胃と腸 42巻12号 (2007年11月)

今月の主題 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)起因性消化管病変

序説

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 非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAID)は,抗炎症・解熱・鎮痛作用や血小板凝集抑制作用を有するため,発熱・炎症性疾患,関節炎,腰痛,膠原病などの治療,さらには脳血管障害や虚血性心疾患の予防と治療など内科および整形外科領域にわたって汎用されている.近年の高齢化社会を反映し,その使用頻度は増加の一途をたどっているが,副作用として消化管に粘膜傷害を惹起することが臨床上問題となっている.

主題

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要旨 NSAIDはarachidonic acid cascadeにおけるcyclooxygenaseの作用を阻害することで,prostaglandinやthromboxaneの合成を抑制し抗炎症作用,鎮痛・解熱作用を発揮する.NSAIDの副作用として最も多いのは胃腸傷害である.NSAIDによる消化管病変の発生機序として,(1)消化管上皮に対する化学的傷害,(2)消化管粘膜内のprostaglandin合成阻害による粘膜防御因子低下,(3)消化管粘膜の免疫抑制異常,などが挙げられる.NSAIDを長期服用しているH. pylori感染患者に対する除菌は潰瘍治癒を遅延させる.このH. pyloriのNSAID潰瘍に対する拮抗作用は,H. pylori感染がCOX-2の発現を亢進させ,結果としてPGE2の産生を促し胃粘膜防御因子を亢進させることによる.一方,NSAID治療を初めて受けるH. pylori感染患者に除菌を行えば,潰瘍発生のリスクを減少させることができる.

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要旨 非ステロイド系抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drug;NSAID)起因性消化管病変の病理組織学的特徴を明らかにするため,NSAID起因性小腸・大腸炎(潰瘍)の32症例からの生検材料53個および,小腸膜様狭窄症3例と小腸穿孔性潰瘍2例の外科的切除材料の組織学的特徴を解析した.生検群は,(1)アポトーシス性細胞傷害型,(2)非特異性腸炎型,(3)好酸球性腸炎型,(4)虚血性腸炎型,(5)出血性腸炎型,(6)膠原線維性大腸炎型の6型に分類された.生検群を臨床像から腸炎型(8症例,生検21個)と潰瘍型(24症例,生検37個)に分けると,アポトーシス性細胞傷害型は腸炎型(5.9%)より潰瘍型(41.7%)で有意に多く,穿孔性潰瘍と膜様狭窄症でもアポトーシス性細胞傷害型と同様の組織像であり,NSAID起因性潰瘍の発生にアポトーシスが重要な役割を果たしていることが示唆された.また,NSAIDの作用機序である薬剤による直接細胞傷害(アポトーシス性細胞傷害)とCOX抑制(prostaglandin系)を介した細胞傷害,血管透過性亢進による循環不全(虚血),アレルギー(好酸球増加)などの程度と組み合わせの差により,NSAID起因性消化管病変は多様な臨床像・組織像を呈すると考えられた.

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要旨 非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAID)は薬物性潰瘍の中では最も頻度が高いことが,20年以上前から指摘されている.また高齢化社会の到来で,虚血性心疾患,脳血管障害が増加しており,二次予防として低用量aspirin(low-dose aspirin;L-Asp)の処方が急増していて,L-Asp起因性上部消化管病変も指摘されている.当院での消化性潰瘍をA群(L-Asp投与),N群(非aspirin NSAID投与),C群(L-Asp,NSAID非投与)に分類した検討では,潰瘍症例全体の25%で広義のNSAID(L-Aspおよび非aspirin NSAID)を投与されていて,7%でL-Aspを投与されていた.出血症状(吐血,下血,貧血)の割合はA群,N群ではC群と比し有意に高率であった.潰瘍発生部位は幽門前庭部潰瘍の比率はA群N群両群間で有意差は認められず,A群では胃体部の発症も31%に認められた.A群はN群と比較し10 mm以下の小型の潰瘍が多かった.また潰瘍の数は多発性,単発性の割合で検討したが3群間で有意差は認めなかった.広義のNSAID(N群+A群)ではC群と比較しHP感染率は低率であったがA群単独ではC群とでHP感染率に有意差は認められなかった.

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要旨 ダブルバルーン小腸内視鏡を施行し,NSAID起因と思われる小腸病変が認められた9症例において,病変の形態としては多発潰瘍が5例,膜様狭窄が3例,輪状潰瘍が1例であり,いずれも多発して認められた.特徴的な膜様狭窄,輪状潰瘍についてはNSAID内服期間が比較的長い症例で認められた.生検により病理所見が得られたものは9例中8例であり,2例において細胞崩壊像,アポトーシス小体などが認められ,いずれも膜様狭窄を来した病変であった.内視鏡通過不能な膜様狭窄の2例はDBE下バルーン拡張術を施行し,拡張後の再発は認められていない.DBEはNSAID起因性小腸炎の診断および治療に有用であった.

