胃と腸 43巻1号 (2008年1月)

今月の主題 早期胃癌ESD―適応拡大を求めて

序説

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はじめに

 この数年間のESD(endoscopic submucosal dissection)の進歩は「胃と腸」2002年~2007年のESDの特集号を見れば一目瞭然であろう.高周波発生装置,改良型ITナイフ,ジェットなど最近の諸機器の進歩は著しく,現時点では隆起型やごく小さな病変以外はESDよりEMR(endoscopic mucosal resection)がよいという内視鏡医はいないと思う.2008年の新年号である本号の企画の意図は,2000年のGotoda論文1)に基づくESD拡大適応基準を満足する病変に対するESDの適否の確認にあると思う.臨床的治療法の評価は予後によって決定されるので,約3年の予後を報告した池原ら2),小山ら3)の報告に加え,本号でその予後が明らかにされ,ESD適応拡大基準に従ってESDを行っても大丈夫という結論が出されることが期待される.本序説は2007年10月に行われたJDDW(Japan Digestive Disease Week,神戸)のシンポジウム9「ESDの長期経過」(以下S9)を抄録4)に従ってその成績を紹介し,抄録以外に講演で述べられた成績も(講演)として記載した.

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要旨 胃粘膜下層浸潤癌(以下胃SM癌と略記)の内視鏡的切除後の外科的追加胃切除の適応基準は一定のものがなく,統一されるに至っていない.そこで,リンパ節転移の予測に基づく,内視鏡的に切除された胃SM癌に対する外科的追加胃切除の適応基準を確立することを目的として,本研究を行った.外科的に切除された胃SM癌118例を対象に,以下の病理学的因子とリンパ節転移の有無との関連をロジスティック回帰分析を用いて検討した.腫瘍長径,腫瘍短径,SM浸潤距離,粘膜内組織型,SM浸潤部組織型,粘液形質,癌巣内潰瘍,SM浸潤様式,リンパ球浸潤,リンパ管侵襲,静脈侵襲.リンパ節転移症例は21例(17.8%)であった.単変量解析ではリンパ節転移と有意な相関を示したのは腫瘍短径,SM浸潤距離,SM浸潤部組織型(未分化型),リンパ球浸潤,癌巣内潰瘍,リンパ管侵襲,静脈侵襲の7つの病理学的因子であった.リンパ球浸潤は負の相関を示し,リンパ節転移の阻止因子として重要であり,リンパ節転移の可能性の低い症例を選別する指標になりうることが示唆された.多変量解析にて有意な独立性の認められた危険因子はリンパ管侵襲,リンパ球浸潤およびSM浸潤部組織型(未分化型)であった.この結果をもとに,これらのリンパ節転移の危険因子をスコア化し,胃SM癌の内視鏡的切除後の追加胃切除の適応基準(リンパ節転移予測スコア)を作成した.この基準の感度は100%,特異度は68.0%,総正診率は73.7%であり,従来の適応基準に比べovertreatment症例が減少し,より精度の高い選別が可能となると考えられた.

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要旨 組織優勢像で分化型腺癌を診断された胃SM癌のリンパ節転移危険因子の詳細な組織学的解析およびD2-40を用いた免疫染色(リンパ管侵襲の同定)と弾性線維染色(脈管侵襲の同定)の転移予測における有用性を検討した.SM癌161例中のリンパ節転移は16例(9.9%)にみられ,リンパ節転移陽性群と陰性群の臨床病理学的因子のうち,年齢,性差,肉眼型,腫瘍最大径に差はなく,リンパ節転移陽性群は陰性群より深達度が深く(1,609μm v.s. 1,349μm),Ul合併率(37.5% v.s. 29.0%),por成分混在率(81.3% v.s. 43.4%),pap成分混在率(25.0% v.s. 10.3%),muc成分混在率(12.5% v.s. 2.8%),ly(+)率(56.3% v.s. 32.4%),v(+)率(37.5% v.s. 20.7%)ともに高い傾向があった.ただし,統計学的有意差を認めたものはpor成分混在のみであり,リンパ節転移の危険因子を評価する際にpor成分混在の評価が重要であることが示された.por成分混在,Ul,ly,vの4つの因子とリンパ節転移率の関連は,深達度1,000μm未満では因子3個のもので60.0%(3/5)と高率にリンパ節転移を認め(p=0.0025),深達度1,000μm以上では因子の数が増えるにつれてリンパ節転移率が高くなる傾向があった(有意差なし).D2-40やEVGによる脈管侵襲陽性率はHE染色で判定した脈管侵襲陽性率より感度が落ち,またリンパ節転移陽性群と陰性群では差は認められないため,リンパ節転移の予測には有用でないと思われる.

