胃と腸 44巻12号 (2009年11月)

今月の主題 消化管癌の化学・放射線療法の効果判定と問題点

序説

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なぜ今効果判定が問題となるのか

 胃癌をはじめとする消化管癌に対しての化学・放射線療法の効果判定法を確立することは,これまでも様々な面より検討されてきたが,まだ満足できる基準はないのが現状である.1979年のWHO Hand Bookなどに記載された規準の問題点とRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumor)が提案される過程は文献1に詳しく述べてあるが1),わが国では癌の臨床研究に携わる人々に必ずしも受け入れられてはいない.RECISTの問題点については他項で詳しく述べられると思われるが,本来最も重要視されるべき原発巣の評価がないことがその理由である.

 近年わが国で開発されたS1など,胃癌に有効な薬剤が広く使用され,また従来化学療法に見るべき成果がなかった大腸癌に対しても有望な治療法が広まり,客観的,科学的効果判定法の確立が求められている.消化管診断学が最も盛んで,レベルが高いわが国での確立が求められており,この分野で世界をリードしてきた本誌にとっても今号は重要なテーマと考える.

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要旨 食道癌ではJCOG9907試験において術前化学療法の有用性が報告されるなど,化学療法はほぼすべてのStageにおいて必要となってきており,食道癌全体の治療成績向上に必須となっている.胃癌においては最近,本邦から重要な臨床研究結果が相次いで発表された.すなわちACTS-GCおよびJCOG9912,SPIRITSという3つの第III相試験である.これらにより,本邦における胃癌治療の標準化の流れは一気に加速した.今後はHER2陽性胃癌におけるtrastuzumabを端緒とした分子標的治療薬の臨床導入が期待される.大腸癌に対する化学療法は,5-FU,irinotecan,oxaliplatinの3つの抗癌剤に加えて,bevacizumab,cetuximabに代表される分子標的治療薬の有用性が示され,その生存期間は無治療の6~8か月から今や2年を超える時代となった.そして,KRAS遺伝子変異例ではcetuximabやpanitumumabといった抗EGFR抗体薬の効果が期待できないことが明らかとなり,個別化治療が実践され始めた状況である.

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要旨 2009年1月,世界共通の効果判定規準であるRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)がversion 1.1に改訂された.RECISTの目的は,異なる第II相試験における奏効割合の比較可能性を高め,有効でない治療レジメンを第III相試験へ進めてしまう間違った意思決定を防ぐことにある.そのため,共通の効果判定規準では,観察値が真値に近いことよりも,バラツキが小さいことが,比較可能性のうえで重視される.RECISTが適用できずに他の規準を用いる場合にも,ランダム化,マスキング,第三者評価といった比較可能性を高める工夫が必要である.

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要旨 2009年にRECISTガイドラインの改訂版であるversion 1.1が発表され,実臨床に沿った実用的な評価方法に変更されており,単純化がなされている.一方で,改訂版RECISTには消化管癌原発巣の評価に関する記載はなく,転移巣のみで評価が行われることになっているため,消化管癌原発巣はRECIST評価ではnon-target lesionの扱いになる.本邦では従来から各種消化管癌取扱い規約に基づき原発巣の評価を行っており,これまでに原発巣を評価しないことで生じる弊害についても多数報告されている.本稿では各種消化管癌取扱い規約による原発巣評価法の概説と原発巣評価の意義に関して述べる.

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要旨 食道癌は化学・放射線療法に感受性の高い扁平上皮癌が多く,化学放射線療法(CRT)で臓器温存と根治が目指せる.原発巣の完全寛解(CR)が長期生存を期待できるsurrogate markerと見なせるとの報告が多く,CRT後の効果判定は重要である.「食道癌取扱い規約第10版」で追加された内視鏡的効果判定規準では,原発巣CRとは,(1) 腫瘍性病変を示唆する内視鏡所見がすべて消失している,(2) 治療前に原発巣が存在していた部位の内視鏡生検にて病理組織学的に癌を認めない,(3) 内視鏡検査にて全食道が観察可能である,(4) 活動性食道炎を示唆する内視鏡所見がない,という条件を満たすことであり,治療に伴う狭窄や食道炎が残存する場合は適切な時間をおいて繰り返し評価することが必要である.

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要旨 術前補助療法(NACRT/NAC)62例,根治療法(DCRT/DRT/DCT)79例を対象として,EUSによる食道癌原発巣効果判定の有用性と問題点を検討した.EUSによる効果判定は腫瘍厚1方向計測で行い,RECISTに準じて判定した.術前補助療法例の検討で,腫瘍厚の縮小率は病理学的効果とよく相関し,内視鏡判定と比べて奏効例を抽出できていた.しかし,効果判定時期が早期に設定されていることもあり,Grade 3の判定は難しかった.根治療法例の初回効果判定時期は平均2.4か月でCR率は32%,その後は平均5.7か月までに53%がCRと判定されていた.縮小率60%以上で層構造の回復がみられる症例にCR例が多く含まれたが,その時点でCRと判定することは適切とは言えなかった.EUSによるCR判定例の再発率は低く,EUSのほうが内視鏡より厳密にCRを判定できることが明らかとなった.salvage EMR例では高周波数細径超音波プローブによる深達度診断が有用であった.

