胃と腸 44巻2号 (2009年2月)

今月の主題 特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis)―概念と臨床的取り扱い

序説

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 特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis;IMP)は,最近わが国で初めて報告され,その疾患概念が確立された比較的まれな原因不明の腸疾患である.本疾患は腸間膜静脈硬化症に起因した還流障害による慢性虚血性大腸病変とされる1)2)

 われわれが経験した本疾患17症例と文献的に収集しえた本疾患50症例,計67症例の患者の年齢は28~86歳,平均61歳で,男女比は30:37である.発症は緩徐で,主症状は腹痛,下痢,便秘,腹部膨満などで,下血・血便は少ない.罹患部位は,回腸末端部から直腸に及ぶが,病変の程度は右半結腸,特に盲腸・上行結腸に強い.十分に完成された本疾患の臨床画像的特徴としては,腹部単純X線検査では右側腹部に線状石灰化像を認め,腹部CTでは大腸壁の肥厚,および腸管壁ないし腸間膜に一致した石灰化像がみられる3).注腸X線検査では壁硬化や不整,管腔狭小,拇指圧痕像や粘膜の浮腫状変化などの所見を呈し,大腸内視鏡検査では粘膜に暗青~赤色,あるいは褐色などの色調変化がみられ,浮腫や狭窄,びらん・潰瘍,血管透見像の消失などを伴う.

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要旨 特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis;IMP)自験例17例を用いて臨床病理学的検討を行い,以下の結果を得た.病変は全例で上腸間膜静脈支配領域の右半結腸を中心にみられた.組織学的には全例で粘膜深層の血管周囲性に膠原線維の沈着がみられ,その程度は腸管切除例でより高度であった.10例(58.8%)では部分的ではあるが表層上皮下に限局する膠原線維の沈着がみられた.免疫染色では,粘膜固有層に沈着する膠原線維はcollagen type Ⅲの発現が良好であった.IMPの組織所見では膠原線維の血管周囲性沈着と静脈壁の線維性肥厚が重要であり,免疫染色ではcollagen type Ⅲが有用であると結論した.また表層上皮下の沈着は,コラーゲン性大腸炎との鑑別を行ううえで重要となる新しい組織所見であった.

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要旨 特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis;IMP)は,1993年に岩下らにより提唱された疾患である.IMPは比較的まれではあるが,今日では確立した疾患概念として広く受け入れられている.臨床的には高齢者の右側結腸優位にみられる病変で,その病理組織学的特徴は,①腸管膜側の小静脈と壁内枝に石灰化や骨化を伴う著明な線維性壁肥厚,②著明な粘膜下の線維化,③粘膜内の血管周囲の膠原線維沈着,④主に粘膜下層の小血管壁内の泡沫細胞(マクロファージ)の出現,⑤血管炎の所見はみられない,とされている.病理組織学的に,鑑別の対象となりうる疾患は,IMPの組織学的変化の基本である静脈の変化と膠原線維の間質への沈着がみられるもの,あるいはそれと類似した所見がみられるものであり,myointimal hyperplasia of mesenteric veins,enterocolic lymphocytic phlebitis,アミロイドーシス,collagenous colitisなどが挙げられる.これらの疾患の存在を認識し,その臨床病理学的特徴を十分理解しておくと鑑別診断は容易であると思われる.

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要旨 特発性腸間膜静脈硬化症は,日本人を中心としたアジア人のみが罹患しているまれな疾患である.会議録を含み報告例139例をまとめると,平均年齢61.8歳,男女比は2:3であった.130例が日本人で,7例が台湾人,1例が香港人,1例がカナダに移住した台湾人であった.症状は腹痛が最も多く(62.6%),そのほか下痢,嘔気・嘔吐などであった.病変範囲は回盲部から横行結腸までが最も多かった(58.4%).また併存疾患として肝機能障害が最も多かった(18.7%).病因として親子,夫婦発症の症例があることから,漢方薬などの何かしらのtoxic agentにより起こっている可能性が考えられる.