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要旨 内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)における適応拡大病変の不完全切除例について,その要因を分析し,対策について考察した.適応拡大病変は,潰瘍を伴わない大きさ21mm以上の分化型M癌,潰瘍を伴う大きさ30mm以下のM癌,大きさ30mm以下の分化型SM1癌,潰瘍を伴わない大きさ20mm以下の未分化型M癌とし,この適応拡大に相当する148病変を対象とした.これらを完全切除群と不完全切除群に分け,肉眼型,部位,大きさ,スネアリング併用の有無,使用した内視鏡機種について比較検討した.また不完全切除群については,その要因についても検討した.完全切除率は90.5%であった.両群の比較では,肉眼型,部位,スネアリング併用に有意差は認めず,腫瘍径,M-scopeの使用率は有意差を認めた.肉眼型に有意差はないが,潰瘍瘢痕合併例は注意が必要である.不完全切除の理由としては,全14病変のうち,範囲診断不一致が4病変(28.6%),剥離不十分な状態でのスネアリングが4病変(28.6%),術中出血コントロール困難によりスネアリングに切り替えたものが3病変(21.4%),熱変性のため水平断端の病理組織学的検索が不能であったものが3病変(21.4%),術中穿孔のためスネアリングに切り替えたものが1病変(7.1%)であった(重複あり).送水機能を持ち,multi-bending機能を備えた2チャンネルスコープ(M-scope)は,切除困難部位での操作,術中出血への対処などに有用であり,完全切除率の向上に寄与する可能性が示唆された.また早期胃癌の中には粘膜内浸潤範囲診断の困難な症例が存在するため,完全切除率向上には,従来の内視鏡診断に加えて1.5%酢酸撒布併用を含む拡大内視鏡や狭帯域フィルター内視鏡(narrowband imaging;NBI)システムの併用が浸潤範囲診断不一致例の減少に寄与することが期待された.

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要旨 ESDは従来の内視鏡的粘膜切除術に比べて高率に一括完全切除が得られ,切除後の詳細な組織学的検索が可能なため,適応拡大の妥当性が検討されている.当院で2002年7月から2007年6月までにESDが施行された適応拡大病変300病巣において,一括切除率は93.3%,一括完全切除率は84.0%,穿孔率は5.3%であった.不完全切除の要因として,病巣内のUL,ESD導入後の経験症例数が挙げられた.一括完全切除例では経過観察期間中,遺残再発を認めなかったが,不完全切除例では経過中に14.6%で局所再発を認め,一括完全切除の重要性が再認識された.

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要旨 ESD施行719病変を用いて,内視鏡治療適応別に完全一括摘除率および不完全摘除の要因を検討した.完全一括摘除率は,絶対適応病変96.9%,相対適応病変78.8%,適応外病変84.8%で,絶対適応病変の完全一括摘除率は絶対適応外病変に比べ有意に高かった.不完全摘除・ESD中止の理由は,絶対適応病変では13例中10例がESD導入初期の出血コントロール不良あるいは穿孔のためEMR分割切除に変更した症例であった.絶対適応外病変では,SM深部断端陽性2例,側方断端陽性10例,ULに伴う手技的困難21例,穿孔4例,術中出血の止血困難10例,その他(手技的困難など)8例であった(重複あり).中止例は9例で,その要因はULに伴う手技的困難6例,穿孔5例,sedation時の不穏2例,その他1例であった(重複あり).絶対適応外病変のうち相対適応病変の不完全摘除の理由は,側方断端陽性4例,ULに伴う手技的困難18例,穿孔2例,術中出血の止血困難5例,その他(手技的困難など)5例で,ESD中止例は穿孔4例,sedation時の不穏1例であった.われわれの治療成績から現時点における不完全摘除・ESD中止の主な要因としてULの存在およびULに伴う穿孔が挙げられ,今後完全一括摘除率の向上にはUL対策が最も重要と考えられた.

