胃と腸 42巻13号 (2007年12月)

今月の主題 新しい治療による炎症性腸疾患(IBD)の経過―粘膜治癒を中心に

序説

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はじめに

 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)〔Crohn病(Crohn's disease;CD)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)〕は,難治性ゆえに長期間の治療を必要とする.このうち,CDの多くは類型化された経過・予後をとるが,時に長期経過中思いがけない合併症を生じることがあり,病初期にその予測を立てることは必ずしも容易でない.もしもその経過と予後が予めわかっていれば,治療方針が立てやすいことになる.最近,infliximabによりCDでは臨床症状が改善されるばかりでなく,腸病変の粘膜治癒(mucosal healing;MH)も得られることがわかってきた(Fig.1).さらに,MHがその後の経過における重要な予後規定因子であることが判明してきた.これらを根拠にMHが得られるまで治療を行うとの方針が立てられつつある.一方,UCでもcyclosporineなどの免疫抑制剤により同様の観察がなされている.そこで本号では,形態学的立場からIBDの再発予防に向けた治療方針と治療効果の予測について,以下の4視点,つまり,①IBDにおけるMHの意義,②腸(粘膜)病変の治癒判定基準,③CDのbehavior類型からみた治療法選択,④UCの内視鏡像による治療法選択,の点から検証し論じてみたい(Fig.1).MHに関連する事項は数多く,多方面から考察する必要がある.以下に簡単に各事項を整理してみたい(Fig.1).

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要旨 Crohn病(CD)は再燃と緩解を繰り返す疾患であるが,その臨床経過や予後は一様ではない.CD診断早期においてCDの予後や治療の反応性を予測できれば,その時点で適切な治療法の選択が可能である.このため,Vienna分類などいろいろな病型分類が提唱され検討されてきた.その結果,病態類型は病変部位類型に比して長期臨床経過の間に高率に変化するため病型分類を行ううえでの安定因子にはなりえないこと,CDの予後予測や治療の反応性予測には現行の分類以外の因子を加えた検討が必要であることが明らかとなった.CDの経過中に腸切除が必要となったり,狭窄型や穿通型の病態類型に進展したり,ステロイド依存性となったりする場合,その臨床経過は難治性であると言えよう.難治性CDを予測しうる因子として,若年発症,喫煙,広範な病変部位(小腸and/or大腸),診断時からステロイド治療が必要,肛門周囲病変の存在,腸管外合併症の存在,などが挙げられる.CD診断時にこれらの因子が認められる場合は,早期にtop-down(TD)治療のような強力な治療を行い,病勢が重症化しないように配慮することが必要である.CDの病初期から免疫調節薬や生物製剤による強力な治療(TD治療)を行えばCDの自然史を変えうる可能性も考えられる.しかし,これを結論付けるにはまだ多くの解明すべき点も残されている.すなわち,軽症例にもTD治療を行うべきか,TD治療後にインフリキシマブ(IFX)のscheduled投与を行えばどうか,その際IFXに免疫調節薬〔アザチオプリン(AZA)など〕併用は必ずしも必要か,免疫調節薬長期投与の副作用をどう評価するか,TD治療後の長期(10年以上)経過例の集積,などについて検討が必要と考える.

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要旨 自験Crohn病に対するinfliximabの維持投与効果を臨床的活動性と消化管病変から検討した.①30週以上維持投与した27例において,臨床的活動指数による治療効果判定に影響を及ぼしたのはinfliximabの投与理由で,非有効例の50%は瘻孔性病変であったが,有効例にはこの投与理由はなかった.②治療前と経過観察最終時の大腸X線・内視鏡所見を検討できた10例中7例では活動性病変(縦走潰瘍,敷石像,多発潰瘍)が改善したが,3例では不変であった.改善例は不変例よりも投与開始時の年齢が高かった.一方,小腸病変の推移は3例で検討可能で,1例では開放性潰瘍が残存し,他の2例では非活動性病変が不変のまま経過した.③臨床的活動指数による評価と大腸病変の判定が一致したのは3例,乖離したのは7例であった.以上より.infliximabはCrohn病の粘膜病変に有効であるが,その効果は臨床的活動性からは推測困難と考えた.

