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私は消化器病領域の中でも炎症性腸疾患を専門としている.潰瘍性大腸炎とCrohn病に代表される炎症性腸疾患は原因不明の難治性疾患で,わが国において近年増加の一途をたどっている.原因不明であることからも,その診断の基本は,原因が明らかな疾患を除外することにある.近年,基礎医学の進歩によりその病態が徐々に解明されつつあり,また内視鏡やX線造影検査による診断技術の向上で典型像を呈する症例の診断に困ることはなくなったが,いまだに確定診断に難渋する症例に遭遇することもまれではない.薬剤性腸炎や放射線性腸炎ならびに膠原病などの全身性疾患に合併する腸炎などは,詳細な病歴聴取だけでも除外診断が可能であり,虚血性腸炎などの血管性腸炎も特殊な場合を除き臨床経過と内視鏡所見で比較的鑑別が容易である.しかし,感染性腸炎との鑑別は治療法が正反対になる場合もあり,非常に重要である.
日常診療の中で,腹痛・下痢・発熱を主訴に来院する患者に占める感染性腸炎の割合は,炎症性腸疾患に比し圧倒的に高いことは紛れもない事実であるがために,その中でわずかに含まれている炎症性腸疾患が,時に見過ごされている.すなわち,内視鏡やX線造影検査まで行っていれば潰瘍性大腸炎やCrohn病と診断できた症例が,適切な治療を受けられずに病態が悪化してしまう場合がある.一方で,内視鏡検査を行っても的確な診断がつけられず,漠然と潰瘍性大腸炎として誤った治療が行われ,病状が一向に改善しない場合もある.最近,性感染症の1つとして増加傾向にある赤痢アメーバによる感染性腸炎を潰瘍性大腸炎と誤診されたがために,metronidazoleの内服により2~3週間で治癒が可能であるにもかかわらず,長期間ステロイドホルモンが投与されてしまう症例などがその代表ではないだろうか.感染性腸炎は自然治癒することも多く,細菌性のものには有効な抗菌剤が数多く登場し,感染性腸炎と診断されても内視鏡検査まで施行することもなくほとんどの症例が軽快するため,逆に感染性腸炎に特徴的な内視鏡所見を知らない内視鏡医も多い.
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