胃と腸 44巻1号 (2009年1月)

今月の主題 未分化型胃粘膜内癌のESD―適応拡大の可能性

序説

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 胃癌はLauren1)のintestinal type とdiffuse type,あるいはNakamuraら2)のdifferentiated type(分化型)とundifferentiated type(未分化型)に大別される.その違いは形態学的に腺腔構造を形成するか否かによるが,両者は肉眼所見,進展形式,転移形式など,様々な点で異なった特徴を呈する.胃未分化型腺癌はさらに,印環細胞癌(sig)と低分化型腺癌(por)に分けられるが,同じ病変内に混在して認められることも多い.また,症例によっては分化型腺癌と未分化型腺癌が混在した混合型と呼ばれる胃癌も存在し,胃癌取扱い規約では優勢を占める組織型が病理組織診断として記載される.本号では混合型胃癌は除いて“純粋な”未分化型早期胃癌に対する内視鏡治療の適応拡大の可能性と問題点についてエキスパートの方々に執筆いただいた.

 従来,内視鏡治療は分化型早期胃癌を対象に行われ,未分化型早期胃癌は内視鏡治療の適応外とされてきた.その理由として,①粘膜内癌であってもリンパ節転移例が存在する,②腺頸部に沿った上皮下での側方進展や非連続的な広がりを示す症例があり,術前に正確な病変範囲診断を行うことが困難,が挙げられる.一方①Gotodaら3)の早期胃癌の臨床病理学的検討より,未分化型腺癌のうち2cm以下のUL(-)粘膜癌であればリンパ節転移が極めて少ないことが判明したこと,②内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic mucosal dissection ; ESD)の普及によって,従来の内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)とは異なり,十分なsafety marginを確保しながら一括切除することが可能になったことより,近年,未分化型早期胃癌に対する内視鏡治療の適応拡大が本格的に議論されるようになった.

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要旨 外科切除された胃癌症例のうち,粘膜内癌でリンパ節転移を来した症例について,病理組織学的ならびに免疫組織化学的特徴を明らかにし,さらに分化型と未分化型癌の混在がどの程度リンパ節転移に関与しているのかについて検討を行った.リンパ節転移陽性の粘膜内癌で有意に認められた特徴としては,ULの合併,腫瘍径,腫瘍組織が粘膜全層に存在していることが挙げられた.免疫組織化学的特徴としては,Ki-67陽性の増殖細胞の局在や腫瘍組織でのMUC5AC/MUC6の二層構造の消失が挙げられ,リンパ節転移の危険因子として,腫瘍の粘膜内における分化傾向の消失が最も重要と考えられた.組織型の特徴は印環細胞癌より低分化腺癌(por)がリンパ節転移を来しやすいことが示唆された.

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要旨 自験の外科切除未分化型胃粘膜内癌257例を用い,リンパ節転移陽性例の臨床病理学的,および免疫組織化学的特徴につき検討した.対象症例のリンパ節転移率は3.9%(10/257例)で,比較的若年者(p<0.05),腫瘍最大径が31mm以上の大きい病変(p<0.05),粘膜筋板(MM)への浸潤を認める病変(p<0.05)に高く,このうちリンパ節転移に寄与する有意な因子は大きさ(31mm以上:オッズ比10.7,95%信頼区間1.3~87.1)と深達度(MM浸潤:オッズ比4.4,95%信頼区間1.1~17.4)であった.また転移陽性癌はすべて印環細胞癌,もしくは印環細胞を伴う病変であったことも注目すべき事項であった.転移陽性癌に対する免疫組織学的検討では,全例胃型でp53蛋白発現はみられず,明らかな癌層内の2層構造やKi-67陽性増殖細胞の局在性はみられなかった.以上の結果および大きさ,潰瘍(UL)の有無とリンパ節転移の検討から,慎重な検討と患者への十分なインフォームドコンセントを行ったうえでESDが治療として考慮できる病変は,ULの有無に関係なく15mm以下の病変と結論する.