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要旨 内視鏡による大腸病変の改善率は,0,2,6週投与後71.4%に達したが,瘢痕治癒率は21.4%に過ぎなかった.計画的維持投与の継続により,瘢痕治癒率は,1年後43.5%,2年後64.7%,3年後で70.0%に向上し,infliximab計画的維持投与による継続したTNF-αの制御がCrohn病病変の治癒に繋がる可能性をも示すものと思われた.さらに,計画的維持投与による非再入院率は,1年で86.7%,2年で69.3%,3年でも57.5%であり,既存の維持治療に比べ有意に優れていた.よって,0,2,6週投与と8週間ごとに再投与を繰り返す計画的維持投与は,長期的な緩解維持と病変の瘢痕治癒をも視野に含めた,Crohn病に対するより良いinfliximab治療であると考えられた.

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要旨 Crohn病の長期経過例(発症から15年以上経過例)221例を対象に,その経過・予後を検討した.バイアスのない解析とするために,解析経過観察中の症例(follow up群)のみでなく,経過観察中でない症例(non-follow up群)も可能な限り追跡した.特定疾患医療受給者の臨床調査個人表に記載されている項目を中心に,長期経過を経過良好群と経過不良群のいずれかに判定した.さらに,経過良好群の予測因子を知るために,両群間で診断時の患者背景,病型,各種検査値および活動指数,X線および内視鏡所見による罹患部位や病変の重症度を比較検討した.経過検討可能例は,221例中187例(84.6%)で,経過良好群は,53例(28.3%),経過不良群が134例(71.7%)であった.経過良好群,不良群との診断時項目の比較では,発症年齢が経過不良群で有意に低く,病型では小腸大腸型が経過不良群に,アフタのみ,大腸型は経過良好群に多かった.活動指数IOIBD,CDAIはともに不良群が有意に高く,病初期の活動性が経過・予後に影響する因子と考えられた.X線,内視鏡検査の検討にて,罹患部位では,空腸,上部回腸病変の存在と程度が,病変形態では,小腸は,縦走潰瘍,敷石像,大腸は敷石像の重症度が経過・予後に関与していた.以上の結果から,Crohn病の約3割は長期の経過・予後が良好であり,診断時の病型,活動指数,形態学的所見で,経過・予後の予測がある程度可能と考えられた.

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要旨 Crohn病の中で,初診時非手術で5年以上経過観察可能であった142例を対象として,初回検査で認めた腸管病変から狭窄や瘻孔などの腸管合併症への進展が予測できるか検討した.初回検査で腸管合併症なしの106例では,経過中34例(32%)で腸管合併症への進展を認めた.合併症への進展例では,初回検査で高度の敷石像や裂溝潰瘍を認める頻度が高かった.また初回検査で狭窄を認めた46例では,経過中瘻孔を8例(17%)で合併した.瘻孔合併例は初回検査で3cm以上の長い狭窄を認める場合が多く,また在宅経腸栄養療法の継続例が非合併例より少数であった.以上から初回の画像診断で高度の敷石像や裂溝潰瘍,長い狭窄などを認めた場合は,新たな腸管合併症へ進展する危険性が高いことを念頭に置く必要がある.

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要旨 潰瘍性大腸炎の難治症例として大量ステロイド剤投与にもかかわらず改善に至らないステロイド不応重症例が存在する.大腸全摘術が施行されるそのような症例に対してCyclosporine-A持続静注療法が内科的緩解導入を可能にする新たな治療法として位置づけられている.Cyclosporine-A持続静注療法の有効性をさらに高め患者QOLを向上させるために,ステロイド不応症例に対してはできるだけ早期にCyclosporine-A持続静注療法を実施することが重要と考えられた.またステロイド不応症例を早期に予測するためには大腸内視鏡所見が重要であると考えられた.内視鏡所見に基づき早期Cyclosporine-A持続静注療法が実施された症例は,従来の治療法が実施された症例に比較して長期緩解維持が可能となる可能性が示唆された.