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要旨 特発性腸間膜静脈硬化症のX線画像所見の中で最も特徴的なものは,主として右側結腸領域に腸管の走行に一致して分布する多数の点状,網目状,線状の石灰化である.この所見は腹部単純X線写真,腹部CT写真,注腸X線写真などで捉えることができるが,石灰化が著明でなく内視鏡的粘膜変化のみが先行する場合もある.石灰化は,腸間膜付着側でより著明に認められ線状のものは腸管の短軸方向に走る.注腸X線所見では病変部腸管の拇指圧痕像,浮腫性粘膜,バリウム斑を伴う粘膜粗ぞう,haustraの形成不良・消失,辺縁鋸歯状不整,偽憩室様変形,壁硬化,伸展不良,管腔の狭小化などを認める.腹部CT所見では病変部腸管のびまん性壁肥厚,腸管壁内,壁周囲(腸間膜付着側),腸間膜内に点状,線状の石灰化を認める.造影CT静脈相の三次元画像解析は静脈壁石灰化の程度,血管罹患範囲の把握などに有用である.血管造影では腸間膜動脈分枝,辺縁動脈,直動脈の狭小化・蛇行,細枝の減少,直動脈や辺縁動脈に沿う静脈の拡張・蛇行,造影不良などを認める.

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要旨 特発性腸間膜静脈硬化症は,病変部腸管の静脈に石灰化を来し,慢性虚血性の病状経過をとるまれな疾患である.病変は盲腸や上行結腸を主とした右側結腸に好発し,直腸やS状結腸にはまれである.大腸内視鏡所見では,粘膜面は暗紫色や暗黒色などの特徴的な色調を呈し,腸管浮腫によりhaustraの腫大や不明瞭化を認める.さらにびらんや潰瘍を合併したり,腸管の変形や狭小化を伴う場合がある.腸閉塞症状を繰り返し,X線所見で腸管壁に沿った石灰化を認める症例では本症を疑い,積極的に大腸内視鏡検査を行うことが診断に重要である.

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要旨 形態学的あるいは病理学的にidiopathic mesenteric phlebosclerosis(IMP)は,原因不明であり,治療法ならびに予後はほとんど不明である.本研究はIMPの予後を知ることを目的とした.対象はIMPと診断された14例である.初回形態とその後の形態の推移を中心に経過観察を行った.3例は症状の進行により手術を要した.24か月以上経過観察できた未手術例7例と対比して形態の差異をみた結果,未手術例7例には,明らかな形態の進行性変化はなく,初回形態の重症度が軽度であることがわかった.この結果より発症初期から比較的短時間に狭窄と壁肥厚が進行する症例は閉塞症状のため手術となる.一方,非進行例では長期間ほとんど無症状であり,形態変化もなかった.以上よりIMPには2病型があると結論した.

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要旨 〔症例1〕は80歳,男性.便潜血陽性にて下部消化管内視鏡検査を施行された.盲腸から横行結腸にかけて軽度の浮腫状粘膜と青銅色調の粘膜を連続性に認めた.〔症例2〕は52歳,男性.注腸検査にてポリープを疑われ下部消化管内視鏡検査を施行された.盲腸から横行結腸にかけてわずかに粘膜の色調が青く,静脈と考えられる血管の拡張が目立った.20か月後の下部消化管内視鏡検査では,粘膜は青銅色を増すようになっていた.2例とも腹部X線,腹部CTのいずれでも腸管壁周囲に明らかな石灰化像は認めなかった.しかし生検組織では,粘膜固有層の血管周囲に膠原線維が増生していることと,静脈壁にHE染色で染まる無構造物質が沈着していることから,特発性腸管膜静脈硬化症と診断した.この2例は石灰化を欠き,無症状でもあり,本症の初期像を捉えていると考えられた.

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要旨 症例は68歳,女性.主訴は右側腹部痛と水様性下痢.腹部CTと大腸内視鏡検査,生検で回盲部から横行結腸に静脈硬化性大腸炎の所見を,さらに全大腸の表層粘膜上皮直下に帯状膠原線維を認めた.異常沈着した膠原線維を免疫組織化学的に検索した結果,帯状膠原線維はIV型コラーゲン陰性,テネイシン陽性であった.一方,血管周囲性の膠原線維はIV型コラーゲンに血管壁内で陽性,血管周囲で陰性,テネイシンには両者で陰性であった.本例の帯状膠原線維の性状はcollagenous colitisのそれと同じであったが,静脈硬化性大腸炎では沈着した膠原線維を検討した報告がなく,collagenous colitisの合併症例か否かについての確証は得られなかった.