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要旨 胃癌に対する化学療法は,近年飛躍的に進歩してきている.化学療法の効果判定はRECISTガイドラインが汎用されているが,胃癌大国の日本では胃癌原発巣の効果判定も重要であり,「胃癌取扱い規約」において胃癌原発巣のX線効果判定方法は確立されている.RECISTガイドラインでは胃癌原発巣は非評価病変となるが,日本におけるX線診断技術は世界でもトップクラスであり,今後も継承しつつ世界的に通用する基準へと発展させることが重要である.

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要旨 胃癌化学療法時の胃原発巣に対する内視鏡とCTによる効果判定結果を対比し,内視鏡評価の意義について検討した.当科で全身化学療法を施行した原発巣非切除の根治切除不能な進行胃癌175例のうち,化学療法開始後に内視鏡とCTで治療効果判定を行い,両検査の施行が2週間以内であった141回(74例)を対象とした.内視鏡とCTによる胃原発巣効果判定は87.2%(123回)で一致していた.効果判定不一致は7.1%(10回)で,全例で内視鏡はPDであったがCTではIR/SDであった.肉眼型4型の増悪所見をCTではよりとらえにくいという傾向がみられた(p=0.007).内視鏡による胃原発巣効果判定の有無により総合効果判定結果に相違が出るかを検討したところ,94.3%(133回)で一致していた.総合効果判定の不一致は5.7%(8回)で,全例内視鏡による胃原発巣効果判定を加えたことでPD判定となった.原発巣のPD判定32回中10回(31.3%)はCTのみではIR/SDとなり,総合判定のPD判定も52回中8回(15.4%)はCTのみではSDとなっていた.今回の検討より胃癌化学療法の総合効果判定については,内視鏡なしでもCTを行えば多くの場合は効果判定に変化は生じないと考えられるが,時にCTのみでは胃原発巣の進行を判断できない場合があり,内視鏡による評価を適宜行うことが必要と思われた.

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要旨 胃癌化学療法の効果判定として原発巣評価の重要性は本邦で広く認識されている.今回,筆者らはSonazoid(R)を用いた造影EUS検査を施行し,胃癌原発巣の化学療法効果判定を行い,その有用性について検討した.造影EUS検査は,腫瘍の形態的変化だけでなく,腫瘍のvascularityを評価できる新しい検査方法であり,従来の効果判定法である内視鏡検査などで判定困難な病変でも効果判定が可能である.胃癌を含む固形癌においては血管新生と患者の生命予後,転移との間に有意な相関関係があり,造影EUS検査による腫瘍のvascularityの正確な評価は,患者の生命予後,転移の予測に寄与するものと考えられる.

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要旨 一般的に化学療法の治療効果判定にはRECISTが用いられ,内視鏡の有用性は明確ではない.原発巣を切除せずに化学療法を先行した切除不能進行大腸癌症例を対象に,内視鏡による原発巣における化学療法効果判定の意義を検討した.今回の31例の検討ではRECISTの総合効果がPR,SD時には原発巣の内視鏡所見が増悪したものはなく,定期的な内視鏡検査は必要ないことが示唆された.一方,RECISTの総合効果がPD時,特にCTにて原発巣による腸管の通過障害が疑われた場合は腸管狭窄を来す可能性が高くなることから内視鏡での評価が望ましいと考えられた.今後はCTの弱点を内視鏡でいかに補うかについての検討が必要と考える.

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要旨 当院で初回治療を行った胃悪性リンパ腫42例における内視鏡的CRまでの期間中央値は,胃MALTリンパ腫21例では282日であり,胃DLBCL 21例では292日であった.治療前CTによる胃病変もしくは腫大リンパ節(長径>1cm)の認識は16/42例(38.1%)でのみ可能であった.認識しえた16例にCTを主体とした効果判定(以下,CT判定)を行ったところ,CTでは治療後早期に病変認識が困難となるため,CT判定CRまでの期間は胃MALTリンパ腫の3/3例(100%)で111日,胃DLBCLの11/13例(84.6%)で101日であった.しかし,CT判定CRと同時期の内視鏡では8/14例(57.1%)に内視鏡的かつ病理組織学的な腫瘍残存を認めた.内視鏡的効果判定はCTで認識困難な病変の変化をとらえ,病理組織学的検証が可能な点からも有用な効果判定法と考えられた.

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要旨 現在,消化管癌に対しては様々な化学・放射線療法が実施されており,その結果,近年,術前治療を施行された手術検体を取り扱うことが増えてきている.本稿では,化学・放射線療法の組織学的効果判定の基準を解説する.確実に組織学的効果判定を行うためには,まず,手術標本を適切に切り出すことが必要である.次に,組織診断において癌細胞の変性,間質の変化などから治療前に癌組織が存在していた範囲を推定し,実際に残存する癌組織と比較して,慎重に効果判定を行わなければならない.