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要旨 当院および関連施設でESDを施行した早期胃癌583病変を対象とし,(1)術前診断をもとに推定されたガイドライン病変(cGL)と適応拡大病変(cEXT)の根治切除(CR)率と非CRの要因を比較,(2)病理組織学的診断をもとに分類された適応基準病変別(pGL,pEXT,pEXC)に一括完全切除(ECR)率を比較,さらに非ECRの要因を解析した.(1)CR率の比較ではcEXTで78.9%,cGLで89.2%であり前者が有意に低かった(p=0.0007).非CRと判定された要因を両群で比較した結果,臨床診断的要因,切除技術的要因に差は認めず,病理組織学的要因(≧31mm,SM1・脈管侵襲陽性)がcEXTに高頻度であった(p=0.01).(2)ECR率はpGLで94.1%,pEXTで91.3%で両者に差はなかったが,適応外病変(pEXC)で72.9%と前2者と比較して有意に低かった(p=0.0003,p=0.0004).穿孔の頻度もpEXCが2者と比較して高い傾向にあった(p=0.09).非ECR(55病変)の要因について多変量解析を行った結果,深達度SM2,術中偶発症あり,腫瘍径≧31mmが有意な危険因子で,発生部位L領域,ESD施行時間<3時間が有意な非危険因子であった.以上の成績より,現状の適応拡大基準は切除技術的に妥当な基準と言えるが,さらなる根治性の向上には非L領域,腫瘍径31mm以上の病変のECR率の向上と術中偶発症に対する対策が必要である.

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要旨 1999年1月から2005年12月までに国立がんセンター中央病院にて早期胃癌に対する内視鏡的切除が施行された全症例を対象に長期予後について検討した.全生存曲線はガイドライン治癒切除群と比較して,非治癒切除非外科切除群で予後が悪く(年齢・性・癌の既往歴の調整ハザード比;2.54,95%信頼区間;1.62~3.98),多発群ではハザード比が0.44(95%信頼区間;0.21~0.91)と有意に予後が良いという結果であった.適応拡大治癒切除群とガイドライン治癒切除群とで5年生存率に有意な差を認めなかった.本検討は,がん対策情報センターにて全例の生死・死因の捕捉が行われており,プログラムされた前向き研究ではないが現場における実データとして信頼性の高い結果と考えられた.

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要旨 2000年1月から2004年5月までにESDを施行した早期胃癌232病変のうち,3年以上経過を追うことができた適応内群104例108病変・適応拡大群(分化型)71例74病変・適応拡大群(未分化型)5例5病変を対象とした.適応拡大群(分化型)は(1)M癌・腫瘍長径2.1cm以上・潰瘍非合併〔以下UL(-)〕・脈管侵襲陰性,(2)M癌・腫瘍長径3cm以下・潰瘍合併〔以下UL(+)〕・脈管侵襲陰性,(3)SM1(粘膜筋板の下縁から500μm以下)癌・腫瘍長径3cm以下・ULの有無を問わないと定義し,適応拡大群(未分化型)はM癌・腫瘍長径2cm以下・UL(-)・脈管侵襲陰性と定義し,適応内群と適応拡大群(分化型),適応拡大群(未分化型)をそれぞれ比較検討した.一括完全切除率は適応内群92.6%,適応拡大群(分化型)90.5%,適応拡大群(未分化型)60.0%であり3群間に有意差はなかった.局所再発率は適応内群で0.9%,他群では0%であり3群間に有意差はなかった.遠隔転移は3群ともになかった.他病死を除く3年生存率はともに100%であった.適応拡大群(分化型)は適応内群の治療成績・長期予後と同等であり,内視鏡治療可能であると考えられた.また適応拡大群(未分化型)も適応拡大群(分化型)の治療成績・長期予後と同等であると考えられたが,症例数が少ないため今後,症例を重ね検討が必要と考えられた.