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要旨 患者は52歳,女性.12歳時より下血を繰り返していた.52歳時に精査目的にて当科入院.下部消化管内視鏡で直腸粘膜は暗赤色で静脈のうっ滞がみられた.腹部CTでは直腸間膜の著明な肥厚および石灰化が認められた.血管造影では上直腸静脈の造影効果は乏しく,明らかな動静脈奇形の所見はみられなかった.以上より,特発性腸間膜静脈硬化症が最も疑われた.保存的治療に反応しない慢性的な下血症状に対し,腹腔鏡補助下超低位前方切除と回腸人工肛門造設術を施行した.病理組織検査にて直腸全層に拡張した血管が認められた.血管壁は静脈様,動脈様構造が様々な形で互いに吻合しており,動静脈奇形と診断された.若年時に発症し,長年の経過をたどる下血には,動静脈奇形を考慮する必要がある.

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要旨 患者は73歳,女性.2か月近く前から続く右下腹部痛にて近医に受診し,精査目的に紹介され入院となった.注腸X線検査,下部内視鏡検査にて上行結腸に約5cm大の潰瘍限局型の進行癌を指摘され,右半結腸切除術を施行された.肉眼的に非腫瘍部の粘膜は暗青色調で軽度浮腫状であった.組織学的に腫瘍は高分化腺癌で漿膜下層まで浸潤していた.粘膜下層の線維性肥厚,粘膜深層と粘膜下層の血管周囲にみられる膠原線維の著明な沈着,静脈壁の線維性肥厚および一部の石灰化などの所見により,上行結腸癌に合併した特発性腸間膜静脈硬化症と診断した.癌の合併例の報告は少なく貴重な例であり,大腸炎の長い経過中に癌を合併する,いわゆるcolitic cancerとは異なる症例として報告した.

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要旨 患者は74歳,女性.右下腹部痛にて近医で注腸造影検査を実施したところ,異常を指摘され当科を受診した.注腸造影では虚血性腸炎に類似した所見,腹部CT検査にて上行結腸を中心に石灰化を認めた.大腸内視鏡検査では粘膜は暗紫色,浮腫状を呈しており,同部位からの生検にて粘膜内と粘膜下の静脈壁の肥厚とフィブリン滲出物を認めた.これらの所見より特発性腸間膜静脈硬化症と診断した.また,本症例は十二指腸癌と転移性肝腫瘍を認めた.本疾患はまれであり,文献的考察を踏まえて報告する.

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要旨 患者は30歳代,男性.下痢,血便にて当院を受診した.大腸内視鏡検査にて全大腸にびまん性の浮腫,潰瘍を認め,全大腸炎型の潰瘍性大腸炎(UC)と診断し,強力静注療法にて入院加療し緩解導入した.腹部単純X線写真では上行結腸に垂直に走行するひも状の石灰化像を多数認め,CTにおいても腸壁および腸間膜静脈分枝の石灰化像が認められた.大腸内視鏡検査では直腸はUCの緩解粘膜であったが,上行結腸の粘膜は浮腫状で暗緑色を呈し,毛細血管の増生を認めた.注腸X線検査にて,上行結腸の凹凸と浮腫状粘膜を認めた.病理組織所見では,UCの活動性の像を呈さず,粘膜間質の血管壁と粘膜筋板にCongo red染色陰性で好酸性無構造の沈着物が認められ,石灰化は呈していなかった.以上の所見から特発性腸間膜静脈硬化症と診断した.本例では10年にわたる漢方薬(清上防風湯(R))の服用歴があり,病因との関連性も示唆された.特発性腸間膜静脈硬化症に起因する症状は認めないため,外来でUCの緩解維持療法を継続中である.

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要旨 症例は72歳,女性.下腹部膨満感,下痢を主訴に受診した.注腸X線,大腸内視鏡,腹部CT,大腸生検のいずれも特発性腸間膜静脈硬化症の典型的所見を示していた.内科的に3年間経過観察し,突然の誤嚥性肺炎で死亡後に剖検した.初診から3年後の3DCT像では,大腸壁内と腸間膜静脈の石灰化が著明に増強し,右側大腸から左側大腸に進展していた.確定診断後に経過観察し,剖検に至った本疾患の文献報告は,本症例が世界初である.本疾患は1991年の第1例目以降,208症例が報告されているが,海外ではわずか9症例しか報告されていない.剖検所見と年次別の報告数の推移を中心に報告した.

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要旨 患者は68歳,女性.便潜血陽性の精密検査目的で行った大腸内視鏡検査で,右側結腸の粘膜色調異常を指摘された.その後も無症状であったが,5年半にわたって定期的に大腸内視鏡検査を行ったところ,暗青色調粘膜に加えて浮腫と静脈拡張が出現し,その程度が徐々に増強し,さらには発赤やびらんも伴ってきた.最終的に特発性腸間膜静脈硬化症と診断し,現在は保存的に経過観察中である.長期間に及ぶ自験例の内視鏡所見の推移を提示するとともに,本邦から報告された本症60例を加えて集計し,本症の臨床像を解析した.

