育型GIST(gastrointestinal stromal tumor)の診断において小腸X線造影検査の有用性が報告された.

基本情報

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胃と腸
45巻3号 (2010年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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