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要旨 胃癌治療ガイドラインによると,未分化型胃癌は内視鏡治療の適応ではないものの,Gotodaらの報告をもとに,リンパ節転移の可能性が低いとされる2cm以下で潰瘍のない粘膜内癌は適応拡大として内視鏡治療が行われているのが現状である.治療適応の決定に必要な,深達度と潰瘍合併および腫瘍径の術前X線診断は厳密な正確さが要求されることから,未分化型癌の病理組織学的な浸潤や進展形式の特徴を踏まえ診断する必要がある.未分化型癌は腫瘍径20mmで約半数が,また潰瘍を合併した40%強がSM浸潤であることから,比較的小さくても浸潤および潰瘍合併に留意し,精密検査や読影をすることが重要である.一方で,非癌の被蓋上皮を残しつつ粘膜内を側方に進展する病変は,IIb類似もしくは随伴IIbの形態を示し,これらはごく微細なX線所見であり,診断が困難な場合がある.さらに,背景粘膜が中間帯や萎縮領域に存在する病変は,胃小区模様の差としてとらえにくいことや,混在型癌は境界範囲が不明瞭となりやすい傾向があることなどから,範囲・進展診断には細心の注意が必要である.

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要旨 内視鏡的粘膜下層はく離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)の適応拡大が検討されている未分化型胃粘膜内癌の内視鏡診断について,通常観察を中心に述べた.未分化型癌の存在診断にあたっては,胃固有腺領域の褪色陥凹性病変に特に注意して観察することが重要である.粘膜内にとどまる未分化型癌では,陥凹底は平滑で凹凸不整はなく周囲隆起も認めない.また分化型癌と比べ,粘膜の中間層から深層を這うようにして浸潤する頻度が高いこと,非連続性に進展する場合があることにより,病変境界が時に不明瞭となることがある.内視鏡診断の際にはインジゴカルミン撒布によるコントラスト法の併用や観察する方向や距離,観察時の空気量を変えるなど注意深い診断が重要である.

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要旨 内視鏡下で粘膜に励起光を照射し,発生する自家蛍光を捉えてリアルタイムに画像化するのが自家蛍光内視鏡装置(autofl uorescence imaging videoendoscopy system : AFI )である.当院にて2005年1月~2008年6月に内視鏡的粘膜下層はく離術,もしくは外科切除術が行われた未分化型早期胃癌115例のうち治療前評価にAFIが行われた46例を対象に,AFIの未分化型早期胃癌に対する診断能を,白色光観察(white light imaging : WLI)および色素観察(chromoendoscopy : CE)と比較検討した.周囲の背景粘膜との色調差が明瞭で容易に認識できた病変の割合は,AFI 76.1%,WLI 56.5%,CE 60.9%で,AFIが色調差を認識しやすい傾向があった(p=0.120).境界が全周性に明瞭に認識できた病変の割合は,AFI 52.2%,WLI 45.7%,CE 47.8%で差がなかった(p=0.819).上記46例のうちESD適応拡大の対象となりうる内視鏡的深達度がMかつUL陰性であった24例を対象に,病変の広がりに対する診断能を検討したところ,各観察法の正診率はAFI50%,WLI 33.3%,CE21.7%であった(p=0.225).AFIはWLIやCEと比較して病変と背景粘膜との色調差を認識しやすいため範囲診断の正診率を向上させる可能性はあったが,今回の限られた症例数での検討では有用性を明らかにできる程度ではなかった.

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要旨 未分化型胃粘膜内癌・粘膜内側方進展のNBI併用拡大内視鏡像と,その範囲診断の可能性と限界について検討した.対象は2006年1月~2007年10月に当院で手術した未分化型早期胃癌12病変である.口側粘膜内進展境界をNBI併用拡大観察で診断してクリップでマーキングし,外科的手術後,その部位の組織像を検討した.検討部位は33部位であった.粘膜内進展は 組織学的に①癌が表面に露出している病変(16部位),②非癌上皮が表層を覆っているも腺窩の部分が癌で破壊されている病変(10部位),③粘膜の構造を保持したまま腺頸部を癌が浸潤している病変(4部位),④腺窩上皮には浸潤がなく粘膜固有層にのみ癌が浸潤している病変(3部位)に分類された.正診は③ 15/16(93.8%),② 8/10(80%),③ 0/4(0%),④ 2/3(66.7%)であった.それぞれの拡大像は,①はcorkscrew状血管像,②はdestructive structure sign と fine wavy microvessels pattern が特徴で不連続に続くことも多かった.③は胃炎と同様の血管・粘膜構造であり,④では粘膜模様内に太めの螺旋状血管が観察された.癌が露出した場合と非癌上皮に覆われていても腺窩が癌によって破壊されている場合は,NBI併用拡大で診断できる可能性が高かったが,非癌粘膜の腺窩構造を保ったまま腺頸部を癌が浸潤する進展形式では,NBI併用拡大観察による診断は不可能と考えられた.