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要旨 ダブルバルーン内視鏡にて観察したNSAIDsによる小腸病変の評価を行った.NSAIDsは小腸単独の潰瘍性病変を引き起こすことがあり,通常の上下部消化管内視鏡では原因を特定できない消化管出血の一因となりうる.また,NSAIDs長期投与患者において小腸膜様狭窄症という特徴的な狭窄を来すことがある.NSAID起因性小腸潰瘍性病変についてはNSAIDsの休薬が治療となる.また,NSAID起因性小腸膜様狭窄症に対しては,NSAIDs休薬とともにDBEによるバルーン拡張術を行うことが,これまで開腹術でしか対応できなかった,特に深部小腸の狭窄病変に対して有効な治療法であると考えられる.

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要旨 非ステロイド性抗炎症坐剤起因性の直腸病変自験15例を対象に,その臨床像と内視鏡像について検討した.年齢は平均69.5歳,10例が65歳以上の高齢者で,男女比は6:9とやや女性に多かった.初発症状は無痛性の血便が10例と最も多く,下痢出現後の血便や貧血が4例とこれに次いでいた.入院時原疾患は骨関節疾患10例,悪性腫瘍5例で,併存症には糖尿病,高血圧など動脈硬化性疾患を比較的多く認めた.坐剤の使用期間は平均42.3日,10例が4週間以内で,1日使用量はdiclofenac sodium平均78.9 mgであった.病変は主に多発性かつ全周性でRb~Raに分布していた.内視鏡像では出血・びらんを主体とする急性出血性粘膜病変が9例と最も多く,そのほか6例には明らかな潰瘍形成を認めた.潰瘍は輪状4例,不整形1例,Dieulafoy型1例で,輪状のうち2例は全周性狭窄を呈した.臨床像はいわゆる急性出血性直腸潰瘍に類似し,内視鏡像は急性出血性粘膜病変と狭窄を伴う輪状潰瘍が特徴的所見と考えられた.

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要旨 過去11年間に経験したNSAID起因性大腸病変32例の臨床像と内視鏡所見を解析した.その結果,限局性潰瘍性病変を認めた潰瘍型24例とびまん性大腸炎を呈した腸炎型8例の2型に大別された.潰瘍型にみられた粘膜病変は右半結腸,特に回盲部が好発部位で,回盲弁上あるいはhaustra上の境界明瞭な潰瘍を特徴とし,NSAIDの投与中止3~10週後に炎症性ポリープの合併なく治癒瘢痕化した.また,潰瘍型の1例は膜様狭窄を合併し,NSAID投与中止後に潰瘍は治癒したが,狭窄は改善しなかった.一方,腸炎型は下痢を主徴として急性発症し,投与中止2週以内に治癒した.内視鏡像から出血性大腸炎型とアフタ性腸炎型の2型に分類され,抗菌薬関連性腸炎に類似していた.以上より,NSAID起因性大腸病変は潰瘍型と腸炎型に区別して論ずるのが妥当と考えられた.

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要旨 非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drug;NSAID)はその使用量の増加とともに,NSAIDによる粘膜傷害が上部だけでなく下部消化管においても注目されている.その予防的治療は抗潰瘍薬を用いて経験的に行われてきた.しかしながら,近年,抗潰瘍薬だけでなく,選択的COX-2阻害薬,Helicobacter pylori(H. pylori)除菌療法によるNSAID潰瘍予防に関する大規模臨床試験が,欧米を中心に精力的に行われ,PPI,prostaglandin製剤による予防効果および選択的COX-2阻害薬の有効性が明らかとなりつつある.除菌療法の効果については結論が得られていないが,NSAID投与前に除菌することが推奨されている.日本人は,酸分泌量が少なく,H. pylori感染率も高いことを考慮すると,今後,わが国独自のNSAID潰瘍の実態調査ならびに治療と予防に関する介入試験が望まれる.

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要旨 低用量aspirinは心筋梗塞,脳梗塞などの動脈血栓性疾患の発症予防として用いられている.低用量aspirinの副作用として,胃および十二指腸における潰瘍・びらんの発生が,頻度も高く問題となっている.自覚症状を欠くため,消化管出血などが出現して初めて診断されることが多い.H. pylori陰性の若年健常人ボランティアを対象とした低用量aspirinによる胃粘膜傷害の臨床研究を行った.低用量aspirin単回投与後2時間で,胃粘膜には出血点が高率に出現した.低用量aspirin 1週間継続投与によって発赤,出血点,びらんが有意に増加したが,腹部症状には変化がなかった.低用量aspirinとloxoprofenを併用すると発赤,出血点,びらんなどの胃粘膜傷害が倍近くに増加した.臨床において低用量aspirinによる胃粘膜傷害に対しては内視鏡検査が有用であった.