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要旨 食道癌に対する治療は,内視鏡治療,外科手術,化学療法そして放射線療法があり,これらを効果的に組み合わせることで根治性が向上する.しかし,それぞれの治療法は,その侵襲度が大きく異なることに加え,どの治療またはどの組み合わせが個々の症例において最適であるかは現時点では予測不可能である.筆者らは,食道扁平上皮癌に対する根治的化学放射線療法の治療効果を予測するために,治療前に内視鏡的に採取した生検組織の遺伝子プロファイルを解析し,より精度の高い予測プログラムを開発するプロジェクトを2005年から開始した(UMIN-C000000459).さらには,外科手術の効果予測の検討を加えて,個々の症例において最も根治性が高く,有害事象が少ない治療を選択できる精度の高い治療前効果予測プログラムの開発を目指しているので紹介する.

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要旨 化学・放射線療法後のリンパ節病変に対するEUS-FNAの診断能について検討した.対象症例は16例,内訳はリンパ腫3例,転移性リンパ節13例(肺癌10例,胃癌2例,大腸癌1例)で,リンパ節の存在部位は,縦隔13例,腹腔内3例であった.EUS-FNAによる病理検体採取は全例に可能であり,その診断能は,正診率88%,感度82%,NPV71%であった.EUS-FNAの診断能は高く,化学・放射線療法後の治療方針を決定するうえで有用な検査手技と考えられる.

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 〔患 者〕 59歳,女性.糖尿病・高コレステロール血症の既往があった.検診目的の上部消化管内視鏡検査にて下部食道に黄白色調の隆起性病変を認め,精査希望にて入院となった.

 〔食道X線所見〕 下部食道に,長軸方向に長く立ち上がりがなだらかな数条の隆起性病変を認める(Fig. 1).胃噴門側への連続性は認めなかったが,食道胃接合部を出入りしていた.

 〔胃内視鏡所見〕 下部食道に,白色~黄白色調の2条の隆起性病変を認めた.空気少量ではより隆起が目立ち,鉗子による圧迫で容易に形が変化し軟らかい病変と考えられた.

 近接像では,腫瘍表面は光沢に富み,透明感を有していた.一部には物理刺激によると考えられる顆粒状の血腫の形成を認めた(Fig. 2).

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要旨 患者は29歳,男性.原因不明の消化管出血に対してカプセル内視鏡を施行した.小腸にびらんを有するSMT様病変を認めた.小腸X線造影では骨盤内回腸に10mm大,類円形の隆起性病変として描出され,腹部造影CTでは強い造影効果を有する腫瘤として指摘された.GISTもしくは血管腫の術前診断で小腸部分切除を施行した.回腸末端から約180cm口側に凝血塊の付着した径10mm,弾性やや硬な白色調の隆起性病変を認めた.切除標本の病理組織では粘膜下層から粘膜面に露出し,びらんを伴う肉芽組織性腫瘤であった.深部には壁の厚い静脈壁様構造がみられ,粘膜下に位置した異常血管由来の病変で,その内部の肉芽腫様器質化と破綻が疑われた.

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要旨 患者は50歳代,男性.スクリーニング検査で施行した内視鏡検査でS状結腸に2cm大の隆起性病変を認めた.頂部にIIIL pitを呈する発赤した上皮性腫瘍を伴った軟らかい粘膜下腫瘍様の病変であった.NBI拡大観察では太く密在した血管模様が明瞭に観察されたが浸潤所見はみられなかった.注腸X線所見でも浸潤所見は認めなかったが,EUSでは固有筋層にまで進展する囊胞性変化を認めた.上皮性腫瘍部からの生検でGroup 3の診断であったため腺腫の偽浸潤を疑ったが,筋層浸潤を伴う粘液癌を否定できずS状結腸切除術を施行した.病理組織学的所見では,核異型に乏しい杯細胞に富む低異型度癌が粘液結節を形成し固有筋層に浸潤していた.Ki-67染色では増殖分画は29.1%であったが増殖細胞は粘膜全層に分布し,浸潤部でp53陽性細胞を散在性に認めた.最終的に肉眼型Is,粘液癌(低異型度癌),深達度MP,ly0,v0,n0,Stage Iと診断された.

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欧文目次

編集後記 芳野 純治
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 消化器癌の化学療法に関する主題はこれまで14巻12号「胃癌の化学療法」(1979年)と40巻7号「胃癌化学療法の進歩と課題」(2005年)の2号がある.前者は化学療法による胃癌の形態的変化を中心に,後者は胃癌に対する化学療法の有効性が増加したことを受けて企画された.

 今回の主題は原発巣に対する効果判定を取り上げることになった.そして,対象の臓器に食道と大腸を加えて消化管癌として広く取り扱うことや,化学療法と放射線療法との併用が行われていることより,「消化管癌の化学・放射線療法の効果判定と問題点」とした.企画小委員は小野裕之,鬼島宏,芳野純治である.

基本情報

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胃と腸
44巻12号 (2009年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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