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要旨 国立がんセンター中央病院で1999年1月~2005年12月の期間に内視鏡的切除が施行された未分化型腺癌112病変107症例の治療成績と長期予後を検討した.切除方法は strip biopsy 4病変,ESD 108病変であった.穿孔率1.8%,一括断端陰性切除率85.7%であった.“脈管侵襲がなく,2cm以下で潰瘍成分を認めない粘膜内癌”の一括断端陰性切除例を治癒切除と定義すると,治癒切除例および非治癒切除・追加外科手術施行例に比べ,非治癒切除・追加外科手術未施行例の長期予後は有意に不良であった.全生存期間に影響を与える因子として脈管侵襲(lyまたはv),深達度,水平断端と最終根治度評価後の追加外科手術の有無が挙げられた.

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要旨 3年以上の予後を判定するために,2000年1月~2005年9月に胃ESDが施行された未分化優位型粘膜内癌25例の治療成績を検討した.年齢中央値68歳(36~86歳),腫瘍径中央値20mm(6~43mm),観察期間中央値54か月(31~98か月)であった.未分化型適応拡大病変を潰瘍陰性,20mm以下の粘膜内癌と定義すると,この群に属する症例は7例で,他の18例は適応外病変であった.適応外病変のうち8例は潰瘍瘢痕合併例で,他の10例は潰瘍瘢痕非合併腫瘍径21mm以上例であった.偶発症はなく,一括切除率は96%(24/25),一括完全切除率は80%(20/25)であった.また,適応拡大群(潰瘍非合併,20mm以下)の一括完全切除率は100%(7/7)であった.一括完全切除20例中1例は腫瘍径35mm大の適応外病変であり外科切除が追加されたが,遺残,転移はなかった.他の19例は経過観察されたが,観察期間中央値54か月にて局所再発は認められなかった.不完全切除となった5例中3例に外科手術が施行され,1例に1群リンパ節転移を認めた.残りの2例は経過観察となったが,局所再発は認められなかった.本研究はretrospectiveで観察期間は54か月と短いが,適応拡大群に再発,現病死はなく,未分化型癌への適応拡大の妥当性が評価された.

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要旨 12か月以上経過観察しえた未分化型早期胃癌59例60病変を対象とし,内視鏡治療適応別に一括切除率,完全一括摘除率,不完全切除の要因,予後について検討した.一括切除率は,相対適応病変91.2%,適応外病変80.8%,完全一括摘除率は,相対適応病変91.2%,適応外病変65.4%で,適応外病変の完全一括摘除率は相対適応病変に比べて有意に低かった.不完全摘除例は12病変であった.側方断端陽性(不明)を1例,深部断端陽性を3例に認めた.分割切除は6例で,その要因は術中出血の止血困難3例,ULに伴う手技的困難2例,穿孔3例であった(重複あり).中止例は2例で,いずれもESD導入初期の術中出血に対する止血困難例であった.予後に関しては,相対適応病変33例および適応外病変のうち完全一括摘除された8例と不完全摘除3例の合計44例が外科的追加切除なく経過観察中(平均観察期間42.3±16.8か月)であるが,現在まで局所・転移再発および原病死例を認めなかった.