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はじめに

 長南(司会) 今日はお忙しい中,お出でいただきありがとうございます.胃のESD(endoscopic submucosal dissection)が開発されて10年以上が経過しました.この間,様々なディバイス,高周波装置,スコープの開発や改良があり,また,基幹病院における実地・ライブ等によるトレーニングの成果もあって,ESDの技術は飛躍的に向上しています.その結果,ESDの適応は徐々に拡大されているわけですが,胃癌治療ガイドラインにおけるEMR(endosocopic mucosal resection)適応の原則は,リンパ節転移の可能性がほとんどないこと,そして腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあることとなっています.現状の適応はご存知のとおり,分化型UL(-)2cm以下の肉眼的M癌となっています.この適応には,組織学的な制約,すなわちリンパ節転移がほとんどないことに加え,技術的な制約,つまり一括切除できる大きさと部位があります.この2つに規制されているEMRの適応が,ESDでどこまで拡大できるかということが本座談会のテーマです.ここからは小山先生に進行をお願いします.

 小山(司会) では,適応拡大の論理的な背景に関して,小野先生のご解説をお願いします.

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〔患 者〕50歳代,女性.

〔主 訴〕特になし(検診異常).

〔家族歴・既往歴〕 特記すべきことなし.

〔現病歴〕2005年12月,特に自覚症状なく人間ドックに入り,胃X線検査にて異常を指摘された.

〔現 症〕身長152cm,体重43kg.意識清明.胸腹部に理学的異常所見なし.

〔検査所見〕血清Helicobacter pylori(H.pylori)抗体価陰性.

〔胃X線所見〕腹臥位前壁二重造影像で,胃角部大彎に中心部に淡いバリウム斑を伴った不整形の隆起性病変を認め,病変部へ向かうひだは肥厚し,なだらかに病変部へ移行している(Fig.1,2a~d).圧迫像では,中心部に不整形のバリウム斑を伴った辺縁平滑な隆起性病変が認められた(Fig.3a~d).

早期胃癌研究会

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 2007年6月の早期胃癌研究会は6月20日(水)に東商ホールにて開催された.司会は赤松泰次(信州大学内視鏡診療部),田村智(高知大学光学医療診療部),味岡洋一(新潟大学大学院分子・診断病理)が担当した.画像診断レクチャーは田中信治(広島大学光学医療診療部)が「大腸:大腸腫瘍の拡大内視鏡観察―基本から最先端まで」について講演した.

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要旨 患者は70歳の女性.Parkinson病の治療中に小球性低色素性貧血を指摘され紹介受診した.上部消化管X線検査で胃体上部前壁小彎側に3cm大の立ち上がり急峻なやや丈の高い扁平隆起性病変を認め,表面は小結節状で隆起表面に不整形の淡い陥凹を伴った.また隆起性病変周囲の噴門部から胃体上部前壁にかけて,ほぼ均一な顆粒状の透亮像が集簇し,その境界は不明瞭であった.この顆粒集簇像は上部消化管内視鏡検査では白色調ないし赤色調の透過を有するなだらかな小隆起の集簇として認められた.扁平隆起性病変の生検から乳頭腺癌の所見が得られ,胃全摘術を施行した.切除標本の病理組織学的検索では,隆起性病変はそのほとんどが粘膜から粘膜下層深部にとどまり,一部が固有筋層表層へ浸潤した乳頭腺癌の所見であった.その周囲には白色調ないし褐色調の小隆起がうろこ状に集簇しており,組織学的には粘膜固有層および粘膜筋板直下の高度のリンパ管侵襲とその著明な拡張,およびリンパ管内出血の所見であった.リンパ管侵襲は固有筋層から漿膜下層へ及び,第2群リンパ節への転移陽性であった.癌性リンパ管症を合併した1型胃癌として特異な発育形式を来した1例と考えられた.

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欧文目次

編集後記 小山 恒男
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 胃癌治療の第一選択は転移の有無にかかわらず開腹手術であった.1980年代にEMRが開発され,1cm程度の小さな粘膜内癌であれば内視鏡的に切除できるようになった.しかし,1回に切除される面積が小さく,一括切除には限界があった.1990年代の後半にESDが開発され,2000年には手技が安定した.この結果,病変径や占居部位にかかわらず,正確な一括切除が可能となり,ESDの適応は徐々に拡大されてきた.しかし,どこまで適応拡大できるのか?

 本主題ではESD適応拡大の是非を病理と臨床の立場から再検討した.病理は大変であった.リンパ節転移の危険因子を再検討するため,外科切除材料を用いて全例にD2-40染色を施行しリンパ管侵襲をより客観的に再評価した.また,粘液形質を明らかにするために,各種免疫染色を施行していただいた.

基本情報

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胃と腸
43巻1号 (2008年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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