胃と腸 45巻12号 (2010年11月)

今月の主題 特殊型胃癌の病理像と臨床的特徴

序説

特殊型胃癌とは 九嶋 亮治
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 従来から「胃癌取扱い規約」では胃癌のうち高頻度に出現する腺癌を一般型とし,そのほかを特殊型としてきた(Table 1, 2).1999年に発刊された第13版1)では腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,カルチノイド腫瘍とその他の癌が記載され,その他の癌として小細胞癌,未分化癌,絨毛癌とα-fetoprotein産生腺癌が挙げられていた.その後,多くの研究成果や症例報告を踏まえて11年ぶりに改訂された第14版2)では,特殊型をカルチノイド腫瘍,内分泌細胞癌,リンパ球浸潤癌,肝様腺癌,腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,未分化癌とその他の癌とした.その他の癌として絨毛癌,癌肉腫,浸潤性微小乳頭癌,胎児消化管上皮類似癌と卵黄㌑腫瘍類似癌を挙げることにした.発生頻度や用語などを再考し,Epstein-Barrウイルスと関連するリンパ球浸潤癌を低分化腺癌充実型から特殊型の1つとして独立させた結果である.

 また,「胃癌取扱い規約第14版」では“一般型の胃癌の一部に特殊型の組織像がみられるものは,その旨を診断に付記する"ことになっている.内分泌細胞癌,肝様腺癌を含むα-fetoprotein産生胃癌,扁平上皮癌や浸潤性微小乳頭癌では分化型癌成分がみられることが一般的であり,分化型癌がそれらの前駆病変であることが明らかになってきたからである.

主題

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要旨 「胃癌取扱い規約第14版」によると,発生頻度の低い胃癌は特殊型に分類される.この特殊型胃癌のなかには生物学的振る舞いが侵攻性で臨床的に極めて高悪性度の癌が含まれており,胃癌診療の現場では,その臨床病理学的特徴を理解しておく必要がある.特殊型胃癌は腫瘍の発育様式と増殖能により,様々な肉眼像を呈し,また病巣部粘膜内に腺癌が併存するものは一般型胃癌の特徴を部分的に併有しうる.以上の肉眼的特徴の指摘とともに特殊型胃癌の組織像を供覧した.

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要旨 1994~1998年に当院で切除された,SM以深の胃癌468例を特殊型胃癌(「胃癌取扱い規約第14版」)に焦点を当てて検討した.特殊型は43例(9.2%)であり,内分泌細胞癌8例,リンパ球浸潤癌21例,肝様腺癌14例であった.これらの第13版における組織型はpor1 32例,pap 4例,tub2 4例,tub1 1例,por2 1例,nec 1例であった.全例で予後が確認でき,内分泌細胞癌と肝様腺癌の5年生存率は25.0%,35.7%であり,SM以深胃癌全体の66.0%に比べ有意に低かった.リンパ球浸潤癌は95.2%で,有意に高かった.また,今回の検討期間には含まれていなかったが,過去に扁平上皮癌5例,腺扁平上皮癌4例を経験しており,これらを第14版での診断基準で再検討すると扁平上皮癌1例,腺扁平上皮癌4例であった.特殊型は頻度が低く,その診断は困難であるものの今回の改訂で大幅に増加し,今後その重要性が期待された.

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要旨 胃カルチノイドの多くは胃底腺領域に発生するenterochromaffin-like細胞カルチノイドであり,高ガストリン血症の有無や背景粘膜により,Type I : A型胃炎に伴うもの,Type II : 多発性内分泌腫タイプ1/Zollinger-Ellison syndromeに合併するもの,Type III : sporadicなもの,の3群に分類される.Type IとType IIは内分泌細胞胞巣(ECN)を経てカルチノイドを発生し,それらが多発する傾向があるが,Type IIIはECNを伴わず,単発が多い.リンパ節転移の指標としては腫瘍径と深達度が有用である.胃内分泌細胞癌は,高率に脈管侵襲や遠隔転移を来し予後不良な高悪性度癌であり,先行発生した腺癌から発生し内分泌細胞への分化を示す.胃カルチノイドと胃内分泌細胞癌は,組織発生,病理形態学的特徴,遺伝子異常,悪性度が全く異なる癌腫である.