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要旨 難治性潰瘍性大腸炎(UC)の緩解維持療法として2006年よりわが国でもアザチオプリン(AZA)が保険適用となった.AZAはCrohn病(CD)において粘膜治癒を誘導することが報告されていたが,インフリキシマブの登場により粘膜治癒はCDの自然史を改善することが期待され,治療目標として掲げられるようになった.しかしUCにおいてAZAと粘膜治癒の関係に言及した論文は少ない.今回われわれの施設においてUCに対しAZAが使用され,大腸内視鏡が施行された症例25例の検討からAZAはUCの粘膜治癒にも関与し,緩解維持に重要な因子である可能性が示唆された.これがUCの自然史改善に繋がるか,さらなる検討が必要である.

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要旨 難治性潰瘍性大腸炎に対して血球成分除去療法(cytapheresis;CAP療法)が有用とされている.しかしながらその適応や長期予後に関しては不明な点も多い.そこで内視鏡で難治性所見(打ち抜き潰瘍,縦走潰瘍,偽ポリポーシス)を伴った重症潰瘍性大腸炎をCAP有効群68例と手術移行群27例に分けて検討した.内視鏡所見では,両群の有効性に有意差は認めなかったが,通常の週1回法によるCAP療法では,完全な内視鏡的粘膜治癒に至らない症例が多く,今後重点治療などを含めた検討が必要と思われた.

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要旨 潰瘍性大腸炎における易再発例は,“粘膜治癒”に至らない段階で治療の軽減がなされたものに多い.したがって,内視鏡的に高い精度で“粘膜治癒”を診断する必要がある.“粘膜治癒”の微細所見として小腸絨毛様粘膜と萎縮粘膜が認められ,いずれも組織学的活動性は低いが,その組織形態は全く異なる.前向き試験の結果から,拡大内視鏡検査を併用してこれらの所見を正確に捉え,精度の高い“粘膜治癒”の判定を行うことが易再発例の診断に役立つと考えられた.今後は,特殊光内視鏡や超拡大内視鏡などの新しい内視鏡診断手法をも併用して,より客観的な活動性診断や易再発例の予測を行っていく必要がある.

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要旨 潰瘍性大腸炎(UC)患者の17~38%は薬物治療に難治で,外科的治療が選択されている.難治症例の内視鏡的・組織学的特徴は,“高度かつ広範な炎症”と“UCとしては非典型的な炎症”に要約される.前者に関連する具体的所見は,罹患範囲が広いこと,陰窩膿瘍が多いこと,潰瘍が広範で深いことである.一方,後者が意味する所見には,縦走する帯状潰瘍,patchyな炎症,近位大腸での難治性病変,relative rectal sparingなどのCrohn病類似病変がある.好酸球浸潤が軽微であることも活動期UCとしては非典型的である.難治症例を早期に予測するという観点から,上記の肉眼的所見を加えた新たな内視鏡的重症度分類の作成が望まれる.陰窩膿瘍と好酸球浸潤はUCの鑑別診断には寄与しないが,それらの密度は難治を予測する情報として病理報告書に盛り込まれるべきである.

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要旨 本研究ではCrohn病(CD)の病理組織学的難治性要因の解明を目的として初回腸管切除術後に腸管病変再燃のため再切除が必要となった20例(再切除例)と,初回腸管切除術以降現在までに最低5年以上腸管切除術が施行されていない10例(非再切除例)の初回腸管切除標本を用いた臨床病理学的検討を行った.組織学的には肉芽腫性炎症に伴う閉塞性リンパ管炎やリンパ管拡張,腸管神経叢の形態変化や炎症細胞浸潤が高頻度にみられた.CDの病理組織学的な難治性要因解明のためには特異的な所見である類上皮細胞肉芽腫の研究に加えてこれらの肉芽腫性閉塞性リンパ管炎や腸管神経叢の形態変化などを十分に把握し詳細に検討することが重要と思われた.

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要旨 患者は44歳,男性.検診の胃内視鏡検査で病変を指摘され当科紹介となった.胃X線検査では前庭部前壁にバリウムをはじく領域が存在し,胃小区は粗な印象であった.胃内視鏡検査では前庭部前壁に黄白色調の顆粒状の領域があり,周囲粘膜よりわずかに隆起していた.生検からも胃形質細胞腫を疑い幽門側胃切除が施行された.組織学的に,粘膜固有層内にRussell体を有する形質細胞のびまん性増生が認められた.lymphoepithelial lesion(LEL)を示す部位はごく少数であった.免疫組織化学的にはκ鎖陽性であり,IgH遺伝子再構成の検討でもmonoclonalityがあると判断された.以上より,胃MALTリンパ腫を経ない純粋な胃形質細胞腫と診断した.