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はじめに

 胃癌の画像所見の詳細な成り立ちが知りたい.自分が行った術前精密検査は,癌の肉眼所見を正確に描出していただろうか? 的確な読影ができていたのだろうか? 癌組織型や背景粘膜はどのような状態だったのか? ひだ集中の組織学的な成因は何だったのか? SM浸潤部はどこでどのように浸潤していたのか? このように日常診療においては様々な画像診断上の疑問が生じるものである.個々の疑問を解決しその結果を撮影技術や診断能の向上に還元させるには,画像所見と組織所見の対比検討が必須となる.しかし,実際にX線・内視鏡所見,切除標本の肉眼所見や組織所見をそれぞれ個別に眺めてみても組織所見を加味した画像所見の細かい成り立ちはよくわからない.この問題を解決するには,われわれの行っているコンピューター画像処理を利用した臨床画像・切除標本肉眼所見・組織所見の徹底的な対比1)~4)が有用である.対比のポイントは,“切除標本画像の回転"であるが,以下症例を呈示しながら解説していきたい.

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はじめに

 粘液の主体を成すムコ物質はプロテオグリカンと糖蛋白質に大別される.粘液組織化学は,このムコ物質を対象とする組織化学の一分野である.本稿では,粘液の固定法,組織化学的染色の原理とその意義について解説したい.

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 2008年7月26日に第9回臨床消化器病研究会がパシフィコ横浜で開催された.「消化管の部」と「肝胆膵の部」に分かれ,「消化管の部」では主題1.大腸 : 「大腸腫瘍性病変の内視鏡診断─通常観察から拡大観察まで」,主題2.食道 : 「表在型食道扁平上皮癌の深達度診断」,主題3.胃 : 「胃がんの深達度診断─私はこの所見をこう読む」の3セッションが行われた.

早期胃癌研究会

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 2008年9月の早期胃癌研究会は9月17日(水)に笹川記念会館国際会議場で開催された.司会は八巻悟郎(こころとからだの元氣プラザ),清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科),石黒信吾(PCL大阪/病理・細胞診センター)が担当した.また,第14回白壁賞は浜田勉(東部地域病院内科),第33回村上記念「胃と腸」賞は八尾隆史(順天堂大学人体病理病態学)が受賞され,表彰式と受賞講演が行われた.

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要旨 患者は44歳,女性.検診の胃X線検査で病変を指摘され,前医を受診した.胃内視鏡検査にて粘膜下腫瘍を指摘され,超音波内視鏡下穿刺術目的で当科を紹介された.胃X線および内視鏡検査にて,胃体上部後壁に径6cm大のブドウの房状の粘膜下腫瘍を認めた.超音波内視鏡検査では,胃壁第4層と連続性を有する均一な低エコー腫瘤として描出された.内視鏡的に病変周囲を切開し,その切開に沿って腹腔鏡下に腫瘍を切除した.切除標本の割面像において腫瘍は黄白色の大小様々な結節より成り,病理組織学的には粘膜下層を主体とした紡錘形細胞から成る多結節性の腫瘍であった.免疫組織化学染色ではα-SMAが陽性,c-KIT,CD34,S-100蛋白は陰性であった.以上より胃平滑筋腫と診断した.

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欧文目次

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 私は消化器病領域の中でも炎症性腸疾患を専門としている.潰瘍性大腸炎とCrohn病に代表される炎症性腸疾患は原因不明の難治性疾患で,わが国において近年増加の一途をたどっている.原因不明であることからも,その診断の基本は,原因が明らかな疾患を除外することにある.近年,基礎医学の進歩によりその病態が徐々に解明されつつあり,また内視鏡やX線造影検査による診断技術の向上で典型像を呈する症例の診断に困ることはなくなったが,いまだに確定診断に難渋する症例に遭遇することもまれではない.薬剤性腸炎や放射線性腸炎ならびに膠原病などの全身性疾患に合併する腸炎などは,詳細な病歴聴取だけでも除外診断が可能であり,虚血性腸炎などの血管性腸炎も特殊な場合を除き臨床経過と内視鏡所見で比較的鑑別が容易である.しかし,感染性腸炎との鑑別は治療法が正反対になる場合もあり,非常に重要である.