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要旨 当院における胃・十二指腸カルチノイドの治療成績を検討した.胃では15例中4例にリンパ節転移を認め,3mm大および20mm大のRindi分類Type III,100個以上病変を認めたRindi分類Type Iおよび15mm大のRindi分類不明の病変であった.十二指腸では10例中2例にリンパ節転移を認め,それぞれ6mm大および8mm大で下行部の病変であった.深達度は全例が粘膜下層に限局していた.内視鏡的治療の適応は粘膜下層までに限局した病変で画像検査上リンパ節転移がなく,胃では10mm以下の少数のRindi分類Type I病変,十二指腸では球部の10mm以下が適応と考えるが,5mm以上ではリンパ節転移の可能性を否定しえないと考える.

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要旨 胃のリンパ球浸潤癌は腫瘍組織内外にリンパ球浸潤が高度な組織型で,EBV(Epstein-Barr virus)感染が高頻度に関連している.「胃癌取扱い規約第14版」では低分化腺癌充実型(por1)から特殊型として独立した位置づけとなった.当院で治療した胃癌症例からリンパ球浸潤癌を抽出し,EBV陽性群とEBV陰性群に分類して臨床病理学的に検討した.リンパ球浸潤癌は59例で胃癌全体の2.5%,EBV陽性群は43例(73%),EBV陰性群は16例(27%)であった.肉眼型は早期癌では混合型が,進行癌では2型が多く,粘膜下腫瘍の形態をとるものが多く認められた.深達度は粘膜下層症例が多く(61%),粘膜癌は1例も認めなかった.EBV陽性群は男性優位が顕著(84%)で,胃の近位部に大部分(95%)が存在していた.組織学的には粘膜下以深でリンパ球浸潤癌の特徴を示すが,粘膜内成分では中分化型管状腺癌(tub2)にリンパ球浸潤を伴うlace patternの性質を有していた.EBV陽性群の大部分(86%)が腺境界部に存在していた.リンパ球浸潤癌は予後良好な症例が多く,腫瘍の性質に応じた治療を行うためにも,肉眼診断,生検診断の時点で予測をつけることが重要と考えられた.

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要旨 リンパ球浸潤胃癌(GCLS)は種々の報告よりEBV(Epstein Barr virus)との関連のある予後のよい癌として認識されている.当院で内視鏡切除あるいは外科切除が行われた胃癌症例 2,060例(内視鏡切除 1,395例,外科切除 665例)の中でGCLSと診断された18例(0.9%)を対象に臨床病理学的特徴,予後,ならびにEBVとの関連について検討を行った.また,その肉眼的特徴である,粘膜下腫瘍様の発育形態から実地臨床の中で問題となる鑑別疾患についてその特徴を検討した.

肝様腺癌―病理の立場から 岸本 充
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要旨 肝様腺癌は肝細胞様形質を呈する高度悪性な腺癌の亜型の1つである.AFP産生腫瘍の代表的組織型であるが,AFP非産生性の場合もある.高分化ないし中分化な腺癌に類似する腺癌部と,肝細胞癌に類似する組織像を呈する肝様部とから成り,肝様部では,細胆管様構造,棘状小体,硝子球などが認められる.低分化充実性腺癌や原始腸管型腺癌などは,肝様の組織像の有無や肝細胞分化形質の同定により鑑別する必要がある.近年,細胆管様構造では膜輸送蛋白のMRPsが,腫瘍細胞ではglypican 3,PLUNC,SALL4などが陽性となると報告されている.肝様腺癌の発生機序は不明だが,ATBF1(AT motif binding factor 1)の機能喪失や,hepatocyte nuclear factor-4αやSALL4の異常発現などの関与が示唆されている.