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はじめに

 赤松(司会) みなさん,お忙しい中お集まりいただきありがとうございます.本日の座談会のテーマは「未分化型胃粘膜内癌に対するESD(endoscopic submucosal dissection)適応拡大の可能性」です.ご存知のように,内視鏡治療の適応としては,現在“適応内病変",“適応拡大病変",“適応外病変"の3つに分けられています.後藤田卓志先生のご論文(Gastric Cancer 3 : 219-225, 2000.以下,Gotoda論文)に基づいて,適応拡大病変の条件がいくつか検討されていますが,未分化型の粘膜内(M)癌では,大きさが2cm以下かつ潰瘍(UL)を伴っていなければリンパ節転移の可能性が非常に低い病変であると考えられており,適応拡大の可能性があるとされています.ただし,未分化型癌というのは分化型癌に比べて範囲診断が難しく,リンパ節転移の問題もGotoda論文をそのまま受け入れてよいのかという意見もあります.本日の座談会では,①ESDの適応拡大とその問題点,②術前診断を正確に行えるか,③ESDの技術的な問題の3つに絞り,忌憚のないご意見をうかがいたいと思います.

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はじめに

 粘液の主体を成すムコ物質はプロテオグリカン(proteoglycan)と糖蛋白質に大別される.粘液組織化学は,このムコ物質を対象とする組織化学の一分野である.粘液の組織化学に関して2回にわたり,それぞれ①粘液の構造,②粘液の組織化学的染色の原理と意義を中心に解説したい.

早期胃癌研究会

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 2008年6月の早期胃癌研究会は6月18日(水)に東商ホールにて開催された.司会は川口実(国際医療福祉大学熱海病院内科)と趙栄済(大津市民病院消化器科),九嶋亮治(滋賀医科大学附属病院病理部)が担当した.画像診断レクチャーは平田一郎(藤田保健衛生大学病院消化管内科)が「炎症性腸疾患のとらえ方」と題して行った.

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 2008年7月の早期胃癌研究会は7月25日(金)にパシフィコ横浜にて開催された.司会は赤松泰次(信州大学内視鏡診療部)と田中信治(広島大学光学医療診療部),味岡洋一(新潟大学分子・診断病理学)が担当した.画像診断レクチャーは八尾隆史(順天堂大学人体病理病態学)が「小腸炎症性疾患の臨床画像と病理」と題して行った.

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欧文目次

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 この度,医学書院から上記『Dr.ウイリス─ベッドサイド診断学』と言う臨床医学書が出版された.監訳は京都の洛和会音羽病院院長の松村理司先生が担当し,実際には若い医師たちが関わって翻訳に汗を流した力作である.

 最後の索引欄まで合わせると実に700ページに迫る,すぐにベッドサイドで役立つ臨床本である.

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 「ここに答があった!」─これがこの本を手に取ってみての率直な感想であった.

 若手家庭医部会の仕事をしていると研修医からさまざまな相談を受ける.「いい家庭医・総合医になるには?」「どこまでを診療範囲とするのか?」「専門医などの資格は取らなくていいのか?」「家庭医は都会には向かないのでは?」などなど,回答に窮することも多い.しかし,この本をひもとくことで,これらに対する答えが明確になっていった.

編集後記 小山 恒男
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 「胃と腸」の1月号は夢のある主題であるべきだ.今年の巻頭を飾る「胃と腸」の主題は「未分化型胃粘膜内癌のESD─適応拡大の可能性」とした.しかし,難しい主題であった.ESDの適応は言うまでもなく,リンパ節転移の可能性が1%以下の癌である.Gotoda論文ではUL陰性の未分化型胃粘膜内癌のリンパ節転移率は0%であったが,症例数が少ないため95%信頼区間の最大値が2.6%であった.現時点での胃癌治療ガイドラインでは,転移の危険が低い癌と分類されているが,未分化型癌に対する適応拡大の是非に関しては異論も多い.

 ESDの適応を未分化型癌へ拡大するためには,多くのハードルがあった.まずは病理組織学的な危険因子を明らかにすること.最新の染色法を用いた危険因子の検討が行われた.次は診断.X線で範囲診断はどの程度可能か.内視鏡では?拡大内視鏡では?AFIでは?さらには,未分化型癌に対してもESDは安全に施行可能か.偶発症は?一括完全切除率は?長期予後は?日本を代表する施設からの力作が揃った.

 最終的には現在計画中の他施設共同前向き試験の結果を待たねばならないが,本号は未分化型胃粘膜内癌に対するESD適応拡大に関する現時点での到達点が示された.明日からの診療にぜひ,お役立ていただきたい.

基本情報

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胃と腸
44巻1号 (2009年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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