 日常診療の中で,腹痛・下痢・発熱を主訴に来院する患者に占める感染性腸炎の割合は,炎症性腸疾患に比し圧倒的に高いことは紛れもない事実であるがために,その中でわずかに含まれている炎症性腸疾患が,時に見過ごされている.すなわち,内視鏡やX線造影検査まで行っていれば潰瘍性大腸炎やCrohn病と診断できた症例が,適切な治療を受けられずに病態が悪化してしまう場合がある.一方で,内視鏡検査を行っても的確な診断がつけられず,漠然と潰瘍性大腸炎として誤った治療が行われ,病状が一向に改善しない場合もある.最近,性感染症の1つとして増加傾向にある赤痢アメーバによる感染性腸炎を潰瘍性大腸炎と誤診されたがために,metronidazoleの内服により2~3週間で治癒が可能であるにもかかわらず,長期間ステロイドホルモンが投与されてしまう症例などがその代表ではないだろうか.感染性腸炎は自然治癒することも多く,細菌性のものには有効な抗菌剤が数多く登場し,感染性腸炎と診断されても内視鏡検査まで施行することもなくほとんどの症例が軽快するため,逆に感染性腸炎に特徴的な内視鏡所見を知らない内視鏡医も多い.

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 創意工夫を満載した経鼻内視鏡検査の実用書が出版された.臨床の第一線で活躍されている大原信行先生の『患者にやさしい経鼻内視鏡ハンドブック』である.わが国は消化器内視鏡の分野において世界をリードする多くの臨床医,研究者を輩出し続けており,この著者もその1人と言える.著者は新しい診療ツールである経鼻内視鏡の臨床的意義をいち早く認識するとともにその問題点をも正確に捉え,独創的な工夫を加え続けており,その詳細を余すところなく本書で示している.この姿勢こそが,困難な問題を創意工夫により解決し,わが国の消化器内視鏡技術を世界のトップに押し上げた多くの先達に通ずるものである.

 略歴にある通り,著者はもともと外科医としてスタートしており,本書に示された多くの工夫には外科医としての経歴をうかがわせるものが少なくない.そもそもツールとしての上部消化管内視鏡の目的と意義は何であろうか? 疾患の存在を確認しその性状をできるだけ正確に捉えること,表層性の癌であればその広がりと壁深達度を診断すること,あるいは特記すべき異常のない状況を確認すること,そして,可能であれば疾患の治療(処置)にまで利用することである.しかし,第一線の臨床医にそのすべてが求められているわけではなく,求められるのは治癒が十分に期待できる早期癌の拾い上げや様々な疾患の存在・確認診断であり,高性能内視鏡や拡大観察でなければ見えないような微小癌までを発見することではない.では内視鏡により咽頭から十二指腸までの上部消化管疾患を同定し,患者の利益とするためには何が重要か? 言うまでもなく,検査に対する患者のコンプライアンスを高めることであり,機器の性能を十分に引き出すための内視鏡医の技術である.

編集後記 平田 一郎
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 特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis;IMP)は本邦から世界に向けて発信された疾患概念であるが,まれな症例であるため,今までにまとまった報告はなく,本邦の消化器医の間においてもこの疾患に対する理解が普及しているとは言いがたい.本号ではこの疾患に対して,その病理学的特徴,臨床症候,画像診断学的特徴,治療・経過・予後,ならびに鑑別診断までを主題の中で包括的に取り上げた.主題症例では興味深い病態を示すIMP症例が呈示されている.

 池田論文では17例という多数例での検討でIMPの病理学的特徴が述べられ,特に上皮直下の膠原線維沈着に関してcollagenous colitis(CC)との相違が膠原線維染色で検討されている.主題症例の西村綾子論文では,主病変以外の部に上皮直下にのみ帯状膠原線維沈着を認めた症例が提示され,IMPとCCの合併例か否か悩んでいるが,池田論文はそれに対する解決の糸口を与えるものであろう.照らし合わせてご覧いただきたい.

 また,西村拓論文では14例という多数例でIMPの経過と予後を検討し,進行型と非進行型の2型があると推定しており興味深い.小川論文では動静脈奇形を有する腸管がIMP類似の注腸X線所見を呈することが提示されていて興味深い.

 まれな疾患であるゆえ,病態が明らかでないIMPに関して包括的に取り上げたこのような企画は世界で初めてのものであり,読者のIMPに関する理解を深めるのに大いに役立つものと期待している.

基本情報

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胃と腸
44巻2号 (2009年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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