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要旨 当院で外科切除され,組織学的に肝様腺癌と診断された36例36病変の臨床病理学的特徴を検討した.約90%が進行癌で,2型病変が最多であった.内視鏡像は潰瘍辺縁がシャープで周堤隆起が非腫瘍に覆われる病変が多く,易出血性で潰瘍底に凝血塊が付着する病変も認められた.病理組織学的には全病変の癌浸潤部において肝様構造を有していた.進行癌に限ると,静脈侵襲のみが通常型胃癌と比べ有意に高かった.同時性と異時性肝転移は約20%と約40%で,合わせて約60%であった.胃癌死した症例は55.6%(生存期間中央値10か月)と予後不良であった.ただし,肝転移を認めなかった症例では69.2%が5年以上生存していた.

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要旨 新規胎児癌蛋白であるGPC3(glypican3),SALL4を指標としてAFP産生胃癌と関連概念について再検討した.AFP,GPC3,SALL4を同時に発現する組織は腸管などの胎生初期組織と胚細胞腫瘍の一部のみが知られている.これらの発現パターンからAFP,GPC3,SALL4は消化管における胎児分化マーカーとみることができる.AFP産生胃癌はこれらの胎児性マーカーを発現しており,胎児分化を示す胃癌と位置づけられる.胎児消化管類似癌や肝様腺癌ではAFP産生がなくてもGPC3,SALL4の発現が認められる.AFPに加えてGPC3,SALL4をマーカーとして用いることで,AFP産生胃癌,胎児消化管類似癌,肝様腺癌といった腫瘍は胎児分化を示す胃癌として位置づけられ,胎児型腺癌として包括的に理解することが可能である.

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要旨 当院での原発性胃腺扁平上皮癌23例について臨床病理学的検討を行った.平均年齢は63歳,男女比は1.6 : 1で通常型と同様であった.大部分はML領域に存在し,肉眼型は潰瘍形成型が大部分を占め,平均腫瘍径は7.4(0.8~20.5)cmと大きく,約90%が進行癌であった.また83%にリンパ節転移を有し1/3以上が非治癒因子を有するなど高悪性度を示し,予後は5年生存例で約22%と一般型腺癌と比べ不良であった.腺扁平上皮癌の組織発生については腺癌の扁平上皮化生が第1に考えられ,扁平上皮癌は腺扁平上皮癌の極型と考えられた.

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要旨 患者は64歳,男性.2008年8月より発熱,全身倦怠感が出現し,総胆管結石による胆管炎の診断のもと,内視鏡的乳頭括約筋切開術による加療中,胃に隆起性病変を認めた.再検査の生検で絨毛癌と診断され当院を受診した.画像診断で他臓器に原発巣や転移などを疑う所見はみられず,胃原発絨毛癌の診断のもと外科手術を施行した.病理組織診断では壁深達度pT3,小彎,大彎,脾門リンパ節でpN2の所見を認め,免疫組織化学的に腫瘍細胞はhCG陽性であった.術後,合併症などはみられず,現在に至るまで再発は認めない.

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要旨 患者は52歳,男性.検診にて異常を指摘され当院を受診した.X線検査では,大きさ20mm大で中心にニッシェを伴った類円形の粘膜下腫瘍様隆起として描出された.深いニッシェ周囲には浅い不整形の陰影斑を伴っており,粘膜下腫瘍様の形態を呈した癌を疑った.肉眼形態よりSM2に浸潤した癌と診断したが,側面像では壁硬化,変形に乏しかった.内視鏡検査でも,壁強伸展で伸展不良所見を認めず,壁伸展の程度で隆起の丈が変化し,通常のSM癌より軟らかい印象であった.超音波内視鏡検査では第3層を主座とする内部エコー均一な低エコー腫瘤として描出され,SM癌が疑われた.中心陥凹部辺縁より採取した生検で低分化腺癌と診断され,幽門側胃切除術を施行した.病理組織学的所見では0-I+IIc型,poorly differentiated adenocarcinoma with lymphoid stromaと診断され,pT1b2(SM2),ly0,v0で,リンパ節転移は認めなかった.なお,EBV(Epstein-Barr virus)陽性であり,EBV関連胃癌と考えられた.