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要旨 sulindac(SU)を投与した家族性大腸腺腫症(FAP)11例の消化管病変の経過を検討し,大腸病変の短期経過については,SU非投与6例の経過と比較した.(1) SU投与例では12か月後の注腸X線上の隆起密度と最大隆起サイズは投与前より有意に低下したが,SU非投与例ではいずれも不変であった.(2) SU投与例では遠位大腸よりも近位大腸において隆起密度が低下する傾向がみられた.(3) SUの効果はAPC変異部位には明らかな影響を受けなかった.(4) 12か月以上継続投与した8例では大腸の表面型腺腫が残存し,1例では投与前に存在した隆起型腺腫が,3例では経過中に出現した亜有茎性隆起ないし結節集簇様病変が増大し内視鏡的切除を要したが,癌発生はなかった.(5) SU投与前に十二指腸腺腫を認めた5例では,SU投与後に十二指腸病変の性状に変化はなかった.以上より,SUはFAPの大腸腺腫に対して退縮効果を有するが,その効果は小型かつ隆起型腺腫にとどまると推測した.

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要旨 患者は27歳,女性.関節リウマチ(RA)と診断されてから約6年間,Loxonin(R)などを内服していた.下血を契機に消化管の検査を行った.初診時には,診断が困難であったが,約3年間の経過を追うことによって非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)起因性小腸病変と診断しえたRAの1例を経験した.小腸X線検査では回腸終末に地図状潰瘍とアフタ様病変が散在しており,ダブルバルーン小腸内視鏡検査では下掘れ潰瘍と露出血管を認めた.NSAIDの中止とsulfapyridine内服によって治療開始後約1年に小腸X線検査で治癒を確認した.

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要旨 患者は50歳,女性.約10年前から掌蹠膿疱症性関節炎のためdiclofenac sodium(Voltaren錠(R))を内服していた.また2003年に潰瘍性大腸炎(左側大腸炎型)を発症し加療中であった.2005年6月に血便と発熱を主訴に近医を受診した.Voltaren錠(R)による潰瘍性大腸炎の増悪を疑われ,内服中止を指示され当院に紹介となった.当院入院時には症状は改善傾向であった.注腸検査では上行結腸にapple coreのような狭窄を認めた.大腸内視鏡にて上行結腸に全周性の潰瘍を認めた.生検では特異的炎症所見はみられなかった.50日後の注腸検査および大腸内視鏡検査では上行結腸に輪状の潰瘍瘢痕を認めた.経過よりNSAID起因性大腸病変の潰瘍型と考えられた.

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 〔患 者〕 48歳,女性.

 〔現病歴〕 2005年の人間ドックにて便潜血反応陽性を指摘され,近医施行の大腸内視鏡検査で直腸に隆起性病変を認めたため,精査加療目的にて当大学消化器病センター紹介受診となる.

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要旨 患者は41歳,女性.主訴は発熱,右下腹部痛.CTでは結腸肝彎曲部の嚢胞性腫瘤およびS状結腸壁の肥厚と,これら周辺の腸間膜脂肪織濃度の上昇,少量の腹水を認めた.注腸X線検査ではS状結腸の軽度狭窄と片側性の鋸歯状変化および横行結腸右側の著明な狭窄と辺縁不整像を認めた.横行結腸の病変における肛門側の立ち上がりは比較的なだらかであったが,口側の立ち上がりは急峻であった.内視鏡検査ではS状結腸より口側へ挿入できなかった.以上から横行結腸癌穿孔による膿瘍形成と腹膜播種を疑い,手術を施行した.病理組織学的所見では膿瘍を合併した腸間膜脂肪織炎であり,病変が非連続性に大腸に及んだ極めてまれな症例であった.

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欧文目次

編集後記 平田 一郎
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 近年,高齢化社会の中で非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用頻度はますます増加している.それを反映してか,実地臨床の場において消化管粘膜傷害や消化管出血などの合併症も漸増してきている.

 本号のテーマは「NSAID起因性消化管病変」であり,この中で基本的な事項が網羅されるように企画を練ったが,これらに関連した興味ある内容も多く盛り込まれている.本号では,低容量aspirinと胃体部潰瘍やボランティアを用いた研究,腸潰瘍や膜様狭窄とアポトーシス,大腸病変の分類とその特徴の検討,NSAID坐剤による直腸病変,NSAID起因性消化管病変の治療や予防に関する知見,NSAIDの抗腫瘍効果などについて詳細に述べられている.また,一度見ておくと次の診断に役立つ画像も主題や主題症例の中で豊富に提示されている.さらに,膜様狭窄に対するダブルバルーン小腸内視鏡を用いた拡張術などもこれからいっそう行われるようになるであろう.

基本情報

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胃と腸
42巻12号 (2007年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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