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要旨 症例は64歳,男性.主訴は心窩部痛,黒色便.上部消化管造影検査,内視鏡検査で十二指腸潰瘍の他に食道下部から噴門部の前壁にかけて長径25mm大の扁平な隆起性病変を認めた.食道胃接合部からの生検で非充実型の低分化管状腺癌と診断されたことから,下部食道・胃全摘術が施行された.組織学的には,印環細胞を含む低分化管状腺癌と内分泌細胞癌から成る癌で,腫瘍の主座は食道にあり,腫瘍細胞の露出を欠く粘膜下腫瘍様形態を呈した深達度SM3の早期癌であった.内分泌細胞癌は,chromogranin A,Grimelius,synaptophysin陽性であった.術後2年5か月現在,無再発生存中である.

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 2007年10月18日(木)から21日(日)の4日間にわたり神戸市国際会議場周辺にてJDDW 2007が開催された.4日間すべての出席はかなわず,第2日目からの出席となった.

 近年,ハイビジョン内視鏡,拡大内視鏡,特殊光内視鏡の出現により,通常スコープでの観察による内視鏡診断学に加えて,新たな“診断学”が必要になってきた.大腸癌の診断においては拡大色素内視鏡は診断に必須となりつつある.胃癌,胃炎の診断についても然りであり,今回のDDWでも内視鏡診断には必須との印象であった.

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 2007年のJDDWは10月18日~21日の4日間,神戸市で開催された.異国情緒に溢れた町並みで神戸は最も人気の高い学会開催地の1つであるが,今回は2日目以外大変過ごしやすい陽気に恵まれ,初雪の便りが聞かれる北海道から参加したわれわれにとっては,格別の喜びであった.また,神戸空港から会場までの移動はポートライナーを利用するとわずか10分程度であり,アクセスが格段によくなったと実感した.会場は大規模な全国学会ではおなじみとなったポートピアホテル,神戸国際会議場,神戸国際展示場の3か所であったが,各会場が隣接しているため会場間の移動がスムーズに行うことができて,非常に便利であった.学会の内容も,筆者が参加した下部消化管に関するセッションにおいては,大腸疾患の診断から治療まで多岐にわたる講演,discussionがなされ,非常に活発なものであった.今大会はシンポジウムからポスターまで大変興味深い演題が多く,今後の診療に大いに役立つ大会であり,非常に有意義な4日間であった.その中から,われわれが特に印象に残った演題について述べてみたい.

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欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
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 本号は「新しい治療による炎症性腸疾患(IBD)の経過―粘膜治癒を中心に」というテーマでお届けした.

 近年,IBDに対する新しい治療法の登場により臨床的緩解のほかに粘膜治癒(MH)の重要性が報告されるようになった.主にCrohn病(CD)に対するinfliximab(IFX)投与,潰瘍性大腸炎(UC)に対する免疫抑制療法によりMHが得られる可能性があり,日本における最新の成績が示された.平田論文ではCDにおける難治化の要因とstep-upとtop-down治療の世界的趨勢について文献的に考察された.松本論文と本谷論文ではCDに対するIFXの治療成績が示され,IFXの維持療法がMHにおいて重要であることが示された.平井論文,小林論文では多数の長期経過例の詳細な分析から,CDにおける画像における予後予測因子が明らかとなり,今後の治療法の選択に有用と考えられた.鈴木論文ではUCに対するCyclosporine-Aの,また上野論文では6-MPの使用による治療効果が提示され,免疫抑制剤のMHに対する有用性が示された.大西論文では重症UCに対する血球除去療法の成績が示され,今後の重点治療などの必要性が述べられた.藤谷論文ではUCにおける易再発性がMHに依存することが拡大内視鏡的にも示された.田中論文,池田論文ではUC,CDの難治化を予測する病理学的所見,特徴について述べられた.本号はIBD診断・治療の日本における最先端が盛り込まれており,日本における今後のIBD治療の新展開に十分貢献する1冊になるものと確信している.

基本情報

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胃と腸
42巻13号 (2007年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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