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要旨 患者は53歳,男性.1994年11月,検診の上部消化管X線造影検査にて異常を指摘され,当科を受診した.当科での上部消化管内視鏡検査では胃角部前壁に0-IIc型に類似した進行胃癌を認め,生検結果は中分化型管状腺癌であった.1995年1月,胃亜全摘術を実施した.腫瘍径は20×15mmであった.深達度はSSでリンパ節転移はなく,Stage IIであった.病理の結果chromogranin A陽性で,胃小細胞癌(内分泌細胞癌)と診断された.また隆起の辺縁に中分化型管状腺癌を合併していた.手術後UFTを投与され,経過は良好で術後50か月の生存を確認している.今回筆者らは自験例に文献的考察を加え報告した.

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要旨 50歳代,男性.1998年4月ごろからつかえ感を自覚.近医を受診し,上部消化管X線造影検査で胃角部の腫瘍を指摘されて当院に紹介され受診となった.上部消化管内視鏡検査では,胃角部の小彎中心にType 2病変を認めた.組織生検では低分化腺癌の結果であった.腹部CT造影検査では噴門部に10mm大のリンパ節腫大を認めたが,腹水・遠隔転移は認めなかった.1998年7月に胃全摘術,Roux-en Y再建を施行した.術後病理検査ではpT2N0P0CY0H0,pStage Ibの診断で,リンパ球浸潤癌と扁平上皮癌成分を認める腺扁平上皮癌であった.また,リンパ球浸潤癌の成分のみEBER-1が陽性であった.

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要旨 患者は50歳代,男性.検診のS状結腸内視鏡検査でポリープを指摘され,精査・加療目的で当院を受診となった.当院での全大腸内視鏡所見では上行結腸に径10mm大のIIc+IIa様の病変を認めた.拡大観察では辺縁はII型pit,中心の陥凹部は開大したII型様pitの構造を認めた.鋸歯状病変であり,少なくとも癌ではないと判断,病理学的検索を行う目的でEMRを施行した.病理はsessile serrated adenoma/polyp(inverted type)との診断であった.SSA/Pで陥凹型の形態をとる病変はまれと考えられ,興味深い症例であった.

早期胃癌研究会

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 2010年6月度の早期胃癌研究会は6月16日(水)に笹川記念会館にて開催された.司会は小澤俊文(坪井病院消化器内科)と斉藤裕輔(市立旭川病院消化器病センター),病理を鬼島宏(弘前大学病理生命科学)が担当した.画像診断レクチャーは,藤崎順子(癌研有明病院内視鏡診療部)が「バレット食道癌の内視鏡診断」と題して行った.

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欧文目次

編集後記 細川 治
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 本号「特殊型胃癌の病理像と臨床的特徴」の企画を浜田勉,九嶋亮治とともに担当した.その後,浜田は離島医療に従事するために編集委員を辞した.消化管画像診断にとっては掛け替えのない指導者を失った感を覚える.

 企画の端緒は「胃癌取扱い規約」の改訂にある.14版(2010年)では組織型分類が変更となった.同版の改訂点の説明に“特殊型に内分泌細胞癌,リンパ球浸潤癌と肝様腺癌を加えた"とある.改訂全体を俯瞰すると,国際派と国内派のせめぎ合いが,さらに一方に傾いたと感じられた.「胃癌取扱い規約」がわが国で出版されたのは1962年であり,国際的なUICCのTNM分類やWHO腫瘍分類に先行していたが,わが国の独自色が次第に薄まってきた.

基本情報

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胃と腸
45巻12号 (2010年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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